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好きな子追いかけてたら英雄になってた  作者: エコー
第五章 ドラゴ大陸
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第四十四話「デュラン」


 俺達が鬼族の村から旅立って二十日程立っていた。

 

 やっていることといえば剣術の稽古と魔族語の練習だ。

 それ以外はひたすら甲馬で走っている。

 俺がある程度魔族語を覚えてくると、クリストは魔族語で俺に話すようになった。

 この体が覚えがいいことも相まって、日常会話くらいなら話せるようになっていた。

 


 そして今、クリストを対面して剣を打ち合っている。


 分かっていたが、この男滅茶苦茶強い。

 あくまで俺に闘神流を極めさせようとする動きで、闘気はお互いあまり纏ってない。

 恐らくクリストが本気で闘気を纏ったら俺なんて吹き飛ぶだろう。

 まだ全力のクリストは見たことがないが、底が知れないのは分かっていた。

 

 そんな訳で、純粋な闘神流の技を鍛えているのだが。

 それはもうぼこぼこにされている。

 当たり前だ、クリストは千年以上かけて闘神流を極めている。

 それに加え俺は左腕がなく、まだ剣を振ってから十年程だ。勝てる訳がない。

 

 俺は少しずつ慣れてきた右腕だけの剣でクリストの小手を狙うが。

 俺の剣が届くより前に、クリストが足を上に突き上げると俺の鳴神は宙に舞った。

 神級の剣も宝の持ち腐れだ。

 俺が少し情けない顔をしながら宙に飛んで回転しながら落ちてくる剣を掴むと。


「闘気のコントロールは完成の域にあるな。それだけでもその歳なら上出来だが、技のキレはまだ甘い」

「分かってるよ。まじで勝てる気しないから」

「俺より強くなってくれないと困るんだって」

「剣術の技じゃさすがに追いつけないよ。あの時の闘気を使えたらなぁ」


 俺はそう言いながらライニールと対峙した時のことを思い出していた。

 あの時纏った闘気は滅茶苦茶だった。

 闘気なのに体に負荷が掛かるどころか傷が癒えていたような気さえする。

 ライニールの巨大な闘気にも競り合ってたし、本当に何なんだあれは。

 しかし、この二十日間何度も試したが再びあの闘気を感じることはなかった。


「俺も正直、お前が精闘気を使えると思っててテンション上がったんだけどな」

「うーん……そういえば声が聞こえるなら力を貸せるとか言ってたけどなぁ。どうやったらまた聞こえるんだか」


 そう言って俺は首を傾げながら考えるが、すぐに下を向いて溜息を吐いた。


「前聞こえた時はどんな状況だったんだ?」

「もう死んだって思って諦めてたら、いきなり聞こえたけど」

「死に掛けないと使えないんじゃ話にならんなぁ……いっそ今試してみるか?」


 そう言って真剣を俺に突きつけるクリスト。

 目が迷ってるが、冗談ではなく本当にしそうな気配を感じるぞ。

 まじで勘弁してほしい。


「まじでやめてくれ。俺を導くとか言いながらあの世に送るつもりかよ」

「大丈夫だって! 治癒魔術掛けてやるから!」

「初級だろ……」


 そう言って俺は呆れるが。

 このクリスト、剣士の癖に魔術を使えるのだ。

 ドラゴ大陸で出現する魔物は強く、そして巨体だった。

 二人で処理するの大変だなと思ってたら、クリストが簡単に炎魔術で焼いたのだ。

 光属性と火属性の二種類の初級しか使えないようだが、十分凄い。

 俺もせめて火魔術の初級ぐらい使えたらなと何度も思ったものだ。

 そして、クリストは治癒魔術で治すとか言ってるが。

 死に掛ける傷が初級の治癒魔術で治る訳もない。

 俺がクリストの馬鹿さ加減に呆れていると、クリストも呆れたように言った。


「でもお前どうすんだよ。今のままじゃ災厄と戦ったらすぐ死ぬぞ」

「できれば戦いたくないんだけど……てか精霊使いだったら誰でも精闘気使えるの?」


「いや、巨大な闘気を持ってる奴じゃないと精霊使いでも使えない。闘神と災厄しか纏ってないのもそれだ。精霊使いは最強の魔術師だからな。わざわざ剣を振る物好きもなかなかいないさ」


「闘神は物好きだったのか……」


「かなり変わってたな。本当は災厄倒したのもほとんど闘神なんだぜ。あいつは目立つの嫌いだから、皆で倒したことになってるけど」


「どんだけ強いんだって驚きだけど、俺もそれには同意かな……。それよりクリスト、弟子とか言ってる割にあいつとか言っていいの?」


「いいんだよ。そんな堅苦しい関係じゃないし。俺とお前もそんな感じだろ」

「まぁ、そうだけど」

「闘神と俺の関係なんてどうでもいいさ、続けるぞ」


 それだけ言うと、クリストは剣を構えて俺を待った。

 俺も剣を握り締め、稽古を続けた。



 早朝から二時間ほど稽古すると、すぐに甲馬に乗って旅を進めた。


 飯の時間は決まってない、適当だ。

 クリストが腹が減ったと思ったら適当に森に入って魔物を狩る。

 調理は適当で、料理とは呼べないし呼びたくない。


 グリフォンとか何かも分からない虫のような魔物をクリストが丸焼きにする。

 そして二人でそれに野蛮に噛り付く、こんな俺を見せたらセリアでも引きそうだ。

 ランドルは気にしないだろうか、エルは怒り狂ってクリストに魔術をかましそうだ。

 そんな想像すると更に悲しくなる。


 最初は俺も、丸焼きを食えと言ってきたクリストに正気かよと詰め寄ったが。

 クリストは気にした様子もなさそうで、食わない俺を不思議がっていた。

 俺も他に食う物はないし、肉の味しかしない絶望的な食事を続けている。

 そして慣れてきてしまっていた自分が恐ろしかった。

 もう旅の途中食べたエルの料理の味を思い出せない。

 どんな味だったかな……そう思いながら早く町で舌を戻したいと真摯に思った。


 


 そのまま数日が過ぎると、予定より早くに町に到着した。

 魔族の町と聞いて野蛮なイメージがあったが、町並みは綺麗なものだった。

 しかし全然違うものもあった。

 町を歩く人達の、いや魔族達の顔ぶれだ。

 クリストのような人の姿をしている魔族もいたが、やはり少し変わっていた。

 形は人なのに顔は蛙の奴もいれば、鳥の羽が生えている奴もいる。

 やっぱりただ長寿なだけじゃなくて人種とは違う見た目が多いんだなと実感する。


 そしてちょっとドキっとしたのが、耳が長い種族だ。

 間違いなくエルフ、本で読んだ通り耳が長く全員顔立ちが美しかった。

 

 そんな俺の考えを他所に、クリストは行き先が分かっているようで迷いなく歩いた。


 しばらくすると、石造りの工房のような建物に着いた。

 扉が付いてない建物にクリストは我が家のように入っていく。

 俺も中に入ると、錬鉄を叩く長い髭を伸ばしたおっさんの姿があった。

 一瞬人に見えたが、よく見ると腕が竜のような硬そうな鱗に包まれていた。

 俺達に気付かないように作業しているおっさんの後ろからクリストが声を掛ける。


「バーン、おーい………おい! バーン!」


 クリストがバーンと呼ぶ男は、クリストが耳元で怒鳴るとやっとこっちを向いた。

 そして俺達の顔を確認すると、面倒そうな顔で言った。


「何だよ。今仕事してんのが見えねえのか? 終わってからこい」

「この前そう言われて終わるの待ってたら一年経ってたじゃん」

「じゃあまた一年待てよ」


 二人の会話の内容についていけない。

 魔族特有だな……本当にこの大陸にいると何もしないまま爺さんになりそうだ。

 クリストは「仕方ないな」と言いながら俺を手招きする。

 俺が二人に近付くと、クリストが俺を見て腰に手をやったので裸の鳴神を取り出す。


「ここに来たのはこの剣の鞘を作って欲しくてさ。

 お前も見るのは初めてなはずだぜ?」


 そう言うクリストに、バーンは面倒な顔で俺を見る。


「あ、ども」


 俺の挨拶は無視され、俺が手に持った剣を凝視するとバーンは立ち上がった。

 そして勢い良く俺の肩を掴むと、俺から剣を取り上げた。

 何なんだ……。


「お、おい! これ鳴神じゃねえか! どうしたんだよこんな代物」

「こいつの剣だ、アルベルって言ってな」

「は? このガキの? しかも人種じゃねえか……」


 そう言って馬鹿にするように俺の顔から全身をじろじろと見始める。

 次第に呆れたような顔から真面目な顔に変わっていった。

 そんな様子を見ていたクリストが口を開いた。


「な? 問題ないだろ?」

「あぁ……不思議だが、剣に遊ばれることはなさそうだ」


 一応褒められているんだろうか。

 俺が軽く頭を下げると、バーンは俺に何も言わずに背を向けた。

 その背に向かってクリストが言う。


「旅を急いでるんだ。悪いが早くに仕上げてくれ」

「数日待ってろ。邪魔だから出ていきな」


 バーンが言うと、俺達は何も言わずに工房から出た。

 数日暇になったか、これから何をするんだろう。


「アルベル、お前冒険者だったよな?」

「え? そうだけど」

「金稼ぎに行くか、この町に冒険者ギルドあるし」

「は? ドラゴ大陸に冒険者ギルドってあるの?」

「冒険者ギルドは世界共通だぞ。

 俺は冒険者じゃないしお前が依頼を受けてくれよな」


 そう言って歩き出すクリスト。 

 正直驚きだ、何故だろうか、ドラゴ大陸には冒険者ギルドなんてないと思い込んでいた。

 しかし、考えてみればドラゴ大陸のほうが魔物が凶暴なんだから冒険者が必要か。

 一人納得すると、結構大きい冒険者ギルドに入った。

 

 ギルド内はさすがに竜がわんさかいる大陸なだけあってルカルドの冒険者よりも全員強そうだ。

 人種の俺は珍しいのだろう、変な目で見られてる気がする。

 そして壁に貼ってある依頼を見るが、文字が読めない。

 言葉は覚えても、読み書きまではさすがに覚える暇はない。

 クリストが適当に依頼の紙を眺める。


「クリスト、俺今剣ないから。無茶な依頼はやめてね」

「え? あぁ、そうだったな。でもそれなりに稼がないとなぁ……」

「鞘作るのってやっぱり結構かかるもんなの?」


 俺が言うと、はぁ? とクリストが毒吐くながら言う。


「お前に取られた服を買いなおすんだよ! それ高いんだからな! まぁ、同じ物は多分ないだろうけど……」


 そう言って恨めしそうに俺を見るクリストだが。

 正直全然違うデザインにしてほしい、こんな美形に似た服で並ばれたくない。

 しかし、バーンの方はいいんだろうか?


「鞘の金はあるの?」

「次来た時に金があったら渡すよ。そういえば前もそんなこと言った気がするな……まぁいいか、あいつも忘れてそうだし」


 一人で納得してるクリストだが、いいのだろうか……。

 まぁバーンが気にしてないならいいか。

 

 しばらくすると、クリストは一通り見た後、依頼を剥がして俺に渡した。


「これ何の依頼?」

「近くに竜がいるんだってさ。遠くまで行くのも面倒だろ」


 そんなこと言ってるが、竜討伐ってSランクでは……。

 数十人の冒険者で一匹を倒すと聞いたぞ。

 まぁ、クリストの強さなら一匹くらい問題ないのか?

 俺はまだ竜を見たことがないから分からない、スカルドラゴンは別物だろうし。

 でも一応聞いとくか。


「一人で大丈夫なんだよね?」

「大丈夫に決まってるだろ。何だ、もしかして竜を見たことないのか?」

「うん、骨だけ」

「じゃあ今のうちに慣れとけ。旅で近道する時に竜の巣を通るつもりだからな。さすがに巣を通る時はびびって足止めたら死ぬからな」


 その言葉に額や背筋の至る所から冷や汗が流れる。

 しかし、近道と聞くと仕方ないと思ってしまう俺もおかしいのだろうか。

 一日でも早く帰りたいのだ、クリストの言う通り竜を見るのに慣れとくか。

 クリストがいればさすがに一匹の竜で俺が死ぬことはないだろうし。


 俺は「分かったよ」と言うとカウンターに依頼の紙を持っていくが、ふと思った。

 これっていいのか?

 俺は依頼受けて他の人に倒してもらうだけだけど。

 かといってクリストは冒険者じゃないみたいだしカードを作ってもFランクだ。

 受けれる依頼はこんな所じゃなかなかないだろう。

 いや、もういいか。

 俺は細かいことを考えるのはやめて、依頼を受けた。




 休む間もなく甲馬に乗ると、半日程かけて二人で竜の住処へ向かった。

 俺達が甲馬から降りて岩の山を駆け上がっていくと、いた。


 真っ赤な巨体で俺達の気配を感じ取っていたのか、こちらを見ていた。

 俺達が姿を見せた瞬間、竜は牙を光らせながら口を開けた。


「ガアアアアァッアアア!!!!」


 物凄い声量で威嚇すると、空気が震えているようだった。


 しかしクリストは表情一つ変えず、剣を抜くと闘気を剣に集中させた。

 稽古とは違って巨大な赤い闘気、やはりこの男の力はとんでもない。

 闘気の奔流が巻き起こると、クリストは足を動かさずに剣を振った。

 瞬間、赤い闘気の刃が輝くと竜に向かって放たれる。

 闘波斬、俺も教えてもらってから毎日練習している技。

 その刃が疾走すると、竜の首は宙に飛んでいた。


 簡単すぎないか……。

 そう思った瞬間、竜はその巨体を倒して地面が大きく揺れた。


「クリスト強すぎだろ」

「お前もこれぐらいすぐできるようになるって」


 俺が褒めても何ともないように返してくる。

 そのままクリストは血に塗れるのも気にせずに、竜の心臓部分から何か石をほじくりだした。

 確かルルから聞いたことがある、あれが魔石か。

 赤くて、エルの杖についてた物と似てる気がする。


 その人の手のひら程ある大きな石を見てクリストは満足すると、竜を燃やした。

 そして骨だけになった竜を乱暴に何度か蹴ると骨が砕けて散っていった。



 帰り道、甲馬に乗りながらクリストに質問する。


「ドラゴ大陸にいる竜とコンラット大陸にいる竜って同じなの?」

「今狩った炎竜は行動範囲が広くてコンラット大陸によく渡るぞ。向こうで狩られる竜はほとんどこれだな」


 やはり見た目通りの炎竜なのか。

 海竜といい、やはり色んな種類の竜がいるのだな。


「炎竜と海竜ぐらいしか俺知らないんだけど、

 他ってどんなのがいるの?」


 俺の言葉にクリストは考えるようにうーんと言いながら。


「ドラゴ大陸から動かないのは雷竜とか、色んなのがいるぞ。

 ドラゴ大陸どころか縄張りから一切出ないのもいるしな。

 魔竜とかは魔族でもなかなか見る機会はない」


 魔竜ってなんか強そうな名前だな。


「魔竜ってどんな竜なの?」

「魔竜の鱗は魔術を弾く効果があるんだよ、剣士以外倒せない。固体は他の竜と比べると少し小さいし、目も悪いし弱いけどな」


 そんな凄い竜もいるのか。

 そんな鱗だったら、かなり高額で取引されて皆で狩りにいきそうだけど。


「その竜の鱗を取りにいこうって思う人いないの?

 魔術を弾く防具とか見たことないんだけど」


「縄張りから一切出ないって言ったろ。

 あんまり繁殖しない竜だけど百体以上は群れてるんだ。

 そんな所に突っ込む馬鹿はいないさ」


「クリストでもだめなの?」


 俺の言葉にうーんとまた考え出す。

 悩むということは倒せるのは倒せるのか?


「うーん、死ぬことはないだろうけど、

 さすがに全滅させるのも難しいだろうな。

 アルベルと二人ならいけるかもしれないけど」


 さすがにクリストでも竜の群れを一人で相手するのは難しいのか。

 一人で無理でも俺とならやれるかもって結構評価されてるのか俺。

 結構嬉しいな。

 ちょっと気になったことも聞いてみる。


「闘神だったら?」


 俺の言葉に、クリストは当たり前のように答えた。


「問題なく全部狩れるだろうな、それぐらい強かったんだ。

 アルベルも精闘気を使えるようになったら狩れると思うぞ」


 闘神もそうだが、やはり精闘気が鍵なのか。

 確かにあの力は異常だったからな。


「そっか、いつか自由に使えればいいけどね」

「頼むぜ」


 それだけ言うと、会話は終わった。

 甲馬で揺られながら景色を眺めていると、すぐに町が見えた。




 町に帰ると、依頼を報告して何枚かの通貨らしきものをもらった。

 一番大きいのが真っ黒の石のような物で、他は銅とか正直よく分からない。

 まぁ俺が管理する訳じゃないからいいかと、クリストに全て渡す。


「結構いい値になったな、宿探そうぜ」


 さすがに竜の討伐は高いらしい、素材は魔石以外燃やしてしまったが。

 まだ魔石は売ってないし、いざという時の軍資金にするのだろうか。


 しばらく歩くと、クリストが迷いなく目に入った宿にずかずかと踏み込んで行く。

 分かっていたが細かい所はこの男、適当だ。

 ドラゴ大陸の通貨を覚えて俺が管理したほうがいいような気さえするぞ。


 俺は少し不安になったが、クリストの後ろに続いた。

 クリストが亀のような姿をした店主に頼んだのは十泊。

 一度頼めば十泊しなくても金が返ってくることはない。

 鞘は数日って言ってたのにいいのだろうか……。


 宿が決まるとクリストが服買ってくると言って部屋から出て行った。

 俺は人種の俺が外で剣を振ると目立って集中できないと思い、部屋で剣を振った。

 


 しばらくするとクリストが戻ってきた。

 それは嬉しそうに。

 そして、俺は驚愕して固まってしまった。

 そんな俺を他所にクリストは楽しそうに話し始める。


「いやー! まさか同じのがあるとは!

 やっぱこれが落ち着くなぁー!」


 そう言って嬉しそうに俺に見せ付けるように一回転する。

 俺は先ほど脱いだコートを見ると、やはり、全く同じ物だった。

 

「何で同じの買うんだよ! 男二人でお揃いとか気持ち悪いだろ!」

「はぁー? いいじゃん別に。兄弟に見えるんじゃね?」

「見える訳ないだろ! 自分の顔と俺の顔見比べてみろよ」

「アルベル、何が言いたいのか分からない」


 俺の顔を覗きこみながら首を傾げてるクリスト。

 至近距離にあるクリストの顔はやっぱり美形だ。

 俺は苛立ちながら言った。


「クリストは美形だけど、俺の顔は平凡だからさ。

 一緒の服着てるとかわいそうだろ、俺が」


 俺が言うと、クリストは再びはぁ? と言いながら言った。


「確かに俺は美形だ。強いし優しいしモテるけど。

 お前も別にイケてるほうだろ、成長したらいい男になると思うけど」

「え……そう?」


 初めて外見を褒められ、ちょっとドキっとしてしまった。

 俺って自分で思ってるよりイケてるの?

 一番怪しいのは魔族の感覚がずれてるかもしれないことだが。

 クリストが自分をイケメンというからにはそういうわけでもなさそうだ。


 思えば、俺の周りには何故か顔立ちが整っている人が多い。

 イゴルさんとセリアもそうだし。

 エリシアは言うまでもない、ルルも幼いながらに整っている。

 セルビアで出会ったローラやイグノーツもそうだ。

 ランドルも筋肉は無視すると男前だし。

 エルは天使だ。


 自分を卑下してしまうのは仕方ないだけで実はそうだったのか?

 ちょっと言われただけで舞い上がりすぎか?

 仕方ないじゃないか、嬉しかったんだから。

 俺は男に褒められただけなのに少し頬を赤くする。


「ならいいよ……それに、この服が着れなくなったらまたもらえるしね」

「まじで勘弁してくれ」


 それだけ言うと会話が終わった。


 


 俺達は日が暮れていたこともあって寝ることになった。

 しかし。


「おいアルベル、我儘もいい加減にしろよ」

「どっちがだよ、千歳以上年下の子供に床で寝させる気か」

「旅の仲間である以上、俺達は対等だろ」


 二人共折れず、軽く揉め始める。

 発端は、俺が当たり前のようにベッドで寝ようとしたことだ。

 それをクリストは止めた、どっちがベッドで寝るかは話し合うべきだと。


「千年も生きてたら床で寝ることなんか慣れてるでしょ? 別に他の人だったら譲るけど、クリストに譲るのはおかしい気がするんだよ」

「お前を十年待ってる間ずっとベッドで寝てたからな。体が求めてるんだよ」

「大体、どうせ十泊もしないんだから五泊にして二部屋にすれば良かっただろ」

「そうか! もう一部屋とればいいのか! 早く言えよなぁー」


 そう言って勝手に納得して部屋から出て行った。

 クリストは、そのまま戻ってこなかった。

 やはり、金の管理は俺がしようと誓った日だった。




 次の日、剣術の稽古が終わり二人で宿で休んでいた時、ふと思った。


「クリスト、何で人種の大陸に魔族がいないの?

 昔はいっぱいいたんでしょ?」


 俺がドラゴ大陸のことを聞くのは割といつものことだ。

 クリストは何でも知ってるし、いつもすらすら教えてくれる。

 しかし、俺が聞くとクリストは一瞬寂しい顔を作った。

 すぐに首を軽く振ると、いつも通り話し出した。


「色々あるが、一番は子供が理由だろうな」

「ん? よく分からないけど」


「人種と魔族が結ばれて子供ができると、子供は人側に寄るんだ。

 魔族の特徴も軽くは受け継ぐけど、基本的に人種と変わりない」

 

「それが何で理由になるのさ」


 もうちょっと自分で考えた方がいいだろうか。

 いやでも、俺の頭じゃこの説明で分からないしな。

 クリストも気にした様子はなく、普通に答えた。


「誰だって、自分の子が自分より先に老けて死んでいくのを見たくないだろ」


 そういうことか。

 寿命も人種と同じになってしまうのか。

 確かに、それを見るのは辛いかもしれない。

 クリストにも子供がいたんだろうか、さっき見せた寂しい顔を思い出してしまった。

 もう聞くのはやめておこう。


「よく分かったよ」

「おう」


 会話は終わり、また二人で体を休めることに集中した。




 そのまま四日経った。

 

 やっていた事といえば何も変わらない。

 一回だけまた時間を持て余して竜を狩りに行ったぐらいだ、狩ったのはクリストだが。

 基本的に二人で剣術漬けだった。

 

 そして、そろそろいいだろうとクリストがバーンの様子を見に行こうと言い始めた。

 そんなわけで俺達は今、工房の前にいる。


 二人でずかずかと入り込むと、バーンは前と違ってすぐに振り向いた。


「おう、できてるぞ。持ってけ」

「助かるぜ」

「ありがとうございます」


 そう言ってバーンは金を要求することもせず、棚に置かれた鞘に目をやった。

 刀身に合わせたのか、真っ黒な鞘だった。

 俺はてっきりシンプルな物を渡されると思っていたのだが、意外と装飾がついていた。

 綺麗な無色透明な石が少し輝いているのは悪くない。


 一応鞘に入っている剣を抜くが、動作に違和感はなく気持ちよさすら感じる。

 プロの仕事だ、長命な魔族のことだろうから職人技も人種と比べ物にならないのだろう。

 

 俺は満足すると、腰の剣帯に鳴神を掛けた。

 その様子を見たクリストも満足したようで、じゃあなと言いながら先に去って行った。

 俺も追いかけようとバーンから背を向けるが、背中から声が掛かった。


「おい、小僧」

「え? 何ですか?」


 俺が振り向くと、無表情でバーンは髭を指で遊ばせながら言った。


「前の剣を引きずってるようだが。忘れろとは言わないが切り替えろ。その剣は他のどんな剣よりもいい物だ」


 その言葉に、少し心臓が跳ねた。

 正直、図星だった。

 白桜がないから仕方なく使ってる部分はあったから。


「よく分かりますね」

「長いこと鍛冶師やってるからな。

 そんな極上の剣を仕方なしに使われるのは剣がかわいそうだ」

「……そうですね、肝に銘じておきます」


 確かに、この剣に申し訳ないな。

 これから命を預けて共に戦う相棒に抱く気持ちではなかった。

 大事に使おう。


「おい! アルベル! 何やってるんだ!」


 表で待っていたクリストから大きい声が放たれる。

 魔族は気が長いと言う割りにせっかちな所もあって面倒だな。

 旅を急がしているのは俺だから文句は言えないが。


「行きな」

「はい、ありがとうございました」


 それだけ言うと工房を後にした。

 少し悲しいのは、この大陸で出会った人達とは二度と会えないと思うからだろうか。

 あれだけ世話になったバニラとももう会えないだろうし。

 ちゃんと覚えた魔族語で会話してみたかった気持ちもあるのでやるせない。


 

 俺は後ろは振り向かず、デュランを後にした。


色々な説明と新しい剣に切り替える回でした。

次の話から物語が動いていきます。

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