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好きな子追いかけてたら英雄になってた  作者: エコー
第五章 ドラゴ大陸
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第四十七話「繋がり 前編」


 エルフの村を発ってからしばらくした頃。


 俺は思い出したように魔竜の後始末などのことを聞いた。

 

 思えば村を出た時、崩壊している家は相変わらずだったが。

 魔竜の死体が見えなかったからだ。

 話によると、クリストが竜を運んだらしい。

 いくら闘気があるとはいえやはり人間業ではない、俺も竜を担げるのだろうか。

 魔竜の鱗はかなりの大金になるとの話だったが、クリストはいらないと言ったらしい。

 コンラット大陸にすぐに移るし、持っていても邪魔だと。

 それにドラゴ大陸は町の間隔が広い、回収にくる冒険者を待つのも時間はないと。

 結局、被害を受けたエルフの村の再興資金になることになった。


 その話を聞いて俺もそれはそうだと納得した。


 後、村を出てからしまったと思って聞いたことがある。

 もしかしたらエルフ達なら上級の治癒魔術で俺の腕を治せるかと思ったのだが。

 エルフでも使える者はいないらしい。

 俺が思ってるより、上級の治癒魔術はとんでもないものとのことだ。

 千年前に死んだエルフの英雄は使えたらしいが。


 そして一番気になった話だが。


 災厄がエルフの村を襲ったということは、今近くにいるのかと聞いた。


 俺の質問にクリストは分からん、と言っていたが。

 その後に近くにいる可能性はあるなと言った。

 でも近くにいたら自分で襲えばいいのではないかと思う。

 災厄は滅茶苦茶強いらしいし。

 魔竜だけで十分だと思ったのか、慎重になってるのか。


 でも、深海にいる海竜王を起こせるぐらいだ。

 魔物の近くに寄らないと操れないということはないだろう。


 災厄については謎が多いらしく、考えても仕方ないとのことだった。

 俺も怖い想像をするのはやめておいた。

 



 そして一ヶ月後――


 俺達は荒れた地面の上で剣を振っていた。

 

 まずはいつも通り俺とクリフトが稽古をする。

 前より俺も成長している。

 旅立った頃はすぐさま叩きのめされたが。

 

 結構な時間打ち合えるようになっていた。

 それもそうだ、毎日クリストの剣術を見て対峙すると自然にそうなる。

 今まで闘神流で俺の遥か上に立っている人物はいなかった。


 いつの日にかあの時のイゴルさんを越えているだろうとは自分でも理解している。

 セリアはきっと強くなっているだろうが、そもそもセリアを追いかける旅だ。

 セリアの今の剣術を見れる訳もない。


 クリフトの存在は俺の剣術と高みに向上させていた。

 しばらく打ち合い、俺の息が上がり始めると稽古は終わる。


「成長の早さが異常だな」


 クリストは嬉しそうに剣を収めながら言った。

 イゴルさんと違い、クリストは飴と鞭でいうと飴の割合が多い。

 しかし、そう言われて嬉しくないわけがない。

 

「クリストの稽古受けてたら嫌でも強くなるよ。

 それに俺は魔族みたいに長命じゃないし、必死にならないとね」


「そこが人種のいいところだろうな。

 魔族はどうしても時間に甘えるからな」


 そう言うとクリストは横で座りながら見ていたフィオレの肩を叩く。

 交代の合図だ。


 フィオレは木刀を手に取って姿勢良く俺の前に立つ。

 俺も横に置いてあった木刀を持つと対峙する。

 

 俺のお手製の木刀だ、木を斬り落としてささっと作った物だ。

 町に寄ることがない俺達はフィオレにまだ真剣を持たせてなかった。

 俺の鳴神やクリストの剣を貸すわけにはいかない。

 さすがにまだ、フィオレの腕では剣に振られてしまう。


「お願いします!」

「うん、よろしくね」


 フィオレが姿勢よく礼をすると稽古が始まる。

 俺はイゴルさんとの稽古を思い出していた。

 なるべくフィオレを振る木刀を捌き、大きすぎる隙を見せたらそこを突く。

 イゴルさんが俺にやってくれたように、教えるように木刀を振っていた。


 そして、フィオレには才能があった。

 俺は正直最初から期待していた。

 魔力がなく、闘気を纏えるエルフ。

 何かの運命だろうと思っていたから。


 まだ剣術を教えて一ヶ月だというのにかなりの成長をしていた。

 ヘルハウンドの群れくらいなら一人で捌けるだろう。

 ドラゴ大陸にはヘルハウンドのような弱い魔物はいないけど。


 いつも通りフィオレが疲れ始めてきたら、俺は少しだけ攻める。

 蹴り払いでフィオレの木刀を弾き飛ばすと稽古は終わる。


 悲しいことに、あまり稽古の時間は取ってあげれないのだ。

 俺は何より旅を急いでいる。

 クリストと俺の稽古だけでも旅の歩みを止めているし。


 でもそんな俺達にフィオレは文句一つ言わなかった。

 少しだけでも構ってもらえると十分といった感じだ。


 俺は最初フィオレは剣を振ってる最中に転んだりと。

 ドジっ娘を発揮するかと思ったが、そんな心配は俺の杞憂だった。

 何故か、フィオレは剣術の途中は不幸に見舞われなかった。

 それが俺がフィオレに剣を教えていて一番安心したことだったりする。


 俺達の稽古が終わると横で見ていたクリフトがフィオレを褒める。


「将来は俺より強くなるな」


 そんなことを言っているが、まじで?

 フィオレがクリストより強くなったら俺の肩身狭すぎないか。

 いつか、こんな人を師匠と呼んでたなんてと罵倒されたら泣いてしまうぞ。

 フィオレはクリストの言葉を聞くとぶんぶんと大きく首を振る。


「そんな! 私なんかが……」


 いまだにネガティブ思考なのは直らない。


「本当だって、やっぱり何か意味がありそうだなぁ。フィオレの才能なら後五百年もあれば俺ぐらいにはなってるだろうな」


 俺からすれば気の遠い話だった。

 というか、クリストの半分以下の時間で辿り着けるのか。

 そう考えると凄いな。


「クリストの倍以上才能があるのか……」


 俺がぼそっと呟いてしまうと、クリストが反応する。

 少し驚いた感じで。


「何だアルベル、俺に才能があると思ってんの?」

「そりゃそうでしょ、そんだけ強けりゃ」

「俺にお前みたいな天賦の才はないって」


 そう言って少しおかしそうに笑った。

 そんな訳ないだろう、自分の強さを見て言ってほしい。

 俺が訝しげに見ていると、クリストは珍しく自分を卑下するように言う。


「まじだって、俺は闘神の剣を知ってるからな。

 奴の剣を目指して千年以上も剣を振ってたらこうなっただけだ。

 まぁ、種族柄肉体には恵まれてるけどな」


 今の俺とクリストのような関係だろうか。

 

「ダヴィア族だっけ? まだクリスト以外見たことないね」


 まぁ俺には見分けることはできないのだが。

 心臓が三つあるとか言われても分かる訳がない。

 するとクリストが普段通り、何の変わりなく言った。


「最後の生き残りは最近死んだし、もう俺しか生きてないからなぁ」


 一瞬悲しそうな表情を見せた気もするが、声色はいつも通りだった。

 意外と何とも思ってないのか。

 

「自分の種族が滅んだ割りにあっさりしてるね」

「ダヴィア族の中で俺は浮いてたからな」

「意外ですね! クリストさんは誰とでも仲良くなれそうですけど!」


 フィオレが言うが、実際俺もそうだと思う。

 やっぱりフィオレもダヴィア族を知らないのか。

 それもそうか、フィオレの歳は俺より年下に見えるしな。

 昔の歴史なんて知らないか。


「クリストが浮くってあんまり想像できないね。何か問題ある種族だったの?」


 実は悪魔のような種族で殺戮を繰り返していたとか……。

 いや、ないな。


「ダヴィア族は体はでかいけど皆気のいい奴らだったよ、問題があったのは俺だな」


 確かにクリストは細身に見えるが長身だ。

 クリスト特有じゃなくて種族柄だったのか。

 そしてクリストの問題って、確かに気になるが。

 少し聞くのが怖い気もするし、これ以上聞かなくていいか、と思ったのだが。

 意外とお喋りなフィオレは何も気にしていないようで口を開いた。


「問題って何かあったんですか?」


 クリストも別に気にした様子もなく、淡々と答える。


「ダヴィア族の中でも俺は細身で浮いたせいで、ちょっと尖っててな。

 昔は殺すぐらいしか言葉知らないレベルだったし」


 まぁ、問題がクリスト側にあったのならそうだとは思ったが。

 それに確かに、クリストは長身だが細身だ。

 ダヴィア族とは横にもでかい種族なんだろうか。

 でもだ。

 俺はじーっとクリストを見ながら言った。


「正直想像できないね……」

「ま、闘神にぼこられて復讐しようとしてたらなんか、今こんな感じになってるな」


 昔のことを話すのが嫌というより、面倒になった感じでクリストは適当に言った。

 俺も別に昔の荒れてたクリストのことを知ってても仕方ないしな。

 俺の中のクリストは闘神流の師匠で、格好良い剣士だ。

 

 そして何となくだけど、ダヴィア族が滅びたのは災厄が関係してる気がするな。

 クリストはあっさりしてるけど、クリストの種族を滅ぼされたと思うとちょっと悲しいな。

 いや、クリストはまだ生きてるし滅びてるわけじゃないんだろうけど。


「でも最近までクリストさんの他にいたんですね? 会ってみたかったですね」


 確かに俺も気になるし話してみたかったな。

 やっぱりクリストみたいに強い人だったんだろうか。

 もし強いなら死んだ理由が分からないけど、長寿とはいえ寿命で死んだのかな。


「俺に予見の霊人の存在を教えてくれたのはそいつだからな。代わりに頼み事をされたけど、多分頼みを聞いてやる時間はないだろうな」


「あー、もしかして俺のせい? だよね……」


 ちょっと、いやかなり申し訳なくなる。

 俺が少し下を向いてしまうと、クリストが安心させるように口を開いた。


「何でだよ、どう考えても災厄のせいだろ。それに大した頼みじゃないしな。

 ほら、そろそろ行こうぜ。この近くに町があるからさ」


 話を切り替えるように言うクリストだが、俺は少し首を傾げてしまう。

 

「町に入るの? しばらく寄らないって言ってたのに」


 精霊王の所まで休憩なしで行くぜ! と張り切ってたのはクリストだ。

 

「俺もそう思ってたんだけどな、フィオレ見てたらさ。

 真剣持っといたほうがいいだろ、稽古は木刀でもいいけどさ」


 確かに、言われてみればそうか。

 ここはドラゴ大陸だ、今は俺とクリストが戦闘を担当してるが。

 フィオレもこの調子ならすぐに戦力になるだろう。


 フィオレを見ると、何故か少し焦っていた。

 そして慌てながら口を開く。


「え!? 私なんかの為に旅を止めなくていいですよ!」


 相変わらず自分を卑下するフィオレに、俺は溜息を吐いた。


「フィオレ、次に私なんかとか言ったら怒るよ。クリスト、行こうか」

「おう!」


 元気良く声を上げるクリストが甲馬に乗ると、俺も続く。

 まだ納得してなさそうなフィオレも乗り込むと、俺達は走り出した。



 

 数日後、デュランと似た景観の町に到着する。


 せっかく来たのだし宿に泊まることにしたのだが。

 店主の前で俺とクリストは言い合いになる。


「クリスト、部屋割りどうするのさ。

 剣を買うならあんまり使わない方がいいでしょ」


「二部屋はもちろん取る、しかしだ。

 揉めるくらいなら三つ部屋を取ってもいいと思う」


「そういう無駄使いがさぁ……。

 あんまり安い剣になってもフィオレが可哀想だよ」


「じゃあお前が床で寝ろよ」

「ふざけるなよ……」

「あの! 私別にどこでもいいですから!」

「いや、さすがにそれは俺も躊躇する」

「さすがに女の子一人床で寝させて男二人がベッドで寝るのはなぁ……」


 そう思った時、俺にいい考えが浮かんだ。

 これはフィオレの為になるかもしれない。


「いや、クリスト。ベッドで寝ていいよ」

「え? まじで? 聞き分けいいじゃん」

「俺はフィオレと一緒の部屋で寝るよ」

「おう! 弟子に手出すなよ!」

「出さないよ……」

 

 それだけで会話は終わり、一応フィオレに確認する。


「フィオレ、いいよね?」

「は、はい! 問題ありません!」


 フィオレの頬が少し赤い気がするが。

 俺は師匠と慕う子に手を出すような奴だと思われているんだろうか。

 俺はセリア以外見えていないというのに。


「じゃ、剣買いにいくか」


 クリストが言うと、皆で剣を見に行った。



 内容は、俺とクリストがあーだこーだ言って決める。

 使う本人のフィオレは何故か蚊帳の外だ。


 フィオレの腕が上達してもフィオレを守ってくれるような剣。

 上達する度に剣を買い換えるという手もあるが。

 俺とクリストは長年使った剣を手放せないことを知っていた。

 

 結局、二人で言い合いになり、お互いの選んだ剣をフィオレが決めることになった。


 結果、フィオレは俺の選んだ剣を手に取った。

 クリストは悔しそうな顔をしていたが、ここは師匠の力が発揮されたのだろう。

 

 もう日も暮れた帰り道、フィオレは嬉しそうに腰に剣を掛けて歩いていた。

 その表情を見て、クリストが言った。


「試し斬りするか? どうせなら何か依頼受けてさ」

「ドラゴ大陸の魔物強いじゃん、大丈夫かな」

「俺とアルベルでサポートすれば問題ないって」


 俺も考えるが、確かに二人でサポートすれば死ぬことはないだろう。

 少々怪我してもクリストは治癒魔術使えるしな。

 フィオレに一応確認しようと思ったが、少し楽しそうな表情をしていた。

 てっきり躊躇すると思ったが、意外とそうでもないらしい。

 本人がいいならいいかと、冒険者ギルドに向かったのだが。


 俺はドラゴ大陸に転移してから一番嬉しい情報を知ることになる。



 Bランクの依頼を持ち、カウンターへ向かった時。

 俺はいつものように冒険者カードを差し出そうとするが。


 カードを見た時、驚愕に目を見開く。

 すぐにカードを引き戻し、顔に近づけて思わず確認してしまう。


 俺のパーティメンバーの名前が書かれているカード。

 俺とランドルの名前はいつも通り記されているが。

 

 エルの名前がなかった。


 確か、ドラゴ大陸に来た時は間違いなくエルの名前はあった。

 確実に、自分でパーティを脱退している。

 俺が強制脱退させない限り、名前は消える訳がない。


 俺は考える。


 これはメッセージだ、エルが生きていると俺に知らせる為に。

 もしエルが死んでいてランドルが抜けるなら分かるが。

 ランドルが残っていてエルが抜けている。

 

 本来、エルが俺との繋がりを切ろうとするのは有り得ない。


 こんな簡単に伝える方法があったのか。

 なんで、今まで気付けなかったんだ。


 ならば、俺が今からしないといけないことは一つだ。

 普通だったら絶対に躊躇する行為だが、俺に迷いはなかった。


「パーティを解散してください」


 俺の言葉に、受付嬢は簡単にパーティを解散させた。

 もう、ランドルの名前も消えた。

 これで安心させることができただろう。

 そして何よりの情報。


 エルは、生きている。


 俺は嬉々として二人の元へ戻った。



 二人には、もう夜だし依頼は明日にしようと言った。

 クリストは夜だろうが割とお構いなしなところがあるのだが。

 今の俺は相当気が緩んでいる、今日は集中できそうにもない。

 甘いかもしれないが、魔物と戦う気分ではなかった。


 夜に宿へ戻ると、部屋の中でフィオレと言い合いになる。


「師匠が床で寝て弟子がベッドなんて許されません!」

「いや、フィオレがベッドだ。これは罰だよ」

「罰……?」

「自分を卑下しないようになったら俺がベッドで寝るよ。

 俺を床で寝かせたくなかったら前向きな思考になってね」


 それだけ言うとフィオレが説得する言葉には耳を貸さず、床で横になった。


 帰ったら二人とまた会える。


 考えると幸せな気分になり、俺の意識はまどろみに落ちていった。


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