13★プレゼントを買いに [リベンジ]
今日こそはプレゼント買いに行くんだ! バッグの中にお財布は……うん、ちゃんと入ってる。今朝何度も確認したから自信はあったけど一応中身も……うん、三千円あればなんとかいい物買えそうだぞ!
「あれ? 莉亜、今日も部活サボるつもりじゃないよね?」
「え、あ、えーっとぉ……あっ、先生にはパパが産気づいたので帰りますって言っといて! じゃーねー!」
「はぁっ? ちょっと莉亜ー!」
ごめん友よ、私は急がねばならんのだよ。そう、親友の為に! そう、「走れメロン」のごとく!
……メロン……だっけ? そんな高級フルーツみたいな名前だっけ? んじゃあ……バナナ? 「走れバナナ」……? うーん、いまいちピンとこないけど、フルーツじゃないんだっけ? でも「メ」で始まってたような……メ……メ……メカブ! ……違うなぁ……食べ物じゃないかもしれないよね。メ……メ……ロ……あ、メジロ! そーだそーだ、「走れメジロ」だぁ! あースッキリしたぁ……。でも、そんなかわいい名前だったかなぁ? まぁいいや!
「栗橋さんっ! また廊下を……走ってはいけませんと何度注意されたら分かるんですか!」
「先生、違いますよぉ? これは大股スキップって言ってぇ、一気に走るとすぐくたばっちゃう私が独自に開発した、疲れにくい移動手段なんですよ! 頭いいでしょー!」
「そんなにスピード出してたら走ってるのと同じでしょう! 上げ足を取らないの! 廊下はちゃんと歩きなさい!」
先生ってばなんで怒ってるんだろ? ちゃんと左側通行してるし、誰かいても避けれるのになぁ……。さてはライオンさんのような私の脚力を知らないな? サバンナのデカニャンコさんをナメてもらっちゃぁ困るよ? なんてったってネコさんの親戚で一番足速いんだからねー。……って、あれ? ライオンさんて一番速いっけ? テレビで見た時は鬣なかったような……メス、だったのかなぁ? まぁいいや!
「うぷ……っ!」
「キャっ!」
左側通行してたはいいけど、さすがに教室の扉の前を大回りすることまでは頭になかった……! 急に出てきた人影を避けきれず、顔面からぶつかってしまった。そして私はまたも思う、鼻が高くなくて良かったぁと……。
「あたたたた……ご、ごめんなさーい……! ちょっと急いでて……。だ、大丈夫でした?」
「私はバッグしかぶつかっていないから大丈夫だけど……栗橋さんこそ鼻、大丈夫なの……?」
「あ……う、うん、だいじょぶだいじょ……わー!」
いくら低くても顔面強打すれば、そりゃ鼻も痛いわけで……と思ってさすっていると、生暖かい何かが指を伝った。見ると見事に真っ赤な液体がベットリと付いていた。
「く、栗橋さん! 鼻血! 鼻血!」
「あばばばば! ぢっじゅぢっじゅ!」
右手で鼻をつまみ、左手でバッグをこじ開け……てるつもりなんだけど、やっぱり片手じゃ開かないー! それよりそれより、私ティッシュなんて持ってた? 持ってますように! 偶然入ってますようにー!
「こ、これ使って! ほらっ、垂れてきちゃう!」
「ぼ、ぼぶじばげだい……」
差し出されたのはティッシュではなく、もっとフカフカした物だった。それが何かなんて確認する暇もなく顔面に押し付けられた……。「申し訳ない」と言いたかったのに、伝わっただろうか?
「保健室行くっ? 保険委員呼ぶっ? あぁ、上向いちゃダメダメっ!」
「ぶ……ぶどぅぢぃ……」
知ってる! 上向いちゃいけないのは知ってるんだけど……そんなに顔面塞がれたら……息がっ、息が出来ないのぉー! 苦しいよぉー!
と、私がもがけばもがくほど「ジッとして!」と押し付けられる。じゃ、じゃあどうしたら……! し、死ぬー……。
「止まったかしら……。あ、大丈夫そうね。まだ痛む?」
「……だぁー! 苦しかったー!」
「あ……ご、ごめんなさい!」
やっと殺人行為に気付いてくれたのか、顔面に押し当てていたそれを外してから謝ってくれた。も、元々はぶつかった私が悪いけどさぁ……く、苦しかったーぁ!
それにしても、息が出来ないことに気付かないなんて、私よりそそっかしいんじゃない? って、言えた立場じゃないけどお仲間かなぁ?
そうじゃなくて、ちゃんとごめんなさいしてありがとう言わなきゃだった!
まだ少し痛みの残る鼻をこすりながらあわてて顔を起こすと、そこには意外な人物が、意外な表情でこちらを見ていた。名前はというと、砂塚聖、表情はというと、今までのイメージとは打って変わって泣き出しそうな感じだった……。
「聖ちゃん! ご、ごめん! そんなに痛かった? ど、どこ痛かった?」
「え……私は……大丈夫だけど……栗橋さんが……ち、血出ちゃったから……。ごめんなさい!」
「うぇ? なんで聖ちゃんが謝るの? ぶつかったのは私なんだし、鼻血出ちゃったことくらい心配しなくて大丈夫だよぉ……?」
どちらかというと私が心配なのは、今の衝撃で鼻が更に低くなってないかということだよ……。触った感じは大丈夫そうだけど、念の為少し軽くつまんでみる。うん、大丈夫。多分このくらいは自前だったと思う悲しい現実だから。
大丈夫アピールついでに、軽くブタ鼻にしてみる。ジッとこちらを見ているので、こちらもジッと見返してみる。だけどピクリとも動かないので、もうちょっとブタ鼻を押し上げてみる。
目が合ったまま動かないのが不思議で、ブタ鼻をキープしたまま目が点の私と、瞬きもせず目を丸くする聖ちゃん。なんだろう、この光景……と、ちょっと冷静になってみた。硬直している聖ちゃんの手には、真っ赤に染まったタオルハンカチ。それはもしや私を半殺しにした凶器ですか!
「うわわっ! 聖ちゃん、それ私の鼻血べっとり付いちゃってるぅ! 早く洗わないと落ちなくなっちゃうよ! 貸して貸して! 水洗いして、それからえーっと……漂白? して返すから!」
「あ……あぁ大丈夫よ、これくらい……もう捨てるわ」
「えぇっ! もったいないじゃん! なんかフカフカで気持ちいいし、まだまだ使えるよっ? 私の血、結構綺麗だよ、毎日お味噌汁飲んでるから健康だもん」
「そういう問題ではなくて……その……私、血がダメなのよ。足がすくんじゃって……。だからこれはもういいの。気にしないで? それより、タオル押し付けてごめんなさい。血が怖くてつい」 」
そう言われてみれば顔色が悪い。タオルを握りしめてる手もかすかに震えてるし……。
そっか! ならば……っ!
「じゃあさ、これ私が捨てておくね! ぶつかってほんとごめん! じゃーねー!」
「ちょっ……栗橋さんっ?」
続きを言いかけた聖ちゃんからタオルをブン取り、大きく手を振ってその場を後にした。あー、そうだった。走っちゃいけないから大股スキップで、今度は教室の扉の前は大回りして避けなきゃね。という私の学習能力、さっすがー! これ以上鼻低くなったら困るしね……。
「うへ……ゲホッ……うぅ……」
勢いつけて校門出たはいいけど、もうすでにバテバテ……。ほんとスタミナないなぁ私。陸上部の誘い、断らないほうがよかったなと今更後悔。いやぁでもどっちにしろ私は短距離派だから長距離は向いてないか。
でも早く学校から離れないと、聖ちゃんに会っちゃうかもしれない! お買い物してるとこ見つからないようにこっそり行かなきゃ!
かわいいタオルハンカチ、お誕生日にプレゼントするんだ!