6★好きってなぁにアンケート
そっか、そうと決まれば……。
うーん、そうはいっても誰に聞けばいいのかなぁ? いかにもイチャラブなカップルに聞くのもいいかもしれないけど、女の子同士ってイチャイチャしてるから恋人ってわけでもないそうだし……。えーい、めんどくさいから、廊下を出て一番最初に見つけた友達を捕まえてみよう!
キャッキャウフフと楽しそうに歩いてくる生徒の中にスラッとした長身の女の子……。あれは多分、五組の墨森ちゃん。寮も一緒だし、クールな見た目に寄らず以外と優しいんだ!
よーぉっし!
「すーみもーりちゃーんっ! ちょっと顔貸してー」
「栗橋さん……何?」
「あのね、聞きたいことがあってね、とりあえず手っ取り早く墨森ちゃんに聞いてみようと思って……」
「とりあえずって何よ? ……てか、なんで私なの?」
「いいからいいからぁ……」
腑に落ちない表情をしつつも隅っこへと引っ張る私についてきてくれる墨森ちゃん、うん、やっぱり優しいなぁ。持つべきものは友達!
ここでいいかなと辺りを見渡してさっそく本題へ入る。
「ねーねー、好きな人っている?」
「ど、どこでそれを……!」
あれれ? なんでって……。聞いてみただけなんだけど……なんであわててるんだろう? いないのかなぁ?
「え? いないの?」
「ま、まぁ、いる……よ」
「あ、そうなんだっ! じゃあさ、初めて人を好きになったのっていつ?」
「……ついこの間。それまで好きって感情が分からなくて……。でも、あそっか、これが好きってことなんだってすぐに気づいたよ」
墨森ちゃんってばすごく顔赤いけど、初めて人を好きになったのがつい最近なのがそんなに恥ずかしかったのかなぁ……。大丈夫、私はまだだから! 上には上がいるから! ……下には下かなぁ? まぁいいや。
「その時はさ、どうして好きだって気づいたの?」
「……そばにいるだけでなんか安心できて……。それに、他の誰にも見せないような顔を私にだけ見せてくれて……その顔を私だけのものにしたいなって思って……。その時に、そうかこれが恋かって気付いた」
「ふんふん、それってオノマトペで表すとどんな感じ?」
「……キュンとか、ズキューン……かな……」
なるほどなるほど、どうやら好きっていうのは痛そうな音がするものなのね?
初めは挙動不審でゴニョゴニョしてたけど、次々と質問に答えてくれてるうちにどんどん聞いてみよう!
「じゃさじゃさ、味覚で例えると?」
「……ごめん、それよく分からない。けど……うーん、砂糖の味、かな」
「甘いのっ? おいしそー! それって大切にしたい? それとも大切にされたい?」
「それは……どっちも、かな。ゆき……彼女はクールなんだけど、色んなことを私に頼ってるから今でも大切にされてるし、私も彼女のことを大切にしたいかなって」
あれ? 今なんか言いかけなかった? あわてて言い直したような……。ものすごくあわててるし照れてるし、もしかして具体的な個人名だったとか……? まぁいいや。どうせ私の知らない人だろうしね。
「その好きな人にはどう思われたいとかある?」
「……彼女の中の一番で、かけがえの無い友達……で、今のところはいいかな」
「ふぅーん……。どんな時に好きだなって自覚するの?」
「……私に甘えてくる時、かな……」
あっ、目ぇ逸らしたー! 嘘ついたとか? ほんとの事言うのが嫌で嘘ついたとか? それとも甘えてくる事って目ぇ逸らしたくなるような恥ずかしいことなの? 私なんかいつも郷奈ちゃんに甘えてるけどなぁ……。
あぁ、私が基準じゃいけなかったんだった! 基準が分からないから友達にインタビューしてるのに、一緒の物差しで測っちゃダメだった!
うーん、じゃあもっと突き詰めて一般的なことを質問してみよう。
「好きな人といる時って、どんなことしたいって思うの?」
「……ど、どんなことって……。ずっと一緒にいてくれれば、私はそれで満足だから……」
うぅっ、ちょっと分からなくなってきた……。一緒にいるだけでいいなんて、郷奈ちゃんと私はルームメイトなんだからずっと一緒にいるんだけどなぁ……。それでも郷奈ちゃんはもっと一緒にいたいって思ってるのかなぁ? 一緒の部屋にいるだけなんて、寮生なら当たり前のことなのに?
墨森ちゃんも寮生だから、好きな人と一緒の部屋がよかったなーとかそういうこと?
まぁいいや。分かんないから次、次!
「その好きな人と、将来どうなりたいって思うの?」
「……家族、かな。それ以上は今のところ考えつかないや」
……家族? 郷奈ちゃんはママみたいとかお姉ちゃんみたいとか言ったら不機嫌そうにしてたけど……。墨森ちゃんはママでもお姉ちゃんでもない家族になりたいってこと? 何だろう……妹? 郷奈ちゃんにも妹って言ったら喜んでくれるのかなぁ……。
あわわっ、墨森ちゃんと私の話を混ぜちゃいけないんだった!
「墨森ちゃんはさ、好きと嫌いって二種類だと思う?」
「……うーん、私の場合、好きしかないからよく分からないけど……。喧嘩するほど仲がいいってのもありなんじゃない?」
「好きしかないのかぁ……。うーん……結局、好きってどういうこと?」
「……好きっていうのは、何だろ……言葉が見つからないけど、この人になら、私の全てを預けられるし、同じ時を歩きたいって思うこと……かな。……ごめんね、難しくて」
「ううん! 難しいけど分かった! ……ような分かんないような……。でもありがとー!」
正直言って三割くらいしか分かんなかった……! でもまぁ、この調子でいけばもう一人に聞いたらプラス三割、墨森ちゃんの教えと合わせたら六割分かったことになるんじゃない? うん、私ったら以外と頭いいじゃない!
御礼を言って深々とお辞儀をすると、墨森ちゃんはやっと笑顔になってくれた。難しい話で私も困惑したけど、墨森ちゃんもなにかに困っていたように見えたし、質問が終わって落ち着いたのかな。
「どういたしまして。誰かを好きになったなら、下手にあれこれ考えないほうがいいよ。……気持ちでいっぱいになると、何にも出来なくなるから」
「……そういうもんなの? そうなんだ……。うん、分かった! じゃあね、ありがとー!」
笑顔で手を振ると向こうも振り返してくれた。颯爽と去っていく背中はリンとしててかっこいい……。うーん、やっぱり墨森ちゃんは素敵だし優しくて好きだなー!
……うん? この場合の好きは、郷奈ちゃんのいう特別な好きとは違うのかなぁ……。今の聞いた話からしても、墨森ちゃんと一緒にいるだけでいいとか家族? 妹? になりたいとかって気持ちには当てはまってないし……違うんだろうなぁ……。
でも、いいなぁ。墨森ちゃんも好きな人がいるんだ……。痛くて甘くて大切って気持ちを体験してるんだ……。
次はえーっと……誰かいないかなぁ……。この先は六組……。あんまり話したことない子ばっかりだから、一組のほうまで行ってみるかな。
クルリと方向転換をすると、自慢の低い鼻に衝撃が……!
「い……ったぁ……!」
痛いような痛くないような……パフンと柔らかい物に顔面から突進した。低いといえど、顔面をぶつけたら誰だって鼻からぶつかるものなんだと思った瞬間かも……。
一体何が? と鼻を押さえながら目を開けると、眼前には大きな胸……。あぁなるほどね。ぶつかったのが幸い柔らかい物だと思ったら……。
そのままゆっくり見上げると見慣れた顔の長身フレンド、二組の里香子ちゃんが見下ろしていた。
友達探ししに行くところだったのに、友達のほうから来てくれるなんて! 飛んで火に入る鴨ネギ……だっけ? まぁいいや、これはもう里香子ちゃんに聞いてくれと言ってるようなもんでしょっ!
「ごめん、里香子ちゃん! ぶつかったのも運命! ここで会ったが運命! ……じゃなかったっけ? まぁいいや。ねーねー、好きな人っている?」
「何、突然……。ああ、いるけど?」
「そうなのっ? じゃあさ、初めて人を好きになったのっていつ?」
「ちょっと前。二学期の後半ぐらいかな」
「おー! 墨森ちゃんに続き、里香子ちゃんも初恋したてなのね! ……あ、ううん、何でもないよ? えっと、その時はどうして好きだって気づいたの?」
「そうだなぁ……何かきになるなあ……って思ったことが積み重なって、って感じ」
ふむふむ、さすが里香子ちゃん、ぶつかろうが突然の質問だろうが全く動じてない! というより、面倒見のいいお兄ちゃんみたいな里香子ちゃんは私の扱いが慣れてるとも言う……。
「じゃあさじゃあさ、オノマトペで表すとどんな感じ?」
「ビシッと、シャキッと」
……えっと……これまた痛そうな音がしてますけど……? 墨森ちゃんも痛そうなオノマトペ言ってたけど、里香子ちゃんのは本格的に痛そうだよぉ!
まさか……アレですか? 里香子ちゃんと委中の人はエスエ……いやいや、きっと違うよ! うん、きっと深い意味が込められてるんだよ、うん! 物理的な痛さじゃないんだよきっと、うん!
「じゃあ……味覚で例えるとどんな味なの?」
「うーん、スッキリ苦い……おいしく淹れたアイスコーヒーみたいな」
あれれ? 甘いんじゃないの? コーヒーって苦いのがおいしいって聞いたことあるけど……墨森ちゃんはお砂糖って言ってたよね? お砂糖入れたアイスコーヒー……みたいな?
里香子ちゃんは痛かったり苦かったり、ちょっとストイックな恋愛がお好きなのかもしれない……。バカっぽいだの鈍感だのって言われてる私には、それくらいストイックな回答のほうが勉強になるのかなぁ?
「好きな人のことって大切にしたい? それとも大切にされたい?」
「そりゃ大切にしたいよ。頼りたいし、頼られたいから」
「ふぅーん……。里香子ちゃんは相手の人にどう思われたいとかある?」
「対等に思ってほしい。じゃなきゃ、あたしがあの子を好きになった意味がないから……」
ずいぶん具体的な回答だけど、何か素敵なエピソードがあるのね……ふむふむ。
守ってもらいたい王子様タイプの里香子ちゃんらしくてかっこいいなぁ!
あ、ダメダメ! 関心してる場合じゃなくて、もっと確信に迫った質問しなきゃ!
「それって、どんな時に好きだなって自覚するの? どんなことしたいなって思うの?」
「普通に話してる時、かな。どんなことしたいかは色々あるけど、あいつを束縛することはしたくないかな。それ以外の、特に楽しいことなら何でも」
なんでも、かぁ……。話してるだけとか一緒にいるだけとか、みんな結構漠然と感じてることなのね……。
聞けば聞くほど難しい答えが返ってくるから、もっと掘り下げた質問にしてみよう!
「例えばさ、将来どうなりたいって思う? 例えばだよ、例えば」
「それは……まだ分からないなぁ……」
「分からないって……? そっか、そういうこともあるのね……。里香子ちゃんは好きと嫌いって二種類だと思う?」
「うーん、由佳里の受け売りなんだけど、好きの反対は無関心なんだとさ。本当に好きになれない相手のことは好きとか嫌いなんていう感情の対象にすらならない……これって当たってるって思うんだよね」
「へぇー……。好きの反対は無関心かぁ、なるほどね! んじゃ最後に、結局好きってどういうことなのか教えて? あと、アドバイスとかあったら……」
「プラスの方向の感情がその相手に対して止まらなくなること、なのかなぁ? あとアドバイス? そういうことを言えるほどあたしは立派じゃないぞ? あはははは」
じゃあねと挨拶代わりに頭をポンポンと叩いて去っていく……。美人なのに男前というかサバサバしたお姉ちゃん的存在の里香子ちゃん、ありがとう! と、温かい背中に向けて叫んでみる。
「さぁーってと!」
墨森ちゃん、里香子ちゃん、二人ともありがとう!
私、頭悪いから、言われたことまとめるのも考えるのも苦手だけど、みんなが誰かを好きなんだってことは分かった! それと、好きってどういうことか話してくれてる時の二人を見て、好きな人がいると女の子は強くなれるんだぁって思った! それにね……。
「誰かを好きになったら、私も私のこと好きになれるかもー! よぉーっし!」
廊下に響き渡る雄叫びに集まる視線なんて関係ない!
高々と上げた握りこぶしに込めた私の決意とやる気は誰にも止められないんだもんねっ!
「星花女子プロジェクト」より
墨森ちゃん (キャラ提供:黒鹿月木綿稀さん)
里香子ちゃん (キャラ提供:阪淳志さん)
友情出演ありがとうございました!