396話 思い切り良く
アデレラのマガジンを抜いて新しいのを入れ……る前に、空のマガジンに通常弾を込め始める。
こういう細かい準備ってのを忘れない様にするのは非常に大事。ゲームだからアイテム積んでごり押しするってのもあるっちゃあるけど、結局用意しないといけない訳だから一緒か。とりあえず普通の弾を詰めたマガジンをガンベルトに入れ、入れ替えたマガジンも弾を込めてから装填。
「時間の感覚がよく分からんくなる……」
ダンジョンアタックを開始してからそこそこ戦っているとは思うのだが3回目の襲撃が来ないのでまだそんなに時間は経っていないはず。って思っているだけで本当は3回目、4回目まで襲撃が終わっていたりするかもしれん。そもそもダンジョン内で連絡が来るかどうかってまだ分からんが、流石にダンジョン内外で時間の流れが違うって事もないだろうからそのうち来るとは思う。
「1戦ごとの疲労が結構くるからそう感じるだけか」
マップを開いて現在位置を確認し、どこまで進んできたかを見るが、最初に入った所からそこまで進んでいない。これはモンスターが出るたびに戻ったり、左右に振ったりして捕まらない様にしているのが原因だったりする。
「配布と持ち込み銃弾も減ってきたし補給に戻ってパーティ組むかを考えて、一旦状況を確認もしないと」
あれからもう何匹かの狼を倒してようやくコツを掴んできてる。本当ならもう少しここで戦い続けて感覚を掴んでいく方が良いんだろうけど、これ以上留まっていても先に進める見込みもないのでいったん戻る事に。このダンジョン、一応の親切心なのか、獣道にさえ戻ってしまえば出る事は容易い。と言っても、そこまで戻るのにも苦労するのがダンジョンって物だが。
「素直に死に戻りすりゃよかったか」
がさがさと茂みをかき分け、ようやく出入り口に続いている獣道に出るころにはボロボロ。別に着ている物が汚れる訳じゃないけど、こういうの気になるわー。して、そのまま獣道を戻ってダンジョンから出ると一気に視界が明けて平原が出てくる。つーかすげえ眩しい。やっぱこの森ダンジョン、暗いんだよ。
「3回目はまだだし、今のうちに戻るか」
肩をぐりんぐりんと回し、愛機の4脚戦車を召喚。そういえばこれにも名前を付けられるんだっけか……まあ、そのうち考えるとして、まずは拠点に戻ろう。そんな事を思い、運転席でもあるポッドに入ってエンジン始動からの発進。
土煙を上げて平原を走るってのは中々にいい気分ではあるが、何もない時と襲撃中での緩急が激しすぎる気がする。一斉射撃で倒せているとは言え、段階的に量が多くなったら通用しないだろうし、職業別でも勝ちを狙うならもっと連携もいるか。
ばしゅっと音を立ててポッドを開け、辺りを見つつ足で操縦しながら煙草を咥えて一服しつつ流す。これからどうするかだなあ、グループ内と個人に関してはひたすらモンスターを狩り、ダンジョンクリアしたら順位は上がっていくだろうから、問題は全体的な順位だな。
前回のイベントの事を考えればモンスター発生の原因だったり、根本的な解決を早い段階で片付けれられればおのずと上がっていくはず。ただ、これを達成するとして、大前提に拠点はまず落とされない、砦も確実に1個も落とされないって条件も付いてくる。防衛に戦力を割き過ぎると、ダンジョン攻略が出来ない。かと言ってダンジョン攻略に力を入れすぎると防衛が上手くいかない。バランスを考えて攻略と言うのもあるけど、そもそも全員が「上位を狙う」って思考になっていないと成立しない。
「うーん、上手い事、全体で協力できりゃいいんだろうけど、難しいだろうなあ……」
最初のイベントで館を突破出来たのも結構偶然だったし、今回もその偶然を引いてあっさりと上位入賞ってのは出来過ぎた話だから、私の苦手なコミュニケーションを取って、どうにかこうにか協力体制を作って、頑張りましょうって事か!何だろう、自分で言っててやれる気配がない。
「人付き合いが良いわけでもないし、職業別は絶望的か。二兎を追う者は一兎をも得ずとはこの事」
やろうとしている事は三兎なんだけど、現状を考えたらグループと個人1位狙う方がまだいいか。
そんな事を考えつつ、煙草を咥えて紫煙を燻らせていると遠くで鐘の音が聞こえる。
まだ森からそんなに離れていない所で聞こえるって事は。
「三回目か!」
超有名なでかい芋虫が出てくるかの如く、森の方から一斉にモンスターが溢れてくる。拠点側の方に機体を走らせたまま双眼鏡を構えてどんなバリエーションかをチェック。さっきまでは獣タイプのモンスターと言うか狼が中心だったが、虫系もバリエーションに追加されている。まあ、森から溢れるって言ったらやっぱでかい虫か。
「精神的にあれきっついなあ……外殻持ちだとガンナーの天敵だし」
双眼鏡で観察しているのだが、徐々にだが距離を詰めてきている。
これでも結構な速度で走ってるわりに追いつかれてくるって、あいつらの進行スピード速過ぎじゃないか?それにしても全周囲で虫やら獣やらが襲ってくるってかなりえげつないな。
「……やべえな」
双眼鏡を仕舞い、ポッドの搭乗部を開けた状態でマジ運転。まずは砦に張り付いて崩してくるってのを考えると、今ここで私単体に攻撃してくることはないだろうけど、巻き込まれて吹っ飛ばされたら多分一撃で死ぬ。脱出してすぐに襲撃が起こるってのは、出来過ぎだな。
「ああ、もう、いつまでやるかもわからんのに、序盤の序盤でこのカードを切りたくなかった!」
ポッドから身を乗り出した状態でインベントリからパイプを連ねた物を取り出して点火。そのまま火の付いている方を先に落とし、そのまま連ねた筒をポッドから垂れ流す。
前後で並走しているのですぐにモンスター群に巻き込まれ、垂れ流している筒が跳ねるが気にせずに走り、全ての筒を落としきる。
「死ぬよかマシか」
そんな事を言えば後ろのほうでボンっと音が響き、徐々に大きく、音が近づいてくる。あーあ、もったいねえ、本当は設置して使おうと思ってたのに。とにかく垂れ流した連鎖爆弾は思った以上に効果があり、声にならないような虫の叫びや、獣の咆哮が背中に当たってくる。やけに気持ち悪いというか、びちゃびちゃと水音が響く。あー、そうか、虫系はこういうのがあったな……。
「全然勢い削れねえし、足何て止まらん」
機体の前後を回してバック走で吹っ飛ばした所を見るが、一部分だけ凹んでいる状態で、その他は一目散に砦に向かっている。結構大群の所で吹っ飛ばした割には凹みが大きいだけマシか。
「ああ、もう、何一つ思い通りにならないわ!」
前を向いて走った所で追いつかれる。そうなったら砦に辿り着く前に吹っ飛ばされて拠点に死に戻り、だったら。
「まだまだ持ってきたものはあるっちゅうねん!」
障害も何にもない平原なのでバック走でも特に問題なし。
またインベントリから銃器を一本取り出して愛機の上にマウントして、ぐるぐるとハンドルを回していく。現状の最高品に比べて型落ち品とは言え、奴の仕立てた物をベースにして私が弄ったのだから悪いはずがない。
「これが終わったら畑増やしてもっと銃弾量産しねーとなあ!」
がらがらと銃身が回り、火を噴き始めると共に、目の前のモンスターを蹴散らし始める。
いや、蹴散らしてはいないけど、明らかに足は遅らせている。
「もっと良い奴、流通させとけよ、クソトカゲ!」
バリバリと音を立て、薬莢が機体で跳ねて金属音をさせる。
ああ、減っていく、こつこつ作っていた銃弾が減っていく。
ブクマと評価や感想でやる気が出ます、ありがたや




