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11★プレゼントを買いに

 駅前のショッピングモールまで私の足なら数分で行ける。雨の中を走るのは気持ちいいから好きだけど、落ちる雨粒が目に入って前が見えなくなるのがたまに傷かな。役立たずな傘なんて下駄箱に置いてきたし、バッグ片手に急げ急げ!


 ……って、自分のスタミナのなさを忘れて全力疾走してた……。頭より先に足が動いてしまうのは私の長所だと思うけどね。なんといってもアクティブ&ポジティブがモットーだから、善は急げってアクティブ全開……なのはいいけど、やっぱりペース配分はちゃんとしないとキツイなぁ……。


「う……ゲホゲホっ……うへぇっ……」


 徐行して息を整える。立ち止まるとびしょ濡れな制服がやたら重く感じた。コートもブレザーも脱ぎたい気持ちを抑えて、首元のリボンだけ少し緩める。


 学校を出てから時計を見てなかったことに気付き、バッグから携帯を取り出して確認した。聖ちゃんの部活が終わるのを待ってたから遅くなっちゃったなぁ……。がんばればお店の閉店時間と寮の門限には間に合いそうだけど……吟味してる時間はなさそうだなぁ……ちゃんと買う物を決めながら走ればよかった……。


 あれれ? ちょっと待って? お財布は? 私のお財布はどこ? 教科書とノートの間にもない、ペンケースの下にもない……。


 これじゃ買えないじゃーん!


 引き返して学校で探すにしても寮で探すにしてもどちらにしても買う時間がなくなってしまう……。どうしたらいいの? なんでこんな時に限ってお財布なくすのよバカ莉亜ー!


「莉亜?」


「うぇっ?」


 ショボンとうなだれていると前方から聞き慣れた女神様のような声がした。ハッとして顔を上げると、黄色い傘を差した郷奈ちゃんが歩いてきた。その姿はまさに女神様! コートがオーブに見える! 傘が天使の輪っかに見える! ……女神様に天使の輪っか? まぁいいや!


「傘も持たずに何してるのよ。ずぶ濡れじゃない」


「きょーなちゃーん! 私バカしちゃったのー……」


「……分かったから、はい」


 バカなのは分かってるって言いたいのは分かってるよ。でもちょっとくらい否定してくれてもいいのにぃ。


 差し出された黄色い傘に申し訳なく入ると、郷奈ちゃんは真っ直ぐに寮へと足を進めた。ほんとは「お財布なくしちゃったからお金貸して!」とお願いしたいとこだけど、心配そうに覗き込まれるとこれ以上心配はかけられないなぁとも思う……。


「こんな時間まで何してたの? 川原に行ったのかと思ってたけれど制服がなかったからまだ一度も寮へ帰ってきてないんだって心配したのよ? お風呂から戻っても帰って来てなかったし、部活なのかと思って合唱部の子に聞いたらサボりだって言うし……」


「さ、サボりじゃないよ? ちゃんと行かないって言ったもん!」


「クリスマスイベで歌うんでしょ? 明確な理由がないのに練習に出ないのはサボりって言うのよ?」


 耳が痛いお言葉で……。優しい声で言われるからまたグサッと深く突き刺さるよぅ。


「……あのね、聖ちゃんが部活終わるの待ってたの。仲良くなれたんだよ! それでね、お誕生日が近いって聞いたからプレゼントを買いに行こうと思ってね……だけど……」


「聖ちゃんって……砂塚さん? それで、だけど?」


 言えないっ! これ以上心配かけたくないし、それよりなによりお財布なくしただなんて言ったら怒られたあげくに「お金の管理よ」っておこずかい帳つけることを義務づけられちゃう……! うん、郷奈ちゃんなら絶対有り得る。レシートとかまとめてるの見たことあるもん。絶対義務づけられるー!


「……なくし……そう、傘なくしちゃって探してたんだよ! 結局見つからなくて遅くなっちゃって……あはは……はは」


「傘? 下駄箱になかった? 私が帰る時にはいつもの傘立てにあるのを見かけたけれど……本当に?」


「う……あ、いや、そう! あったの! いつものとこにあったのに見落としちゃってたみたいでさ! ほんとそそっかしいよね私……あはははは……」


「……そう。あったならよかったけど……お財布はあったの?」


 ギックーンッ!


「きょ、郷奈ちゃん、なぜそれを……」


「バカね、部屋の机の上に置きっぱなしだったわよ? それと古文の教科書と宿題も。……莉亜、あなた宿題提出しなかったのね?」


「えっとぉ……はい、ごめんなさい!」


 この展開だといつもなら呆れたため息が聞こえてくるので恐る恐る隣を見ると、片手にハーっと息を吹きかけていた。よく見ると髪がほんのり濡れている。そうだ、この時間はお風呂上りだから寒いんだ! 郷奈ちゃんが湯冷めしちゃう……。


「莉亜、寮に着いたら制服のままお風呂行きなさいね。パジャマと下着は私が持って行ってあげるから、脱いだ物はビニールにでもまとめておいて? 制服はなんとか暖房で乾かしておくわ」


「ありがとー郷奈ちゃぁん! でも郷奈ちゃんも湯冷めしちゃうから一緒にお風呂行こうよ」


「大丈夫よ。なんとかは風邪ひかないもの」


 風邪ひかないのはバカだよね? それを言うなら私のほうだよね?


「あのさ郷奈ちゃん、郷奈ちゃんは誕生日にもらうとしたら何が欲しい? あんまり高くない物で嬉しい物」


「まだそんなこと言ってるの? お財布の中身確認してから言いなさいな。高価でも安価でも身の丈にあった物……ううん、お金じゃ買えない物でもいいんじゃない?」


「難しいなぁ。お金じゃ買えない物って具体的にどんな?」


「莉亜が私にくれたら嬉しい物……? キス、かな?」


 キ……したよね? 不意打ちでもらわれてったよ? 誕生日でもクリスマスでもないのにもってかれたよ?


「……嬉しいの? そんなのしようと思えばいつだってできるのに……? それって特別なプレゼントでもなんでもないじゃん」


「あら、特別よ? 自分からするのと好きな人からしてもらうのとでは価値が全く違うもの。それが特別な日なら特別なプレゼントだと思うわよ?」


「……そうなの……?」


「だからって砂塚さんへのプレゼントの参考にはならないわね。あくまで私の意見だからあとは自分で考えなさい? 莉亜の得意なお味噌汁でも振る舞ってあげるなんてどう?」


「お味噌汁……中学の時の友達に誕生日パーティー呼ばれて作ってったら不評だったんだよねぇ。そんなのあんたしか喜ばないよって言われたし、せめてコーンスープとか持ってきてよって注文されたことある」


 おいしかったのになぁ。帰ってから一人で全部飲んだけどさ。みんな贅沢だよ贅沢! 


 苦い思い出話で口を尖らせていると、寮の灯りが濡れた地面に反射してキラキラしていた。もうすぐクリスマス、こんな風にイルミネーションでウキウキする日がやってくるんだ!



  


 




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