***話 愛しい人
出張の為、執筆遅延
正直、此処までやってくるとは思っていた。
幾ら同盟を組んでいるとは言え、勝負所でそれを持ち出すと言う事はしないし、真剣勝負だからこそ一騎討ちと言うのも理解できる。
何だったらどうやって私を倒すのかが気になるし、あれからどんな風にレベルが上がったのかも気になっていた。恋焦がれている相手だからこそ、ここで出会うと言うのも必然だったんだろう。
「此処まで来るのがすげー疲れたわ」
何度目かの爆発音を聞き、その方向へと顔を向けると、原因になったであろう爆心地から、爆発で起きた爆炎で葉巻に火を付け、余裕たっぷりと言う様に紫煙を辺りに燻らせつつゆっくりその人はやってくる。
前回のイベント結果からこうなるってわかっていたじゃないか、敵になれば確実に一番の強敵で、そこらのプレイヤー何て目じゃないと。
「良い感じに潰し合いしてくれたし、うちの鉄砲玉がいい仕事してくれたわ」
深く葉巻の煙を楽しみ、いつか見たあのギザギザの歯をにまぁーっと見せつけながら笑いかけてくる。こんな時にも余裕たっぷりに、緊張している素振りも見せずに相対出来るとは。
「……何か返事しなさいよ」
ええ、分かっています。せっかくここまで来てもらったのに御持て成しも無しに相手をするほど私だって馬鹿じゃありませんし、最大限相手をしないといけないってのも分かっていますよ。
今回イベント用に作って持ち込んだが、使う程の相手はおらずに腐っていた一番大きく性能のいいタワーシールドを2枚出し、そのうち1つを装備、合わせてショートソードを抜いて構える。
対人だからかなり気合入れて戦ってきた訳だが、私自身の防御力を抜いてくるのはいなかったし、正直温い上に対人イベントとして数の暴力と言うのも強かったせいもありますね。
構えた所で相対している「あの人物」はいつものように太々しい、対人イベントだって言うのにダークレッドのスーツに肩掛けのコートをはためかせ、ガンベルトにはずらりと並んだ銃弾、コートの裏には私のクランをほぼ壊滅させた爆破物。
まったく、会うたびに私の事を驚かせてくれる人物ですよ、本当に。
「正直前線組のあんたを倒しても倒さなくても、私の『勝ち』は決まってるんだけど……此処まで来たら全員叩きのめして私の目的を達成させてもらおうかな」
此処までやっておいて、もう満足してるからついでとは恐れ入る。流石の私も手に力が入ってしまう。
「兄さん、これ……」
自分の後ろから数個のポーションを受け取り頷く。他のクラン員が手を出さないようにと釘を刺してから歩を進めて距離を詰める。
「お待たせしました」
「おう、やろうか」
コートから取り出す銃器を確認し、正面に盾を構える。あの銃、とにかく通常ダメージなんかよりも固定ダメージが脅威だが、直撃さえしなければ問題ない。
とにかく耐え、距離を詰めて射撃間を縫って反撃するだけだ。今までとにかく耐えれば良かったボスや他のプレイヤーなんかよりもよっぽど強敵ですよ、貴女は。




