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好きな子追いかけてたら英雄になってた  作者: エコー
第四章 ルクスの迷宮
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第三十五話「迷宮探索開始」


 迷宮を目指し、ルカルドを出てから朝から晩まで歩き続けた。


 迷宮を確認した時は既に夜だったので、一晩休息してから迷宮攻略に臨む。

 この季節に、剣士だけのトライアルは一晩過ごすのも辛かっただろう。


 エルの魔術は万能で、迷宮近くに建っている小屋の中は温かい。

 こんな場所に何故小屋が建っているのかと疑問だったが、レオンが教えてくれた。


 千年間攻略されていない迷宮だが、挑戦した者は多く、休憩所を作っていたようだ。

 ルカルドから一日歩くだけで着いてしまう距離にある迷宮が、千年も攻略されていない。

 俺は迷宮に興味がなかったので知らなかったが、ルクスの迷宮は冒険者なら誰でも知っていて、攻略すれば歴史に名が残る程だという。

 そう聞いた時に、やはり攻略を考え直したほうがいいのではと思ったのだが。


 海竜王を倒そうとか言ってた奴が何言ってんだとレオンに丸め込まれた。

 確かに、言われてみればその通りである。

 

 それにレオンの話によると、ボス部屋までは辿り着く者も多いらしい。

 しかし、ボスに挑戦しないで帰ってくる者がほとんどだという。

 その理由は皆口を揃えて、勝てないのが分かったとのことだった。

 千年以上も、ボスの姿形は謎に包まれている。

 ボス部屋に入って生きて帰ってきた者がいないからだ。


 俺は迷宮の基本について知らなかったが、迷宮の終点にはボス部屋に移動する転移陣があるらしい。

 稀に守護者がいない迷宮もあるようだが。


 そして、魔術の中に転移魔術というものは存在しない。

 存在しないというより、使えないといった方が正しいだろうか。

 多くの魔術師が研究しているが、迷宮の終点にある転移魔術を再現することはできていないらしい。


 これはスカルドラゴンと同じで、この世界において謎の内の一つだ。

 一説では迷宮は精霊が作っているという説があるらしい。

 霊人もそうだし、この世界でのおかしなことは精霊で片付けることが多い気がするが、俺が考えても仕方ないしまぁいいだろう。

 

 それにそのぐらい不思議なことでなければ、俺も望みの転移なんて信じなかっただろうしな。

 いや、今も半信半疑だ。


 そして何でもこのボスは、ボス部屋の転移陣に近付くと闘気で威圧してくるらしい。

 魔物が闘気を纏うという話を聞いて俺は驚愕した。

 そしてボス部屋にたどり着く猛者達の足が竦んでしまうほどの巨大な闘気。

 やはり考え直そうとも思ったが結局、それを体験してからでも遅くはないとの考えに至った。


 もちろん、迷宮探索に何年も掛かるなら別だが。

 ボス部屋までの情報をトライアルはしっかりと集めていた。

 ならば俺達は必要ないのではと聞いたのだが。


 世界一位の迷宮だけあって、出現する魔物にイレギュラーが多いらしい。

 俺はAランクの魔物の群れを見たことがないが、この迷宮にはうじゃうじゃいるそうな。


 なので、いくら腕に自信があろうとも、治癒魔術の保険がないと厳しいだろうという判断らしい。

 この世界は異世界だが、飲めば傷が治るような魔法の薬のようなものは存在しない。

 精々痛み止めくらいだ。

 その痛み止めも、痛みは和らぐが体が少し麻痺して動きが鈍る。

 結局、傷を治すのは魔術師頼りだ。



 レオンから迷宮の情報を聞いている間に、見張りの交代の時間になった。


 外にいたランドルとリュークに声を掛け、俺とレオンが交代する。

 見張りは二人ずつで、俺とレオン、ランドルとリューク、アニータとリネーアのコンビだ。

 エルは迷宮内で魔術を多用するだろうから、休息を取ることが仕事だ。


 俺達は交代で休息を取り、早朝までしっかりと休んだ。




 朝が来ると、俺達は話し合っていた陣形で迷宮に挑む。


 タンク役のリュークが一番先頭だ。

 ランドルが適任だという話も出たが、詳しい情報を知っていて、迷宮に入ったことがあるのはトライアルだ。

 そしてリュークはその屈強な肉体に似合わず、敵感知や罠の発見が得意らしかった。


 その後ろに俺とレオンが横並びだ。

 俺とレオンの後ろにエルが構え、エルの後ろにアニータとリネーアが歩く。

 魔術師のエルを守る陣形だ。

 ランドルはしんがりで、後方の敵を対処する。



 入り口から地下に広がっていく迷宮を進むが、やはり暗かった。


 先頭のリュークが松明を持ちながら進むが、ルクスの迷宮の空間は狭い道もあるが、上層は広いフロアが多いらしい。

 壁から壁までを照らしきることはできず、先が見えなかった。

 エルの光魔術で照らすこともできるが、話し合った結果それは使わないことにした。

 交戦になった場合、エルが他の魔術を使うといきなり視界が閉ざされてしまう。

 暗闇に慣れた魔物の目に俺達の目じゃ勝てないだろう。




 この迷宮で一番強い固体の魔物はAランクのレクスキメラ。

 Aランクだが、ギリギリAランクなだけでほぼSランクに近い強さらしい。

 Sランクといえば基本的に竜種だ。


 当たり前だが俺はまだレクスキメラを見たことがないが。

 色んな魔物が合成されたような恐ろしい見た目をしているらしい。

 正直かなり怖い。


 トライアルは一階層の間は最短距離を分かっているようで、スムーズに歩みを進めた。


 しばらく歩くと、ガサガサと大量の羽音が聞こえてきた。

 薄暗い迷宮に溶け込むように大量の黒い影が少し奥の天井で揺れている。

 俺の横でレオンが小さく呟く。


「ブラックバッドだ」


 ブラックバッド。

 確かCランクの魔物だ。

 Cランクだが大量に群れ、その鋭い爪先には毒がある。

 毒によって即死することはないが体の自由が奪われるという。

 俺も知識だけで見るのは初めてだった。


 俺達が剣を抜くと、ブラックバッドはその鉄の擦れ合う音に気付き、俺達に向かって飛び掛かる。

 遠くから見える蝙蝠の数は、数え切れない。

 三十はいるだろうか。

 すると、俺の後ろから聞きなれた声が聞こえた。


「ちょっと開けて」


 エルがそう言うと、杖を構える。

 それを見たエルの前にいるリュークと俺とレオンはすぐに道を開ける。

 

「猛る灼熱の炎よ、喰らいつくせ、 豪炎(ファイアブレス)


 成長すると共に詠唱を省けるようになり、前より短く紡がれたエルの中級魔術。

 エルの構えた杖が赤く発光すると、すぐさま猛炎が前方を包んだ。

 暗闇に包まれた迷宮が炎によって照らされ、全貌が映る。


「キィィィーー!!」


 耳を塞ぎたくなるような不快な蝙蝠の断末魔が迷宮に響き渡る。

 しかしすぐに焼き尽くされ、墨になった蝙蝠の大群はパラパラと小さくなって床に転がった。

 目の前で起きていた猛炎が消えても、迷宮内は熱く、額から汗が流れる。


 俺がエルを見ると、エルも俺の顔を見て微笑んだ。

 本当にエルは優秀だ。


 トライアルの面々は驚き、エルを驚愕の瞳で見ていた。

 俺とランドルはいつもの光景なので慣れているが。


「凄いな……」


 ぽつりとレオンの呟きが聞こえる。

 レオンの言葉をきっかけに、トライアルはエルに賞賛を贈った。

 そしてアニータが注意するように言った。


「頼りになるんだけど、魔力を温存しなくても大丈夫?

 いざって時に使えなくなったら……」


 普通の魔術師ならそうだろうが、エルなら問題あるまい。

 全ての戦闘をエルに任せるなら別だが、今のような大群の小物ならいいだろう。

 エルも表情一つ変えずに言った。


「大丈夫だよ」

「ならいいんだけど……」


 まだ少し心配しているアニータに俺からも言っておく。


「今のような数の多い小さい魔物だけならエルにまかせて問題ないでしょう。

 巨大な魔物は僕らが処理するようにしましょう」


「本人達が大丈夫って言ってるなら大丈夫だろう!

 頼りになっていいじゃないか!」


 そう言って迷宮内だというのに大声で笑うレオン。

 そんなレオンを見て、アニータも渋々納得したような仕草を見せる。


 まぁ、迷宮に入る前にあれだけ戦い方の話し合いをしたのにそれを無視したのはエルだ。

 アニータが少し納得いかないのも当然だろう。

 俺達は三人だけでやってきたから臨機応変にやってきたが。

 ちゃんと決めた事を守らないと連携に亀裂が生まれる。

 後でエルにもよく言っておこう。



 そのまま進むと、リュークが「ここだ」と言って松明で照らしながら地面を見た。

 俺は困惑しながらもリュークの視線の先を見ると、荒れた地面に大きい穴が開いている。

 底は暗くて見えない。

 

「何でかな、階段を降りるイメージだったよ……」


 俺は迷宮初心者丸出しの発言をしてしまうが、そんな事皆気にしていないようだった。


「分かるよ、俺も初めて迷宮に潜った時そう思ったし」


 薄暗い迷宮の中で、レオンが軽く笑っているのが薄く映る。

 俺だけの勝手なイメージじゃなかったらしく少し安心すると、リュークが迷いなく底が見えない穴に飛び降りた。

 

「あんまり間隔を空けるなよ、エルは抱えてやりな」


 俺を見て言うレオンは軽々と飛び降りていく。

 リュークの持っている松明の灯りと着地音を目安にする限り、俺とランドルは飛び降りても何の問題はないだろうが、さすがにレオンの言う通りエルは無理だろう。

 

「エル、おいで」

「うん」


 迷宮は暗く、雰囲気も荒んでいるがエルは少し嬉しそうに俺に体をくっつけた。

 俺はさっとお姫様だっこしてやると、穴に飛び込んだ。

 レオンに言われた通り飛び降りる間隔を空けるのはよくないだろう。

 先に下層に降りた者達が魔物に囲まれてたら問題だ。


 しばしの浮遊感を味わうと、リュークの持つ松明の付近目掛けて着地する。

 辺りを見回して魔物の気配がない事を確認すると、満足気のエルを優しく降ろした。



 全員が降りてくると、今までよりも慎重な足取りでリュークが歩き始めた。


 ボス部屋は五階層にあるらしく、今いるのは二階層だ。

 トライアルが足を踏み入れたのはここまでらしい。


 情報だけを頼りに進むが、やはりスムーズには進めない。

 底が見えない穴はいくつもあるが、三層までは深いらしく、三層に辿り着くまでに何度も穴を降りないといけないらしい。

 周囲の地形も荒れていて、どの穴が情報通りか見極めるのは難しいようだ。


「これか? うーん……正直正解かは分からないな」


 リュークが崖のような穴を見てそんなことを言っている。

 しかしここで止まっている訳にもいかないだろう。

 

「入るしかないだろう。俺とアルベルが先頭になって行こう」


 未開拓という事もあり、お互いのパーティ内で一番腕に自信がある俺達が最初に入ることになった。

 今回はエルはアニータかリネーアに運んでもらうことになるだろう。

 エルは少し不機嫌になった気がするが、さすがにこういう状況では我慢して欲しいぞ……。


 少しして俺とレオンは顔を見合わせて頷くと、レオンがリュークから松明を受け取り、飛び降りる。

 俺もすぐに続いて着地するが、視界が変わった瞬間、レオンの苦しげな声が聞こえた。


「う……」


 顔をしかめてそう言うレオンの視線の先にいるのは、すぐに分かった。

 レオンの手元から薄く照らされる先にいるのはレクスキメラだろう。


 十メートルくらいあるのではないか……。


 異形な姿をした獣が大きい体を丸めて広いフロアで眠っている。

 意外と自らを照らす薄い灯りと侵入者には気づいていないようで、動く気配はなかった。

 眠っていても息苦しさを感じる威圧感を考えると、この近くにはこいつしかいないだろう。

 一先ずは目の前のレクスキメラ以外に襲われることはないと思うが。


 失敗したことがあった。


 俺とレオンが反射的に闘気を纏ってしまったのだ。

 その闘気の威圧で、レクスキメラは大きな瞳を勢いよく開き、すぐに立ち上がった。

 

「ガアアアァァァッアアア!!!!!」


 獰猛な虎の顔を大きく上げて吼える。

 その声量は鼓膜を破壊するようだ。

 

 俺は闘気を負荷がかからないギリギリまで大きくし、体に赤い闘気を纏うと踏み込んだ。

 俺の具現化された闘気が周囲を照らし、迷宮の広い空間が照らされる。


 そして、レクスキメラはブレスを吐く。

 俺とレオンは回避できても、俺達の後ろから皆が降りてくるはずだ。

 この咆哮を聞けば、異常事態と知って焦って降りてくるだろう。

 他の面々が着地した瞬間に焼かれる可能性がある。

 俺がそれをさせないように一早く疾走すると、着地音と共に俺の背中から声が上がった。


「「えっ!?」」


 アニータとリネーアの声だったが、気にしている余裕はなかった。


 十メートルは空いていた距離を俺は一秒程で詰める。

 レクスキメラは懐に入った俺を長い牙で噛み砕こうと首を勢いよく動かす。

 昔ならそれに合わせて首を刎ねていたが、今の俺の戦い方は違った。


 高ランクの魔物は自分が致命傷を受けないように警戒する。

 強い魔物ほど人間と戦いの経験があり、人がどこを狙ってくるのか分かっているのだ。

 一撃で決めようとすると反撃を食らう可能性がある。


 そして俺は四本足の魔物の弱点を知っていた。

 足だ。

 

 俺は襲いかかる首を無視して何の足かも分からない、黒い毛で包まれた太い左の前足に剣を中段から横に一閃する。

 さすがに闘気を纏っていても少し硬く感じる。

 しかし切断できないわけもない、俺は剣を強く振り抜いた。


 しかし平行に斬ってしまったせいで切断したはずの足が未だにレクスキメラの巨体を支えていた。

 俺は屈んで襲いかかる牙をかわしながら、足を蹴り飛ばした。

 すると、だるま落としのように綺麗に足が飛んでいき、レクスキメラはバランスを崩した。


「ギアアアッァァアアア!!!」


 魔物にも痛みはある。

 左の前足を失ったレクスキメラは切口から地面に崩れ、体を斜めに倒した。

 魔物は痛みを感じてもすぐにそれを忘れて襲い掛かってくる。

 痛みに慣れる間を与えないように、俺は宙に飛躍すると、レクスキメラの頭部に着地した。

 そのまま片腕で脳天から剣を突き刺す。


「ガアアアァァッ……」


 断末魔を上げると、勢いよく虎の顔を地面に落とした。

 ドン! と首だけでもかなりの重量を感じる音を出し、地面が少し揺れる。

 もう動かない。

 俺はレクスキメラの絶命を確認すると、頭から飛び降りた。


 そのままレクスキメラに背を向けて仲間の元へ歩き出す。

 エルとランドルはいつも通りの表情だったが、トライアルのメンバーは口を開けたまま固まっていた。

 勝手な行動だったが、緊急事態だったし許してほしい。

 アニータに何か言われてしまうだろうかと思ったのだが。


「化物だな」


 リュークが淡々とそう言う。

 俺もレクスキメラの亡骸を一瞬見て言った。


「えぇ、初めて見たので驚きました。おぞましい外見ですね」

 

 俺の言葉に、レオンが我に返ったように声を上げた。


「違うだろ! お前だろ! どんだけだよ!」

 

 レオンが言うと、トライアルの面々もそれに頷いている。

 その言葉に俺は少しきょとんとする。

 まだしっかりとレオンの剣を振っている姿は見てないが、強いのは分かる。

 別にレオンでも倒せるだろう。


「別に僕じゃなくても倒せたと思うんですが」

「そりゃパーティで戦えばな。でも一人であんな瞬殺できないって」

「そうなの?」


 俺は聞くようにランドルを見る。

 ランドルは相変わらず無表情で言った。


「お前の周りはおかしい奴が多いからな。基準がずれてんだよ」


 まぁ確かに俺の周りは強い人が多い。

 エルもランドルもだし、セリアもローラもその歳からはかけ離れた強さを持っている。

 そしてレオンもその一人だと思っている。

 俺がうーんと考えていると、今まであまり口を開かなかったリネーアが声を上げた。


「頼りになっていいじゃないですか!

 迷宮探索でこんなに安心感を覚えることは今までなかったです!」


 そう言って俺を見る目が少しキラキラしているような気がした。

 ちょっとセリアに近付いた感じがして俺も少し嬉しくなる。

 リネーアの言葉に、他のメンバー達も頷いていた。


「もちろん頼りにしてるさ! アルベルが強いのは分かってたしな!

 ちょっと予想以上で驚いただけさ」


 レオンはすぐにいつも通りの陽気な笑顔で場を盛り上げていた。

 こんなリーダーがいたらパーティ内も普段から賑やかなんだろうな。

 俺も最初は馴れ馴れしい奴だとか思っていたが、今では好意的に感じていた。



 レオンが皆を率いてまた探索が始まる。

 どうやらここの穴は正解だったようだ。

 レクスキメラが進路を塞いでいたのは予想外だったみたいだが。


 俺達は順調に迷宮探索を進め、二階層の中腹ぐらいまで進むと探索を切り上げた。

 しばらくはお互いのパーティの連携が深まるまで、長居しないほうがいいだろうとの判断だ。

 その決定に、俺達も文句はなかった。

 急ぎたい気持ちはあるが、無理して負傷者が出れば元も子もない。



 迷宮を出た時は既に夜で、一晩小屋で過ごしてからルカルドに戻った。


 ルカルドに着いた時は夜だった。

 解散かと思われたが、レオンから提案があった。


「酒飲みに行こうぜ! 親睦もかねてさ!」


 その言葉にトライアルのメンバーはもちろん、俺とエルも賛成と声を上げた。


 たった一人、ランドルを除いては。

 相変わらず、こいつは俺の楽しみに立ちふさがる。

 このやり取りにももう飽き飽きしていた。


「なんでだめなんだよランドル! そんな図体でまさか酒が飲めないのか?」


 レオンがからかうようにランドルに詰め寄る。

 その言葉にランドルは少し凄み、言った。


「アルベルが飲むと店が壊れて怪我人が出るぞ」


 そんなことを言っている。

 トライアルも「はぁ?」とよく理解できていない様子だ。

 一年前に一度あったことをいつまで引きずる気だこいつは。


「一回だけだろ! セルビアで飲んだ時も大丈夫だったじゃないか」

「あの時はお前よりやばい奴がいたからな」


 まぁ確かに、酔っ払ったローラに詰め寄られて酒が進まなかったのはある。

 あの時は何故か酔いもあまりまわらなかった。


「でもさ、最近は一杯だけはいいって言ってたじゃないか」

「俺達だけで静かに飲むなら自制できるしいいだろうさ。

 でもお前は楽しくなってきたら俺が何を言っても飲む」

「ランドル、酒を飲む前に暴れてもいいんだぞ。

 もちろん飲んだら暴れる気はない」


 俺がめちゃくちゃなことを言ってランドルと火花を散らしていると、レオンが入ってきた。


「よく分からないけど、要するにアルベルが酔っ払った時に止めれればいいんだろ? お前らは馬鹿だなー! 俺は解決案がすぐに出たぞ!」


 その言葉に俺はぱぁーっと満面の笑みになる。

 レオンは凄い奴だ、好きだ。


「何だ? 言ってみろよ。

 全員で掛かってもこいつを止めれないのは迷宮でよく分かっただろう」


「そんなんじゃないって! 頭を使えよ!

 もし本当にアルベルが暴れだしそうだったら教えてやるよ!」


 そう自信満々に言うレオンに、ランドルは折れた。

 不穏な空気をレオンが壊したことにより、トライアルの面々もほっとしていた。

 エルは相変わらずランドルを憎らしそうに睨んでいたが。


 俺も久々に楽しく飲めそうで、ウキウキしながら皆を率いるレオンの背を追った。

元々一話だったのですが、長すぎたので分割しました。

もう半分は今日中に更新します。

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