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1-6 校長先生のお話

 放課後になると、カソルとハルはアスカトラについての情報を得るため、事前に約束を取り付けておいた校長に会いに行った。

「いい? 念のため言っておくけど校長先生もあんたのことは知らないからね? あくまで私がアスカトラに関心があるっていう体でいくから」

「大丈夫だって」

 カソルがうなずくのを見たハルは目を細め、やや疑心と不安を窺わせながらも校長室の扉をノックした。すぐに返事があり中に入るよう促される。

「やあ、ようこそ。ハル・エベラインさんにカソル・アルフマンくんだね」

 豪奢なデスクの奥、背もたれの高い革張りの椅子に腰かけていた校長は、きれいに禿げ上がった頭頂部と豊かな口ひげが特徴的な、いかにも好々爺といった風体の男性だった。

「本日は貴重なお時間を頂きましてありがとうございます」

「いやいや、私もたまには生徒との会話を楽しみたいと思っていたんだ。昔はアスカトラに関心のある学生も多かったんだが、今じゃすっかりおとぎ話の世界の住人でね」

 カソルが白炎魔術を使ったときのカスベルの反応もそんな感じだった。アスカトラの魔術は今目の前にある魔術とあまりにあまりに乖離しすぎていて、現実的な目標や憧れにならないのだろう。

「私もなかなかお話を伺えるか方がいなくて困っていたところです。今日はどうぞよろしくお願いします」

 

 数分後、ソファに並んで座って話を聞いていたカソルとハルは、内心で落胆に沈んでいた。

「申し訳ないね。さすがに山にこもってからの動静まではつかめなくて」

 カソルの出生の秘密をアスカトラが知っているとすれば、カソルが生まれた一六、七年前のアスカトラの行動が手がかりになる。そう思い、まず直近の情報について尋ねてみたがそれは空振りに終わった。

「いえ、とんでもないです」

「ただまあ、今もどこかで生きているというのは確かだね。時折山に大型や中型の魔獣が出たあと聖法官が行ってみるともう影も形もなくなっている、ということが度々あった。聖法官以外に魔獣を倒せるのは魔仙だけだから」

「あ、それは多分僕――」

 低めのテーブルの下でハルがカソルの足を小突いて言葉を遮る。

「うん? どうかしたかい?」

「ああ、なんでもないです」

 不思議そうに少し眉を上げる校長。ハルはごまかすように慌てて新しい話題を振る。

「では、アスカトラが街にいた頃のお話をお聞かせくださいますか?」

「ああ、いいとも。アスカトラはこの学院を卒業してから、死の一歩手前で時間操作魔術の完成に至るまで、ずっと王都の片隅のあばら家で暮らしていたんだ」

「意外ですね。伝承にある活躍からイメージすると、もっと英雄らしく華々しい生活をしていたのかと思いましたが」

「そのあばら家には大量の手記や日記が残されていてね、そこからアスカトラの人生のほとんどすべてが明らかになっている。それによると彼は随分人付き合いが嫌いだったようでね、気まぐれに人を助けてもその後は一切関わろうとしない。街ではよほど気が乗ったときでないと話しかけられても当然のように無視していたそうだよ」

 カソルは無感情にうなずいた。

「確かにそんな感じでした」

 唐突に向こうから様子を見に来たかと思えば、一瞬で興味を失ってだんまりを決め込むなんてことは頻繁にあった。そうなるといくら扱いに抗議しても罵声を浴びせてもうんともすんとも言わなくなる。

「そんな感じ……とは?」

 校長がまたしてもカソルの発言の意図をはかりかねて首を傾げる。ハルは何も言わず、カソルのこめかみに力いっぱいのデコピンを叩き込んだ。

「あだっ」

 カソルは頭を擦りながら失言に気づいて釈明を試みる。

「いえ、単にそんな感じのイメージを抱いていたというだけのことです。山にこもるくらいなんだから、そうだろうと」

「ああ、それもそうだね」

 校長は納得したように繰り返しうなずく。ハルはほっとしたように息をついた。

「ただ、街にいたときのすべてが記録に残っているわけでもなくてね。記録には空白の三年間があるんだ」

「空白の三年?」

「アスカトラの生家にも、物心ついて以降のアスカトラの記録や痕跡は残っている。しかしこの学院で過ごした三年間の記録だけは、どこを探しても見つからないのだ」

「その期間だけ記録を残さなかった……というのも不自然ですね」

「その通り。おそらくどこかにまだ誰にも見つかっていない、当時のアスカトラの拠点があるのだろう。学院の中か、あるいはその近くか……。実を言うと、私がこの学院の校長になった動機の半分くらいはそれでね」

 校長は照れくさそうに失笑して言う。

「そんなわけだから人並み以上には詳しいんだ。私にわかる範囲のことであれば、いつでもいくらでも話して聞かせてあげよう」

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