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10★聖の見解


今回は砂塚聖から見た栗橋莉亜との下校途中の話です。

「あっ、聖ちゃんおかえりー! 着替え早かったねぇ? もしかして私が待ってたの知ってたの?」


 道場の扉を開けると、またも寄っかかっていたのであろう栗橋さんがはずみで転がってきた。仰向けに倒れたのに頭はぶつけていないのだろうか……目が合うなり寝転がったまま話しかけてきた。


「……待ってるねーって大きな声で叫んでたのはあなたじゃない……。それと、いきなり下の名前で呼ぶのはやめてもらっていいかしら? 私は栗橋さんと呼んでいるのに」


 ずっとこんな寒い中待っていたというの? やっぱり頭を打っていたのかしら……普通なら約束もしてないのだからこんな寒い中待たずに帰るわよね。


 ……頭を打ったかもしれないのは私が来てからだったわ。それじゃあ素で待っていたのかしら……本当に変った人……。


 私が「通れないんだけど?」という顔で見下ろすと、やっと気付いたらしく飛び起きてスカートの裾をパサパサと叩いた。


「えー? いいじゃんいいじゃん、私は友達はみんな名前で呼んでるよ? 名字でなんてよそよそしくない? 私のこともみんな莉亜って呼ぶしさ、聖ちゃんも莉亜でいいよー?」


「結構よ。私は誰に対しても名字だし、自分の名前は好きじゃないからお互いに名字呼びでいいわ」


 前にもこんなやり取りをしたのに、覚えてないのかしら。友達なら下の名前で呼ばなければいけないとかよそよそしく感じるとか、今までに一回も考えたことないわ。


 言おうとしたところで無駄かしらと思い直して足を進める。あわてた様子でバッグを拾い上げた栗橋さんも足を進める。隣に来てはニコニコとこちらを見上げ、廊下を歩きながら話を続けた。


「どして? 聖ってかわいい名前じゃん! 聖母マリア様みたいでさ。私なんかマリア様っぽい名前だけど、マがなくて莉亜だから間抜けだよ? 小学校の頃男子に言われるまで気付かなかったけどさぁ……でも聖ちゃんはかわいくて素敵じゃない!」


 ちょっとおもしろいエピソードについ笑いが込み上げてきた。確かにさっき転がってた時の栗橋さんは間抜けな顔してたわね……。


 でもお似合いでいいじゃない。かわいくておバカそうな栗橋さんにぴったりで。私の名前なんか……。


「嫌いなのよ。イブに生まれたからって安易に付けられたみたいで……」


「えぇ! クリスマス生まれなの? いいなーぁ、ロマンチックだね! ケーキもプレゼントもいっぱいでいいなーぁ」


「ケーキもプレゼントも一つずつよ。クリスマス生まれの人なら大抵味わう不満だわ。子供の頃は誕生日とクリスマスを別々にもらっている兄が羨ましかった」


「ふぅーん、一緒なんだぁ。じゃあさじゃあさ、今年は別々にお祝いしよっ!」


「えっ?」


 突拍子もない提案にびっくりして思わず足が止まる。その先を塞ぐかのように私の前に立ち、そして両手を取って上下に揺さぶってきた。


「イブはお誕生日パーティーして、その次の日はクリスマスパーティーするの! もう来週かぁ、もうすぐだね! 楽しみだねー! 何着ようかなっ、何歌おうかなっ!」


「ちょっと……勝手に決めないでくれる? いくらなんでも二日続けてアップルパイはいらないわよ。毎年母が焼いてくれるし家族だって祝ってくれるだろうから両日は……」


「え? クリスマスにアップルパイ食べるの? そういえば購買でも買ってたよね! うん、いいよ! じゃあクリスマスはアップルパイで、誕生日はショートケーキにしよう!」


「え……あ、いやそうじゃなくて……私が好きだから母が焼いてくれてるだけであって、ショートケーキならいいとかそういう問題じゃ……」


「じゃあ逆ね! アップルパイは誕生日で、クリスマスはショートケーキ! 誕生日にショートケーキのほうがろうそく立てられるからいいかなぁと思ったけど、やっぱ誕生日は好きなの食べたいもんね!」


「だから、そうじゃなくて家でもパーティーしてくれるから両日栗橋さんと過ごすわけにはいかないじゃない」


「おっいしっいケーぇキでおっ祝いしっよぉー!」


 ……聞いてない……。そして変な歌作って歌いながらスキップしてるし……。まるで子供みたいにはしゃいじゃって変な人ね。十年前から何も成長してないみたい……。


 でも不思議と憎めない。かみ合わない会話にため息こそ出るものの、苦笑いさえ込み上げてくる。


「そうだ! サプライズでプレゼント用意するよ! 何がいい? 何か欲しい物ある?」


「……それはサプライズとは言わないけど……」


「あわわっ! 忘れて忘れて! じゃ、さっそく買いに行ってくるから今日はここでバイバイね! 一緒に帰れなくてごめんね! じゃ、また明日ねー!」


「え……ちょっと……」


 だから、買に行ってくるなんて宣言するのはサプライズでもなんでもないじゃない……。それに一緒に帰ろうって言ったのは栗橋さんなのに……この寒い中ずっと待っててくれたのに……ほんと、変な人なんだから……。


 スキップ混じりのダッシュでよくぞまぁあそこまでスピード出るわと関心するけれど、廊下を走るのは関心しないわね。明日お説教しなくちゃ……。


 栗橋さんか……あんなに受け入れられなかったのに不思議な感じ。調子狂わされるし変な人だけど、人懐っこいイヌみたいでかわいいところもあるのね。……そういえばタヌキもイヌ科だったわ。パッチリしてて少し垂れ目なところがタヌキを思い出すのよね。


 雨は嫌い。だけど今日は穏やかな気持ちでゆっくり帰れそう……。 


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