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18★全裸会議

「う、うぇーっ?」


「しーっ、声大きいわよ! 冗談よ、今はしないわ」


「……び、ビックリしたぁ……。ん? 今はって……」


「はい、背中はオッケーだから、前は自分で洗いなさいな。洗い終わったら言ってね、流してあげるから」


「う、うん……分かった……」


 遮断されたような……? 今は、って……今じゃなくても、そんなのくすぐったいよ。後ろから耳打ちされるだけでもムズムズするのに、首元にチューとか……首元にチューとか……。


 モヤモヤと考えつつ身体を洗っていると、お隣さんの席を立つ音がして振り向いた。そして三度白峰さんと目が合う。でもそれは私ではなくて郷奈ちゃんのほうだった。視線に気付いたのか、鏡越しに郷奈ちゃんが小さく手を振ると、白峰さんは何も言わずに脱衣所へと上がって行った。向けられていた視線が無くなったことに安堵して、フゥっとため息がこぼれる……。


「そんなに怯えなくても……白峰さんは睨んだり怒ったりしてなかったから安心しなさいな。言ったでしょう? 私が洗ってあげるから大丈夫よ、って」


「う、うん……。ありがと、郷奈ちゃん。私、今日は湯船浸からなくていいや。先に上がるね!」


「……分かったわ。その代り、先に部屋戻るならちゃんとタオルドライしてからね? ドライヤーは後でかけてあげるから、しっかり拭いておくのよ?」


「はぁーい……」


 気の抜けた返事に、やれやれと苦笑する郷奈ちゃん。いつもお世話になりっぱなしだけど、私は郷奈ちゃん無しで生きていけるんだろうか? いやいや、生きていかなきゃダメなんだけど……一から十まで言われないとできないままじゃダメだよなぁ……。ここの学校を卒業して寮を出れば、必然的に郷奈ちゃんとはバラバラになる。パパともママとも暮らせない私は、一人暮らしになるのが流れなんだろうから……もっと、もっとしっかりしなきゃなぁ……。


 言われた通りにタオルで頭をわしゃわしゃしながら、持ってきたお風呂セットの袋を覗く。あれ? パジャマ忘れた……? あぁ、違う違う、まだ夕食前だからパジャマは着ないんだった。いつもと違う手順に途惑ったけど、頭を切り替えながら部屋着を被る。


 脱衣所にいる子を見渡すと、みんなタオルでわしゃわしゃしたり、ブラシで梳かしたり、鏡に向いていじったり……髪に無頓着なのって私だけなのかなと疑問が過る。自分ではちゃんと結んでるつもりなのに、聖ちゃんにはボサボサだって言われちゃったし……。私もおめかし、してみようかな……。


「イブにあるクリスマスイベント、楽しみだよねー。二組の由佳里さんが合唱部で出るじゃない? 合唱コンクール以来聞いてないからすごい楽しみー!」


 合唱部という響きに反応して振り向くと、素っ裸の子たちがキャッキャウフフと嬉しそうに盛り上がっていた。同じ合唱部の由佳里ちゃん、背が高くてかっこいいのに母性溢れてるって感じで優しいし、高等部の子はもちろん、中等部の子たちにも人気あるんだよね……。人気者はいいなぁ、「楽しみ」なんて言ってくれる人がいて……。なんて郷奈ちゃんの前で言ったら、「真面目に部活出てないあなたが言えた台詞じゃないわね」って笑われそうだけど……。


 クリスマス……どうしよう……。聖ちゃんのお誕生日パーティーするって約束したのに、言い出しっぺの私がイベントに出るから、なんて……断る権利もないよね。かといって次の日に振り替えてもらうのなら、それこそ約束の意味がない。お誕生日とクリスマスをちゃんと別々にお祝いするから意味があるのに……。


「イベント終わった後、由佳里さん誘ってケーキ屋さん行きたいなー! でも寮の門限間に合わないといけないから誘えないんだよねー」


「それ以前に、由佳里さんだって予定あるでしょー? あれだけファンがいるんだもん、一人くらい恋人がいたっておかしくないじゃない?」


「えぇー、やっぱり由佳里さんもいるのかなー? いるなら、そりゃ恋人と過ごしたいよねー。寮生じゃないし、自宅に呼べば夜遅くたってさー……」


 あの子たち、すごい盛り上がってるけど……早く服着なくていいのかなぁ? 素っ裸なの忘れて盛り上がっちゃってるんだろうけど……。


 好きな人ねぇ……クリスマスって、やっぱりみんな好きな人と過ごしたいものなのか……。聖ちゃんは、聖ちゃんはどうなんだろう。私と過ごしたいって思ってるかなぁ。ううん、「好きな人」だもんね、私じゃないもんね……。勝手に約束したのは私だし、もしかして聖ちゃんは私とは過ごしたくないかなぁ……。


 でも、私は一緒に過ごしたい。聖ちゃんに笑ってほしい、喜んでほしい、「嬉しい」って言ってほしい……。一緒にいたい、それじゃあダメなのかなぁ。クリスマスは「好き」じゃなきゃ一緒にいちゃいけないの……?


 明日、聞いてみようかな……。私と一緒にいたい? って。クリスマス、一緒に過ごしたい? って。


「ねぇ、栗橋さん」


「ふぇ、え? 私? な、なに?」


 柄にもなく考え事をしていると不意打ちに弱いわけで、いつの間にかキャッキャウフフの全裸娘たちに囲まれていた。一応女同士とはいえ、寮生なら当たり前に見慣れるとはいえ、三人の全裸に囲まれるとさすがの私でも目のやり場に困るんだけど……。


 話しかけてきたのは他のクラスの一年生もいれば、よく見かける先輩もいる。同じ寮に住んでいれば名前も顔も、大凡のクラスも覚えられるけど、私が知らない子でも、なぜかみんな私の事を知っているというケースが多い。郷奈ちゃん曰く「あなたは良くも悪くも有名人だからね。目立つのよ」とのこと。……どの辺が? と不思議に思うけどやたらみんな私の情報に詳しいんだよね……。


「栗橋さんて由佳里さんと同じ合唱部でしょ? 恋人いるのか聴いてきてくれない?」


「……由佳里ちゃん? 分かんないけど……部活一緒だけど由佳里ちゃんは自宅通いだからあんま一緒に帰ったことないし、クラスも違うからなぁ……いつ聞こう……?」


「やだー、栗橋さんてば真に受けちゃダメですよ! この子の言ってる事、真に受けちゃダメですからね! 引き受けちゃダメですからね!」


「え? う、うん……」


「ちょっとちょっと、栗橋さん! 聞いてきてくれるでしょ? こっそり教えてくれるでしょ?」


「え……う、うん……」


「ダメですダメです! そんなことしたら由佳里さんに迷惑かかるじゃないですかー」


「う、うん……そうだね……」


「栗橋さーぁん!」


 囲まれた三人にあっちこっちから責められ、逃げ場もなければ目のやり場もない。私がおどおどしてる間にも、全裸娘たちの議論は続いていく。


「栗橋さんてほら、キャラ的においしいじゃない? 誰に何を聞いてもトゲがないっていうかさ、栗橋さんだから許されるっていうかさ」


「確かにそうですねー。栗橋さんだからしょうがないかってところがあるのは同意ですが、でもそれとこれとは話がちょっと別じゃないですか?」


「大丈夫大丈夫! 栗橋さんはある意味有名人だからさ、例え失礼があったとしても、栗橋さんをイジメたりしたらあっという間に悪評が広がるもん、いくら由佳里さんの取り巻きでも栗橋さんの失礼行為を成敗しようって人はいないでしょー」


「いえいえ、取り巻きもそうですが、何より由佳里さんに失礼があったらいけないじゃないですか! 第一、栗橋さん自体が……」


 口々に意見を出し合ってるように見えるけど、途中から私に失礼なこと言ってない? 由佳里ちゃん以前に、私に失礼はいいの? それ以前に私は引き受けるとも何とも……。


「えっとぉ、聞いてあげるのはいいけどさ、一つ教えてくんない? 由佳里ちゃんに恋人がいないとしたら、みんなでクリスマスパーティーするの?」


 やっと会話に割り込めたので三人に向けて質問をすると、今まで意見が分かれていたとは思えない程ピタリと黙った。そしてパチクリと目を合わせながらのシンキングタイムが始まる。


「……みんなで? うーん……できれば二人っきりがいいけど……恋人じゃないんだから独り占めもできないしねー。取り巻きもいるし、ほら、アイドルは近すぎても眩しいじゃない? 一人だと眩しすぎて耐えられないかもなー……みんなは?」


 さっきまで小鳥のようにあれやこれやと鳴いていた2人も顔を見合わせてウーンと首を傾げる。一緒に過ごしたい、でも二人きりは無理、みんなとも微妙……一体どうしたいんだろうか? 聞いてくれと言われて、恋人の有無を確認した後はどうするつもりなんだろう?


「でもさ、みんなでパーティーしたら楽しいよ? 小学校の時とかやんなかった? プレゼント交換とかさ、お楽しみ会みたいなので手品とかモノマネとか出し物するの! 由佳里ちゃんに恋人いたとしてもさ、その子も誘ってみんなでパーティーしたら? うん、それなら独り占めでもないし眩しくもないし寂しくもない、更に更に、由佳里ちゃんのお家でやれば寮生の子も……」


「……やっぱり栗橋さんは栗橋さんだわ……憧れとか恋とか無縁な人の発想力はおめでたくて羨ましいわー。そんなことができてたら、苦労も悩みもしないのよねー。あー、悩みのない人には分からないかー」


「……ふぇ?」


「先輩、言い過ぎですよ。栗橋さんにだって悩みくらいありますよね? 成績の事とか、高校生にもなって廊下は走らないように、って怒られちゃう事とか……」


 い、言い過ぎなのはみんなでしょーがー! いくら私がバカでも怒るんだからねっ?


「な、悩みくらいあるもん! 私にだってクリスマスどうしよーって悩みがあるもん!」


「へー? 例えば? ケーキをホールで食べたいけどお金足りない、とか?」


「ち、違うもん! 一緒に過ごしたい人がいるんだけど、でも……約束……守れないかもしれないから……どうしようって……」


「えっ? 嘘ですよね? 栗橋さんでもお約束の相手いるんですかっ! うっそ!」


「いるよ! 隣のクラスの……」


「またまたぁ、あたしたちにもいないんだから、見栄張ることないよ、一緒一緒!そんな冗談いいから由佳里さんの件、お願いしますよー、ねっ?」


 顔の前でパシッと両手を合わされても、今の流れではもはやお願いされてる気が全くしないけどね! 続いて両脇の二人も合掌、&ウインク。いや、おまけのウインクされても、人の話を聞かない人にはお願いされたくないなぁ……。あと、いつまで全裸なの?


「じゃ、じゃあさ、もう一つ教えてくれたら引き受けてあげるよ! クリスマスとかお誕生日とか、特別な日にもらったら一番嬉しいのって、次のうちどれ?」


「うんうん」


「一、心のこもったプレゼント。二、おいしいケーキ。三、チュー!」


「それは……」


 三人の前にニョキッと立てた三本の指を見て、三人とも見る見る赤くなっていく。……全裸なのに? そんなに赤くならなくても……。


「そ、そりゃぁ……ねぇ?」


「え、あ、ねぇ?」


「三……です、よねぇ?」


 それぞれの真っ赤になった顔色を窺いながら、さっきまでの勢いはどこへやらなごにょごにょ回答。そうなんだ、やっぱり郷奈ちゃんの言う通り、特別な日にはチューが必要なんだ!


「分かった、ありがと! 参考になったよ!」


「じゃ、じゃあ由佳里さんの件はお願いできる、のよね?」


「うんうん、いいよ! ちゃんと教えてもらったからね。約束は守らなきゃ」


「それは有り難いんですけど……栗橋さんに必要な質問だったんですか? 参考にって」


「え? うん、聖ちゃんに喜んでほしいからね! 特別な日には、特別なチュー、でしょ?」


「ひ、じり……?」


 あれ、やっぱりみんな聖ちゃんの事知らないのかな。だから不思議そうな顔してるのか、私にそんな相手がいるのが不思議なのか……うん、どっちも、な気がする……。


「栗橋さんのお相手って、ルームメイトの城谷さんじゃないんですか? もしもいるとしたら城谷さんだと思ったんですが……。さっきも洗ってもらっていたし……」


「あぁ、郷奈ちゃん? 違うよ違うよ、郷奈ちゃんと同じクラスの聖ちゃん、知らない? 弓道部の砂塚聖ちゃんだよ」


 一人は首を傾げ、残りの二人は顔を見合わせる。まぁ復学して間もないからしょうがないよね。みんなの分も私が知ってればいいんだもん。聖ちゃんにいっぱい笑ってもらえればいいんだもん。


「あわわっ、早く髪乾かさないと郷奈ちゃんに怒られちゃう! じゃ、由佳里ちゃんの件は明日ね!」


 三人の上がった口角を見届けて、私もニカッと笑ってみせた。いい事をした後は気持ちがいいなぁ! あとは怒られないうちにお部屋に戻らなきゃ、っと……。


 怒られないうちに……と急いで振り返った先、そこにはジッと目を見開いた郷奈ちゃんがいた……。




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