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8/14

(8/14)崩壊の兆し

 崩壊の兆しは些細(ささい)なことであった。


 紗莉菜以外誰も気づかなかった。ミツヒコは仕事中いつものミツヒコで『地獄のように気が利いていて』彼女のサポートをしてくれた。


 書類に抜けはなかったし、各方面への伝達もキチッとやってくれた。

『花沢くんがサポートに回ってくれて本当に良かった』とみんなで言い合った。


 それなのに2人きりになるとミツヒコはボンヤリするようになった。

『ヤカンのお湯がわいていることに気づかない』とか。『郵便物がそのままになっている』とかだ。


 紗莉菜なら郵便物ぐらい何ヶ月も放置するが、彼は必ずその場で開封しその場で処理してしまう人であった。それなのにダイニングテーブルの隅にそのままになっている。


 ミツヒコがスマホで何か見てるので、紗莉菜が後ろから「なにやってんのー?」とのぞき込むとバッと隠された。


 一瞬『えっ?』ってなった。


 割と厳しめの声で言われた「人のスマホをのぞき込むなんてルール違反だよ?」


 いやそうであろう。人のスマホを勝手に見てはダメである。しかしミツヒコという人は一度もそんなことで怒ったことはなかった。


 紗莉菜が「なに見てんのー?」と言えば「シューズのショップだよ」とか「今度行くお店のホームページだよ」とか丁寧教えてくれて、2人の会話が弾んだものだった。それが急にどうして?


 LINEの返事も滞り始めた。いや。LINEくらい返事が翌日になっても問題あるまい。第一そんな緊急の話などめったにあるものではない。


 問題は花沢光彦というパーソナリティだ。

『すぐに既読がつきすぐに返事がくる』それが当たり前。『何気ない日常をこまめにLINEしてくれる』それが当たり前。『いつでもどこでも今いるところを教えてくれる』それが当たり前。


 それなのにいつまで経っても『既読』にならない。


 恐ろしいことに土日のデートすら拒否されるようになった。「ごめん仕事が忙しいんだよね」


 アンタ私のサポートでしょうが!!!!

 今そんな忙しい時期でもないでしょうが!!!!


 でも言えなかった。思えば毎週当たり前のようにミツヒコの家に行き、急に遊びに行っても嫌な顔をされたことがなかった。

 あの人は。いつもニコニコしていて。いつも「いらっしゃい」って言ってくれてた。当然だと思っていたが当然なワケなかった。宮野カオリに言っても太田美穂に言っても驚かれたものだ。

「そんなに優しいの? すごくない?」


 王子様は生まれながらの王子様なのだから『どうしてこんなに優しいのか』なんて考えたこともない。


 ワケがわからなくなってケーキを持って突然平日行ってしまったこともある。家に入れてもらえなかった。ため息つかれた。


「人の家に訪問するときはあらかじめ連絡入れるものだよ」


 そうだけどさぁ!!!!

 アンタは違うじゃん!!!! どんな時も笑顔で迎えてくれるじゃん!!!!


 思わず玄関の靴に『女物』がないか見てしまった。ミツヒコが見せてくれない『家の中』に一体何が置いてあるのか。


 怖い。もうほんと怖い。


「家が散らかってるからね」(そんなの気にしたことないよ!)「せっかくだから前の公園で食べる?」


 冷蔵庫にあったペットボトルの紅茶を公園まで持ってきてくれたので2人でベンチで並んで食べた。

 いつもなら楽しいイベントなのに今日は全く楽しくなかった。ケーキの味もしない。


「みっちゃんさぁ。最近忙しすぎるんじゃないの?」と聞いたけど「そりゃそうだよ。紗莉菜のサポート大変だよ。明日は何しでかすのかと戦々恐々だよ」と言われてしまった。


 その点については反論のしようもないです。毎日ご迷惑おかけしております。


「アタシのせいならー。アタシも一緒に残業しようか?」

「余計なことしないで。混乱する一方」ピシャッと言われて終わりだった。その通り。ミツヒコ1人ならスムーズに行く作業も紗莉菜が加わるとわけわからなくなってしまうのだ。


 いろんな人に聞いてみたけど「今までの花沢の対応の方が異常」「3年も経っていつまでもラブラブカップルの訳がない」「倦怠期だよ倦怠期。中原も少しは世界を広げろよ」と言われておしまいだった。


 みんなー! どうしてわかってくれないのー! ミツヒコが! ミツヒコなんだからあんなミツヒコおかしいって!!


 花沢光彦という人はこういう人じゃないんだって!!!!


 そして信じられないことが起こってしまった。

【次回】誰!?

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >書類に抜けはなかったし、各方面への伝達もチキッとやってくれた。 チキッ? キチッ? [一言] 更新されたばかりの短編も、エッセイも読みました(*´꒳`*)♡
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