585話 楽しみ方
「このゲーム、まともにやってたら一番何にもできないんだよね」
ピンクの髪を揺らしつつ、配信画面の向こう側に説教くさく話を始める。アカメの元を離れ、自分のクランを立ち上げつつの配信作業、コメントを見てからの反応でもある。
「まともなゲームプレイが悪いってわけじゃーないけど、それだと無難なプレイしか出来ないよ」
何で?
普通のゲームプレイで十分楽しいのに
なんか前にも言ってなかったか
「ボスも言ってたけど、普通にやるだけじゃこのゲームは遊んだって言えないかなーって……私もそうだけど、本流から外れた動きをしている方がこのゲームを真に楽しんでるはず」
真面目にやってるプレイヤーに喧嘩売ってんの?
そもそも本流ってなんぞ
不真面目にやれって事じゃないんだよなあ
「やばいのは誰も使った事ないような武器だったり、スキル、装備をしている人なんだよね」
ももえがそんな事を言いつつ、配信画面の奥の方を見てぽつりとつぶやく。
「……ほんと、あんなのごろごろしてるって思ったら、言いたくもなるよ」
銃撃音、金属音、怒号に叫び声、いつにもまして激しい音と戦闘をしている憧れの人。このゲームの真髄を体現していた人。その背中を見つめつつ握り拳を作ってるのに気が付く。
「入れ込み激しいわ、私」
何言ってんだこのポンコツ
ポンコツだからしょーがない
ポンコツか……
「未だにポンコツって言われるの不服だわー」
配信コメントに反応しつつ、また目線を戻す。
諦めるって事を知らない、あの人の背中はいつも眩しい。
「だあ!めんどくせえ!」
飛んでくるカードを義手で受け、弾き落としてから銃を構えて反撃。
撃ち込んだ銃弾をこれまたカードで防がれるので手早くリロード。こんな事ならもうちょっと攻勢に出れる義手を持ってくればよかった。ってのは結果論。最初からそういう運用を想定して持ってきてるだろうが。
「いやいや、そちらも何発仕込んでるので?」
二人の間には穴の開いたカードや、切れた銃弾、数多の薬莢に、切れた衣類。もしこれの清掃をしてくれってなったら大変だろうな。
「此処まできたらどっちかの心が折れるかの勝負だろうな」
「おや、奇遇ですね、此方もそう思っていたところです」
ウインク一つ飛ばしてくるので、お返しの銃弾1発。軽く弾いてくるので、舌打ちもおまけに一つ。
「そんなに強いのに表に出てこないってどういう了見だ」
「ふふ、狭い界隈しか知らないようで」
「いや、世界が広いって事にしておくよ」
真面目に撃ち込んでる最中に自分の手持ちのカードを思い出す。正面から馬鹿みたいに撃ち合いを続けていてもしょうがない。だったらこの拮抗を潰せる手は。
「あんまり得意じゃないんだけど、なっ!」
撃ち込む際に、手首を捻り弾道を曲げる。直線的に飛んでくる弾道から曲がりの入った弾道がカードの間をすり抜け、カード使いの肩口を貫く。それに合わせて呻ぎ声が二つ。
「考えてることまで同じかい」
まだ義体化していない体、横っ腹にカードが突き刺さっている。1枚投げると見せかけて2枚投げてたか?攻撃を攻撃で隠すって中々な事をしてくる。
「うん、うん、やっぱり貴女は良い相手です」
「そのセリフをそっくりそのまま返すわ」
突き刺さったカードに何かしら効果が付いている……訳ではなさそうなので、片手でカードを引き抜いて、もう片手でリロードを済ませる。両手を使わないと基本的にリロード出来ないってのを考えると、こういう事になった時にはかなりいい具合。
「……って言うか義手の組み合わせ1パターンしか考えてなかった」
左右で同じ義手にする必要は全くないな、そっちの方が幅は出るはず。とりあえず思いついたことはやってみるのが良い……のだが、戦闘中に装備は弄れないからまずは目の前の奴をどうするかが問題。これ毎回戦闘中に思いついてるな。
「負けてさっさと変えて次の……って選択肢はないか」
何度目かの射撃とリロードを挟んで一旦距離を取って一息。
向こうも接近戦で長時間戦うのはしんどいのか、肩で息をしながら一呼吸おいている。散々やってた感じ、あのカード投げは残弾がないっぽい。手品のように何もない所から出しては投げてを繰り返しているから私と似たような系列のサブ職を使ってる可能性もあるけど、それはなさそう。
「そろそろ倒れてほしいんだが」
「負けるのは死ぬ程嫌いなので」
ふふっと笑ってきてから、カードが一枚しゅぱっと投げられるので、それをキャッチしてどんなものかをまじまじと。
「……招待状?」
「ええ、クランでカジノをやっていまして、そこで賭け試合を」
「テストみたいに思われるのは何かむかつく」
ディーラーっぽいと思ったらまんまだった。
「ガンナーとして高名な貴女の実力を測るにはちょうど良かったので」
すっとお辞儀をするので、視線を外した瞬間に構えて一発撃ってみる、が……しっかり叩き斬ってくる。
「そういう所が良いんですよ」
こっちの手の内を見抜いているような気がする。
「分かった分かった……お前が勝ったら出てやる」
「なるほど……」
「私が勝ったら、その賭け試合、無茶苦茶にしてやるよ」
ギザ歯を見せにぃーっと笑い、じゃきっと提げていたハンドガンを2丁抜いて構え直す。




