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好きな子追いかけてたら英雄になってた  作者: エコー
第四章 ルクスの迷宮
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第三十八話「ボス部屋」


 あれから一ヶ月近く経っていた。

 俺達はいつもの酒場で最終段階の話し合いをする為に集合していた。


「よう! いよいよだな!」


 既にトライアルはテーブルについていて、俺達を見ると手を挙げながら声をあげた。

 俺も軽く手を伸ばすと微笑んだ。


「やあ。思ってたよりもあっさり進んだね」


 俺は軽く言いながら同じテーブルにつく。

 この光景も見慣れたものだが、トライアルの面々を見ると自然と頬が綻ぶ自分がいた。

 あまり他人と交流してこなかった俺達が溶け込めたのもトライアルの懐の深さのおかげだろう。

 多分、他のパーティだったら俺達のパーティはすぐにクビにされてる。

 迷宮内で喧嘩するし、最初のころは思わず単独行動する場面も多かったし。


「多分次の探索で最後だろうな! お前らとやれてよかったよ!」

「もうレオン、攻略した気分になってるじゃん」

「そういう訳じゃないんだけどな! なんか感慨深いだろ」

「まぁ、確かにね……」


 本当に色々あった。

 初めての迷宮探索はいい経験になったし、剣術の腕も上達したと思う。

 他のパーティとの連携もこれから活きてくるだろう。

 エルとランドルもトライアルとはいい関係になれたみたいだし。

 本人達は相変わらず仲が悪いが。


 すると、レオンがふと気付いたようにエルを見て言った。


「なんだエル、何か嬉しそうだな?」


 そのレオンの言葉に、俺も横に座ったエルを見ると確かに微笑んでいた。

 エルが俺の話以外で笑ってるのは珍しいな。

 どうしたんだろう。


「十五歳の誕生日、迷宮で過ごすことはなくなったと思って」

「え!? もうすぐ十五歳なのか!

 そういえば歳聞いてなかったけど、そんな若かったのか!」


 二人でそう言っていた。

 確かに、もう数日したら誕生日だ。

 そういえばお互いの歳すら知らなかったな。

 俺も勝手に想像で決め付けていたし。


「そうだね、僕は誕生日も酒飲めそうにないけど……」


 俺が悲しそうにぼやくと、レオンが少し驚いた表情をしていた。


「ふと思ったけどアルベルっていくつだ?

 見た目だけでいえば一番若いよな多分」


 そう言ってレオンはエルとランドルを順番に見る。

 確かに、エルの顔は幼さが残りながらも癒し系の美少女顔だし。

 体のラインも明らかにもうすぐ十五歳とは思えない破壊的な体になってきた。

 主に胸が。


 ランドルは言うまでもない。

 俺とランドルの誕生日は近くて、確かランドルももうすぐ十六歳だった筈だ。

 そして明らかにそんな歳に見えない。

 顔付きはどんどん凄みが増してきてるし、体もでかすぎる。

 俺はランドルの肩下くらいの背丈しかない。


「僕とエルは双子だから同じだよ。ランドルもこう見えて十五歳だし」


 俺が言うと、トライアルは驚いていた。

 全員がランドルを見て。

 俺とエルが双子の情報なんて飛んでいってしまったようだ。


「まじかよ! ランドルは俺より年上だと思ってんだけどな。霊人なんじゃないか?」


 そんなことを言っているが、確かに今まで考えてなかったけど……。

 実は体がどんどん成長する霊人。

 いや、ないか。

 世界で数人しかいないと聞いたのにそんな微妙な能力だったら驚く前に笑ってしまいそうだ。


「ちょっと人より体がでけえだけだ」


 ランドルは無表情でそんなことを言っているが。

 ちょっとではないぞ。

 俺がそう思っていると、レオンが「よし!」と声を上げた。


「じゃあアルベルとエルの十五歳は皆で祝おうぜ!

 迷宮踏破の祝いも兼ねて!」

「いや、迷宮踏破したら僕らは転移でコンラット大陸だけどね」


 俺がそう言うと、レオンがあー、と少し残念がった。

 まぁ恐らくボスに挑むことはないだろうから祝ってもらえるだろう。

 トライアルのメンバーに祝ってもらえるなら素直に嬉しいし。

 エルを見ると、エルもまんざらでもなさそうだ。


「ま! とりあえず明日のこと考えるか!

 多分五階層の中腹までは二時間掛からないと思うから……」


 レオンが切り出すと、真剣に話し合いが始まった。

 ここのフロアはこの魔物が多いから陣形をここだけ変えようとか。

 基本的にはやることは変わらないが、少しでも合理化していくのだ。

 そして俺達は五階層の中腹まで進めていた。

 ボス部屋があるフロアの三分の二は攻略している。

 後、少しだ。


「こんなもんか! じゃあ明日いつもの北門で!」

「うん、よろしくね」


 俺達は軽く声を掛け合うと、解散になった。

 

 宿に戻り休息を取る。

 ベッドに横になると、すぐに横からエルの寝息が聞こえてきた。

 エルは相変わらず緊張とかないらしい。

 俺はというと正直緊張してなかなか寝付けなさそうだ。

 冒険者として失格だが仕方ないだろう。

 目を瞑ると、いつもは意識していない心臓の鼓動が大きく聞こえた。

 

 この晩はなかなか眠れなかった。




 気付けば眠れていたようで、差し込んだ朝日が俺を起こした。

 体を起こすと、珍しくエルが先に起きて既に準備を済ませていた。

 少し寝坊してしまっただろうか。



 俺達はランドルと合流して北門に向かった。

 すると、トライアルの他に思いがけない人達がいた。


「よう! 今日が最後だって?」


 そんな感じに軽く言ったのはアストだった。

 その他にライトニングの面子も揃っている。

 俺は不可解な表情になり、そのまま言った。


「は、はい。何でライトニングの方がここに?」


 俺が言うと、アストは穏やかな顔のまま言った。


「ボス部屋に行ったら分かるけど、帰り道が危なくなるんだよ。

 実際俺達はそうだったからな。

 深層は狭くて一緒に入れないが、三階層らへんで待っとくよ」


 自分に自信がなくなるのだろうか。

 ボスを前にして帰る決断をするのも悔しい思いをするだろう。

 それにアストは俺達が絶対にボスに挑戦しないと決め付けているようだ。

 それにしても、何故ここまでしてくれるんだろうか。


「ありがたいのですが、何でここまで――」


 俺が途中まで言うと、アストは笑っていた。


「可愛がってる後輩に何かあったら俺も悲しいし?

 それに、もしお前が死んだらセリアに殺されちまうよ」


 さすがにセリアもアストを殺しはしないだろうが。

 そもそもライトニングには関係ないのだし。

 でもこの話は正直助かる。

 安全に帰れることにこしたことはないのだ。


「それなら、お言葉に甘えて頼りにさせてもらいます。

 皆さん、ありがとうございます」

「おう!」


 アストが返事をすると共に、ライトニングのメンバーも優しく頷いた。

 どことなくトライアルと雰囲気が似てるな。

 それだけ言うと会話が終わり、俺達は三パーティで迷宮に向けて歩き出した。



 夜になると全員で小屋の中で休んだ。

 ライトニングが見張りをしてくれて普段より体力が温存できた。感謝だ。

 


 朝になると最後の迷宮探索が始まった。

 全員今までの探索で一番気を張っているように見えた。

 あまり良い傾向ではないだろうが、仕方ないだろう。

 やはり迷宮の最奥に辿り着くと思えば緊張もするのだ。


 しかし体力は全然減らなかった。

 三階層に着くまでライトニングが戦闘を担当してくれたのだ。

 さすがに全員強く、危なげなく歩みを進めた。

 ライトニングと別れると、それからは俺達だけで歩き出した。



 俺達はそこから一時間掛けて五階層の中腹まで辿り着いた。


 未開拓のエリアをライトニングの情報を頼りに歩く。

 途中出る魔物はなるべくエルの魔力を温存するように戦った。

 普段は気にしないが、今日は別だ。

 そして未開拓の道を一時間程進んだ時だったろうか。


 俺とレオンの体が一瞬跳ねた。

 

 その不思議な行動に、前を歩いていたリューク以外のメンバーが不思議がる。

 俺にもよく理由は分からないが、ただ、何かを感じた。

 これはセルビアにいた時、流帝が宿を訪ねてきた時の感覚と似ている。

 俺とレオンは顔を見合わせる。


「多分近いんだろうな」

「そうだね、やばい感覚がする」


 二人で確認すると、他のメンバーも何も言わず気を引き締めた。

 ランドルも自分で感じ取っていたようで真剣な面持ちだった。

 ここより下のフロアはもう存在しないのだ、後はもう前に進むだけだろう。


 そこから通路が少しずつ狭くなっていった。

 大型の魔物は出なくなり、たまにクイーンヘズラーが数匹飛び掛ってくるぐらいだった。

 

 歩みと共に心臓の鼓動が早くなる。

 俺達は狭い通路を歩き始めた。


 すると、いきなり広くなった空間に出た。

 周囲は壁だけで、通路は俺達が来た道しかない。

 魔物にいきなり襲われる心配はないだろう。

 そして、目の前にあるそれが終点だと物語っていた。


 迷宮攻略が初の俺は初めて見るが、白く発光する転移陣。


 荒んだ迷宮の中で唯一人工的に見える、異質なものだった。


一話が長かったので分けました。

今日は何度か更新すると思います。

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