362話 愛弟子
少しだけ遡り。
向こうのプレイヤーが珍しくガンナーだったが、結構やり手だな。
ちゃんとトラッカーも使うし、引き際もしっかりしている、下手な突っ込みもしないから追撃しにくい。連射力とダメージからしたら拳銃持ちって所か。
「どーも、戦い方がポンコツなんだよな」
どちらかと言うとあのバトルジャンキー共に叩きこまれた基本戦術って感じだ。チャンスを伺って、いける時には飛び出して一気に攻撃を叩き込んで自分は離脱って言う、耐久的にも火力的にも理に適っている動き方だ。
あー、良い、良い。下手な動きをするような奴は大体ろくでもないガンナーだが、しっかり押し引きを考えれる動きを出来る奴は本当に好きだ。何よりも一緒にやっている時の信頼度が違う。馬鹿みたいに突っ込んで、あっさり死ぬような奴だったり、目の前しか見えないアホと組むストレスを考えると、大分仕込まれてかなり私好みにはなっている。
「今の状況見たら、ポンコツでもありがたいのよねえ」
ちらりと横を見れば、ぎゃーぎゃーと騒いで魔法と弓を連射し、斧持ちのプレイヤーはどうしようかとおろおろしている。何て言うかまあ、こんなにも噛み合わないパーティ組まされると思うと、ぞっとする。早く忍者と爺の奴こっちに来てくれねえかな!
「そういえばポンコツと相対するってのも久々だし、ちょっとだけ構ってやるか」
ちらちらと向こう側を見て、特徴的なピンク髪を発見。やっぱりポンコツっぽいな。このゲームのプレイヤーってあんまり奇抜な色合いしてるのはあんまりいないんだよな。たまーに虹色の髪にしているのはいるけど、どこのゲームでもペイント要素があるとやたらと目が悪くなる色にするのだけは理解が出来ん。
「さてと……トラッカーの弱点を突きながら行くとするかな」
強調表示ってかなり強い効果なのだが、障害物や土煙、無機物な物は視認性が悪くなるし、強調表示のせいで何を持ってて何をしているのかってのが地味に分かりにくい。そういう訳だからまずは1個目。
スモークグレネード……って訳じゃないが、金属筒をベースにした黒色火薬発煙弾。これこそ忍者が使うようなものだな。あいつは話を聞いてみたらスキルとして煙幕を出せるって言う。すげえ便利で羨ましい。
とりあえず、こっちの魔法であがった爆炎やら土煙が収まり始め、ポンコツが一旦隠れたタイミングで足元にスモークを投げ込み、視界不良を継続。
トラッカーはこのまま継続して、出てくるポンコツを迎撃するために少し前進。次の遮蔽に移りながらもう一つの金属筒を投げ込みつつ、サングラス着用。そういえば変装用に買ったこれ、こんな機会に使えるとは思わなかったなあ。
そんな事を思っていると一気に閃光が広がり、横にいた3人パーティも呻いて、目の前にいたポンコツであろう相手も呻いてたじろぐ。レアメタルって訳ではないので、結構マグネシウム溜まってんだよね。ポンコツの奴はうちの共有ボックスの資源使いこんで物資ため込んでからやめりゃ良かったのに。そういう所がポンコツって言われるんだぞ。
たじろいでいる所をTHを抜いてスキルを使わずに3発連射。射撃系のゲームで少しでも視界を防がれると一気にやられたりするから、ガチガチにチーム組んでる時にはフラッシュバンの投げる順番、投げ込む角度なんかもきっちり相談してたくらいだし。
「NPCを盾にして下がったか……そういう割り切り方も嫌いじゃないわ」
2発ほど入ったから、慌ててNPCを盾にして下がったのは良い判断だわ、私でも同じことをする。
あー、良い、ずっと思っていたが、良い。確かに私は勝つのが好きで、接戦だったり、いい勝負ってので気分が上がるわけもなく、圧倒的大差で相手の心がへし折れるような圧勝をしたい。
しかし、相手が知っている相手で、なおかつ結構目に掛けていた奴だったら話は変わってくる。他人はどうでも良いが身内は気になるって奴だ。
「ちょっとは成長した所を見せて欲しいな」
少し距離を詰めた状態でHPとMPポーションをがぶ飲みして、空になった容器をスモークの晴れていない状態で投げ付ける。流石にさっきのスモークとフラッシュの事もあって飛んでいった空容器を素早く撃ち落とし、続けざまに隠れている私の所に数発撃ちこんでくる。キンキンと大きめの金属音が響くのをBGMにしながら出方を伺いつつ、空薬莢を飛ばすと共にちゃりちゃりと装填。
そういえば向こうの3人パーティはこっちのスモークやフラッシュ、流れ弾でちょいちょい騒いでいる。NPCの数が結構多いので、人数の多い所に集中している?クエスト発生者だから、集中して狙われているって感じはある。ま、向こうは向こうでやっててくれ、私は私の愛弟子と戯れたくなったからな。
「折角持ってきた色んな武器や兵器を押し付けて、あいつの悔しがる顔を拝んでやろう」
こっちが3発しか撃てない銃だと思って、ちょくちょく出て来ようとするのは分かっている。その都度隣でばんばんと無駄にやり合っている余波と、こっちからの攻撃で出鼻をくじき続けているので結構攻めあぐねている。さあ、どうする。接近しないとガンカタも効果がないし、距離を取り続けている間は私の方が有利だぞ。
「さて、いつ気が付いてくるかな……」
遮蔽で挟みつつ、2個目のスモークを地面に転がして視界不良は継続。だが、私は私で遮蔽裏に攻撃する方法があるから、まだまだ甘いぞポンコツ。投げ物ポーチからいつもの手裏剣、よりも少し大きめの物を遮蔽奥に下から上に投げる様にして滞空時間を延ばして投げる。
「まだまだ真っすぐだ」
装填し終わったTHを引き抜くと同時にいつも使ってた曲げ撃ちからの跳弾。投げ飛ばしていた手裏剣に当てて遮蔽裏に攻撃。攻撃が当たったのか、よく聞く蛙の呻き声が響く。ああ、そうそう、あいつ攻撃貰うとあんな感じの声を出すんだよな。
「初めて会った時から面白い奴だよ、まったく」
まあ、もう私のクラン員でもないし、私の前に出てくるって事は敵だから容赦はしないが。
「さーて、乗って来るかな」
あれから少し、ばしばしと遮蔽越しに撃ち合いスモークが晴れ始めた所で、FWSの砲身を取り出して遮蔽の上にがしゃんと置いてやる。
こいつのヤバさを知っているからこそ、戦闘音の響く中、1人飛び出してお馴染みの2丁拳銃……ではなく、ガンシールドを前面に出し、それで銃を支えたまま撃ちながら突っ込んでくる。
「げぇっ、やっぱボス!」
遮蔽に置いておいたFWSの砲身をガンカタを使い思いっきり蹴り上げるが、チャージしていない砲身なんてただの置物でしかないうえに囮だってのになあ。
「ま、出直してきな!」
砲身を蹴り上げてがら空きの所にTHを構えてがら飽きの所に三度撃ち。シリンダーが高速回転すると共に、弾丸が3つ連なってポンコツの腹部に吸い込まれて直撃。
「いや、まだ負けてないし!」
蹴り上げた足を無理やり動かして脛で3度撃ちを受けたまま遮蔽を乗り越えて此方側に着地。
するが、そのまま崩れるので鳳仙花を取り出して崩れ落ちた所に追撃。
「うっわ、ショットガン持って来てんじゃん!」
「大型拳銃に拘る必要、ないかなーってな」
咄嗟に三度撃ちを受けていない足でその場から飛び跳ねると、鳳仙花の一撃を避けて最低の街側の方へとごろごろと転がり、素早く立ち上がってこっちの方を見据えてくる。
「元ボスだからって負けないし……」
と、思っていたら体がくの字に曲がって吹っ飛んでいく。
「おっと、水を差したかの?」
「もうちょっと空気読めよ、爺」
なんか、オチまでポンコツらしいわ。




