(11/14)2人の恋の終わり
土曜日。断頭台に向かうような気持ちでミツヒコの家に行った。
見たことないような厳しい顔でミツヒコに迎えられた。ついうっかりいつもの『マイジャージ』に着替えてしまった。このジャージ。今日持ち帰ることになるかもしれない。
お茶も出されずにダイニングテーブルの椅子に座らせられるとミツヒコに口火を切られた。
「どうしても今日話したいことがあるんだけど」
「……………うん」
「まずは食洗機ね」
はい?
@@@@
ロイヤルストレートフラーーシュ!!!!
って感じでミツヒコがバーンと5枚パンフレットをテーブルに置いた!
はい?
なんだこりゃ! 食器用洗浄機のパンフレットじゃん!! しかもなんかフセンはってある。恐る恐るパンフレットをめくるとなんか赤丸つけてある! なんか書き込んでる!!
「最初に考えなきゃいけないのが食洗機!! 働いてて皿なんか洗ってられないからね!」
「はい!?」
「次に全自動乾燥機付き洗濯機!」
バーン! パンフレット5枚!!
「はいい?」
「全自動掃除機!」
なんかまたバーンと置かれましたけれども。なんだこの『ルンバ』って文字。
「それから住まいだけど! 紗莉菜の実家から徒歩圏内にするから!!」
はぁ!?
そして超怖いことにエクセルで作ったと思われる『家賃相場表』を出してきた。なんだこれ!?
「結婚するなら家族がいつ増えるかわからないし。絶対紗莉菜の家のそばに住んだ方がいい。幸い会社まで電車で1本だし。家賃もそんなに高くないことがわかったから!」
「ちょっとまったーー!! そんなのどうやって調べたの!?」
「お母さんに賃貸物件のチラシをとっておいてもらったんだ。あとネットで調べた」
ハッとした。
「まさかそれ。この日辺り?」と紗莉菜の母親が死ぬ程上機嫌だったころを思い出して聞いた。
「そうだよ。お母さんに『紗莉菜さんと結婚したいのですが、つきましてはこの辺の賃貸についてお聞きしたい』って言ったんだ」
「お母さんよりアタシに相談が先じゃないの!?」
「だから今話してんだろうが!!」
「まったーーーっ!! 何これ。何これまさか」
ミツヒコがしれーっと言った。
「プロポーズですけれども」
これが!? この『地獄のプレゼンテーション』みたいなのが!?
「いや。プロポーズってのはさ? こう。夜景とかで指輪とか差し出してさ。『僕と結婚してください』で『はい私で良ければ』でキャッキャウフフで。『新婚旅行どこにするー?』で『子供は何人欲しいー?』って言う……」
「そんな甘い考えで結婚ができるかーーーっ!!」
ダーンと平手でダイニングテーブルを叩かれた。え?なんですかこれ?
「そんなのせいぜい半年くらいなの! あとは現実! ただただ現実!! 婚約前にキチンと条件を話し合って決めとかないとモメるの! うちのネーチャンがそれで離婚寸前までいったんだからねっっ」
あ。お姉様の桃花さんが。山梨の。実家近くに住んでいるというお子さん2人の。
紗莉菜はパンフレットを手に茫然とミツヒコを見つめた。
「オレは自分の恋を終わらせることにしたんだ」
ミツヒコが笑った。
「それで。『愛』に変えることに決めたんだ」
「愛……」
「中原紗莉菜。君の一生に殉じてやるよ。辛いことも楽しいことも面白がってやるから」
紗莉菜の手を握ってくれた。
「結婚しよう」
【次回】なんかもう。がっくりきた。