441話 勝手が違う
流石の私でも1対2で戦うのは厳しいわ。
T2Wにおける複数戦とプレイヤーのいる複数戦ってのは別物ってのを何度も言ってきた気がする。
『そろそろ持たないぞ!』
『なかなか手強い相手で!』
って言うか1対1ならさっさと倒せる強さはあるんだからさっさとどうにかしてくれないかな。柳生が速攻で1体倒すって算段だったからこっちはこっちで時間稼ぎをしているんだからな。現状、正面からは棍棒持ち、左右からは射撃されて、回避に手一杯すぎる。何て言うかこの戦法が中々に厄介と言うか、理に適っている。とにかく棍棒持ちがガンガン建物を破壊しつつ、前に出る事で追い込みをかけ、こっちの逃げ場を潰しながらも味方の射線域を絞っても来れる。ぼこぼこ破壊しているのがここにいるから撃てって合図にもなっている事だな。
「関節狙いするか……って、思ったけどしっかり対策してるわ」
また棍棒を振ってビルやら建物を破壊して真っすぐ突っ込んでくるのに合わせて腕部グレネードで頭部を狙い射撃。バシュバシュと音を立ててグレネードが射出されるとあまり速くない弾速の弾が簡単にヒットする。あれくらいならあの棍棒で吹っ飛ばして来ると思ったけど、そうでもないな。装甲が厚いからこれくらいのダメージを貰っても大丈夫って事かね。
「回復出来ないゲームだってのを考えると、ダメージ食らうのは悪手だと思うんだけど」
ダメージ量に対して装甲値が高いとあまり食らわないってのは分かるがそれでもそんなにノーガード戦法ってのは信じられない。ダメージを貰ってもいいから仕留めた方が良いって判断か?このゲームのセオリーがいまいちわかってないからその辺は聞いて……みても、ダメそうだな。あいつ結構な脳筋だし、その辺聞いても「わからん!」って返しそうだ。
そう考えていたところにまた射撃されるので回避行動をしつつ、射撃機の位置を探るが、上手い事隠しているな。あんまりそっちに気を向けていると前から突っ込んでくるからそっちも抑えて……。
『まだか!』
『今片付けた!』
遅いっちゅうねん。
そう思っているとかなり離れた所で大きく爆発が起きる。倒したら爆発する演出もあるのか。まー、イベントだし、色んな人が見ているってのを考えたら演出が派手にもなるか。
「よくよく考えたら倒せるだろって前提であいつを送り出したけど、負けてたらどうしようって話だった」
大分信用はしていたけど、私のゲームプレイや今までの経験で言えば、流石に信用し過ぎてた気もする。って言うか、ちょっとチームを組んだからって倒してくれる確信をどこから出したんだ、私は。T2Wのやり過ぎか?クランなんか立てて柄にない事してきた弊害か。
「一旦合流して、攻勢に出るとして、どうするか」
引き離す様に途中から後ろに向かって飛ばしていたから、この棍棒持ちをすり抜けて、射撃を搔い潜って合流、どっちがどっちを対処するか……ってのはもう確定か。
棍棒持ちはキャノンを潰された段階で対処が難しい、射撃機は射撃タイミングと場所を移す速度を考えたら軽量っぽいからそいつと戦えれば私としても行けるんだが。
「こういう時にマイカの奴だと、手早いんだがなあ」
お馴染みの様に棍棒を振るって建物を破壊。飛んできた瓦礫が装甲を凹ませる音を聞きながら、もう一度頭部に目がけてリロードが完了した腕部グレネードを射出。先程と同じように、何発か連続して頭部に命中させ、爆発で視界を防ぐと共に前ブースト、すぐさま相手を踏み越えて逃げる時よりも速い動きで斜めに飛び上がると、迎撃射撃。いつものくせで左腕受けて、腕部グレネードがダメになるが、場所は把握した。
ついでに散々っぱら破壊してくれたおかげで射撃で体勢が崩れたとは言え着地はスムーズに、滑走路に着地するように滑っていけるのは僥倖。
『待たせた』
『デカブツをやれ、こっちはこっちでお客さんの相手だ』
少し滑りながら射撃された方を視認している間に、柳生が合流。
まったく、来るのが遅いんだよ。
『あい、分かった』
『装甲が厚いから気を付けろよ』
それだけ言えば、全てわかったという様に加速して棍棒持ちに向かっていくのを見てから射撃機の方へ向かう。不意撃ちで飛んでくる射撃は避けるのが厳しいが、正面切って戦うってなれば、射撃自体は結構避ける事は出来る。
ビル、建物を踏み場にしながら射撃された方に向かっていくと、私と同じような軽量装甲に、長距離射撃用のライフルを持ち、明らかに射撃をしますって機体を見つける。
「散々ぱら撃ってきやがって、覚悟しろ」
ジャコンとBRを構え、飛び上がっている間に何発か射撃。空中だと命中精度が悪いな。
相手の足元周りに着弾し、地面を融解させるのを見ると、流石に嫌がったのか後ろに引きながらこっちに長距離用ライフルで反撃してくるが、相手の場所と狙いが分かっている攻撃程温い物はない。サイドブーストを掛けて機体を捻りを入れて回転回避。
馬鹿正直にバック走をしている相手に対して、こっちは上から狙いを付けられ、一直線に接近できるのはかなりのアドバンテージ。こういうゲームに限らないけど、FPSなり射撃するゲームで高所やら有利ポジション取ってるのにそれを捨てる奴はセンスと言うか理解力が無い。逃げ方1つ取ってもそいつがどれくらいゲームが出来るかの指標にもなる。
目の前にいる射撃機、こいつは……まあまあだな。逃げ方はしっかりジグザグと言うか、左右に振るし、加減速もちゃんとするけど、甘い所が目立つ。
「キャノンとグレネードが無いとめんどくさい」
上空から撃ち下ろしBRで攻撃。ビーム発射音を響かせ、建物を融解させ、徐々に距離を詰めていく。相手の反撃も来るが、それは回避行動か、ダメになりかけている左腕で受けて直撃を避ける。こんな事ならしっかりシールド持ってきたらよかった。
「そろそろ決着付けようや」
オープン回線であれこれ言ってくるのを無視してBRでオーバーヒートしない程度に適宜撃ち込みながら接近。向こうの攻撃が連射出来ないのもあるけど、接近専用の武器があったらもう出しているだろうから、このまま押し切る。
まあ、ここまで来たらやる事は決まっている、BRで射撃して距離を詰め、ある程度詰めたら腕部ガトも織り交ぜて弾幕を厚くする。大分撃ち込んだおかげもあり、かなり削ってきたが、最後の最後にBRに被弾。爆発と共に手放し、代わりにナイフを抜いて踵部分に装着。軽量相手なら腕部ガトリングもそこそこ嫌がるダメージは出るが、目的はそっちではない。
さっきの重量級と同じように頭部を狙い、少しでも目くらまし、ぎりぎりまで接近した所で向こうがライフルを振って攻撃してくるのに合わせ跳躍。空中で1回転半捻りを加えて相手の頭上を通り過ぎる瞬間に踵を突き下ろして真上からナイフ突き刺す。流石にこんな動きはT2Wじゃ出来ないわ。
あー、あとあれだ、倒したって確信が得られないのは、機体越しって部分がある。まだ動くかもしれないってのがでかい。
足をさらに動かしナイフを切り裂く様に引き抜き、突き刺さった部分に引っ掛けて踵からのマウントを解除、くるくると回転しながら上に飛んでいくナイフをちらりと確認してからブーストを掛けてタックル。ビルに射撃機を押し込んで、落ちてきたナイフをキャッチすると共に沈黙するまで滅多刺し。結局接近戦するならヒートだったりチェーンソーが付いているような付加機能が付いてるのも考えとこ。
そして暫く滅多刺しにして、沈黙しただろうと思った瞬間に爆発が起きて吹っ飛ばされ、対面にあったビルにめり込む。こういうのって普通判定無しにしとけや。イベントだけの特殊表現だと思ったのに。しかも結構な勢いで吹っ飛ばされたおかげでブーストちょっと不調になるし、良い事ないわ。次の戦いの時は気を付けて倒そう。上手く使って爆弾みたいな扱いしたら面白そうだけど、成功率は低いか。
そんな事を思っていたらそこそこの距離で爆発が起こる。向こうも決着が付いたか。柳生が負けてたらもう勝てないぞ。
『決着ー!勝者ブルーチーム!』
ああ、大丈夫、勝ててたっぽい。
で、あっという間に転移させられて待機室って言うか、ハンガーに飛ばさる。で、飛ばされたなと思っていたら次試合のアナウンスが流れる。何かすげえタイトスケジュールだ。
「4人相手だともう無理だぞ」
「ううぬ、もう1人いないと厳しいか」
「T2Wの方だってこんなカロリー高い事してないっての」
インベントリを開いて煙草を……ってのはないんだった。
とりあえず機体の調整と言うか武装変更や装甲の組み合わせを弄りながら話を続ける。
「とりあえず前は任せるから射撃偏重にするけど、勝てるかどうかはあんたの殲滅速度次第なんだから」
「で、あれば射撃のみに徹するのは?」
「人数が少ないから分断されると厳しい、だから速度の速いあんたに合わせてるんだよ重装甲にしても抜けられてボコられたら意味ないでしょ」
とりあえずさっきの反省点として、キャノンがいらない、シールドは必須。近接武器は用意しておいた方が良い。軽量ホバーで飛行は結構有用。ナイフを足に仕込むのは悪くない。とりあえずこの辺りで組み直して次の試合までに考えて……。
「たまたま誘ったうえに、メインゲームでもないのに何故そこまでする?」
「ん-……そうねえ……」
機体の調整をしていた手を少しだけ止める。
「負けるのは死ぬほど嫌いなんだよ、私は」
エンジョイ勢に中指立てて暴言吐くくらいにはな。




