578話 cierre
何度目だろうか、あの犬野郎と戦ってきたのは。
相性的な部分が強くでて、一進一退の感じがあるけど、いつもより向こうのほうは余裕がないようにも見て取れる。とか言ってるこっちもそこまで強気にでて行けるかって言われるとかなりしんどい。
「マジでしぶと……!」
「それは、こっちも、ですよ……!」
時間にして、まだ5分くらいしか経ってないのだが、何時間も戦い続けてるくらいには長く、疲れてきている。どっちも一撃当てれば致命傷、無駄なリソースを注ぎ込んでの無理強いも出来ない。本当にどちらかが先に折れるか、カラカラになった時が決着だと、理解している。
「折角、一張羅、仕立てたってのに……」
度重なる剣戟を紙一重で避け掠めているせいで、ドレスはボロボロ、滲んだ血で赤褐色のような色合いになってきている。
「そんな事、気にする人じゃないでしょ!」
そう言いながらこっちに接近し、光剣での一閃。当たるとやばいのは知ってるので全力回避。自分の持ってるスキルを総動員してこのやばい一撃を避け……れない。焼ける音、匂い、痛み、は言いすぎではあるけど、貰ったというのがわかる。ちょうど胸元から右肩にかけて、斬られたというよりは焼かれたと言った方が正しい。
「いつになったらMP切れんだよ、マジで」
そう言いながら斬られたところを押さえつつ、バックステップで避けてから一息。ここでムキになって突っ込んで反撃で一気に押し込まれる方がやばい。もちろん下がった所を追撃してくるのは当たり前なので、さっきよりも回避に重点を置いて立ち回りつつ、どうするか考える。何度か攻撃を見たところから、確実に剣自体のギミックというよりはスキルでどうにかしている風に見える。光学スキルだけど、あくまでスキルを使うための前提装備なり条件があって、それを使って発現くさい。
「……やっぱこっちも突っ込むしかないか」
避け続けているとは言え、完全に避け切れなくなり、自分から次第に焦げ臭い匂いがしているのがわかる。ドラゴンの焼肉になるのはごめん被りたいが。
ステータスのバフはないと踏んでるので、単純に追いつけなくなったわけではなくて、こっちの疲労が溜まってきている、それと合わせて動きを読んできているのが原因だろう。
あれこれと考えつつ避け際に1発撃ち込んだら、銃弾がサベで焼かれると共に踏み込んできて返しの一撃飛んでくる。体で受けるわけにはいかないし、回避し切れない。かと言って銃で受けると攻撃手段がなくなる。
「なむ、さんっ……!」
後ろに飛ぶのはもう何度かやっている。だったら前に突っ込んで振り切る前に止めて反撃。身を屈め、尻尾も使って返しの一撃が飛んでくる前に体をぶつけて、攻撃阻止。そこから懐に銃撃を2、3発。密着しててもダメージを与えやすいのはしっかりとメリットよ。流石にさらに追撃というわけにもいかなく、バックステップと共に何度か切り払いをして離そうとするので、素直に下がってから一旦仕切り直し。
「急に飛び込む度胸……機転の良さ、本当に強いですよ」
「そりゃどうも」
あの光剣、防御も攻撃力も異様に高いけど、持続はそこまで。消費のきついスキルを考えてもMPの量があまりにも高すぎる。どうやって対策しようかと考えている間にも攻撃は続くので避け掠めてこっちが削られ始める。こっちもこっちで結構しっかり撃ち込んでるんだけど、それぐらいじゃ止まってくれないのが耐久力高い相手。とにかく一息つきたいので連続射撃で接近を拒否してから一呼吸入れる。
「ダメージをMPで受けてるって考えて、耐久振りしてるのに多い理由は……」
ぶつくさと声を出しつつ考えをまとめる。
こういう時、長期戦になるのはリソース、HPとMPになるが……それを自力で回復、MPを使ってHPを回復って事は逆もあり得る。だからってHPとMPで交互にコンバートし続けるのはバランスがおかしくなるから、そこは調整しているはず。だからこっちとしてやる事は、あいつがHPをMPにコンバート出来ないくらいまでMPを消費させて、HP勝負に持ち込む。
そうと決まれば、ある程度温存していたMPをこっちも使い込んで勝負に掛かる。こっちもガス欠になったら装備している物だけで勝負しなきゃならないが、そんな悠長なことを考える暇はもうない。
「ほんと、これでくたばれ!」
ガトリングガンを再度手元に出して中距離から掃射開始。
ご自慢のタワーシールドは手元にすぐ戻せない位置にがっつり置いてあるし、さっきまで使ってたラウンドシールドも、攻撃一辺倒になった時に投げ捨てている。防ぐとしたら光剣を使うか、多分あるであろう光盾を引き出す。
「ここにきて、それ、はっ……!」
犬野郎が左腕を前にするとピンク色の光が壁になり、飛んで行った弾丸を小さく燃える音をさせて防ぎ続ける。あれのMP消費が効果時間なのか、効果を発動した回数なのかは分からないが、大量に長時間であればこっちにも勝機がある。だからこそ、ガトリングの回転数を落として発射間隔を伸ばしつつ射撃を続ける。今使ってるスキルはMP消費で一定数の弾を出すまでは持続するので、これでなぶり殺しよ。
「ちぃ……!」
暫く撃ち込んだ後、ばしゅっと音を立て、ガトリングが止まると共にマガジンが落ちる。その瞬間手元から消えるので、向こうも盾を消して剣1本、光剣を発動させながら接近してからの一閃。スキルの終わりは独特の硬直があるせいで回避も出来ない。
「これで終わり!」
思い切り振ってきた一撃を咄嗟に右腕を上げてガード。直後に甲高い金属音が響き、しっかりと相手の攻撃を防ぐ。
「もうHPをMPに回せなくなったなら、こっちの勝ちよ!」
「貴方、勝つためにそこまで……!」
「くたばれ、クソ犬がぁ!」
残ったMPを消費しての最後の一撃。左の掌を犬野郎の顔面に押し付けると共に、思い切り腕を捻って押し込む。直後、押し付けた所から光があふれ出し、爆発。顔面を焦がした犬野郎が倒れ込むのを見ながら爆発によって袖が吹き飛んだ左腕を掲げて勝利宣言。
「これが、氷炎理論よお!」
煙が上がり、焦げ臭い音を発しながら掲げた左腕は、照明があたり黒鉄の色を反射する。




