19話 Step1-2
褐色エルフに恫喝に近い方法で連れてこられたのは鍛冶工房。エルスタンを拠点にしている鍛冶系総合クランの拠点でもある。看板にどんだけ金と素材つぎ込んだんだよってくらいに装飾と貴重素材を混ぜ込んだ悪趣味な看板が建物の入口上についていた。
で、この褐色エルフがサブマスターの一人だという事は全て聞き終わってから判明した。
「ねえ、あんた、これは!」
「呪いの武器しか作れねえのかよ」
ずんっと自信満々に差し出してきた武器はショートソードなのだが、やっぱりごついって言うか、いかつい。多分美的センスが壊滅的な呪いでも掛かっているんだろう。そういう事にしておかないとなんか可哀そうな気がしてきた。表示されたアイテムデータを見ると必要STR20以上だし、重量きつそう。っていうかそんなもん装備できるわけがねえし、装備したところで何一つ使えない。
「いらない」
「い、いらない……じゅ、重量もSTRに合わせてぎりぎりにして、同じレベルの物じゃ3倍は強いのに……!」
「いらない」
獣のような咆哮をあげながらショートソードをぶん投げ、炉の中に叩き込んでいる。流石に聞いた事もない声だったのか他の職人も此方の様子を窺うようにやりとりを見ている。その覗き見ている職人に駄作のショートソードなんて溶かして再利用しとけと鼻息荒く叫ぶ。
「じゃ、じゃあ、これ……」
「だから欲しい物が違うんだって」
鉄球部分に大きい棘が付き、片手じゃなくて両手で使う程のサイズのモーニングスターを出してくるのだが、やっぱりいらない。そのいらない理由が斬撃武器じゃなくて打撃武器ならいけるって、どういう発想になったらそうなるんだよ。
「あ、分かった、これでしょ!」
「誰が使うんだよ、そんなもん!」
丸太に釘を刺しただけの釘バットならぬ釘丸太。だからどういう発想になったらこんな大雑把な物を作れるんだ。そしてどうしてこんなものを作れるようにしたのか運営に問い合わせしたい。どこぞの吸血鬼のいる島でしか使えねえよ、そんなもん。
「もう、良いって、欲しい物ないから」
「う、うそだ、購買率150%のあたしの武器……あたしの、ぶきぃいぃ……」
崩れ落ちて泣き始める褐色エルフ。なんだよ購買率150%って、それ転売されてるって事じゃないのか。
そんな事を思っていたら目の前でわんわんと泣き叫ぶわ、さっき紹介してくれた武器をまとめて炉の中に放り込んでジャンクにし始めるわ、やる事と作る物が滅茶苦茶すぎる。
「どうせでかくて大雑把なのしかないんでしょ……見りゃわかるわ」
「そ、そんなことは……」
あるよなあ、って覗き見していた他の職人プレイヤーが頷いている。戦闘職からしたらSTR10って別に大したこと無い数値なのは確かだけど、そもそも人の職業聞いてないのにごり押しして勝手に落胆してるだけだよ、あんたは。精神的に疲れるわ、ほんと。巻き込まれ事故に一日二回も遭遇するなんて思わないじゃん。
とりあえずガン泣きしてる所をさっさと出ていく訳にもいかず、落ち着くまで待つ羽目に。実りの無い行動ってホント疲れる。別の職人の武器を見ようとしたら泣きながら睨まれるか、大泣きするし。
「ほんと、泣くのやめてほしいんだけど……」
「だってだって、がさつで大雑把ってぇ!」
そこまで言っていないのだが「自覚あるんだ」と、周りにいた人物が頷いている。まあそんな事よりこの事態をどうするかが問題である。
「ああ、もう、分かったから……ナイフ、良いナイフ作ってよ、作れるでしょ?」
「でぎないぃぃ……!」
だってがさつだからぁと泣きごとを言っている。職人ってこんなにめんどくさいのしかいないのか?とにかく近くにいたプレイヤーを手招きで呼び、どうするか聞いてみる。
どうやら自分の武器にプライドがあるのはいいのだが、使われないと駄々をこねて泣き出すとのことだった。もう、今まさに起きている状況であって、こんな面倒くさい奴いるのかよと心の中で吐いている。
でも腕はいいらしい。確かにデータを見る限りの物はかなり優秀だが、見た目諸々含めてもうちょっとどうにかならんのかい。丸太もって戦うってシュールすぎるわ
「……もう行っていい?」
「ナイフづぐるぅぅう……!」
出来ないのか作るのかはっきりしてほしい、泣きながらもそこら辺のプライドはあるらしい。
「予算500Zしか出せないわよ」
「なんでぇぇえ……」
「Lv6のほぼ初心者プレイヤーにいくらぼったくる気なのよ」
一回引っぱたきたくなってきた。流石に直接何かするというのはフレンドを組まないとハラスメントブロックがあるので触れないのだが。サブマスこんなので大丈夫なのか、この鍛冶クラン。
っていうかクラマス誰なのよ、腕はいいんだからしっかり舵取りするのがあんたの役目じゃないの?美人がぐずって泣いてるって好きな人には好きだろうけど。
「こんちはー……鉱物買取してほしいんすけど」
しばらくそんな問答をしていたら、不意にどこぞの他プレイヤーが良いタイミングで入ってくれた。鍛冶系クランなんだから、そういう持ち込み買取もしてるだろうとは思っていたけど、本当に良いタイミングだよ。とりあえずギャン泣きエルフは置いておいて、この隙に出ようとした時だった。
その買取品を集めて貯めている所をちらりと見たのだが、黄色い鉱物を見つける。黄色……?ちょっとまてよ『あれ』は黄色だ。ぴたりと足を止め、すぐに買取受付の所に走り、思い切り机を叩いてそこにいたプレイヤーを呼びつける。
「その黄色い奴、ちょっとみせて!」
「何なんなの、あっ……さっきうちのサブマス泣かせてた人でしょ」
「あのアホな丸太作るの止めないのが悪いんでしょ」
「あー……それ言われると弱いっす」
やっぱり問題児じゃないの、工房から離れた所なのにまだ泣いてるし。
「そんな事より、その黄色い鉱物、それ、それ大事なのよ!」
「んーまあ……巻き込んだみたいだし……見せるだけならいいっすよ」
指さした黄色の鉱物を持ってきてもらいじっくりと手に取り、その鉱物の情報を確認する。正直武器関係は外れを引いたが、それ以上に収穫があるものだと確信していた。
「これ、どこで取れるの」
「えーっと……北エリア3、東エリア2でちょっと、メインは東エリア4っすね」
すげえペラペラと喋ってくれる。何か請求される可能性もあるので余計な事を言わずに、自分のメニューを開き、メモ帳を更新しておく。データも確認すれば欲しかったあれの情報もしっかりと記載されている。
Step1-2 硫黄
名前:アカメ 種族:ドラゴニアン
職業:ガンナー
基本Lv:6 職業Lv:5
HP:27/27 MP:13/13
STR:5 AGI:12 VIT:2
DEX:12 INT:2 RES:2
スキルP:残5
スキル1:二度撃ちLv1 装填Lv2 調合Lv1 カスタマイズLv1 銃剣Lv2
スキル2:木工Lv1 鍛冶Lv1 錬金Lv2 伐採Lv2 採掘Lv1
装備:M2ラビット(残弾0)×1 銃弾×0
持ち物:レーション×23 鋸 鍛冶ハンマー 錬金窯 伐採斧 採掘つるはし
:ゴミ×188 木炭(質1)×5 縄×1 ナイフ×1
所持金:900Z(内500Z使用予定)
状態:異常無し 満腹度81%




