第四十五話「精霊使い」
デュランを発ってから二十日ほど経過していた。
そして、ドラゴ大陸を最短距離で抜ける道を走ってる筈だったが。
デュランを出る際、クリストの提案によって進路が変更されていた。
もちろん南に下ってはいるので旅は進んでいるが。
それはというのも、クリストが知り合いの精霊使いの所へ行くというのだ。
俺は今まで精霊使いに会ったことがない。
もし俺に精霊がついているなら何かわかるだろうとのことだった。
それは俺も気になっていたので問題はない。
「怖い人じゃないよね?」
「怖くねーよ。女だぞ、美人だし」
締まらない顔でニヤけるクリスト、イケメンが台無しだ。
「魔族で美人に生まれたら最強だよね、一生若いままだし」
「おいおい俺のこと言ってるのかよ」
「否定しないけど……何かむかつくな」
相変わらずのクリストに前までは調子が狂っていた。
今まで俺のパーティは他の冒険者と比べると、全員無口だった。
エルが甘えてくるか、エルとランドルが喧嘩するぐらいの会話しかなかった。
しかしクリストはお喋りだし、会話には変化球を織り交ぜてくる。
しばらく慣れなかったが。
何かイゴルさんに似てるなと思うと不思議とクリストとの会話は楽しいものだった。
甲馬で走りながらクリストは少し説明してくれる。
「ま、今から行く所は目的の女以外も皆美人だ。
癪なのは男も美形なことだけど」
「なんだその種族……無敵じゃないか。俺もその種族になりたい」
「やめとけ、アルベルには合わないから」
なんだそれ。
やめとけと言われてもそもそも種族が変わる訳がない。
俺に合わないというのは美形の部分だろうか?
デュランで俺をいい男と言ってくれた筈なのに……悲しい。
俺が腐っていると、クリストは甲馬を降りた。
森の前で。
「ん? どうしたのクリスト」
「ここから歩くぞ」
そう言って視線を森の中に向けるが。
こんな所に住んでるのか?
「ドラゴ大陸の凶暴な魔物がいる森の中で住んでるの? やばくない?」
「連中は強いからな、ここら一帯の魔物は狩られててほとんどいないさ。甲馬を嫌うからこいつは連れていけないが」
そう言って降りた甲馬を放置して歩き出す。
しっかり調教されているから帰った時に居なくなってたりすることはないが。
俺はクリストの後ろを追いかけながら声を掛ける。
「そんなに強い種族の精霊使いなら精闘気も使えるんじゃないの? 俺じゃなくてその人に災厄討伐頼んでよ」
俺が言うと、だめだとクリストが首を振った。
「何でだよ、子供の俺より絶対いいでしょ?」
「いや、連中は闘気を使えない」
「え? どういう事?」
「生まれた時から闘気を身に宿していないんだ。どれだけ鍛えようが闘気を纏うことはない」
そんな種族いるのか。
というか、それならおかしくないか?
「だったら何で魔物を一掃できるくらい強いんだよ」
「全員魔術師だ、闘気の代わりに全員大きい魔力を持ってる」
その言葉に俺は少し驚く。
クリストが俺には合ってないと言った理由はそれか。
闘気が纏えないなんて俺の剣士人生が終わってしまうからな。
それにしても、本当に魔族って色んな奴がいるんだな……。
なんていう種族か気になるが、聞いてはいない。
聞いたところで分からないだろうしな。
クリスト本人はダヴィア族って言ってたけど全く分からないし。
「ほら、着くぞ」
そう言ってクリストと並んで踏み込んだ空間は、綺麗だった。
邪魔な樹は切られ、切り株と共に広い空間が広がっている。
自然に囲まれた木造建築の家が至る所に建っている。
横道には綺麗な川も流れているし。
そして俺が驚いたのはそこで住む人達だった。
俺はその人達を知っていた。
「え? エルフ?」
「そうだよ、デュランでも何人か見ただろ。村から出るエルフは変わり者だけどな」
全員見目麗しく、耳が少し長く尖っていた。
確かに、デュランで見たエルフは誰も剣を持っていなかったな。
何も考えてなかったが、全員魔術師だったのか。
俺が考えている間にクリストは歩き出す。
俺も焦って続くが、こんなに堂々と神聖な場所に踏み込んでいいのだろうか。
と、思っていたのだが。
「クリストさん! 久しいですね、二百年ぶりぐらいでしょうか」
「よう! もうそんなになるか! 今日はマルガレータに用があって来たんだ」
「マルガレータ様なら家に居られると思いますよ」
「そうか! 助かる」
そう言って軽く挨拶するクリストは、エルフ達から親しく声を掛けられていた。
結構仲良いのか? さすがにクリストはフットワークが軽いな。
そして精霊使いの名前はマルガレータと言うらしい。
ちょっと緊張するな。
クリストは道が分かっているようで、迷いなく進んでいく。
すると、村の中で一番大きい木造建築の前に着いた。
クリストはノックもしないで扉を開ける。
そのまま当たり前のように入っていくクリストに俺も続く。
なんか俺まで野蛮になり始めた気がする。
クリストの調子に合わせてたら俺の人間性が疑われるようになるんじゃないだろうか。
中に入ると、広い空間に丸い大きな机があった。
十人くらい囲めそうで、その周りには椅子が並べられている。
そしてそこの一席に座る女性。
一目で分かった、この人がマルガレータだろう。
長い金髪に碧眼で、まさにエルフといった印象だ。
そして村で見たエルフも皆美形だったが、それを超えている。
絶世の美女とはこのことだろう、クリストもだらしない顔を見せている。
まぁ俺の中の一番はセリアだ。
天使なのはエルだ。
そしてそのマルガレータの隣に立っている女性もいる。
綺麗なオレンジ色の髪を肩で切り揃えていて、碧眼が光っている。
ちょっとセリアの髪型を思い出してしまった。
美人と言うか可愛らしい印象だな。
というか見た目は俺より少し年下に見える少女だ。
薄い緑色の服装で、可憐で短めのスカートがよく似合っている。
その子は、突然の来客に驚いた表情を見せるとすぐに頭を下げた。
マルガレータは少しも動揺していなかった。
扉を開ける前から来客が分かっていたような感じだ。
クリストを見ると、しばらくして口を開いた。
「久しぶりね、また何か面倒事? もう関わりたくないんだけど」
見た目通りの、艶のある声色が部屋に響いた。
「よう! 今回は話をしに来ただけだから警戒すんなって」
そう言って二人で俺のほうを見る。
なんか、居心地が悪い。
困っている俺を見て、マルガレータが言った。
「そこの精霊使いの人種に何かあるの?
私を訪ねて精霊使いが来るのは闘神以来ね」
俺を精霊使いと言ったということはやはり俺の近くにいるのだろう。
というか闘神って千年前の話だろ。
まだ二十半ばにしか見えないのに、やっぱり魔族ってやばいな…。
エルフから魔族って印象はあんまり感じないけど。
マルガレータの言葉を聞いて、クリストは安心したように笑顔になった。
「やっぱりいるのかー! 良かった! アルベルの勘違いだったらどうしようかとずっと思ってたんだよ」
完全に信用してなかったのか。
まぁ、ライニールを倒した時の証言ぐらいしかなかったからな。
そのクリストの言葉を聞いて、マルガレータは初めて驚いた顔を見せた。
「え? どういう事?」
「こいつ精霊使いじゃないのに精霊がついてるんだよ。
お前の所に行けば何か分かるんじゃないかと思ってな」
「へぇ……長い間生きてるけど不思議なこともあるものね。
でも、そんな人種の子供を気にかけて何になると言うの」
そう言って面倒そうな見下すような瞳で俺を見る。
少し、イラつくな。
クリストのせいで俺の沸点まで低くなってしまったんだろうか。
前まではあまり気にならなかったんだけどな。
そんな俺の様子に気付く訳もなく、クリストが続けた。
「お前も見ただろ、空に映った転移陣。
ライニールを倒したのはこいつだよ」
そう言って俺の頭に手を乗せる。
その言葉を聞いたマルガレータは、少し俺を見る目を変えたように見える。
「確かに、それが本当なら無視はできないわね。
で、私は何をしたらいいの?」
「とりあえずアルベルについてる精霊の話を聞きたい。
最終目的は精闘気を自由に使えるようにだ」
「それは知らないけど、会話の手伝いをするくらいは構わないわ。
とりあえず座りなさい」
二人の会話に俺は口を挟む隙もないが、とにかく言われたままに座る。
すると、マルガレータは苛立ったように言った。
「フィオレ、来客の対応もできないの?」
その言葉に、フィオレと呼ばれた少女は少し怯えた顔をする。
「申し訳ありません! すぐに用意します!」
大きめの声を上げて駆け足気味に俺達から離れていった。
お茶でも入れてもらえるんだろうか。
それにしても、なんか主人と奴隷みたいな関係に見えるな。
同じ仲間だろうになんか可哀想だ。
フィオレが見えなくなると、マルガレータは俺を見ているようで、違った。
俺の少し上を見ている。
そこに、いつも、あの時も、俺を助けてくれた精霊がいるんだろうか。
「へぇ……なるほどね……」
マルガレータは誰かと会話するようにひたすら相槌を打っている。
その時間は長く、俺の精霊はお喋りなのだろうかと思ってしまう。
しかしそう思ってるのは俺だけらしく、珍しくクリストは真剣な面持ちで静かに待っていた。
精霊との対話が終わる前に、足音が聞こえた。
フィオレが戻ってきたのかと少し視線を向けると。
お盆の上に三つの木製のコップが並んでいる。
それを持つフィオレの手はぷるぷると震えており、コップの中の水から飛沫が飛んでいる。
だ……大丈夫か?
俺は少し心配で見守るように見ていると、案の定。
「あっ」
その声と共に、フィオレはお盆を手放し転倒する。
何もない所で、こけた……。
何者だ、この少女。
まさか、この世界で出会えるとは。
フィオレが床に激突するまでの間にそんなことを考えていた。
そして次の瞬間、床にお盆とコップがばら撒かれ床は水浸しになる。
「いたた……」
フィオレは膝から床についてしまったようで、膝から血が滲んでいた。
その様子に俺は慌てて席から離れて近寄ってしまう。
「大丈夫?」
俺が聞くと、フィオレはやっと我に返ったように立ち上がった。
その動きでまた血がたらりと流れる。
「動かない方が――」
「大丈夫です! 申し訳ございません!」
フィオレは取り繕っているが、その顔はちょっと痛そうだ。
まぁエルフは全員魔術師らしいし、治癒魔術を使えばいい。
「浅いみたいだけど、治癒魔術を使ったほうがいいよ。
俺達のことは気にしなくていいし」
俺がそう言うと、フィオレは困ったような顔を見せて下を向いた。
ん? どうしたんだ?
俺が不思議がっていると、マルガレータが苛立った様子を見せた。
精霊との話を中断されたからだろうか。
しかし、マルガレータが言った言葉を聞くとそういう訳ではなさそうだった。
「本当に使えない子ね……。
その子、治癒魔術なんて使えないわよ」
フィオレに腹が立ったらしいが、失敗なんて誰にでもある。
そこまで言うこともないだろうに。
得意属性が違うなんて良くあることなんじゃないのか?
俺が少しマルガレータに腹を立てていると、クリストが言った。
「エルフで光属性が使えないのは珍しいな」
「ん? そうなの?」
「あぁ、俺は初めて見た」
そう言うクリストに、フィオレはどんどん険しい顔になっていった。
今にも泣き出しそうに見えるぞ、大丈夫か。
俺が心配していると、マルガレータは言った。
「その子、魔力持ってないから」
その言葉に、俺とクリストは「え?」と二人で聞き返してしまう。
クリストはエルフは全員魔術師だって言ってたじゃないか。
相変わらず適当だな。
「クリストの言うことは信じないほうが良さそうだ」
「何でだよ! 今回は本当だって! あれー、何でだ?」
そう弁解しながらもクリストが首を傾げていた。
その疑問を解消するようにマルガレータが言う。
「エルフの長い歴史の中でもこんな子初めてよ」
「あ、やっぱり? 不思議だなぁ」
そう言う二人だが。
まぁ、別に魔力がなくてもいいじゃないか。
俺も魔力がなくて最初は確かにへこんだが、今となっては剣士であることが誇りだ。
魔術師にはなれなくても、きっと他に道はあるのだ。
まぁとりあえず、代わりに治療してあげればいい。
さすがに同族が血を流していたらマルガレータも治療するだろう。
「じゃあ、代わりに治癒魔術を――」
「必要ないわ。フィオレ、片付けなさい」
「はい……」
ちょっと、あんまりではないだろうか。
俺は片付けようとするフィオレの肩を軽く掴んで止める。
え? とフィオレは困惑しているが、言わせてもらいたい。
「同じ仲間なのにそれはないんじゃないですか?
別に魔力が使えないくらいで――」
「最初は仕方なく両親のいないその子を引き取ったけど。
雑用をさせても物を壊すだけだし、居ないほうがマシなのよ。
魔力のないエルフなんてただの穀潰しよ」
罵倒するマルガレータの声色は呆れ果てるようなものだった。
エルフのイメージが潰れていくな、族長がこれか。
俺が軽く睨むと、マルガレータは鼻で笑って続けた。
「何? 放り出してないだけ優しいでしょう?
魔力のないエルフなんて村から出ても生きていけないのだから」
「クリスト、確かに怖くはないけど性格悪いねこの人」
「え? お、おい――」
苛立つ俺を止めるようにクリストが焦り始めるが。
俺の言葉を聞いたマルガレータが眉をひそめた。
「お願いを聞いてあげてる相手に失礼じゃないかしら?」
「もういいよ、あんたなんかに世話になりたくない」
「人種の子供の分際で、誰に口をきいてるの」
低い声を出して俺を睨みつけるマルガレータだが。
俺も負けじと視線を逸らさない。
そのまま困っているクリストに言う。
「クリスト、この子の傷治してあげてよ」
「え? あ、あぁ……」
煮え切らない様子のクリストだったが、フィオレに近付くと治癒魔術を掛けた。
傷が治っていく少女の顔は、あまり嬉しそうではなかった。
むしろ、困っていた。
その顔を見て、自分の無責任な行動を理解した。
この後、俺達が帰ったらマルガレータはフィオレに対して更に当たりがきつくなるだろう。
放置するのが正解だったのだろうか。
どちらにしても、気分が悪い。
やるせない気持ちでいっぱいだ。
部屋中に嫌な空気が流れ、無音になった。
すると、フィオレが真っ先に口を開くが。
「あ! あの――」
「ごめん」
俺はフィオレに一言謝って全員から背を向ける。
俺が去ろうとすると、クリストが焦ったように声を上げる。
「おいアルベル! え、まじで帰るの? 精霊のことはどうするんだよ!」
「いいよもう、どうせその人ももう教えてくれないだろうしね」
俺の言葉に、マルガレータは遥か上から見下ろすように言った。
「誠心誠意謝れば、考えてあげてもいいけど?」
「もういいよ。じゃあね、おばさん」
「おばっ――!」
マルガレータは初めて怒声を上げるが。
ババアと言わなかっただけ褒めてほしい、年齢的にはお婆ちゃんだろう。
俺の言葉に、クリストもあちゃーと片手で頭を抱えている。
さすがに諦めた様子で、俺の背を追いかけてきた。
村を歩く中、クリストが呆れたように声を掛けてくる。
「アルベルが怒るの初めてみたけどさぁー。俺もお前に精闘気使えるようになってもらわないと困るんだけど……」
「また死にかけたら使えるんじゃない」
「はぁ……」
投げやりに返す俺に、クリストは呆れたように溜息を吐くが。
まぁ確かに、クリストがわざわざ案内してくれたのに悪いとは思うが。
あれを放置して精闘気を纏えるようになって強くなっても。
なんか、気持ち悪いじゃないか。
心残りは、フィオレのことだけだ。
俺が余計な口を挟んだせいで放り出されなければいいが。
魔力がないうえに闘気を纏えないとなるとドラゴ大陸で生きていくのは厳しいだろう。
それに何より、フィオレはドジっ娘だ。
二次元の世界だけだと思っていたが、さすが異世界、存在していた。
いや、そんなことはどうでもいい。
とにかく、フィオレに対しては悪いことをした。
しばらく罪悪感は消えそうにない。
「はぁ……」
つい溜息を吐いてしまうと、クリストが少し喜んだように反応する。
「お!? 後悔してるのか? 今からでも戻って――」
「いや、そうじゃないよ。せっかく連れてきてくれたのにごめんね」
俺が素直に謝ると、クリストももう完全に諦めたようだった。
村のエルフからクリストが別れの挨拶で声を掛けられるが。
クリストにはあまり元気がなかった。
俺もそれに少し傷付いてしまう。
クリストのことはなんだかんだ言って好きだからな。
村を出て森を抜けると、甲馬が大人しく俺達の帰りを待っていた。
二人で各々勝手にへこみながら甲馬に乗ると、再び南へ向かって走り出した。
普段はクリストがおちゃらけて話しかけてきたり、俺がドラゴ大陸のことを色々質問したりするが。
今は少し気まずくて、二人で呆けながら走った。
三十分くらい過ぎただろうか。
広大な荒れた大地が広がる中、空に異質なものが見えた。
クリストもすぐに気付いて、甲馬を急停止させる。
甲馬が怒ったように鳴き声を上げるが、そんなの気にならない。
次第に大きく映っていくその姿は、竜だった。
真っ黒の竜だ。
遠目でよくは分からないが、クリストが狩った炎竜よりかは少し小さく見える。
しかし竜は竜だ、恐ろしい巨体なのは変わらない。
いや、そんなことはどうでもいい。
俺達が驚いているのはその数だった。
空を暗黒に染めるように、黒竜の群れが飛んでいた。
俺は反射的に軽く闘気を纏ってしまうと、クリストが声を荒げた。
「馬鹿! 闘気は抑えろ! あれは目が悪いから普通にしてれば気づきやしない」
しかしその説明は遅く、俺達に気づいて顔を向ける固体もいて、遠目でも分かる黒い瞳と目が合った瞬間体が跳ねて冷や汗が流れたが。
竜達はすぐ正面に凶暴な顔を戻すと一直線に飛んでいった。
気のせいだと思ってくれたのか?
「ご、ごめん、でも何であんな群れが? クリスト、こんなこともあるの?」
ドラゴ大陸だったら意外とある光景なのかなとも思ってしまう。
しかし、俺の言葉はクリストの耳に入っていないようだった。
その代わり、一人で勝手に呟いていた。
「魔竜が群れで縄張りを離れるなんて……まさか!」
その言葉と共に、クリストは甲馬を反転させて逆方向に走らせた。
俺は何が起こっているのか理解できずにいる。
クリストは魔竜と言ったように聞こえたが。
確か、魔術を弾く鱗を持つ竜だ。そういえば前もクリストが目が悪いって言ってたな。
しかし、絶対に縄張りから出ないと聞いていたが。
俺はクリストの焦る姿を見てると、声を掛けれなかった。
一人で考える。
魔竜は魔術を弾く鱗を持っていて。
縄張りから絶対に出ない。
そして群れが向かっている先は、まさか。
そう思うと、さっきまで俺達がいた場所にしか思えない。
このおかしな現象を作り出してる奴の名前も一つしか浮かばない。
俺はクリストに背中ごしに声を掛ける。
「災厄……?」
俺の言葉に、クリストは少し歯を噛み締める動きを見せて言った。
「あぁ! 間違いない! 本格的に動き始めやがった!」
やはり俺の考えは間違っていないらしい。
確かに魔術しか使えないエルフに魔竜は最強の攻撃だろうが。
でもそもそもだ。
「何でエルフの村が狙われるの?」
「多分念の為だ! 千年前の戦いで死んでしまったが、エルフの英雄は活躍したからな!」
そういえばすっかり忘れていたが。
帰ってきたのが五人なだけで確か十人の英雄が戦ったのだった。
その中にエルフもいたのか。
というか、この流れは。
全速力で向かってるということは。
「クリスト、あの群れとやりあうの?」
「さすがに見捨てれないだろ!」
確かに俺も見捨てるのは嫌だ。
マルガレータは嫌いだが、死んで欲しいわけではない。
それどころか、エルフの村が滅びてしまうだろう。
でも、竜との戦闘経験がない俺にやれるのだろうか……。
一匹ならまだしも、あれは……。
「クリスト……あれ何匹くらいいるだろう?」
「百はいるだろうな! 大丈夫! 二人でならやれるさ!」
何故か自信満々のクリストが声を上げるが。
俺が闘神流を極めてると思っているクリストでも一人で全滅させるのは無理といっていた敵だ。
俺がどれだけ戦えるかに掛かってる。
いや、うじうじしてても仕方ない。
ライニールと戦った時のことを思い出せば、竜の百匹くらい大したことない。
覚悟を決めよう。
フィオレに対する罪滅ぼしにもなる。
俺達は竜を追いかけるように走り、森の前に着くと乱暴に甲馬から飛び降りた。
そのまま、森を全速力で駈けるクリストの背を追いかけた。
何度もマルガレータの事をマルゲリータと書いて修正した記憶が……。
もし見つけたら笑いながら指摘してください……。




