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第六十二話「アレクとエリシア 後編」

今日の更新の三話目です。

 

 アレクと別れてから屋敷へ戻ると、ずっとベッドに腰掛け、俯いていた。

 前は、アレクと会った日はその大切な時間を思い出すように、幸せな気分でルルと話していた。


 でも。


 今はただ、悲しかった。

 アレクはあまりそんな素振りを見せなかったけれど、想い合っていると思っていた。

 でも、私の勘違いだったのだろうか。


 この結末を覆すのは、不可能に近いと思う。

 普通の人なら、躊躇して当然なのも分かってる。


 けれど――。


 私に祝福の言葉を投げれるほど、アレクは私のことを気にしていなかったのだろうか。


 セシリオ王子のことなんか、頭に入ってこない。

 これからのことなんて、何一つ考えていない。


 ただアレク以外に心を、体を開くのは不快感で、想像するとぞっとして身震いする。

 嫌なことを忘れるように、アレクのことだけを考えていた。

 

「ねぇルル、私はどうすればいいの」


 身も蓋もないことだが、ルルに聞いてしまう。

 

「私はエリシア様の幸せだけを考えています。エリシア様が決めたことに、全力で助けになります」


 そう言ってくれるのは嬉しいが。

 私は、何も決めれそうにない。


 私を気遣ってくれていた兄ですら私の気持ちに気付くことなく、当たり前のように祝福してくれた。

 このことに関して、何もいえそうにない。


 もちろん、父にもだ。

 一番喜んでいたのは、父だから。


 今思っていることを言えば、何と言われるか。

 でも、もしかすれば。

 父は子供の中でも私を一番大事にしてくれているように見えた。

 父なら、分かってくれるかもしれない。


 そんな逃げの思考から、父の自室へ向かった。


 扉をノックすると、声が聞こえた。

 まだ寝室には行かず、部屋にいるようだ。


 起こさずに済んだことに少しほっとすると、部屋に入った。

 父は私を見ると、いつもより一層、嬉しそうにした。


「エリシアか、お前は本当に自慢の娘だ」


 いつもと違い、こんな時間に部屋を訪れたことを聞くことすらせず、ただ私を褒めた。

 こんな事言うと、どう豹変するだろうか。


「お父様、聞いて欲しいことがあるの」

「最近はおかしな話し方の癖も無くなったな、これでお前は完璧だろう」


 私の話を本当に聞いているのか。

 そう思ってしまうほどだった。

 私を、人形のように思っているのではないか。

 懇願するように、言った。


「セシリオ王子とのこと、無かったことにできないかしら」


 不可能な申し出なのは自分でも理解している。

 もしそんなことが実現されれば、どれ程相手の顔に泥を塗るのか。

 公爵家とはいえ、許されることではない。


 父は私の言葉を聞いていたようで、驚愕の表情を浮かべた。

 そして、父は意外にも怖がっているように見えた。


「何故だ? そんなこと出来るわけないだろう」

「そうよね……」

「何か不安なことでもあるのか? お前なら大丈夫だと思っていたが、向こうに行ってから粗相をしては……何かあるなら今の内に言いなさい」


 もしかしたら、怖がる父の態度は、私を気遣ってくれたのかもしれないと思ったけれど。

 そういう訳ではないのが分かった、先方に迷惑を掛けた時のことを想像していたようだ。

 私は、言った。


「他にどうしても好きな人がいるの」


 父は驚き、険しい表情を作ると、次は怒るように言った。


「誰だ」

「お父様の知らない人よ」

「……頻繁に外に出るようになったのはそういう理由か。ルルが問題ないと言っていたから安心していたが、あの小人族を信用するのは間違っていたな……相手の身分は何だ」


 ルルにまで飛び火してしまい、申し訳なく、悲しくなる。


「普通の人よ」


 私が淡々と言うと、父は更に怒る。


「許されるわけないだろう。エリシア、お前もしかして、そんな平民に体を許したわけはなかろうな」


 怒るように確認する父に、私も初めて父に腹を立てる。

 アレクを侮辱するような言葉に。

 アレクはそこら辺の男性とは、違う。

 

「もういい……」


 私が背を向けると、静かな屋敷のこの部屋に、父の怒鳴り声が響く。


「おい、待て! 話はまだ終わって――」


 父が言い終わる前に部屋を出ると、部屋の前で待っていたルルに縋るように、自室へ帰った。

 父が私を追いかけてくることはなかった。

 使用人達が父の怒鳴り声に反応にして軽い騒ぎにはなってしまったが。



 更に夜が更け、静かだった屋敷が更に無音になる。

 そんな空間の中、眠れるわけもなくベッドに腰を掛けていた。

 窓は閉め切っていて風の音も聞こえない。

 少し、気分転換に風にでも当ろうか。


 私を心配するように同じ部屋で佇んでいたルルに目をやると、すぐに気付いてくれた。

 わざわざルルに頼むことでもないし、普段だったらそんな事までしなくていいのにと言ってしまうけど。


 ルルが部屋の大きな窓をあけると、バルコニーの隙間から乾いた風が吹く。

 少し冷たいくらいの夜風が、今は心地いいとすら感じる。


 しかしルルは何かを見て固まったのか、動かなかった。


「ルル? どうしたの?」

「エリシア様……」


 少し困ったような声を上げ、私を見るルルに、私も立ち上がり近付いていく。

 すると、宙に舞う人影を見たような気がすると、それはすぐに姿を現した。

 下から飛んだのかバルコニーへ着地すると、私と目を合わせて驚いた様子を見せた。


「ルルにもこんな部屋が与えられてるのかって驚いたけど、エリシアの部屋だったんだね」


 そう言って普段通り笑うのは、アレクだった。

 嬉しいはずなのに、混乱してしまう。

 

「アレク? 何でここに……」

「何度か屋敷まで送ったじゃないか、半ば無理やりだったけど」

「でも、ここは凄く高いのに……」


 私の部屋は、二階だ。

 地上からの高さもそれなりにある。

 落ちれば足を折る程度では済まないはずなのに。

 そんな今はどうでもいいかもしれない私の疑問に、アレクは気にした様子もなく答える。


「あぁ、さすがにこれだけ旅してたら闘気くらい使えるよ、剣士の人と比べると、僕の闘気なんて大したことないけどね」


 あんな事があったその日の晩なのに、こんな状況で、アレクは普段通り話した。

 一体、何がなんだか。

 でも、顔を見れて嬉しいという気持ちに溢れているのが分かる。

 やっぱり、私はこの人のことが大好きなんだと。


 私が少し安心した表情を見せると、アレクは私に優しく微笑む。

 その心地良さを感じる間もなく、アレクは真剣な面持ちになった。

 そして、言った。


「エリシア、どうしても聞いて欲しい事がある」


 もしかしてあの時、祝福したことを取り消してくれるのだろうか。

 そう思ったが、アレクが言った言葉は私を凍りつかせた。


「僕は病気でもうすぐ、死ぬ。後一年も生きられない」

「え……」


 アレクは冗談を言う人間ではない。

 そして何より、誰かを、私を傷つけるような事を言う人ではない。

 これは、何か夢のような出来事なのか。

 アレクのことを想いすぎて、幻覚でも見えてしまっているのじゃないか。

 そんな現実逃避をしてしまうけど。

 固まった視界に、ルルも驚愕の表情を作っているのが見え、現実だと実感し、体が震えだす。

 何も言えなかった。


「エリシア、僕は今から、無責任で、男として最低なことを君に言う」

 

 とても想像するのが怖い言葉に、息を呑んでしまう。

 アレクは、言った。


「君が好きだ。その柔らかい髪も、綺麗な瞳も、心地良く耳に通っていく話し方も、全部が好きだ。君と居たこの一年間は今までの人生の中で何よりも楽しくて、幸せなものだった。君を誰にも渡したくないし、誰よりも愛してると自信を持って言える」


 アレクの言葉は、私を温かく包み込んだ。

 私もそうなんだよと、すぐに口から出そうになるが、私を静止するようにアレクが続けた。


「もう、エリシアと出会えたことで、僕の、例え人と比べたら短い人生でも、これで良かったと思ってた。だから、いいと思ったんだ。エリシアが幸せに暮らしていけるなら、本当に君を好きならエリシアの今後を考えるべきだって」


「アレク、私はそうじゃないの。私は……」


「分かってる。気付くのが遅くて、ごめんね。エリシア、もし、僕の幸せが君の幸せにも代わるなら――」


 何を言いたいのか、分かってしまった。

 きっとアレクは、言ってはいけないことだと思っている。

 そんな事ない。

 私はアレクの次の言葉と共に、歩み寄った。


「残りの時間も、君と。最後の瞬間に、エリシアと居たい」


 私は返事をせずに、少し背伸びをし、アレクの唇を奪った。

 優しく私を抱く腕が心地よく、体が柔らかくなり、なくなってしまうと思う程、溶けていくようだった。

 熱すぎる抱擁が続き、冷たい夜風などでは、この体は冷めそうにはない。


「連れていって、アレクと一緒ならどこでもいい」

「うん、僕もだよ。行こうか」


 やっぱりご両親に挨拶もしないで大事な娘を攫うみたいで、心苦しいけどと、アレクの普段通りの様子に少し笑ってしまう。

 そんなことない、私はここに居たら、ただの人形だ。

 きっと、王子の元へ行っても。

 

 娘で、ただの女の子でいられるのは、この胸の中なんだから。


 私達を微笑ましく見守っていたルルだが、真剣な声色を作り、言った。


「準備をしている暇もありません。ここから出るのなら、すぐにエルトン港からカルバジア大陸に移るほうがいいでしょう。幸いにもここから港までは半日も掛かりません。ですが朝になればすぐに皆、異常に気付きます。捜索の手が広がる前に船に乗った方がいいでしょう。問題は、お金ですが……」


 この部屋にある小物を適当に持ち出して売れば、それなりの金額にはなるだろう。

 でも、さすがにすぐにお金に変えることはできないと思う。

 私は詳しい金額までは知らないが、エルトン港の船代が高いのは知っている。

 しかし、私達を安心させるようにアレクが言った。


「実は僕は結構お金持ってるんだ。船代くらいは何とかなると思うよ」


 アレクは強がりを言ったりする人じゃない。

 アレクの能力なら、旅の間にお金を稼ぐ機会はいくらでもあっただろう。

 私は安心するが、やはりお金になる物は持ち出すことになり、ルルが手際よく小物を鞄にいれた。。


 私は目立つ服しか持ってないので着替えも持たず、結局手ぶらですぐにバルコニーへ戻った。

 アレクが微笑みながら私を抱きかかえる。

 お姫様だっこされる格好になり、あれだけくっついていたのに心臓が激しく動く。


 ルルは一人でも降りれるようだった。


 私はそこで初めて気付き、申し訳なくルルに声を掛けた。


「ルル、その、ごめんなさい……」

「謝る必要などありません。私の気持ちは言ったでしょう。それにこうなると思って、いえ、信じてましたから」


 微笑むルルは、確かに初めから準備をしていたように、支度が早かった。

 きっと最初から付き合ってくれるつもりだったのだろうけど。

 そもそも、私がいなくなれば責められるのはルルだ。

 私がこれを選んだ以上、ルルにはこの道しかないのが申し訳なかったけれど。

 ルルは本当に、私の幸せを考えてくれている。

 今は、感謝だけしよう。

 でもいつか、この恩は返さなくては。

 多分、ルルはそんなこと思ってないのだろうけど。


「行くよ」


 その声と共に、アレクは私を抱きながら屋敷を出ると、早くエルトン港に着くよう、急ぎで歩いた。

 体力のない私はほとんどアレクに抱えられていたけど。


 でも、不思議と逃げたような感覚はなかった。

 ただ、大好きな人と外に出たような、そんな感覚だった。


 


 ------アレク------


 エリシアに気持ちを伝えてバルニエ王国を旅立ってから、半年以上経過していた。


 一番心配していた、船と入れ違いになってエルトン港に滞在するようなことはなかった。

 つまり、捜索する者に見つかることはなかった。

 早朝の船に乗り、そのまま旅立つことができた。

 それからも、エリシアを探している者がいるという噂も聞かない。

 病が進行し、僕の足のせいで旅の歩みが遅くなり不安だったのだが。

 多分、隠れながら落ち着けるところを探す旅になると思っていた。

 向こうで何があったのか、それはもう分からない。


 思えば、コンラット大陸にいたのは二年ぐらいだ。

 本来病に掛らなかったら、今頃ドラゴ大陸をうろうろしていたのだろうな。


 エリシアと出会うこともなかったのかと思うと、これで良かったなと思える。

 きっと、死ぬことが分かっていなければこの日、この時はこなかった。

 全てのことに、感謝だろう。


 

 そして今、カルバジア大陸のとある小さな村。


 そこの一室で部屋を借りていた。

 室内でも草木の匂いが漂う部屋のベッドで、僕は横たわっていた。


 心臓の鼓動が早く、痛みも増している。

 次第に悪化する痛みには慣れることはできず、動くのは難しかった。

 

 数日前から旅を進めることはできず、レイラに教えてもらった村で休息を取っていた。

 いや、休息ではないな。

 わざわざ村の人に家を空けてもらって僕達だけにしてもらった理由を考えると、休息とは違う。

 死の瞬間を、穏やかに迎えたいだけだった。

 そしてもう、死が間近なのを精霊に言われるまでもなく自分で理解していた。


 苦しい体の中、手を握ってくれる存在がある。

 僕の大好きで、愛する人が、見守ってくれている。


「僕は幸せ者だね。こんな美人に最後まで看取ってもらえて」


 精一杯、普段通りの声を出す。

 見上げると近い距離にエリシアの綺麗な顔が映る。

 涙ぐんでいるが、軽い感じで話す僕にエリシアは微笑みかける。


「美人なんて言うのはアレクくらいよ」

「ずっと顔を隠してたんだから当然だよ。これから頻繁に言われると思うよ」

「別にアレク以外に言われても嬉しくないもの」


 そう言ってくれるエリシアが可愛らしく、愛らしく、頬が綻ぶ。

 でも僕との時間は今までの、これからのエリシアにとって少ない時間だ。

 これは、言っておかなければいけない。


「エリシア、もし君が本当に好きになれる人が現れたら、僕のことは気にしなくていい」


 僕が言うとエリシアは怒ったような、悲しい顔を見せた。

 自分で言っておいて気持ちは分かるが、死ぬ前に必要なことだ。


「そんな事言わないで、私はアレク以外を好きになることはないわ」


 そう言っているが――。

 

 いや。


 エリシアの気持ちは、精霊達と同じと言っていたな。

 精霊は嘘を吐かない。

 きっと、こんな僕のことを一生想ってくれるのだろう。

 短い時間しか、エリシアと居れなかったというのに。

 その時間を埋めてあげれるくらい、密度濃い時間を過ごせていただろうか。

 

 もう、何を言っても仕方ないか。


「エリシア、お婆ちゃんになったらおいで。待ってるから」

「私だけ歳をとっても、嫌にならない?」

「なるわけないでしょ。十歳も百歳も変わらないよ」

「変わるじゃない……」

「エリシアは、エリシアだからね」


 あの日、腹を立てて文句を言ってしまった精霊の言葉だが。

 今なら、気持ちが分かるな。

 

 そして、皆は闇雲にとにかく離れようと東に向かっていると思っていたかもしれないが。

 本当は、一緒に行きたいところがあったのだ。

 もう僕が帰れないのは分かっている。


「エリシア、ここからずっと東に行くと、僕の故郷があるんだ。カロラスっていう町でね。そこの診療所に、コーディさんとアーダさんって人がいる。僕の名前を出せば、よくしてくれると思う」


 エリシアは魔力が人より多く、光魔術が一番得意だ。

 そこでなら生活に困ることもないだろう。

 前なら、僕がいなければそもそもこんな事になってないとか思っていたのかもしれない。

 エリシアなら優雅に、煌びやかに暮らすことができたはずだ。

 でも、今はそんな思いはない。

 全てのことが、僕の宝物だから。


「うん、うん……分かったわ。私もアレクの故郷で、ゆっくり暮らしたい」

「良かったよ。ルル、頼むね」


 ルルに言う必要もないかと、心の中で笑ってしまう。

 当たり前のように、ルルは言った。


「当然です。安心してください」


 分かっていたのに、ルルの言葉で安心感に包まれると、最後にエリシアの顔を見た。

 エリシアも理解してるのか、とびきり綺麗な顔を見せ、微笑んでくれた。


 辛いだろうに、本当にいい子だ。

 こんな事言えばまた、同い年だって怒られるだろうか。

 前にあった光景を思い出して、表情が柔らかくなるのを感じると、目蓋を閉じた。


 短いが、いい人生だった。

 皆に、君に。


「ありがとう……」


 言い終わると、意識は暗く、消えていった。




 自分の肉体がないと実感するのは、すぐだった。

 僕の体に縋り我慢の線が切れたように、泣いているエリシアが見えた。

 そんなエリシアを抱くように、ルルが背を擦っている。

 

 その光景を見てしまい、いたたまれない気持ちになると、声が響いた。


『アレク、行こう』


 形のない僕を包むように、見慣れた無数の光とそれより大きい二つの燐光が舞う。

 言ってたことは本当だったんだな。


「エリシアを待つ間も、皆がいれば寂しくなさそうだね」

『人間の寿命なんて一瞬だ。すぐにアレクの望み通りになる』


 さすがに精霊の感覚はまだ分からないけど。

 エリシアにはゆっくり、生を謳歌して欲しいな。


 でも、そろそろ行くか。


 ここじゃない何処かに、行かないといけないのは分かる。

 最後に見守るようにエリシアを見ると、エリシアとルルの左胸に何か光るものが見える。

 何となく理解したが、不思議なこともあった。


「ねぇ、あれが魂ってやつ?」

『そうだよ』


 当たり前のように言うレイラに、再び聞き返す。


「ならエリシアのお腹にある光は?」

『アレクの子だろう』


 その言葉に、驚く表情筋もありはしないが、驚いてしまう。

 そして何より、嬉しかった。

 エリシアに残してあげれるものも、しっかりとあった。

 でも、もしかして。


「双子?」

『そうだな』

「それは……賑やかになりそうでいいね」


 エリシアとルルと、双子で四人家族だ。

 エリシアの寂しい気持ちも、吹っ飛んでしまうほど賑やかになればいいと思う。


「片一方だけ、何か色が違うね」

『人間の言う霊人だよ。珍しいね』

「おぉ……凄いけど、心配だね……」


 予見の霊人しか知らないが、彼女は霊人であることで辛そうだった。

 自分の子も、何か大変なことに巻き込まれて傷付いたり憔悴しないといいが。


 こんな頼み、二人は聞いてくれるだろうか。


「ねぇ、二人共、あの子達を見守って、助けてあげてくれないかな」

『アレクと一緒に居たみたいに?』

「うん……」

『絶対いや』


 断言するレイラに、やっぱりかと思うが……。


『我もそれは納得できないな』


 もちろん、そうだろう。

 でも、これはお願いだ。


「本当に僕のことが好きなら、聞いてくれないかな。精霊の感覚なら、人間なんてすぐ死ぬんでしょ?」

『でも、アレクと離れたくないよ』

「もちろん僕もだよ、でもさ、精霊の、皆の感覚はずれてるって思ってたけど、意外と人と変わらない部分もあるって思うんだ。前にレイラはエリシアのこと好きって言ったよね。昔だったら有り得ないことだったと思う」

『アレクの次に好きなだけだよ』

「なら、僕より好きになれる人もいるかもしれない。ちゃんとその人を見て付き合ってみれば、好きになるかもしれない」

『でも……』


 初めて歯切れが悪いレイラに、追い討ちするように言った。


「もし、好きになれなかったり辛かったら、その時はいつでも戻ってきてくれていいから」


 僕が言うと、レイラは渋々といった様子だが。

 僕は確信していた。

 僕とエリシアの子を、レイラとライトが好きにならない訳が無い。

 きっとエリシアに溺愛され、いい子に育つだろう。


『分かった……』

「ありがとう、ライトもいい?」

『レイラが納得したのなら、我が従わないわけにもいかんだろう。でも、アレクは寂しくないのか?』


 僕を気遣ってくれるライトに、自らの周囲を飛ぶ小さい光達を見回す。


「皆がいるから、大丈夫だよ」

『そうか、もう何も言うまい』


 会話は終わり、泣いてしまっているエリシアの元へ舞い降りる、二つの燐光を見て安心する。

 もう、不安になることはない。

 心配になることはない。


 最後に自分が微笑んでいると感じると、小さな燐光達と共に、どこかへ向かい始めた。


 皆、またね――。


 僕は全てのことに満足して、旅立った。


過去編は終わりです。

次は八章で、またアルベル達の話が始まります。


前書きでも書きましたが、一応ここにも記載しておきます。

八章は少し長く、整理する時間が欲しいので一日か二日程、更新を休ませてください。

今度はすぐに再開します。

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