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第六十一話「アレクとエリシア 中編」

今日の更新、二話目です。


 エリシアと出会ってから数ヵ月後――


 僕は毎日欠かさず、習慣のように同じ行動を取っていた。

 いつもの席で待つようにベンチに腰掛けていると、いつもの待ち人が現れた。

 もちろん、護衛という名が似合わない可憐な少女も一緒だ。


「こんにちはー、やっと出してもらえたわー、本当は毎日来たいのだけれど……」

「仕方ないよ、エリシアは僕と違って色々あるだろうしね」

「何で普通の家の子に生まれなかったのかしら……」


 嘆くように言うエリシアだが、僕はこれでいいと思う。

 きっと、外に出れなかったからこそ僕のような人間に興味を持ってくれた。

 今もなお予見の霊人の言葉を理解することなくここに居るが、エリシアと話しているのは楽しかった。

 毎日、今日来ないかなぁと待ち始めている自分がいるのも理解している。


 もう、旅の話は終わっていたが、僕達の会話に話の種なんて必要なかった。

 他愛ない会話をしているだけで、お互い楽しめていると感じていた。

 今日も何の変哲も無い話をする。

 しかし、内容は珍しくエリシアの愚痴のようなものだった。


「アレクはカルバジア大陸から来たのよねー? 私もそっちが良かったー」

「そうだけど、何で? この国は綺麗だし、エリシアは魔術の才能があるしここがぴったりじゃない?」

「だって、カルバジア大陸の夫婦の方が素敵じゃない。こっちの男性は何人もお嫁をもらう人が多いもの。その逆もあるけど……」

「あぁ、そこが大陸で一番違ってるところかもしれないね。こっちの人は深く考えないと思ってたよ」

「アレクは私がそうだと思ってたの?」


 少し表情は怒ったようにも見えるが、悲しいような声だった。

 確かにそんなことを言われても仕方ない言い方だった。

 別にこの大陸の考えが間違っているとか思ったこともないし、気にしていなかったが。

 エリシアのような子もいる、ちょっと失言だったかな。


「ごめんね、そんなこと思ってないよ。エリシアがどんな子かよく分かってるしね」


 僕が微笑みかけると、エリシアは少しだけ頬を染めた。

 僕の言葉に怒ったり、悲しんだり、喜んだりと色んな感情を見せてくれる子だ。

 

「どんな子って、私達同い年でしょー」

「そうだね、それにどっちかって言うとエリシアのほうが年上に見えるかもね……」


 少しだけエリシアの体のラインをちらっと見てしまう。

 これは男の性だろう……悲しいかな、ばれてしまった。

 しかし、エリシアは特に怒った様子はなかった。

 さすがに頬を染めて照れてはいるようだが。


「どこ見てるのー……アレクって意外とそういうところあるわよね……」

「一応男だからね……綺麗だと思うものは見ちゃうさ」

「綺麗って……アレクもたくさんお嫁さん欲しいの……?」


 恐る恐るな様子で尋ねるエリシアに、少し緊張がうつってしまうが、答える。


「い、いや……僕も一人がいい――って、そもそもお嫁さんとか考えたことないけどね」

「そうなの……」


 本当に、そんな事考えたことないのだ。

 もうすぐ僕は十六歳だ。

 本来ならば、そう言うことを考え出す次期かもしれない。

 考え出すどころか、実際に行動に移しているものもいるだろう。


 でも、僕はそろそろ死ぬ。


 前は恋人だとか、結婚とか、考えることすらなかった。そんな年頃だった。

 もう少し大きくなったらそんな事もあるんだろうか、なんて思っていたことはある。

 でも、病を知ってからは更に考えなくなった。


 すぐに死ぬ者が伴侶を持つなんて許されないし、相手のことを本当に考えているなら絶対にしてはいけないことだ。

 そもそも、エリシアと僕は身分が違いすぎるし、病気があったところで……。

 

 あれ? エリシア?


 思って気付く、何でエリシアが出てきたのだろうか。

 僕では分不相応だし、そもそもこんな想像するのはいつも楽しそうに話し相手になってくれるエリシアに失礼だ。

 

 でも、僕の周りではエリシアぐらいしか身近な女の子はいないし、例えた時に出てくるのも当然か。

 

 少し挙動不審になった気がするが、エリシアを見ると少し悲しげな表情で僕からは視線を外していた。

 そして、いつも微笑ましそうに黙って見守っているルルだが。

 ルルも、少し儚げな表情で僕らを見ていた。

 もしかしたら、いつもこういう話をしていた時はこんな顔をしていたのだろうか。

 何で、こんな事思うかも分からないが……。


 考えていると、途端に心臓の活動が早くなっていく。

 これは、心の問題ではない。

 最近よく起こることだ。

 今のところ二人の目の前で兆候が現れることはなく、安心していたのだが。


「っ……」


 痛みを堪えて軽く左胸を手で抑えるが、すぐにいけないと手を下げた。

 しかし、さすがに二人とも気付いてしまったようだ。


「アレクさん?」

「どうしたの! 治癒魔術掛けようか!?」


 エリシアが焦って詠唱を唱えようとするが、すぐに手を出して静止する。


「大丈夫だよ、何か痛んだ気がしたけど、気のせいかな」


 いまだに痛み、取り繕っても少し険しい表情になってしまうが、安心させるように無理やり微笑んだ。

 さすがに納得してなかったが、何を言われても仕方ない。

 外傷がないのも分かっているし、治癒魔術に意味がないことも分かるだろう。


 すぐに落ち着き始めると、平常に戻り、二人も安心したようだった。

 不謹慎だが、エリシアが心配してくれるのは何故か、心地よかった。



 それからも、この日常は続いた。


 一月経ち、二月経ち、三月経ち。


 僕らの仲はより近付いていったと思う。

 こんな僕の話し相手にエリシアの時間を消費させていいのかと思ってしまうこともあったが。

 エリシアと話しているのは楽しく、すぐに時間が過ぎていき、気にならなくなっていた。


 そして、十六歳になる日がやってきた。

 この日も、いつものベンチで腰掛けていた。


 別に、誕生日だから何だってこともないのだが。

 何故か、残りの少ない時間を考えると大事なものに思えてしまった。

 エリシアが来てくれないかな、そんなことを考え、ただ待っていた。


『エリシア来るかな?』


 自分から声を掛けるのも珍しいのに、僕以外の名前を出しながら、レイラが言った。

 少し驚きながらも、返事をする。


「どうしたの?」


 質問に質問で返していまう。


『エリシアのこと、アレクの次に好きだよ』


 あんなに、僕以外の人間のことをどうでもいいと言っていたのに。

 精霊も性格や考え方が変わったりするのだろうか。

 でも、何か嬉しいな。


「そう言ってくれて僕が凄く嬉しいよ、何でだろうね」

『それはだって――』


 レイラの声を遮るように、後ろからぱたぱたと足音が聞こえると、いつも通り耳に心地よく透き通ってるように入っていく声も聞こえた。


「こんにちはー!」


 いつも通り元気に声を掛けてくるエリシアに、その少し後ろで姿勢よく頭を下げるルル。

 その姿を見るだけで頬が綻んでいくと、今日は何故か絶対会いたかったと思っていたので、普段より優しい声が出た気がする。


「やあ、エリシア。あれ、何かいつもより髪が綺麗だね」


 もちろんいつも綺麗なのだが。

 何か、普段より艶を増している気がするし少し切ったのかスッキリしている気がする。

 普段から完璧だから頻繁に会っている僕にしか分からないかもしれないが。

 しかし、当っていたのかエリシアは嬉しげだった。


「分かるー? 今日はこの後色々あるのー。それに無理やり出てきちゃったから、いつもより長くはいれないけど……」


 最後に少し申し訳なさそうにするエリシアだが、そんな事構わずただ微笑んだ。


「来てくれただけで嬉しいよ。どうぞ」


 僕が言うと、すぐにエリシアも横にゆるやかに腰を落とした。

 出会った時と比べて、エリシアが隣に座る距離が近くなっている気がする。

 いや、何を馬鹿なこと考えてるのか。


 変な考えを断ち切るように頭を振ると、いつものように話し始めた。

 

 話は、唐突だった。


「ねぇ、アレクはいつまでここに居てくれるの?」


 いつもの口調でもなく、少し寂しそうにエリシアが言った。

 ここに居るのではなく、居てくれるのと言ってくれるエリシア。

 僕も嬉しくなってしまうが、真面目に答えた。


「やるべき事が終わったらかな……」


 まだ、それも分かりはしないが。

 僕のこの言葉では、エリシアの寂しげな表情が消えることはなかった。


「何か目的があるって言ってたものね、聞いてもいいの?」


 確かに今まで聞かれなかったが、

 事情があると思って気にしてくれていたのかな。

 しかし別に聞かれても構わないというより、言いたくてもいえないのだが。


「自分でも分からないんだ。予見の霊人に言われてね、この国で何か出来るみたいなんだけど」


 少し苦笑いして言う。

 今まで予見の霊人のことも言ったことがなかったので、エリシアどころかルルも驚いた表情を見せていた。


「そうだったの……それが終わったら他のところにいっちゃうの?」


 エリシアの寂しい表情は正直見たくはない。

 でも、嘘は吐きたくなかった。

 ここに来るまでに一年。

 そして、ここに来てからもう一年程経っている。

 あの時、ライトに言われたのは後二、三年という話だった。

 最近は死の兆候が頻繁に現れることも多いし、今死んでいてもおかしくない時期だ。


「そうだね、後、長くて一年ぐらいかな」


 僕の言葉に、エリシアは更に悲しくなったようだ。

 僕のことでここまで考えてくれるのは嬉しいが、人はこんなにどんどん悲しそうな表情を作れるのだろうか。

 もしかしたら、僕が思っているよりエリシアは僕のことを大きく考えていてくれるのかもしれない。


「そうなの……ここでずっと私と話してて大丈夫なの……?」


 それは、この国にいてもここに来るのをやめてしまうのではないかと。

 エリシアが、心配しているのが分かる。

 

「僕が話したいから来てるんだよ。エリシアみたいな子と知り合えただけでここに来た意味はあったかな。やるべきことが分かっても、ここにはちゃんとくるよ」


 僕の言葉に、エリシアはやっと少しだけかもしれないが、安堵した表情を見せた。

 そしてこの雰囲気を作りかえるように切り替えて、普段通り言い始めた。


「だから、みたいな子って言わないで、同い年でしょー」


 可愛らしくいうエリシアに、一々伝えるつもりもなかったが言ってしまう。


「今日で十六歳なんだ。少しの間だけど、僕のほうが年上だね」

「え? そうなの! おめでとうー」


 この世界で誕生日を祝う風習は特にないが、エリシアは自分のことのように祝福してくれる。

 やっぱり、今日会えてよかったかな。


「ありがとう、普通は十五歳の時に盛大にお祝いするんだって?」

「そうよー、アレクはしてもらったことないのー?」

「そりゃね、ずっと旅してたから」


 さすがに精霊に誕生日を祝う風習はない。

 そもそも年齢の概念がないと言っていたしな。

 誕生日なんて言っても、皆には意味が分からないだろう。


 僕は別に気にしてないのだが、エリシアは寂しそうだった。


「そうなのー……今お祝いしたいけど、何も持ってないわ……」


 本当に何か僕にあげれるものを探そうと自分の身なりや周囲をきょろきょろ見回してしまうエリシアに、慌てながら言う。


「いやいや! そんなのいいよ! 十分祝ってもらったよ」


 これは心底思うことだ。

 エリシアと今日会えただけで、盛大に祝ってもらえたような気分になっている。

 僕は微笑んで納得させようとするが、エリシアは引き下がらなかった。

 そして何か思い付いたのか、少し照れた様子で言った。


「アレク、ちょっと目を閉じてくれる?」

「え? うん、いいけど」


 何かくれるのだろうか。

 もしかしてこの花園の花を摘んでくれたり……。

 いや、それはこの国で禁止されているしエリシアもそんなマネはしないだろう。

 それに、エリシアが立ち上がる素振りも見せていないのも、目蓋を閉じていても分かる。


 しばらく緊張していると、頬に何か、少し濡れたような、とても柔らかい感触が伝わった。

 それは何かも分からないが気持ちよく、頬が溶けていきそうだった。

 そして、ふわりと柔らかい髪が頬を撫でる感覚に、気付いてすぐに目蓋を開けて視線を動かす。


 するとかなり近い距離に、エリシアの綺麗な顔立ちがいっぱいに映る。

 全てを理解して、頬どころか顔全体、いや体が熱すぎるほど熱に包まれる。


「え、あの、エリシア……?」


 そう言って見つめるエリシアも、初めて見る顔をしていた。

 顔が真っ赤になっていて、気付いたようにすぐに顔を遠ざけた。


「きょ、今日はもう帰るわね! またすぐ来るから……」


 それだけ言うとルルを待たず、エリシアは背を向けて歩き始めた。

 困惑したまま眺めていると、呆然としていたルルもすぐに気付いたように僕に頭を下げると、エリシアを追いかけた。


 二人の姿が見えなくなっても、綺麗な花園を眺めてぼーっとする。

 自分を包む花の香りは普段より甘く、美しく咲き誇っているように見えた。


 ぽつりと、呟く。


「ねぇ、エリシアって……」

『エリシアは、私達と一緒だよ』


 その言葉に返事を返すことも出来ず、ただ陽が暮れても固まったように座り込んでいた。


 そして、エリシアは。

 しばらく、僕の前に現れることはなかった。

 少し、助かったかもしれない。


 どんな顔をして会えばいいか分からなかった。

 でも、毎日同じ場所でエリシアを待った。



 次にエリシアが現れたのは何週間か経った後だっただろうか。


 エリシアはどんな表情を作って、僕に会いにくるのだろうか。

 そう思って様々な顔を想像していたが、次に見たエリシアの表情は、僕の想像とは全て違っていた。


 どんより暗く、別れの時期を伝えたことよりも、辛く悲しそうな表情をしていた。

 心配で、すぐに立ち上がり声を掛ける。


「エリシア? どうしたの?」


 不安になって近付くと、エリシアは細い声を出した。


「アレク……」


 僕の顔を見て今にも泣き出しそうな顔をすると、エリシアは話し始めた。

 

 僕でも知っている、この国の王太子、セシリオ王子から声が掛かったとのこと。

 それは誰にとっても名誉なことで、周囲は祝福し、もう動かないとのこと。

 

 僕は、正直に言えばショックだった。

 傷付いた、悲しかった。

 だけど、それをエリシアの前で見せてはいけないと思った。


 僕に、その事について何か言える資格は、ないのだから。


「ねぇ、アレクは……どう思う?」


 いつも輝いて見える赤い瞳が、曇って見えた。

 きっと、エリシアは。

 僕のことを好きでいてくれていると思う。

 いや、思うではない。絶対だ。

 精霊の、レイラの言うことに嘘はない。


 だけど、こんな素敵な子を、僕の我儘で不幸にさせることはない。

 仮に僕が何を言っても苦しく、辛くなるだけだ。


 なら、僕が言うことは一つだ……。


「とても……素敵なことだと思うよ。おめでとう」


 精一杯無理やり微笑むと、エリシアは出会ってから一番、曇り、傷付いたような表情を見せた。

 そのまま僕を見ることはせず、背を向けると、言った。


「アレク……さようなら……」


 その言葉と共にルルが僕に一礼すると、二人で去っていった。

 エリシアの頬は、濡れていた気がした。

 前と同じで陽が落ちきっても、僕は動けなかった。

 

 前は世界が綺麗に映ったはずなのに、今は灰がかったように、雲っていた。



 そのまま、ずっと動けなかった。

 もう、どれだけ時間が経ったのだろうか。

 何も言わない僕に、精霊達も何も言わなかった。


 しばらくして、懺悔するように、月明かりだけが照らす空間で、呟くように口を開いた。


「ねぇ、僕は酷い奴じゃない?」

『何で?』

「だって、もうすぐ死ぬことを伝えてたら、エリシアが苦しむことはなかったんじゃないかな。普通に嫁にいって、幸せに暮らしてたんじゃないか」

『別に伝える必要ないでしょ』

「そんな事ないだろ」


 相変わらずのレイラに、溜息を吐きたくなる。

 腹を立てる気力もない。

 心配させたくなかったという理由なんて、今の状況では言い訳にもならない。

 どうすればいいのか。

 もう考えるのもしんどいな、このまま止まっていよう。

 そう、思ったが。


『何故アレクは自分の気持ちを偽るのだ。人間とは想い合えば結ばれるものだろう』

「精霊には難しい話は分からないよ」


 考えないように言うと、追撃が入った。


『人間を取り巻く環境など知らん。だが、アレクが何故か気持ちを隠しているのは分かる』

「……」

『何故だ?』


 そんな事言われたら、もう……。

 それは僕も、エリシアのことが好きに決まってる。

 きっと僕なんかに興味を持って話しかけてくれた、あの日から。

 誰よりも好きで、想っている自信もある。

 でも、だからと言って。

 そんな無責任なことが、できるわけがない。


「相手を想っているから、隠さないといけないこともあるでしょ」

『そんな事ないと思うが』


 その言葉に、必死にエリシアのことを考えて抑えていたものを否定された気がして、これ以上ないほど腹を立てる。

 八つ当たりかもしれない、精霊はそんなこと気にしない。

 だからこそ、甘えたように、怒ったのかもしれない。

 生まれて初めて出すような大声で、怒鳴った。


「僕はもう! 死ぬんだろ!!」


 悲しさを振り払うように、僕の声が虚しく、誰もいない空間に響き渡る。

 その声に反応するものは誰もいない。

 人間は、だが。


『アレク、前も言ったけど――』

「何だよ……」


 力尽きたようにやっとのことで吐き出すように言うと、レイラが言った。


『エリシアは、私達と一緒だよ』

「そんなの知ってるよ、だから苦しいんだろ」

『アレクが死ぬって分かっていても、死んでも、アレクへの想いが変わる子じゃない』


 いつもより長い言葉を紡ぐレイラに、騙していた自分の気持ちが、表へ出ていく。

 これからのエリシアのことを考えた罪悪感が、薄れていくような。


 僕はただ、心配なんだ。


 僕と一緒に居たいと共にいてくれて、最終的に、いや。

 すぐに一人残されていく彼女が。


 もう予見の霊人が言った意味も、理解していた。

 この残された時間で、ラドミラが言いたかったこと。

 自分の幸せについて、考えてみろと。


 よくわからないまま過ごしていた。

 いや、隠すように過ごしていた。


 真剣に向き合っていれば、すぐに気付いていたことだ。


 僕は、エリシアの隣にいる間、幸せだった。

 今まで生きてきた中で一番幸福な時はいつだったかと言われれば、今なら即答できる。

 エリシアと共にいた、この一年間だ。


 予見の霊人は、最終的に僕が導きだす答えは、一つだけだと言っていた。

 ならば、ここで考えている意味はない。

 今なら彼女が、僕の最終的に出す決断を、先に教えてくれた理由が分かる。

 きっと、一日でも、一秒でも、僕が幸せでいれるように思ってくれたのだろう。


 僕は立ち上がり、綺麗に咲く花々を最後に眺めると、歩き出した。


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