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聖銀と巨大都市《メガロポリス》  作者: 久野 貴文
37/62

3-10.最初の一歩は好奇心

 ――その後、ガウスの功績は認められました。人喰いはこの国で、ともかく生きる事を許され、そして今日まで命を繋いできて、今の私達があるという訳です。」

 婆様は話し続けて溜まった疲れを、体の外へ排出する様に大きく息を吐いた。それもその筈で、いつの間にか床に敷かれていた模様は朱色へと変わっており、それももう少し時間が経てば全て黒に染まってしまいそうだった。

 そのくらい長い話だったけど、僕等は少しも余所見せずに全部を聞いていた。それは語り部の婆様の話し方が上手いという理由もあったけれど、その話は僕等の血を辿って昔の世界であった事実なのだという実感が、心をがっしりと掴んだというのが一番大きかった。

 「婆様、どうしてその話は、皆に知られていないのですか?そんな話、僕はどの本でも見た記憶がありません。人間が初めて勝ったのは聖銀のおかけだと、僕はずっと思っていました。」

 「忘れ去られているのですよ。百五十年前の事ですからね。」

 「こんなに重要なことが、忘れられるのですか?」

 「ルーク。語り継がれなければ、人の記憶なんてそんなものなのですよ。」

 婆様は穏やかな顔をして首を振った。

 「でも、婆様達は覚えていたんでしょう?どうしてこの話を皆にしてあげないの?」

 「ソフィア。人は昔に書かれた一冊の本よりも、皆が口を揃えて言う言葉を信じるものなのです。」

 「それはどういうこと?誰かが嘘を話しているの?……それじゃあ、何で誰か言わなかったの?皆が知っている話は嘘だって。」

 ソフィアの表情には疑問と義憤の感情が芽生えていた。でも僕の心にはそれとは逆に、諦めの様なものを持ち始めていた。なぜ婆様の語った真実が今この国に知れ渡っていないのか。その理由が何となく察したからだ。

 「……ソフィア、それは、仕様がない事なんだよ。」

 「どういうこと?」

 表情に疑問の色が増して、ソフィアは僕を見ながら首を傾げた。

 「ソフィアは、そうだね……ソフィアは蜂蜜が好きだろう?」

 「うん?それがどうしたの?」

 「その蜂蜜がどうやってつくられているのかは知っているかい?」

 「勿論!蜂が一生懸命花の蜜を集めてつくっているんでしょう?」

 「それは嘘でね、本当は蜂蜜っていうのは、蜂の血のことなんだよ。」

 「嘘だよ!」

 ソフィアのその言葉を言ったのは殆ど反射的だった。ソフィアの目は釣り上がっていて、その表情は、私を馬鹿にしているのかと言っている様だった。

 「嘘じゃあないよ。逆にソフィアは何で嘘だって分かるんだい?」

 「だって、アーロンや爺様がそうやって出来てるんだって、そう言ってたじゃない。」

 「でも、ソフィアは本当に直接見たことが無い訳だろう?だったらそれが本当か分からないじゃないか。」

 「ルークだって見たことないでしょう?」

 「勿論、見たことないよ。でも知っているんだ。僕には本当の事を教えてくれる人がいるからね。」

 ソフィアは先程からずっと疑いの目を僕に向けていて、腕を組んでいた。これだと話の本筋を忘れていそうだ。

 「つまり、そういう事ですよ。ソフィア。」

 婆様が話を元の筋に戻す為にソフィアに語り掛けた。

 「え?」

 「ソフィアは今、そんな筈ないって思ったでしょう?」

 「あ、うん。」

 「これと同じことなのですよ。皆が言っているのだから、それが本当のことの筈だってね。……確かめようとしても、確かめるのは誰でも出来ることではなく、とても難しい。それに真実がどうであれ、蜂蜜は変わらず美味しいですから、真実を知る必要がないのです。ですから、わざわざ確かめようとする人も殆どいません。」

 「……」

 ソフィアはなんとなく理解はしたけれど、まだ納得がいかないといった表情を見せている。

 「……それと、ルークが言っている事は全部間違いです。蜂蜜はソフィアが思っている通りにつくられていますよ。ちゃんと私は見たことがありますから。」

 「ええ〜!」

 ソフィアの鋭い視線が僕に突き刺さった。

 「た、例え話だよ。……騙したのは悪かったよ。でも何で婆様の話が広まってないかは分かっただろう?」

 「う、うん。……でもそれじゃあ、私達のご先祖様のやったことは無かった事にされるんじゃないの?」

 「いいえ。そんな事はありません。……私が貴方達を呼んだのは、この話を聞いてもらう為ともう一つ、貴方達に語り継いでもらう為なのですよ。」

 「語り継ぐ?」

 「そう、私が子供の頃に、婆様からこの話を聞いたときの様に、貴方達も貴方達の子供や孫に、この話を語り継いで欲しいのです。」

 「語り継ぐ……」

 僕はその婆様の言葉に大きな意味があるのが分かった。この話を過去から受け取り、未来へ繋いでいけるのは僕達なんだと、婆様はこの話に、こんな風な意味を込めてあるんだろう。

 「頼みましたよ?……安心しなさい、全部覚えるまで何回でも語ってあげます。」

 「ぜ、全部?」

 「ええ勿論。……でもまぁ、今日はもう暗いですから、また今度ということにしましょう。ソフィア、厨房のメイヤ達にそろそろ夕食にしましょうと伝えて。」

 婆様が首を回した厨房がある方向は、もう真っ暗で何も見えなかった。

 「ルークは?」

 「ルークは少し私の手伝いをしてもらいます。」

 「分かった。……ルーク、じゃあまた後でね。」





 ソフィアは小走りになって部屋を出ていった。僕はそれを見送ると、婆様の視線に自分の視線を合わせた。その婆様の眼差しは変わらず静かだったけれど、それがその人の性質を表しているものではないという事は、もう僕は分からせられていた。

 婆様がなぜ今あの昔話をしたのか、僕は何となく理解していた。きっと婆様が言いたいのはきっと、昔の人物がどれだけ凄いかという事ではなくて、今の僕に対する問い掛けだ。

 どんな事があっても秘密を守り抜くという気持ちと、このレグル派という集団(かぞく)を守るという覚悟を問うものなのだ。

 「……婆様、お願いです。僕をもう一度だけ、アデルとリティアに会わせて下さい。」

 「……はぁ。……もう、何度も言ったでしょう?駄目です。」

 「お願いしますっ、この願いが叶うなら、僕はどんな事だってやってみせます!」

 「貴方は私が一番やって欲しい事をやってくれませんでした。それ以外で埋め合わせなんて出来ません。諦めなさい。」

 「そこをなんとかお願いします!今度はどんな試練だって、もう失敗したりしませんっ。」

 僕の言葉が終わるか終わらないかという辺りで、婆様の顔が初めて歪んだ。

 「はぁ。……いつになく強情ですね、ルーク。なぜそこまで躍起になっているのです?」

 「僕は約束したんです!アデルとリティアの二人に、また会おうって。……僕は本当の嘘つきにはなりたくないんです。あの二人を騙す様なことはしたくないんです!」

 婆様の眼光が僕の胸の内を探ろうとするかの様に鋭くなった。僕は荒くなった息を整えて、婆様の返事を待った。

 「……ルーク、貴方があの人喰いの二人組とどんな事を話したのかは、私は何も知りません。ですが、貴方は少し勘違いをしています。あの二人はそんな約束を守ってもらえる程、清い人達ではありません。」

 「……それは、一体どういう……」

 「あの二人はソフィアや、エミィとは違って外の世界で生きていました。……殺していますよ、あの二人は。人間を殺して食っています。まだ若くて、この先何十年も生きられただろう人間を殺して、自分達の糧にしているのです。……もしかしたら、貴方も騙して食ってしまおうと思っているのかも知れませんよ?」

 「……そんなの、そんなの関係ありませんっ。二人がどんな事をしてこようと、約束したという事実は絶対です!」

 「向こうはそんな約束、とうに忘れているかも知れませんよ?」

 「二人はそんな人達じゃありません。」

 「私の目より、自分の目を信じるということですか?」

 「僕が信じているのは、婆様でも自分でもなくて、あの二人です!」

 「……」

 やけに冷たい夜の吐息が僕の晒された首元を撫でていった。それは心の内を全て出し切り、空になっていた僕には冷え過ぎていて、思わず身震いをしてしまった。

 「……全く、意固地になると意見を曲げようとしないのは、誰に似たのでしょうね。……ですが、私も答えは変わりません。もう一度、言いましょう。駄目です。貴方はまだ早いということは分かりましたから。」

 婆様は夜気より冷たく言い放った。もし僕の性格が誰かに似ているのだったら、それはきっと婆様だった。





 僕はどうすることも出来ずに、ただ剣を振るうしかなかった。でも剣を振っていて、ここまで心許なく思うのは始めてだった。それでも剣を振ることだけしか出来ない僕を笑う様に、太陽は登りそして沈んだ。

 そんなある日、僕は何の気なしに街を歩いていた。もしかしたら神殿の近くにいると自分の無力さが浮き出て見えるから、逃げる為にそうしていたのかも知れない。

 僕のそんな心の動きなんて関係無しに街は賑やかだった。市はいつも通りに人が多かったけれど、その騒がしさが良かった。

 ふと、その人混みの中に見知った顔を見た気がした。もう一度その顔を探してみると、やはりいた。あれはアーロンだ。間違いない。しかし妙だった。アーロンはいつもなら白くて清潔なローブを着ているのだが、今はボロボロの外套で体を覆っている。

 その様子は何だか声を掛けづらい。しかしアーロンがこんなところで何をしているのか気になった僕は、アーロンの後をつけてみることにした。

 それは少しの好奇心だった。しかしそれだけではなかった。何の根拠も無かったけれど、アーロンをつけることで僕の何かが変わるんじゃないかと思っていた。

 アーロンは市を出てゆっくりと歩き出した。僕はそれの後をつけ、やがてアーロンの行き先、というより目的が分かった。アーロンは人を尾行していたのだ。アーロンは自分の少し前を行く男を、僕がアーロンをつける様に尾行していた。

 それに気づくと僕は咄嗟に建物の陰に隠れてその様子を伺った。男の方も外套で顔が見えなかったが、アーロンさんの尾行には気づいていない様に見えた。

 二人はやがて人通りの少ない方に歩いていった。僕もそれを見つからない様に隠れながら尾行していく。いくつ目かの角を二人が曲がり、僕も曲がろうとしたその時、怒鳴り声が聞こえた。

 「何だぁ?お前。さっきから俺をつけてるよなぁ?何の様だ?」

 男はさっと振り返り、その眼光と声でアーロンを威圧した。しかし構わずアーロンは歩き続けていた。まるで声が聞こえていない様だ。

 「おい!話を聞け、この野郎っ――」

 男が一歩踏み出した瞬間だった。男の体に脇腹から肩にかけて、一目で分かる程の致命傷が生まれた。それはアーロンが剣を抜き、そのまま切り裂いた為に出来たものだった。

 「なっ!」

 「っ誰だ!」

 思わず声が漏れてしまった。アーロンの鋭く刺す様な声に、僕は恐る恐る姿を見せた。

 「ルーク様?なぜここに?」

 「ごめん、市でアーロンを見つけて、つい。」

 「そうでしたか。……尾行しているときに尾行されるなんて、私もまだまだですね。」

 「それよりも、アーロン。その男の人は……」

 僕は血の海に沈みつつある男を指差した。その男はもうピクリとも動いていない。死んでしまっているのだろう。

 「この男は人喰いですよルーク様。外から侵入した人喰いです。あの少女達と同じ様にね。」

 「外の……いえ、それなら憲兵の仕事なのでは?何でアーロンがこんなことをする必要があるんですか?」

 アーロンの手には未だに聖銀の剣が握られている。剣には騎士が持つような長い刃があった。これを持ちながら男をつけていたという事は、アーロンは最初から殺す気でいたのだろう。

 「ルーク様、これは安全の為にしたことなのです。ご理解下さい。」

 「安全?一体どういう……」

 「……おや……はぁ、やはり尾行しているときは、尾行に気づきにくいものなのですね。」

 「アーロン?何を言って……」

 アーロンは突然、僕の後ろを見ながらそう言った。それに僕はつられて後ろに振り向いてみる。

 「ソフィア!」

 僕の視線の先にいたのは、建物の陰から頭と肩だけをこちらに見せているソフィアだった。

 「何でソフィアがここに……」

 「だってルーク、何考えてるか分からない顔で外に出ていくんだもん。心配になってつけていたら、いつの間にかここについたの。」

 「いつの間にかって、ソフィア、街は危ないところがたくさんあるんだよ!?」

 「それをいうならルークだって同じでしょう?」

 ソフィアは腕組みして僕への文句を体で表していた。確かにソフィアの言う通りに、僕も同罪だった。

 「でもだからと言って……」

 「二人共!危ない!」

 アーロンの警告の前に、僕等の頭上を影が通った。

 「え?」

 その影は僕を通り過ぎ、ソフィアの後ろで大きな音と共に着地した。僕がソフィアの方を振り返ったときには既に、ソフィアは首に腕を回され、締めつけられていた。更に悪いことに、その影の反対の手には鋭いナイフが太陽の光を受けて鈍く光っていた。

 「オメェら動くんじゃねぇぞ!」

 ナイフはソフィアの目元に近づけられる。僕は瞬時に倒れている男の仲間だと確信した。

 「この野郎っ、俺の相棒を殺しやがって……許さねぇ!」

 男はソフィアを人質にしながら、アーロンに荒々しい殺気を飛ばした。

 「絶対に動くんじゃねぇぞ。少しでも動いたらこのガキをぶっ殺してやるからな!」

 男の腕と顔の皮膚に大きな変化が現れていた。男の肌色は腕の根本から、濁った緑色の蜥蜴の様な皮膚へと変わっていく。その波の様な変化は、すぐに男の全身へと伝わっていった。

 「おい、その武器を捨てろ。遠くにだ。今すぐ!」

 「分かった。従おう。だから落ち着いてくれ。」

 アーロンは手に持った剣をすぐさま捨てた。転がる剣の音がやけに響いて、それはとても不安を掻き立てる音だった。

 「武器はそれだけか?他に隠し持っているんじゃあないだろうな?」

 ソフィアを人質に取った男はアーロンの方ばかりを見て、僕の方はまるで関心が無い様だった。何だか腹が立つ扱いだったけど、それは寧ろ好都合だ。

 男がナイフをソフィアから離し、アーロンの方に向ける。

 「このっ!」

 その瞬間に僕は男の方に駆け出し、そして蹴りを男の脛にぶつけた。意識の外からの攻撃で転ばせてやろうとしたのだ。

 「あ?」

 しかし僕の蹴りは、人喰いの怪力を持つ男のバランスを崩すことは無かった。男の足は硬く変質しており、僕の蹴りなど食らっても微動だにしない頑丈さになっていたのだ。

 「邪魔だっ、このクソガキ!」

 「ッ!」

 その男の硬質化した足から放たれる蹴りが僕の腹に突き刺さる。一瞬で肺から空気を全て吐き出させられて、僕はその痛みに叫び声すら上げられなかった。

 その場で僕は蹲った。そしてその脂汗が滲み出る様な鈍い痛みに耐える。蹴られた瞬間、意識が飛びそうになる程の強烈な蹴りだった。意識が持っていかれなくて幸いだった。

 「ルーク様!」

 「動くな!こいつがどうなっても良いのかぁ!」

 駆けつけようとしたアーロンの足が、その声でピタリと止まった。

 「動くんじゃあねぇぞ……」

 その間にも男の変身は続き、遂に人の部分を全て覆い尽くすまでになって、ソフィアは分厚くなった腕で苦しそうにしている。しかし、それなのに僕はただ、蹲りながらそれを見ているしかなかった。

 僕は男の腕に締められているソフィアを見た。そして目があった。ソフィアのその目は、不安に揺れる目でも僕を心配する目でもなかった。何者も恐れない芯の通った目だった。

 僕達は頷きあった。ソフィアが何をしようかなんて、僕にとって簡単に分かることだった。僕は自分の心の根気を最大限に働かせ、痛みを無視してゆっくり立ち上がる。

 「良いか、ゆっくりと手を頭の後ろにやって、それから額を地面につけるんだ……」

 人喰いの男が威圧する様にまたナイフをアーロンの方に向けた。その時だった。ソフィアは動いた。そのゆったりとした衣服の中に隠し持っていた聖銀のナイフを取り出し、思い切り男の顔を傷つけたのだ。

 「がぁぁっ!テメェ!」

 僕はその隙を見逃さなかった。ソフィアのナイフはアーロンから護身用に持っていろと言われていた物だ。つまり僕も同じ物を持っている。

 「うおぉぉぉぉお!」

 僕のナイフは男の両の太腿を切り裂いた。今度こそ、男は足に力が入らない。ソフィアも緩んだ腕の拘束から抜け出した。

 「逃がすかぁ!」

 しかし男は片目が潰れているというのにソフィアの腕を掴んだ。とても正気とは思えない程の執念深さだ。

 しかしながら、男が掴んだのはもう少女のか細い腕などではなかった。それは大の大人よりも太く、鋭い爪を持ち、白い鱗で守られた、ソフィアの悪魔の腕だった。

 「っなに!お前、同種だったのか!」

 「はぁぁぁあ!」

 そしてソフィアの腕をがっしりと掴んでいて動けない男に対して、ソフィアは掴まれた腕とは反対の、ナイフを持った方の腕で、男の脇腹を殴りつける様に刺した。

 ソフィアの力は大人顔負けの怪力だ。それを受けた人喰いの男は、勢いそのままに道路の真ん中に吹き飛ばされる。

 「……っこの、ガキ共!がっ!?」

 男は立ち上がろうとしたが、それを止めざるを得なかった。なぜなら男は背中を足で抑えられ、首に聖銀が添えられているからだ。

 しかしその聖銀を持っているのはアーロンではなかった。外套を被ったどこかで見たことがある男。そう、あの地下室で見たベルナンドさんだった。

 「全く、何をしとるんだ。アーロン。」

 「すみません……油断していました。」

 ベルナンドさんは一つため息をつくと、男の首元に添えていた剣をまるで何でもないかの様に自然に下ろした。

 「かはっ……!」

 人喰いの男はそうやって息を漏らして、そして微動だにしなくなった。僕は人が死ぬところなんて今迄一度も見たことは無かったけれど、それでも男が今死んだということは分かった。

 「……」

 ソフィアが無言で僕の背中に隠れた。もう戦う者としてのソフィアは彼女自身の深いところへ隠れてしまった様だ。

 ベルナンドさんは剣を引き抜いて血を払った。男の体は血の気が無くなって白かった。首にある大きな傷口からまだ血が滴り出ていた。傷は塞がることはなかった。それは当たり前のことだったけど、なぜだかそれが妙に感じた。

 ベルナンドさんの持つ剣が、己の存在を主張するかのように銀色に光った。

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