(2/14)結婚しろよ、結婚しろよ、結婚しろよ
さらにさらに会社の同僚。
中原の直属の上司城田課長が花沢のところにやってくる。
「花沢くんね。聞いたよ。中原さんの今までの仕事全部手伝ってきたんだって!?」
弾かれたように立ち上がり花沢は深々とお辞儀した。
「分を超えた振る舞いをして申し訳ありませんでしたっっっ」
「あー。それはいいんだよー。今はやってないの?」
「やってないです」と言った。第3課の人間が第1課の仕事をコッソリ手伝うなんてやってはいけないことで。交際が秘密だったからこそできた。公になった以上無理だ。
「助けてよー。花沢くん1人でどうやってあの仕事手伝ってたの!? 今3人がかりで彼女手伝ってるんだけどほんと大変でさー」
わかりますよ。書類に至っては『書いてない方がマシ』なレベルですからね。
「すみませんが……それはオレではなくて上司に言っていただきませんと……」と告げるしかなかった。
はぁ〜っと城田課長がため息をつく。
「もうさー。花沢くん中原さんと結婚してよ」
はい!?
「あの人誰かが面倒みてやんないとダメだよ。とにかく営業はできる! 営業以外が全てポンコツ!! それが中原さん!!!」
城田課長の言うことに100パーセント同意だ。なぜあの人がトップセールスなのか首をかしげざるをえない。しかも自分の彼女。
1つ利点をあげれば『信じられない程図々しい』と言うことだろうか。
昨日中原と『チューッ』ってやってた今野樹社長だが、『ナヨナヨー』とした外見から想像もできないほど敏腕だ。
会社も銀座の一等地だし利益というものにとにかく厳しい。
それなのに、中原がなんと利益率8分の1の間違った『ご提案書』を今野社長に提出してしまったのだ。
中原何やってんの!
中原の上司の係長は何やってんの!
その上の課長補佐は何やってんの!
さらに上の城田課長は何やってんの!
ということだ。部長は中身なんぞ見てない。
大騒ぎになる第1課に外回りの中原が戻ってきた。城田課長半泣き。
花沢は前々から『中原の上司になるなんてかわいそう』と同情していた。いや、お前こそ彼氏じゃねーか。気の毒な花沢。
外回りから戻った中原は全く騒がなかった。
おもむろに座席に着くと電話をかけ始めた。
そして言ったのである。
「たっちーん。間違えてちったー♡」
第1課の人間が総立ちになった。
間違え『ちった』!?
そのまま楽しそうに話していたかと思えば「今野社長とお茶してきまーす!」と言って出て行った。
帰ってくるとちゃんと直された利益率の『契約書』を手土産に城田に渡した。
全員が茫然となった。
中原にはそういうところがある。
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そんなわけで花沢光彦は全方位から『結婚しろ!!!』と言われることになってしまった。もっと言うと。
『あのどうしようもない中原さんの面倒一生見て!!!』
と言われるようになったのである。わかってました。だから交際をオープンにするの嫌だったんです。思った30倍はキツかったというだけです。
まあいい(良くはない)
しょせん外野だ。好きなだけ言えばいい(精神的にキツいけど)
『結婚』なんて超プライベートなこと他人に決められる筋合いはない。無視をすればいい。
ただ1人。
無視ができない人間がいる。
中原紗莉菜だ。
【次回】ミツヒコくん、海を見る。