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2-1 六〇三号室

「収穫らしい収穫はなかったわね」

「仕方ないよ」

 そう簡単にあの難物の動向がつかめるはずもない。もともと期待はしていなかった。

 校長室をあとにしたカソルとハルは入寮手続きのため学院の寮のロビーを訪れていた。

 学院の寮を利用する生徒はそう多くない。それは中央魔術学院に入学する生徒の大半が名家の出身であり、もともと王都ラルセに居を構えていることが多いためだ。入学のためラルセにやってきた地方出身の優秀な生徒だけが、この六階建ての寮を活用している。

「すみません。あとで取りに来ますので」

 受付までやってくると、部屋の鍵と郵送された荷物の一部を受け取ったハルは申し訳なさそうに受付の係員に言った。係員の背後にはハルより一回りだけ小さい箱が、それなりの圧迫感とともに鎮座していた。

「なんなの、あれ?」

「あー、うん。気にしないで」

 問い詰める必要があるようなことでもないので、カソルはその言葉に素直に従った。

 奥に備え付けられたエレベーターのもとまでそろって歩いて行く。

 このエレベーターを始め、王国に存在する機械類はすべて魔力によって駆動する。大気中から集められたマナに加え、国民が税として国に貢納する魔力がそのエネルギー源となる。ちなみに魔力の貯蔵技術はアスカトラの開発だと言われている。

「何階?」

「六階だよ」

「じゃあ一緒ね」

 降りてきたエレベーターに乗り込むと、ハルがボタンを押した。

 その後すぐに六階へ到着したことを知らせるベルが鳴る。エレベーターを降りると正面に休憩スペースがあった。すぐ右手には曲がり角があり、左手にはまっすぐな廊下が続いている。への字型の建物の中で、エレベーターはその屈折部分に設置されているのだ。

 壁には矢印型の案内板に数字が書かれていた。それによれば六〇一号室から六一〇号室は左手に、六一一号室から六二〇号室が右手にあるらしい。

「私こっち」

 ハルが左を指差す。カソルは手元の鍵に付いているタグに目を落とす。少しかすれた文字で六〇三と印字されていた。

「僕もそっちだよ」

「まあ当たり前よね。監視する以上あんまり離れるわけにもいかないし」

 そう言って先を行くハルにカソルも続いた。

 一つ、二つと部屋のドアの前を通り過ぎていく。ハルが立ち止まったのは七つ目のドアを通り過ぎたあとだった。

「じゃ、また夕食のときに」

 ひらりと手を挙げてドアに鍵を差し込むハル。目の前に立ち止まったカソルはその言葉の意味がわからず首を傾げた。

「え、なんで?」

「なんでって、これから荷解きもあるし」

「いや、だってこれ」

 カソルは鍵を持ち上げ、それに付けられたタグをハルの目線の高さに掲げる。

「ん? ……うん?」

 ハルは何かおかしなことでもあるのか、と数秒の間目を凝らしてから眉を上げた。

「六〇三」

 つぶやいてから鍵穴に刺したままの自分の鍵を見やる。

「六〇三」

 そしてゆっくりとした動作でカソルの方を向く。数秒の沈黙。

「なんで!?」

 ハルはようやく頭の整理が追いついたというように、目を剥いて叫んだ。

「さあ? 一緒の部屋なんじゃないの?」

「いやいやいや!」

「何か問題でも?」

「問題しかないわよ! 不健全! 風紀の乱れ! 貞操の危機!」

 ハルは言葉を切るごとに興奮した様子で繰り返しカソルを指差す。カソルははるか遠くの雨雲をながめるようにハルを見つめ返した。

「大変だね」

「人ごとみたいに言わない! 確認しに行くわよ!」

 ハルはカソルの手首をつかむと、そのまま引きずっていくように早足で歩き出した。

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