383話 準決勝2試合目
「向こうは順当にアカメさんが勝ったみたいですね」
「そうみたいだねぇ……ま、当たり前じゃない?」
「こうなってくるともう運命ですね、いつかやられたお返しをしようと思うんで……素直にやられてもらえます?」
「んー……そうだねぇ……ちょっとその願いは聞き入れられないかなぁ」
『さあ、準決勝2試合目!ガウェイン選手VSマイカ選手、試合開始です!』
試合開始のアナウンスが流れると共に、ガウェインはいつもと違うヒーターシールドを構えて迎撃態勢を取り、マイカはいつもの様にとんとん軽く飛んで準備運動。
『さあ解説のエルさん、この試合どうみますか!』
『堅牢なガウェイン選手をどう打ち崩すかがポイントですね、逆を言えば素早いマイカ選手をどう捉えるかと言うのがポイントですかね』
『なるほど!長所を突破しないといけないと!』
解説と実況が流れている中、先に動いたのはマイカ。
じりじりとしっかり接近してきているガウェインに対して、クラウチングからのロケットスタート、前傾でなおかつ低く速く接近。当たり前だが、その攻撃をもろに受けるほどお人好しではないガウェインはしっかり盾を構え、腰を落として耐える姿勢。
「まー……あたしも火付いたし、マジでやるわ」
「ほう、本気ですか」
駆け出した勢いのままマイカが跳躍、空中で蹴りの姿勢を取ると共に思い切り構えていた盾を蹴る。明らかに硬質な物同士のぶつかり合い、衝撃波でも出るじゃないかと言うくらいには轟音が響き、攻撃を受けたガウェインの足元には大きく擦り跡が付いている。
「この加速度合いで攻撃力にプラスされる仕様は厄介ですね」
払う様に剣を振るい、盾に乗ったままのマイカを飛び退かせて着地の瞬間を狙い、ドンっと大きく踏み込むのと同時にロングソードで真っすぐ唐竹割。斬撃を半身になって紙一重で避けると共に、引いた足の勢いで回し蹴り。それをしっかり盾で防ぎ、一呼吸置いてから一旦離れ、また接近し斬撃。その攻撃をマイカが片足を上げレガースで防ぎ、すぐにもう片足で跳び、剣を抑え込むようにレガースを使い上から体重を掛ける。
体重を掛けられ、引っ張られたのを感じるとすぐさま手を離してシールドバッシュ、攻撃と言うよりも距離を取る為の一撃。ごんっと音をさせてマイカを吹き飛ばすがしっかり受け身を取って対峙しなおす。
「やっぱ強いね」
「そちらこそ」
手放し転がった剣を拾い直し、びゅんびゅんと振ってからしっかり真っすぐマイカを見て一息入れる。お互い、一手ごとに必殺を叩き込もうとしているので少しの攻防だけでも緊張が走る。
『流れるような攻防ですね!』
『そうですね、どちらともすぐに一撃を入れる様に動いてますから、1つの読み間違いで一気に流れを掴まれるでしょうね』
『堅実にダメージを与えようとするガウェイン選手、一気に攻め立てるマイカ選手、どう読みますか!』
『しっかり防御からの反撃でオーソドックスながら確立した立ち回りと、完全に自分のスタイルを貫いている立ち回りと見て取れるので、難しいですね』
そんな実況解説の中、またマイカがクラウチングの体勢になり、先程よりも足元を確認してからじっとお互い見つめ合う。
「ヒット&アウェイってのは厄介ですね」
「硬いってのはめんどくさいわ」
大きく息を吸い、少し止めた瞬間に先程よりも強い踏み出しでガウェインに走り出す。手を真っすぐ伸ばし、地面すれすれじゃないかと思われるほど前傾のストライド走法で接近し、ぶつかる手前で滑るようにしゃがむと回転しながら足払い。
それを見越していたわけではないが、腰を落としてどっしり構えているガウェインは盾で足払いを受け、体制の低くなったマイカに対して体を回転させて袈裟斬りを放つ。
「っと……抜け目ないね」
「這いつくばっていると負けますよ」
四足歩行と言う訳ではないが、手足を使い飛び跳ね、袈裟斬りを避けるとすぐに踏み込んでまた飛び蹴り。その攻撃を盾でまた受け……ようとせずにパッと盾を手放す。
勢いの付いたまま支えの無くなった盾を蹴り飛ばすが、しっかり受けると踏んでいたのもあって蹴りの体勢が崩れる。その瞬間を狙い、両手持ちにした剣で空中で叩き落とすように振り下ろすと、そのまま叩きつけられ、声が漏れると同時に地面が陥没する。
「やるぅ」
「でしょう?」
マイカを地面に叩きつけた所から更にがんがんと上から剣を振り下ろして構わずに追撃。いつものガウェインとは違うかなり雑と言うか、なりふり構わない攻撃から本気具合が見て取れる。
『おーっと、ガウェイン選手のラッシュ!今までのスマートな立ち回りからいきなり雑になりましたね!』
『ダメージを出せる時に出しておかないと厳しい相手ですからね、恰好を決めている場合ではありませんよ』
暫く殴っていると、ぴたっと動きが止まってバックステップで距離を取るとまたどっしりと腰を落として構える状態に切り替えてさっきよりも鋭い目線でマイカがいた方をじっと見つめていると、陥没した地面からボロボロになっているマイカが飛び出し、着地。
ふいーっと大きくため息を吐きだすと共に、ぱんぱんと服を叩いて埃を払い、余計な装備を剥ぎ始め、手甲と足甲、ノースリーブの加圧シャツと加圧レギンスのシンプルな恰好でぐりぐりと肩を回しつつ息を整える。
「久々にもろにダメージ貰ったなあ……がっつり火付いたわ」
「見るからに顔つきが変わりましたしね」
マイカが大きく息を吐き同じように吸ってから一息。辺りがぱりぱりと音を立て始め、マイカの周りだけに青色の稲妻が走り、髪が逆立っていく。
「いくぞ」
直後に破裂音が響くとマイカの姿が消え、ガウェインがぎっと視線を鋭くすると共に吹っ飛ばされて転がりまわる。すぐさま転がった勢いでしゃがんだ状態に体を起こすが、目の前にはマイカが稲妻を引きながら回り込んでくる。
「ちぃ、速い!」
そのまま飛んでくる連続攻撃を剣で受けながら火花を散らし、キィンと硬質な音を響かせての攻防が繰り広げられる。
『ガウェイン選手防戦一方!反対にマイカ選手の猛攻が止まらない!』
『時限強化のスキルでしょう、ここで耐えきればクールダウンでの隙が生まれるので良い判断かと』
『それにしても凄いラッシュですね!』
『マイカ選手がAGI極の速度特化ですし、不思議ではありませんよ』
「今日は戦うより『勝ちたい』のよ」
「こっちもそうですよ!」
ひときわ大きい金属音が響くと共に両者ともに距離を開けまた一息入れると、がくりとマイカが膝を付いて荒い息を整え始める。勿論そこを攻撃しない訳もないのでガウェインが所謂飛ぶ斬撃で攻撃。荒い息のままそれを避けて顔を上げると共に目の前まで接近してきているガウェインの攻撃を手甲で防ぐとグラっと倒れかける。
「頑張り過ぎたようで!」
「これからだし!」
勿論倒れかけた所に容赦なく追撃してまた防御一辺倒になり、攻守を交代しながらの殴り合いになっている。
「やっぱり、今日はあたしの日だ」
暫く防御に徹していたマイカが強く押し返すと共に、稲妻ではなく目から光が溢れトラッカーを使っている時の様に線が引かれる。明らかに何かの自己強化をしたと判断したガウェインもインベントリからタワーシールドを取り出してがっちりと構えて迎撃態勢。
『それにしてもマイカ選手は色んなスキルを使っていますね!ガウェイン選手はそこまでですが』
『そこは単純にパッシブ型なのでしょう、決めで使う強力な物は別にありそうですから』
『そういえば魔法以外のスキルは特に口にしなくて良いのは何か理由が?』
『単純にいえばダサいからですね、今からお前を倒すぞ!って宣言して攻撃する人はいないでしょう』
『なるほど……おっと、両選手共に距離を取っていますね……ここで決着か!』
ガウェインは鞘に剣を仕舞い込み、居合のような体勢に。マイカはさっきと同じようにクラウチングの状態に。
「……馬鹿ねぇ、あいつら」
モニターを見ながら紫煙を燻らせてふふっと楽しそうに笑い声を漏らす。




