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1 ラスボス撃破後の世界は狂気に満たされていた

「あなたが好きです」


 コタツに入りながらコントローラーを握ってた感覚だけが残っていた。

 だと言うのに、今、この瞬間、俺は二本足で直立している。


 そして目の前には画面の中にいたはずの女の子だった。


「あなたが好きです」


 そうだ、告白シーン。

 ファンタジー世界観のギャルゲーをプレイし、ラスボスを倒してエピローグ、ついにラストシーンへと突入した場面だったはず。

 それがどうして、コタツを抜け出し、少し涼しい風が吹く晴れ晴れとした外の世界、大きな木の下で、美少女を目の前に、俺自身が告白されているのだろうか。


「あなたが好きです」


「えっと……」


 この子は好きなヒロインではなかった。全ルート解放しないと大団円エンドには行けないため、仕方なく攻略していたのである。

 無論美少女であるけれど。


 いざ告白シーンまで来ても、イマイチ好きになれなかった。

 俺自身に告白されてるのだから、決定権は俺の意志にある。なんか知らないけど、今はゲームじゃないみたいだし。


「んと、ごめん」


「あなたが好きです」


 ???

 声が小さくて聞こえなかったのだろうか。


「ごめん、君とは付き合えないけど、友達としてならこれからも……」


「あなたが好きです」


 美少女は表情一つ変えず、俺の言動に対する反応も一切なかった。

 聞こえてないはずはないのに、どうして……あ、ゲームだから? これって決まった台詞を言わないとダメなパターン?


 でも主人公がなんて言うかなんて知るはずもない。俺の最後の記憶では「あなたがす……」でここへと飛ばされていた。


 じゃあアドリブしかない。


「俺も好きだよ(?)」


「あなたが好きです」


 ダメだこりゃ。もうここから逃げて、どこかへ行ってしまおうか。


「ああななたが好きです」


 あれ?


「あたがなすできす」


 口の動きと発せられる音以外に変化はない。でも変化しているところは極端におかしい。


「あなんぎあたすきでえええああああたなええああああ」


「お、おい」


「ああだだがふぃふぉぢじょぢじゃなおばおびヴぉいんすぇがざくぉふぅあピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピぴーーーーーーーー」


 逃げよう。バグなんてもんじゃないぞこれ。

 不気味というか実に機械的で非人間的。なのに人間の見た目をしているのが実にタチが悪い。画面で見るとそうでもないが、自分の目で認識すると不気味の谷を感じざるを得ない。


「ガガガガピピーーーーーーーーーーーーファイアボルト」


 美少女の手から放たれる火球。

 詠唱に気づき、即横へ飛んでズザーッと地面に滑り込んだ。


 このヒロイン、魔法使いという設定だった。

 当然のように放ってくる火球に一般ピーポーである俺は驚きを隠せない。


「や、やめろ! お前聞こえてないのか!」


 すぐに立ち上がって再び臨戦態勢へ。


 ヒロインが魔法を使えるなら、俺にはゲームの主人公設定があるはずだ。

 主人公は片手剣をメインに簡単な魔法を使える器用なキャラだった。


 さっきは気づかなかったけど、俺はしっかり帯刀してあるじゃないか。魔法もいくつか覚えているし、このヒロインよりは強い設定だ。


 なら、負ける通りもなしっ。


「ガビギアガガアガタナスデキサアアピア……あなたが好きです」


 動きが止まった。


 斬る!!


 剣の扱いはまるで素人なのに、剣を抜く動作、足の動き、腕の振り方、刃の角度、握り方、腰の動きに至るまで不思議と理解できる。

 接近、居合い。一連の動作に淀みもなく、魔法使い特有のローブを切り裂き、そのまま振り切る光速の一閃。


「あ……好き……」


 身体は倒れ、白いローブが血に染まる。ヒロインは緑に生い茂る芝生を赤黒く塗り潰しながら、そのまま沈黙した。

 俺は一つの生物を肉塊にしたのであった。


「危なかったなぁ。でもゲームとはいえ、人殺しは流石にまずいかも……」


 とは言いつつ、あまり危機感を覚えてはいなかった。

 この世界の俺はラスボスを倒した英雄である。

 今更人を殺したところで、この世界なら問題ないはずだ。


 ……。

 さて、どうしたものか。


 ラスボスを倒した後だというのに、攻略ヒロインは謎のバグによって死んでしまった。

 しかもこのゲーム、なんと攻略ヒロイン以外はラスボスにNTRれて主人公の手で殺さなければならないというゲーム。とどのつまり、攻略ヒロインを殺してしまったためにヒロインは全滅したことになる。


 BADENDを迎えた、孤独主人公の完成だ。


 もうヒロインは諦めて、このゲームから脱出する方法を見つけて帰ろうかな?


「こんにちは」


 後ろから話しかけてきたのは、10歳前後の小さい女の子だった。

 赤ずきんのようにフードをかぶり、カゴを1つ持っている。


「こんにちは、良い天気だね」


「そうですね。ところでこの死体はお兄さんの物ですか?」


「別に違うけど」


「じゃあ貰っていきますね」


「どうぞ」


 少女は死体の傍で座り込み、彼女の服を引っ剥がす。


「おっきな死体だなぁ。かごに入らないよぉ」


 少女はカゴからノコギリを取り出した。

 死体は少女の背中で良く見えないけれど、ギコギコと明らかに死体を切断していることがわかる。


「死体を持ち帰るのかい?」


「今日のお夕飯にするんだよ」


「へー。おいしいの?」


「うん!」


「じゃあケガしないように持ち帰ってね」


「うん!」


 まぁいいっか。そういう世界だったっけ。


「よいしょ、よいしょ……」


 少女が腕を切断したあたりで、俺は観察するのをやめて移動を始めた。


 それにしても空は雲一つない本当に良い天気である。気温もちょうどよくて、現実世界よりも過ごしやすい気がする。


 んー。

 よくよく考えると、ここは現実よりも良い場所なのでは?

 この世界は英雄なんだから、地位や権力を持っていることになる。何なら割と好き放題できる気がするぞ。


 現実に多少の未練はあっても、そんな必死こいて戻る動機もない。


 それにこの世界は俺にとても合っているし、飽きることもなさそうだ。







 ラスボスである勇者を倒して狂気に満たされたこの世界なら。


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