保健室
現実世界〔恋愛〕日間ランキング 9位でした!
ありがとうございます。
東理子を置いて保健室へ向かった。
廊下の後片付けを押し付けたクズ男に見えてるかもしれないが、一緒にいたらアンラッキースケベみたいなことされそうで出来れば離れていたい。
大丈夫、俺イケメンだから。
保健室は無人だったので勝手にハンガーとタオルを使わせてもらった。スマホで5人のグループメールに「サボる」とだけ送って窓側のベッドに横になる。
瞼が重くなってきたので一眠りしようと目を閉じた。
夢を見た。
前世の恋はじ映画のワンシーン。
『いてて、擦りむいちゃった』
『あれ?保健室誰もいない』
『あ、桐ヶ谷くん...寝てるの?...』
───綺麗な顔...
そうだ、東理子が保健室で隼人に顔を近づけて...
俺は目覚めるようにバッと目を開けた。
想定していた人物ではなくその親友が映った。
目の前に朝香真由里がいたのだ。
窓から差す光に眉を顰めながら、俺は口を開いた。
「朝香......?」
どういう事だ??原作に朝香真由里と俺に二人きりになるだけの接点なんてないし最初から最後までただのクラスメイトだった。
俺が起きたことに気づき目の前まで迫った顔を引っ込めた。
「おはよう、桐ヶ谷隼人くん」
朝香はベッドの隣に置いてある椅子に座り微笑む。
「おはよう、朝香真由里」
ベッドから起き上がり同じように返す。
不思議キャラなだけあってマジで分かんない。なんでこんなとこにいるんだ。なんで東理子じゃなく朝香と保健室のシーンやってんだ。
「なんで東理子じゃなくて朝香が?とか思ってたりして」
その言葉に一瞬心臓が掴まれる感覚に陥った。まさか...いや、違う可能性もある。
朝香はこちらの反応なんてどうでもいいと言うように次の言葉を放った。
「突然なんだけど私、少女漫画が好きで。特に『恋を始めるには。』ってタイトルの漫画」
そんな漫画、この世界にはない。
前世を思い出した日にネットで検索したが出てこなかった。
「奇遇だな、好きとまではいかないけど読んだことはある」
「へぇ、あなたのようなイケメン君が少女漫画を読むんだ」
朝香はわざとらしく嬉しそうな顔をした。
朝香真由里は転生者。
しかも原作知識持ち。
「不思議だよな。この学校にいる生徒の名前と特徴が全く一緒で登場人物として描かれている」
「あなたは少し違うようだけどね」
「朝香は原作に忠実すぎて不自然だ」
掴みづらいキャラだな。
「ふふふ、そうかも知れない」
そう言って可愛らしい笑顔を浮かべる。いつも色気が漏れているので少し変な感じがした。
「はい!じゃあ今だけ不思議ちゃん封印!」
パンッ!と手を叩きそう宣言した。
「演技だったのか...」
あの掴みづらい話し方はわざとだったらしくガラッと雰囲気が変わった。女優になれるな。
「私も色々考えたんだよ?小学校から理子と一緒だし、人格形成に影響与えてストーリー崩壊させたら面倒くさそうじゃない」
「今でも充分面倒くさいけど」
「予測不可能な面倒くさいよりはマシでしょう!大変だったんだから!」
誰かに聞かれないように声を抑えめにしながら、前のめりで訴えてきた。黒髪ミディアムで少し巻きが入ってる髪を揺らしながら顔を近づけてくる。美人だなー。
「分かった分かった、つか小学校から記憶あったんだな。」
「うん、6歳の時、理子を見た瞬間思い出した。桐ヶ谷くんは?」
「俺は入学式の挨拶で。同じく理子を見た瞬間」
「うわぁ、ステージ上で思い出して動揺しないとかさすがチート」
「動揺はしたよ。記憶を一時的に封印した」
「それがチートだよ!」
コロコロと表情が変わり美女なだけあって見ていて飽きない。
「で、高校入ったら桐ヶ谷くんキャラ違うし、これもしかして原作通りいかないんじゃね?って思って接触してみたら案の定前世持ちでしたって感じだよね」
話が戻った。よく喋るな。
「俺と結ばせたいのか?」
「いや別に。桐ヶ谷くん理子のこと苦手そうだし。あ、理子は思い込み激しいし思考回路主人公だから、ストーリー回避するのは大変だよ?私が助言してもアホな方に解釈しちゃうし。」
「そこまでヤバイの?マジで?」
自分が想像してたよりハードモードかもしれない。朝香は真面目な顔に変えて話してきた。
「気をつけてね、中盤あたりで理子が前世思い出してなにがなんでも桐ヶ谷くん手に入れようとするかもしれないから。同人誌で読んだことあるんだよねそういう展開。」
「.........え?それフラグじゃね?」
「あ」
衝撃の発言に2人して固まった。
「...ごめん、ヤバイかも」
「俺朝香と喋ったらダメな気がする」
しばらくの間沈黙が続く。
「...」
「...」
「なぁ、」
「うん?」
俺は気になったことを聞く。
「変なこと聞くけど前世の名前、ハルって名前だったりする?」
「?違うけど、どうしたの?」
「いや、なんでもない」
少しだけ、少しだけ期待した自分がいた。前世の嫁かもしれないって。思い出してからずっと考えないようにしてたこと。朝香が否定して、ホットしたと同時にほんの少しの寂しさもあった。
きっと立派に子供育てて暮らしてる。
「...彼女の名前?」
「いや、妻だよ。30だったから」
「めっちゃ年上だった!私17」
「JKかよ」
「これでも都内JK集団のトップだったの!」
「なんか分かる」
そんなことを話しているとチャイムが鳴った。
「これ何時間目?」
「6時間目が終わってもうすぐ放課後」
だいぶ寝てたな。
「戻るか」
大きく伸びをしてベッドから降りる。
「ん、アドレス交換してよ」
「ああ、いいよ」
ズボンからスマホを取り出し交換した。
「学校イチのイケメンのアドレスゲットしちゃった」
「光栄に思え」
「否定しなよ!」
「事実だろ」
窓に干していたブレザーとネクタイを取り、
ナルシめ、とブツブツ言う朝香に声をかける。
「行くぞ、ほら不思議ちゃんに戻りな」
「そっちこそ、その格好で私と保健室から戻ってきたら噂がブワッと広まるよ」
そう言われたので自分の格好を改めて見るとシャツのボタンが3つ外れて凄いはだけ具合だった。
「朝香なら俺は別にいいけど」
なんとなく答えながらボタンを締めて整えネクタイを付ける。
もう出れるので朝香の方に目を向けると何故か固まっていた。
「おい、おーい。朝香ー?」
それでも固まったままだった。こういうの見た事あるな。こっちの世界来てから俺がなんか言うとたまに固まる女子がいるんだよ。こういう時は...
「真由里」
名前を呼ぶといいんだよね。
「ふへ?」
「教室戻るよ」
と、意識が戻ってきた朝香の肩をトンと叩いて保健室のドアを開けようとする。
「―――っ!ちょ、ちょっと!タンマ!」
朝香が腕を掴んできた。
「あと5秒で不思議ちゃんに戻るから!」
そう言うので5秒待つ。顔赤いな。キャラ変える副作用?大変だな朝香。
「よし、いいよ行こう」
「おー、すげー」
朝香から色気が漏れてきた。絶対女優になったら稼げる。
俺と朝香は保健室から出て2階の教室へ向かった。