365話 奥の手
「うーん、おねーさん、弱くなってない?」
「お前らが強いんだっての」
飛んでくるナイフをガンシールドで叩き落とし、反撃のTHで1発。向こうも金属音をさせて銃弾を斬り飛ばす。どこぞの13代目くらいしかそんな事出来るような奴を知らんぞ、私は。しかも斬り飛ばした後に、にやっと笑うのがまたこっちの神経を逆撫でしてくる。
THに残った2発も連続で発射すると、下から上、上から下にしっかり斬り返して3発とも全て斬り落としてくるのだが、あいつまさかとは思うけど遠距離攻撃に対しての防衛手段を手に入れたって事か?
「どうしてこうも、私の周りは強いかな」
THのシリンダーを出しながら片手で装填をしつつ、開いた手でファイアーボールで遠距離攻撃。火球が唸りを上げながらバイオレットに飛んでいき、一刀両断。切り裂いて二つになったファイアーボールが後方で爆炎を上げて炸裂。魔法も斬って来るってマジか……こうなってきたらビーム兵器ですら切り払いそうだな。
「こうもやられると自信無くすわ」
「そりゃー、遠距離が強力な相手を想定してたし?」
「対私想定だとしてもやり過ぎじゃないか」
自分の防御スキルを確かめている感じで持っている刀を振るいつつ、まだ動きはない。なんだったらもっと撃ちこんで来いって位には余裕綽々、ちょいちょいナイフや太めの針で攻撃してくるのをこっちが防いで反撃。そうして防御スキルで防がれて鼻歌交じりに楽しそうにされる。これが開幕からずっと続いてるんだから結構辟易する。初めて使うスキルを試しているって感じもあるし、ちょいちょい攻撃をしてくるのを考えれば、まさかとは思うけど此処で初卸のスキルって事か?こうなったらもうちょっと弾幕を張って反撃してみたら、どう反応してくるか見てみるか。
THをガンベルトに下げてから鳳仙花を取り出し、ガンシールドの上部を支えにしたうえで鳳仙花の銃身を安定化。向こうは向こうでばっちこいって顔をして刀を構えるのでそれに応えるよう、ダブルバレルの1つを発射。流石に散弾なら斬り落とせないだろうってタカを括っていたのだが、あいつのバトルセンスの良さを忘れていたわ。
半身になって直撃する弾を狙い、真っすぐした太刀筋で一閃。散弾の子弾が何発か当たってはいるものの直撃はしないように被弾箇所を薄めてダメージを最小限に。ダメージコントロールまでするか、こいつは。
「そろそろこっちからも攻撃しちゃうよー」
「ガチ近接キャラと遠隔キャラで戦うのはタブーだって色んな所で言われるだろ?」
びゅんびゅんと刀を振るい、肘を折りたたみ刃を挟んで拭うと共に低い体勢でこっちに走ってくる。ああ、くそ、これだからガチ近接キャラ相手は嫌なんだ。とりあえずガンシールドとショットガンは構えたまま、少し腰を落としてどっしりと身構える。どうせ距離を取ろうとしても向こうの方が足はあるし、だったらカウンター狙いで射撃するなり、殴ったりするなりで対処した方がまだ可能性はあるって事だ。
ももえの時と違うのはあいつが遠近両用の動き方をしてくるからってのがあって、バイオレットの場合は暫く攻撃してくるのさえ凌げれば距離を取らざるを得ない。ガンナーだから近接戦闘はしたことが銃剣くらいだが、永遠と殴り続けれる事ってのが出来なくて、暫く殴っているとクールタイムと言うか息継ぎをしないと攻撃が続けられないっていう地味な仕様がある。
だからこそここは耐え時であって、死なない程度のダメージを受けるのであれば、それはそれで良し。多分、きっと大丈夫。私も何だかんだで良い防具を揃えているし、地味ながらもちゃんと攻撃属性に対応した防御属性入りのスーツを着ている訳だからな。
「なんて、思ってたんだけどなあ……」
ギャンギャンと金属同士ぶつかる音をさせて辛うじてバイオレットの攻撃を防ぎ続け、反撃の一手を考えているのだが、攻撃の手が全然緩まらない。どうにかこうにか直撃だけは避けているが、捕まるのも時間の問題か。継続攻撃の時間増やすスキルでも持ってるのかね。
「おねーさん、防御力高くない?」
「このゲームのモンスターがほぼ近接攻撃だからだよ」
ようやく攻撃の手が緩んだので、その隙をねじ込むように鳳仙花に残っていた1発を至近距離でぶっ放す。流石に攻撃が緩んだ所に撃ち込んだのもあって咄嗟に刃を立てて防ぐが、それなりに当たったのか軽く呻いてバックステップ。近接系の相手って、銃撃浴びせるとヤバいと思って後ろ下がってくれるから装填隙作ってくれるのが嬉しいが……こいつってマイカと同類ってのを忘れた。
弱い方のショットガンとは言え直撃を貰っているはずなのに少しだけ動きが止まっただけで攻撃の手は緩いが散々攻撃してくる。
うむ、まずいな、ガンシールドの耐久がやばい。そうそう壊れない様になってるけど此処まで正面切って殴り合う物じゃないから明らかに変形し始めている。
「全く、脳筋め!」
手早く鳳仙花を手放し、投げ物ポーチに突っ込んであったフラッシュバンを取り出し、さっきよりも厳しくはない攻撃の合間に、敢えて目に付くように放り上げる。私がヤバい物を使うってのはよくわかっているらしいので、斬り落とすという事はせずに一旦バックステップで避けてくれる。
「おっと、怪しいねー」
「だろうよっ」
距離が開いて一呼吸置いた隙にちゃりっとサングラスを掛け、転がしたフラッシュバンにファイアーボールで着火。導火線から……と言うよりも、薄く加工した金属筒が熱くなったのか、一気に閃光が走る。やっぱり買っておいてよかったサングラス。
バイオレットの奴に関しては流石に攻撃系の道具だと思って身構えていたのもあって閃光が直撃はせず、一瞬だけ目が眩んだだけに留まっている。ただ、この一呼吸がどれだけ大事かってのは私自身が良く知っている。撃ち切った鳳仙花は仕舞いTHを抜いて装填、ベルトに沿う様にシリンダーを動かして即リロ完了。
それにしてもガンシールドがここまでべこべこになるとは……折角展開して大きく出来るようにしたけど、そんなギミックありましたねって位にはべっこべこだよ。
とにかく一旦距離を開けてくれたのはいいチャンスであって、これを逃さずにTHで追撃。1発目は構えが遅れて直撃、そのまま続けて2発目、3発目をかましてやるがキンキンと甲高い音をさせて斬り落とす。やっぱ頭おかしいよ、その防御スキル。
「やっぱ一撃貰うと大分削られるんだよねー、バイパーやももえと違うからやりにくいったらありゃしない」
「その台詞をそっくりそのまま返すわ」
銃弾を斬り落として構えなおす間に装填スキルを使って高速リロ、って言うか10発以内にガンベルトにマウントしている銃弾の分がなくなるのはまずい。インベントリから直接出して装填しなきゃならないので一動作以上が余分に増えるのは一気に近づいてくるバイオレット相手にはまずい。何とか攻撃を受けきって押し返したものの、これ以上続くとなると確実に負ける。
「やっぱ装備全部見直すしかないか」
2本目の金属筒、スモークグレネードを使い辺りを白煙まみれに。これで少しは時間を稼げるはず。
煙の上がっているまま、すぐさまトラッカーを使いバイオレットの場所を特定しながらインベントリを開いて銃弾を取り出してはガンベルトに差し込んでいく。いつもならもう少し余裕があるのだが、バイオレットの恐ろしい所はこういう時の機転の良さもある。獲物でもある刀を振るうのではなく、柄を中心に高速回転させて煙を晴らしてくる。
「ちょーっとびっくりしたけど、これだけじゃねー?」
「そらそうだ」
それくらいしてくるのは分かっていたから、次はこれだ。インベントリから銃弾を詰めたあと、別に出した握り拳大の袋を煙を晴らしているバイオレットに向けて投げ。地味に投擲のスキル付けておいてよかったとこれ程思うとはな。
当たり前だが、怪しい袋が飛んできて、何もしないって事はないので回転させていたところから下からの袈裟斬りで袋を両断。
「うわ、なにこれ」
「私が昔やった事だよ」
袋を切ったバイオレットに向け、指を銃の形にして魔法を発動。ファイアーボールがそのまま飛んでいくが、斬り返しての両断から、爆発が起きる。近くにあった煙が全て吹っ飛ぶほどの威力もあってか私自身も後ろに吹っ飛んでごろごろと転がる。手持ちのアイテムでの最高で瞬間的に火力が出る攻撃だ。
「げほっ、えほっ……どうだ、この野郎」
「……いってぇ……」
2人ともぐったりしつつ、相手を見据えつつ先に私が立ち上がり煙草を咥える。
「十兵衛ー、仇とってー」
「しょうがない奴だな」
HPとMPポーションをがぶ飲みし、THと鳳仙花の装填を済ませて向かってくる十兵衛の奴を見据える。
あいつはあいつで立ち回りが独特だから相手にしずらいってのに……うちの爺と忍者は抑えるのは失敗したか。
『抑えはどうしたんだ』
『十兵衛殿はかなり強いんでな』
『車の調達してくるから暫く離れるぞ』
潰されたか。
とりあえず咥えていた煙草に火を付け、思いっきり紫煙を吸い、吐き出してから気合を入れなおす。
「ちょっとは休ませてほしいわ」




