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好きな子追いかけてたら英雄になってた  作者: エコー
第五章 ドラゴ大陸

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第四十二話「それぞれの出発 前編」


「それでクリスト、この方は?」


 俺は目の前で二人が謎の言語で話す中、邪魔にならないタイミングで聞いた。

 するとクリストは俺を思い出したかのように言った。


「この人はバニラだ。お前の体を治療してくれたのもこの人。

 命の恩人だぞ」


 その言葉に俺は目を見開く。

 しかし感謝を伝えようにも言葉が分からない。

 まぁ、感謝の気持ちをこめたら雰囲気で伝わるかな。

 俺は腰掛けていたベッドから立ち上がる。


「バニラさん、ありがとうございました」


 そう言って深く頭を下げる。

 しばらくして頭を上げると、バニラは微笑んでいた。

 とりあえず伝わったように見える。


「俺も旅の間、常にアルベルと一緒って訳にもいかないだろうからな。

 少しくらい話せるように道中魔族語を教えてやる」

 

「助かるよ」


 そして今どういう話になってるんだろうか。

 というか今になって思った。俺って一体何日寝てたんだ?

 セルビアと違って腹が減ってないから気にならなかった。


「今更だけど、俺って何日くらい寝てたの?」

「ん? 十日は過ぎてるかな?」


 まじか。

 しかし、十日も寝ててなんで生きてるのか不思議なくらいだ。

 俺が考え込む仕草を見せると、クリストが言った。


「ここに住む鬼族は不思議な力があるって言ったろ。

 特殊な治癒能力があってな。詳しい説明はまたしてやる」


 そう言うクリストに俺ももう考え込むのを止めた。

 とにかくこのバニラという女性が十日以上も俺の看病をしてくれてたのであろう。

 鬼族という名前を改名してほしい程に優しい人だ。

 というか、十日って。


 俺は金貨の袋やセリアの剣が置かれている俺の小物がまとめられている机の前にいく。

 すると冒険者カードがあった。

 そこの自分の年齢の所を見ると、やはり十五歳になっていた。

 寝てる内に過ぎちゃったな。

 そしてパーティメンバーの欄を見ると、エルとランドルの名前があった。

 この刻み込まれた名前はギルドに脱退申請をしないと消えない。

 死んでいても消えないのでエルの生死は確認できない。

 仲間が死んだ場合はリーダーが強制脱退させなければならない。

 もしリーダーが死んでたら、メンバーが自分で脱退する必要がある。


 でも、きっと生きてくれてると思う。

 ランドルならきっとエルを救ってくれたし、俺が帰るまでも助けてくれる。

 いくらお互い嫌っていようが、二人は同じパーティの仲間だから。


 そして問題は、多分二人共俺が生きていると思っていない。

 それでも二人は俺の転移した先を探してくれるだろう。

 でもまさかドラゴ大陸にいるとは絶対に思わない。

 多分、最後にセリアの所に転移したと思うはずだ。

 パーティ内でも決めていた、もし攻略して転移できたら皆でセリアを思い浮かべると。

 イーデン港は封鎖されてるから、南に下ってエルトン港に行くだろうか。

 金は俺が管理してたので二人は大した手持ちを持っていないだろう。

 それが少し心配だ。


 どうしたら二人に俺が生きていることを伝えれるだろうか。

 とりあえず一つの案をクリストに聞いてみることにする。


「クリスト、ドラゴ大陸からも手紙って出せるの?」


「出せるぞ。人種の大陸に出すのは大金が掛かるけどな。でもドラゴ大陸から出す手紙なんてアルベルには意味ないぞ」


「何で?」


「魔族は時間の感覚がずれてる。魔族の一年はお前が一日過ごす感覚に近い。手紙出しても、到着したのは十年後とかよくある話だぜ」


 さすがに酷すぎないだろうか。

 魔族はそれぐらい何も気にしないのだろうか。

 やはり他の方法を考えるしかなさそうだ。

 一番は早くドラゴ大陸を抜けることだが、それ以外の方法も一応考えておこう。


「じゃあ早速出るか」

「は? お前起きたばっかりだろ」

「バニラさんのお陰で少し体が重いぐらいだよ」

「旅にも準備が掛かるしちょっと待て。大体、そんな格好で出る気かよ」


 そう言って俺の寝巻きのような格好を見る。

 うん、確かにこれはまずいな。

 というか左腕がないのが不恰好だ、隠したい。


「俺の着てた服ってどこにあるの?」


 俺が聞くとクリストはバニラに何か話しかけた。

 バニラは頷くと部屋から出ていき、しばらくすると戻ってきた。

 

 腕には俺の赤茶の剣士服を抱えていた。

 何度も直し、気に入ってずっと着ていたエリシアからもらった服だが。

 よく考えたら分かることだが悲惨なことになっていた。

 バニラが俺の上着を広げると、左腕の部分は千切れてるし。

 胸には剣が突き刺さった穴に背中は壁に何度も叩きつけられボロボロだった。

 さすがにもう直せない。


「もう着れなさそうだね、気に入ってたんだけど」

「別に服なんて何でもいいじゃん。それっぽいのだったらいいだろ」


 そう言って適当に笑うクリスト。

 俺はクリストのダークグレーのコートを見る。

 綺麗な素材だし、よく見ると灰色なのにキラキラしている気がする。

 襟元の装飾も綺麗な青い石がついててシャレてるし、格好良い。

 これがいいな。


「そういうならそのコートくれよ」

「え? 嫌だよ気に入ってるんだから。大体、お前じゃ背丈足りないじゃん」


 人に何でもいいだろと言いながら嫌がるクリスト。

 

「何でもいいんでしょ、足りない分は切るよ。ちょっと大きくても今成長期だし大丈夫」

「えー……」

「見てくれよ俺のこの無様な左腕。隠したいんだよ」

「……分かったよ」


 そう言って嫌そうにしながらもコートを脱いだ。

 コートを脱ぐとさっきまでは軽く覗いてただけの白い剣士服が目に入った。

 さすがにこの剣士服までねだって裸にすると怒るだろうか、やめとこう。


 とにかく、とりあえずは気に入った服を着ることはできそうだ。

 バニラの着ている服を見る感じ、ちょっと民族衣装っぽい。

 ここで服をもらっても俺には似合わないだろうしな。


 クリストから手渡されたコートを身に纏う。

 左側は腕を通さない、知らない人が見れば格好つけに見えるだろうか。

 しかしそんなことより、分かっていたが裾が地面についてしまった。

 右手も裾で隠れて姿を見せない。

 そんな俺のみっともない姿を見て、クリストは溜息を吐きながら「貸せ」と言ってきた。

 俺も素直に脱いでクリストに手渡すと。


 クリストはコートを綺麗に宙に投げ、腰の剣を抜いた瞬間何回か振った。

 おぉ、なんて鋭い剣筋だ、なんて。

 何をしているのかよりも剣の鋭さに感心していると、コートの切れ端が床に落ちた。

 再び手渡されたコートを纏うと、少し大きいが右手は出せるし裾を地面に擦りつけながら歩くこともない。

 これくらいならもう少し成長したらいい大きさになるだろう。

 剣で雑に斬ってしまったので袖が少し変だが、どこかで直してもらえばいい。

 一部始終眺めていたバニラも俺がコートを纏った姿を見て微笑んでいる。

 俺はクリストに微笑んだ。


「クリスト、ありがとう」

「もういーよ……新しいの買うし……」


 お揃いになってしまうのだろうか。

 クリストは美形だし、同じ服を着ると俺が可哀想なことになってしまうぞ。

 その時は違うデザインを進めることにしよう。


「それで、いつ頃出発できるの?」


「甲馬借りないとな、まぁ結局もらうことになるだろうが。

 飯は適当に道中魔物を食うことにするか。

 思えばそんなぐらいだな、明日出るか」


 甲馬ってさっき見た鱗のある馬だろうか。

 俺、馬なんか乗ったことないけど乗れるのか?

 俺とクリストなら自分の足で走るのもいい気がするが。


「甲馬って速いの? というか馬の走る道あるのかな」


 これはもちろんショートカット的な意味だ。

 ドラゴ大陸に街道があるのかは知らないが、さすがに馬では険しい道は進めないだろう。


「速いぞ、でも使うのはドラゴ大陸の中腹くらいまでだな。そこからは近道するし甲馬が通れない道を走る。とりあえず一月掛けて一番近い町のデュランまで行くぞ。ドラゴ大陸は町同士の間隔が広いからな」


「俺達の足より速いの?」


「そりゃ自分で全開で走ったほうが速いけどな。甲馬で行く理由は体力を残せるようにだ。甲馬で移動しながらお前に剣術の稽古をつけてやる」


「それは……嬉しいな」


 左腕のない戦い方にも慣れないといけないしな。

 それにクリストは闘神流の凄腕だ。

 教えてもらえれれば絶対に俺は成長する。


「デュランに寄ったらそれからはあまり町には寄るつもりはない。目的はお前の剣の鞘だ。さすがに鳴神をずっと裸で持ち歩くわけにいかないだろ」


 そう言って壁に立てられている裸の鳴神を見た。

 確かにこのままではよろしくないのは俺も考えていた。

 クリストも結構ちゃんと考えてるんだな、滅茶苦茶な奴だと思ってたけど少し安心だ。


「俺に何かできることある?」

「ここを出る準備は俺が全部しといてやる。鈍った体を少しでも治しとけ」

「分かったよ」

「ま、とりあえず飯でも食うか」


 そう言って俺を手招きすると、バニラに率いられ俺達は部屋から出た。

 部屋を出ると、町の中でも結構大きい建物らしく何個か部屋があった。

 そして居間のような広い空間のテーブルに掛ける。

 バニラが何かの準備をするように台所のような所に行くと、俺は聞いた。


「ここって何かの施設?」

「族長の家だからな、他よりでかいだけだ」


 その言葉にへぇーと周囲を眺める。

 アスライさんの家くらいあるだろうか。

 

「まだ挨拶してないしお礼言わないとな。

 クリスト、ありがとうの魔族語教えてよ」


 俺がそう言うと、「はぁ?」とクリストは言うと、続けた。


「もう挨拶しただろ」

「俺はまだここにきて二人にしか会ってないよ」


 そう言ってクリストとバニラを見るが。


「バニラが族長だよ。お前はまだ見た目で見る癖が抜けてないな」


 クリストがそんなこと言った。

 えぇ、バニラは可愛らしい感じの女の子にしか見えないぞ……。


「まじかよ、ちょっと角が生えてる可憐な女の子だと思ってた」

「俺とそんなに歳も変わらないぞ。アルベルより大きい子供もいっぱいいるしな」


 恐ろしい魔族の寿命と見た目だな。

 人種から見れば羨ましいことだ。それだけ生きてて美しいままだなんて。

 俺がすげーとバニラを見ていると、大皿に食材を乗せたものを運んできた。


 テーブルに置かれるそれを見ると、白い肉と野菜の炒め物のような料理だった。

 何の肉か分からないし、野菜も見たことないものだ。

 しかし香りは芳ばしくて食欲がそそられる。

 左手がなくて行儀は悪いだろうなと思いながらも、一緒に置かれたスプーンに手を伸ばして食った。


 うん……美味いな。


 食ったことのない肉だ、前世の海老のような味がする。ドラゴ大陸にしかいない魔物だろうか。

 

「この肉美味しいね、何の肉?」

「ロックスコーピオンだな」


 スコーピオン……サソリ?

 え、これ虫なの?


「え、サソリの肉?」

「そうだよ」


 一瞬眉をひそめてしまうが、さすがに失礼だ。

 美味いのだからいいじゃないか、前世の悪い癖だな。

 エルだったら気分が悪くなって吐き出すかもしれないが。


 気にせずガツガツ食べる俺を見て、バニラは嬉しそうに微笑んでいた。




 食事が終わるとクリストが外に出て行った。

 俺も家の外に出ると剣を振った。

 新しい剣の鳴神。

 まだ俺にはこの剣を使うには腕が足りないと思っていたが。

 そもそも物理的に腕が足りなくて困っていた。

 今まで両手で素振りしてたのが右腕だけだとかなり違和感があった。

 体術ありきで片手で剣を振ることはあったが、拳を出す左腕はもうない。

 蹴り技も左腕がないだけでバランスが取り辛く、しばらくは慣れそうにもなかった。

 できることが少なくなったと実感する。

 何か、今の俺でもできる技を増やさないとな。


 そう思いながら剣を振っていると、試行錯誤してる間に陽が暮れてきた。

 

 いつの間にかクリストが家に背を預けて立っていた。

 見られていたのか。

 俺の視線に気付くと、クリストは口を開いた。


「左腕がないのが辛そうだな」

「そうだね、さすがにすぐには慣れないよ」

「それにしても練習してた型が少ないな。左腕がないからというより知らないように見えたけど」

「あー…そういえばライニールと戦った時も知らない闘神流の技見せ付けられたな。なんか闘気飛ばしてきたんだけど」

「闘波斬か」


 闘波斬? と心の中で復唱すると、クリストが剣を抜いて腰を落とした。

 あまり闘気を乗せてはいないが、剣に集中していくと光るように見えた。

 クリストが空に向かって剣を振ると、闘気の刃が空に向かって疾走していった。

 そしてその刃ははるか上空まで続き、雲を斬ると見えなくなった。

 ライニールがしてきたのと同じ技だ。


「それだよ! 闘気を飛ばすなんて発想なくてさ、まじびびったよ。クリスト、今度教えてよ」

「できる奴が少なくなって忘れられたんだろうな。今度じゃなくても今教えてやるよ」


 そう言ってライニールが俺の前に立ち、コツを教えてくれる。

 闘気を剣に集中させ、剣圧と共に鋭利な闘気を飛ばすイメージ。

 そして誰の目にでも見えるぐらい闘気を集中させ、具現化させる。

 簡単に言ってくれるが、できるだろうか。

 俺も見よう見真似で腰を落とし、剣に闘気を集中させる。

 そして言われた通りにイメージする、某戦闘漫画の主人公はこんな気持ちだったんだろうか。

 剣を振ると同時に鋭利な闘気を一緒に飛ばす。

 すると、確かに闘気が剣から離れ、空に向かって飛んでいった。


「おぉっ!」


 自分で驚いて声を上げるが。


「あれ?」


 クリストのように天まで上がることはなく、途中でフッと消えてしまった。

 何でだろう? 思わずクリストを見てしまうが、クリストは当たり前のように言った。


「さすがにいきなり俺と同じレベルは無理だ。イメージが大事なんだ。でも初めてで成功するのは凄いぞ。さすがにセンスがあるな」

 

 そう言って満足そうに俺を褒めていた。

 ならいいんだろうか? これから毎日練習してみよう。

 そして少し気になったことが。


「これってやっぱ闘気減るよね? 闘気が減ることに驚いたんだけど、戻るの?」


 ライニールの時も闘気が減ったように見えたんだよな。

 

「さすがに体外に放出したら減るだろ。安心しろよ、寝たらある程度はすぐに回復する」

「良かった……」


 でも当然か。技として存在してるのに使ったらせっかく育てた闘気が減るなんて有り得ない。

 しかしこれは左腕のハンデを埋めれる技だ。

 大きな武器を手に入れたぞ、これもクリストのおかげだ、やっぱりクリストは凄い。

 

「師匠って呼んだほうがいい? いいですか?」

「やめろよ気持ち悪いし、普通に話せよ」


 本気で嫌がるクリスト。

 俺も何故かクリストに畏まる気になれないので「分かった」とあっけなく返事する。

 

「明日の早朝に出るぞ、今日は早めに休んどけよ」

「了解」


 そう言って俺を置いて家の中に入るクリストに俺も続く。

 バニラが軽く小物を入れれる鞄を俺に差し出してくれて、俺は自分の私物を鞄に仕舞った。

 

 そして今は散り散りになってしまった仲間のことを考え、眠った。




 早朝になるとクリストが俺を起こしにきた。

 その手には、この村の服だろうか。

 一般的とは言えないが、綺麗な白い布地に青い装飾が入った服を持っていた。

 俺は渡されるまま着替えるが、案外悪くない気がした。

 ちょっと色合いがあの頃のセリアの剣士服に似ている。

 今セリアはどんな服を着ているんだろう、見てみたいな。


 そして着替え終わるとクリストと家を出た。

 バニラを探すと、甲馬の前で待っていた。

 見送ってくれるらしい。

 そして甲馬は一頭だけだった。


「二人で乗るの?」

「お前片手じゃ乗りこなせないだろうからな。この馬は気性が荒い」


 そう言われ馬の顔を見るが、確かに動物というより魔物が混じっている。

 馬のくせに歯が牙のようになってるし……絶対肉食だ。

 少し顔を見てぶるっとすると、バニラの前に立った。

 昨日クリストに教えてもらって精一杯覚えた言葉。


「バニラさ、ん。ありが、とう」


 俺のつたない魔族語だが、伝わったようでバニラは微笑んでくれた。

 やはり鬼族は改名するべきだと思う。


 そして、他の村の人も集まってきた。

 俺を見送るというより、クリストに親しそうに話しかけ別れを惜しんでいるように見える。

 そういえば結構前から待ってたと言っていたな、相当慕われているようだ。

 いきなり降って湧いた俺を世話してくれたのも、多分クリストのお陰なんだろうな。

 そう思って様子を眺めているとクリストは甲馬に飛び乗った。

 

「ほらアルベル、乗りな」

「う、うん」


 初めての乗馬にちょっと緊張しながらも俺もクリストの後ろに飛ぶように乗った。

 ずしりと安定感を感じる、尻から伝わる硬い筋肉は頼もしい。

 

「ÞƟʘϾϿЮѲ!! 」


 クリストが振り向いて何か言うと、村人達も俺に理解できない声を上げながら手を振った。

 俺もバニラを主に見ながら微笑んで手を振ると、馬は急に走り出した。


「うおっと!」


 振り下ろされそうになる勢いに、思わずクリストの裾を握る。

 俺のそんな慌てる様子を気にすることもなく、馬は鱗に包まれた丈夫な足で駈けていった。


 俺は移り変わっていく風景を見ながら仲間の顔を思い浮かべた。


 すぐに帰るよ、そう心の中で思いながら。

後編はエル視点で話が進みます。


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