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14★プレゼント選び

 駅前のショッピングモールは、帰宅部の学生さんとお子様連れのマダムたちで賑わっていた。クリスマスが近いのもあって、みんなそれぞれプレゼント袋をぶらさげている。店内に流れるBGMが、目の前の光景を一層クリスマス色に染めていた。


 急いで来たはいいけど、ハンカチとかタオルを売ってるお店は何階なんだろう? エレベーターの隣にあるフロアガイドを上から順に眺めてみても、それらしき表記は見当たらない……。手当たり次第探すとして、プレゼント物を買うなら雑貨屋が一番手っ取り早いかなぁ?


 エレベーターという乗り物はとっても便利だと思う。一番上の階までだって、疲れることなく運んでくれるもんね。でも、待ってる時の長さはどうにも短縮できないものかな。エスカレーターにするか悩んでいるうちに来そうな気もするし、エスカレーターのほうが早いような気もするし。とりあえず「チン!」の音を待ってみた。


 開いた扉からは、ベビーカーやショッピングカートを押している人たちがぞろぞろと出て行く。赤い包み紙を嬉しそうに抱きしめている子供を見ていると、私からのプレゼントを受け取った聖ちゃんはどんな顔するのかなと想像力を働かせる。ビックリするかな? 飛び跳ねて喜ぶかな? それとも嬉し泣きしちゃうかな……? うーん、どれもピンとこない……。


 第一、私は聖ちゃんの好みなんて全く知らないんだよね。ピンポイントで好みの物をあげることはほぼ不可能だもん。いくら私の想像力が発達していても、ノーヒントは難しいなぁ……。ん? ヒント?


 私の手には、握りしめたままの鼻血付きタオル。聖ちゃんが持ってた物なんだから、これは重要なヒントでは?


 ちゃんと見てなかったけど、意外とラブリーな一品だった。淡いピンクをベースにした表面の端っこには、少しニッコリしたウサギさんが一匹、お耳には赤いリボンを付けている。レースのヒラヒラの刺繍も、よく見てみるとところどころに小さなチューリップが現れる。手が込んでいてかわいいなぁ……。


 ちょっと待って? これ、ほんとに聖ちゃんの? いくらなんでも子供っぽすぎない? うん、ガキっぽいって言われる私でさえ、こんな子供っぽいの持ってないよ? 意外な好みなんだと思い込もうとしても、なかなか脳みそが吸収してくれない。いや、でも、確かに聖ちゃんのポケットから出てきてたしなぁ……。


 あ、もしかして妹ちゃんのを間違えて持って来ちゃったとか! うんうん、それなら納得かも。……って、お兄ちゃんがいるってことは聞いたけど、妹ちゃんがいるとは聞いたことないなぁ。じゃあこれはほんとに聖ちゃんのってこと……?


「すいませーん! こういうタオルハンカチ、どの辺に売ってますかー?」


「あ、はい! えーっと……」


 見本があったほうが案内しやすいだろうと思って現物を店員さんに見せた。店員さんは笑顔で応えてくれるのかと思いきや、私が手にした現物を見て一瞬で笑顔が消えた。……なんで?


「こういうかわいいのはないんですか?」


「え……い、いえ! こ、こちらへどうぞー……」


「あ、はーい!」


 一瞬ひきつったように見えたのはなんだったんだろう? 変な店員さん。血まみれだったからかなぁ? 結構な出血大サービスだからビックリさせちゃったのかなぁ? んー……まぁいいや。


「こちらがハンカチのコーナーになりますねー。あとは左奥のほうに婦人物がありますが……子供向けはこちらだけになります」


「子供じゃないんだけど……あとはおばちゃんっぽいのしかないんですか? こう、なんてゆーか……女子高生に人気のやつとか」


「あー、そうですねぇ……この辺でしたら学生さんが持っててもかわいいと思いますが……」


 店員さんが指差した先には、この時期限定なのであろうクリスマスをモチーフにしたデザインの物が並んでいた。サンタさん、これはあんまかわいくない。トナカイさん、まぁまぁかわいいけどいまいち。靴下、これはセンスないな。ツリー、ちょっとちゃっちいかな。雪の結晶、これはクリスマスじゃないでしょ……。


 あれ? 待って待って? 今日はお誕生日のプレゼントを買いに来たんじゃなかった? お誕生日会をイブにやって、その次の日にクリスマス会やろうって約束だったんだから、先にお誕生日プレゼント選ばなきゃだよ。お誕生日プレゼントにクリスマスっぽい物あげちゃったら、わざわざ別の日に分けた意味がないじゃない! 聖ちゃんは一緒にお祝いされるのが嫌なんだから……。


 じゃあハンカチじゃない物? って言ってもこれ捨てるふりして新しいのプレゼントする目論見が台無しだしなぁ。でもこの陳列棚の中から選ぶとしても、消去法の上かなり妥協した物になっちゃう……。子供っぽくなくてクリスマスっぽくないデザインっていうと……。あ、これ……これかわいい!


 私が手にしたのは、白いキタキツネさんがワンポイントで刺繍してある、淡いピンクのハンカチ。白い水玉が散らばってて雪っぽく見えるところもかわいいっ!


 うん、これにしよう! このキツネさんより聖ちゃんのほうがキツネ目だけど、ちょっと似てるし! パッと見は子供っぽくても、聖ちゃんのレースひらひらウサギさんより……ましって言ったら怒られちゃうかな? まぁいいや。


「六百八十円でーす。千円からでよろしいですかー?」


「はーい。あ、あとラッピングお願いしまーす! できればクリスマスのじゃないやつで!」


「かしこまりましたー」


 いつも思うんだけど、なんでレジ打ちの店員さんて「千円から」って言うんだろう? 「から」って、千円より上っぽい気がするのが気になってしょうがない。「千円だけでよろしいですか?」のほうがしっくりくる……のは私だけ?


 疑問を浮かべながらもお釣りを受け取ると、隣の店員さんが手早くラッピングをしてくれていた。器用な人はどこでも活躍できるんだなぁと思う瞬間。私なんて器用どころか、文字さえ綺麗に書けないというのに。


 ん? 文字? そうだ、メッセージカードも入れよう!


「ちょちょちょ、すいません! メッセージカードも入れたいんで封しないで下さい! カード、カードどこにありますか?」


「あー、はい……。メッセージカードでしたらあちらのラックにございます」


「すぐ戻ります!」


 言われたほうに振り返ると、名刺サイズの小さなカードから大きな立体型の折りたたみカードまで、たくさんの種類が目に入った。これだけあるとさっき以上に悩んでしまいそうなので、ハンカチと同じような淡いピンクの小さなカードを手に取り、そそくさとレジへ戻った。


「これも!」


「……二百二十円になりまーす。こちら、このままでよろしいですか?」


「あ、はい!」


 カードって診察券くらい小さくてペラペラなのに、意外と高いんだな……。まぁでも両方で千円しなかったから、私にしては上出来なお買い物! あぁ、早く渡したいなぁ。どんな顔するか早く見たい。早く喜んでほしい。早くお祝いしたい……。今から渡しに行っちゃおうかなぁ……!


キャッ! ……痛いわね……急に逆走しないでよ! 危ないじゃない!」


「ご、ごめんなさいっ! あわわっ、何か落っことしちゃった!」


 たくさんの紙袋をぶらさげたおばちゃんに頭を下げると、ぶつかった拍子に落としてしまったんであろう小物が目に入った。急いで拾い上げるとなんともまぁかわいいキーホルダーだった。それは丸々と太った、小さなマンボウのキーホルダー……。


「これ、これ、すっごくかわいい! ……ですね! どこで売ってるんですか? どこで買ったんですか?」


「水族館……だけど? かわいいでしょ? これ、最後の一個だったのよ。だから大事にしてんの。さ、返して」


「あ……ごめんなさい! はい! それと、ぶつかっちゃったこともごめんなさいでした」


「……気を付けるのよ?」


 怒ってるはずのおばちゃんは、キーホルダーを受け取ってからニコッと笑顔を見せた。帰ってきたマンボウさんに安心したのか、拾ってあげたから許してくれたのか、あるいは自分の大事な物を褒められたことが嬉しかったのか……。考えているうちに、おばちゃんは紙袋を持ち直しながら去って行った。


 キーホルダーか……。ハンカチもだけど、キーホルダーならいつも一緒って感じで愛着沸くよね!


 じゃ、もう一っ走り行きますかっ!


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