第三十一話「証言」
目が覚めると、俺はエルと共に食事を取ろうと部屋を出た。
いつものテーブルにやはりランドルが既に座っている。
なかなかランドルが遅れてやってくることはない。
食いしん坊なのだろうか、暇なんだろうか。
「おはよう!」
「あぁ」
いつも通りの挨拶を交わし、俺達も席に座る。
朝食を取りながらその日の予定を決める。
毎日行っていることだ。
「今日は確かイグノーツさんが宿に来るんだっけ。稽古する時間はないかな」
「別に待たしとけば良くない?」
「エル、王族の人に対してそれはまずいよ」
俺が軽く注意するとエルは少し頬を膨らました。
膨れた頬を突くと、普段のエルの顔に戻る。
昨日ローラから聞かされた話によると朝方に王子が来るとのこと。
これからの話し合いだ。
俺達の待遇とザエルのことだろう。
ザエルの処刑は俺のせいで伸びている。
ラルドの取引を語ったのは俺との約束を優先したからだ。
意味はないと思っていても、イゴルさんの話なら聞く義務がある。
朝食が終わった後も三人でテーブルを囲んで待っていると待ち人が見えた。
イグノーツとローラだ。
相変わらずフードを被っているが、宿に入った瞬間に取った。
俺がザエルを倒してからこの高級宿はなんと俺達の貸切になっている。
客は俺達しかいないのだ。
「おはようございます。アルベル殿、目が覚めたようで何よりです」
そう言って微笑んで頭を下げた。
俺も立ち上がり、二人への挨拶も程ほどに全員で席についた。
「さて、今回は本当にありがとうございました。
貴方がいなければ私はここに居なかったでしょう」
確かにザエルがあのまま逃げていたら証言は得られず、結局立場は変わらなかっただろう。
しかし偉ぶるつもりもない。
「いえ、気にしないでください。僕にとっても意味のある戦いでした。
ザエルが興味深いことを言っていたので」
「はい、エル様から聞いていますよ。
旅の目的の一つだとか。内容を聞いても宜しいですか?」
少し気になります。とイグノーツが申し訳なさそうに微笑みながら言った。
別に聞かれても問題はない。
「僕の師匠の仇について、何か知っているようでしたから」
ザエルの話によればこの言い方では間違いだが。
イゴルさんの仇に繋がる話があるかもしれない。
「なるほど。皆さんは師匠の仇を討つ為に旅を?」
「いえ、仇も大事ですが、一番の目的は他にあります。
それでイグノーツさんにお願いがあるのですが」
セリアを探すにあたってイゴルさんの仇の情報は繋がってくるだろう。
まずはセリアと再会することだ。
「はい、何でも仰ってください」
「セリア・フロストルと名乗る剣士がこの国に現れたら、
僕が探していたと伝えてもらえないでしょうか」
「はい、もちろん大丈夫ですよ。
特徴を教えてもらえますか?」
俺はセリアの髪色から顔立ち、知っている限りをイグノーツに伝えた。
少しローラが寂しい表情をしているのは何故だろうか。
「分かりました。セルビア王国の領土に居れば伝わるようにします」
セルビア王国は大国だ。
ルカルドもセルビアの都市なくらいだ。
これでセリアがカルバジア大陸で行動していたら俺に気付いてくれるだろう。
話が伝わるより俺がルカルドに着くほうが早いだろうが。
しばらくして、本題に入った。
「アルベルさんの功績を称えて、貴族の称号を贈ろうと思っているのですがどうでしょうか」
そう言うイグノーツに、俺は即答する。
「申し訳ないですが遠慮させてもらいます。すいません」
俺がそう言うと、イグノーツは思ったよりもあっさりと引き下がった。
「分かりました。エル様からアルベル殿は恐らく断るだろうと聞いていましたから」
そう言って柔らかく笑っていた。
エルには俺の思考は全てお見通しらしい。
「それでですね、セルビア国内にある屋敷を贈ろうと思います。
これならば荷物にもならないでしょうし」
屋敷だと。
もらっても使い道がないなぁと思ってしまう。
すぐにここから出てしまうだろうし。
「しかし、頂いても住むことはないと思うのですが」
「ここに皆さんが再び立ち寄った時に、宿代わりに使って頂ければいいですよ。しっかり屋敷を管理する人間もいるので、いつでも使えます」
イグノーツが言うと、俺は少し悩んで言った。
「分かりました。ありがたく頂きます」
「はい、助かります」
もし三人の中で誰かが穏やかに暮らしたいと思ったら、そこで暮らすという選択肢もとれる。
持っていて損はないし、ありがたくもらっておこう。
この話が終わるとイグノーツは話を戻した。
「ザエルの件はどうしましょうか?」
「今からでも話せたりしますか?」
「構いませんよ」
即答するイグノーツに、俺はお願いしますと言うと全員で宿を出た。
王城に向かう道中、イグノーツとローラはフードを被って無言だった。
さすがにお喋りしながらはまずいらしい。
しかしそんなのはお構いなしでエルは俺に楽しそうに話しかけていた。
俺は苦笑いしながら城への道を歩いた。
城に着くと、俺がザエルと戦った時の光景は一掃されていた。
火が上がっていた庭園は綺麗で血に塗れた地面の形跡も見えない。
やはり魔術などですぐに綺麗になるのだろうか。
少しドキドキしながら城に入り豪華な石の通路を抜けると、地下への道があった。
気配を感じる。
前のような禍々しいイメージはないが、ザエルだ。
俺とローラが先頭に立ち、階段を下った。
狭い通路に出ると、なんとか人が三人横並びできる広さしかなかった。
一応警戒して進むと、気配のする牢の前で止まった。
そこにはザエルがいた。
右手と左足を失い、鉄柵のほうを向いて座っていて顔は下に向けていた。
俺が目の前に行くと気付いていたようで顔を上げた。
その顔は少し嬉しそうに悪い顔でニヤけていた。
「よお、待ったぜ」
「すごい生命力だな」
体の一部を失ってもケロリとしているザエルを見て純粋に思った。
「本当に楽しかったぜ、お前との戦いはよ。
もう一度やりてえ所だが腕と足がないとなぁ」
そう言って自分の失われた部位を見てつまらなそうに言った。
本当に手足が健在なら今すぐにでも襲いかかってきそうだ。
「そんな話はいい。
約束通りイゴルさんの話を聞かせてもらう」
低い声で言う俺にザエルはつまらなそうな顔で言った。
「ケッ、つれねえな。まぁいい、取引は守る。
まずは確認だ。お前ははっきりとイゴルの死体を見たのか?」
そう言って話し出すザエルは素直で、敵意は感じなかった。
「首だけだけど、顔は絶対にイゴルさんの顔だった」
「なんで体がねえんだよ」
「発見された時は腐敗が激しくて体は燃やされたらしい」
「じゃあお前は見てねえんだな」
まるで俺が勘違いをしていると言いたげだ。
「首だけ見れば十分だろ」
「まぁいい、ここが大事な所だが、首も腐敗してたのか?」
そう言うザエルに俺は少し動揺する。
確かに、腐敗していたかは定かではないがイゴルさんの首だとはっきり認識できる程には綺麗だった。
俺が考え込み言葉に詰まってるとザエルは言った。
「どうだ? 俺の話を少しは信じる気になったか?」
そう言ってやらしい顔でニヤけるザエルは不快だった。
だが。
「いや……だからといってイゴルさんが生きている話にはならないだろう」
「はぁ? なんでだよ」
「その首は間違いなくイゴルさんだったんだから、死んだ事実は変わらない」
俺がそう言うとザエルは不思議そうな顔をしていた。
「闇魔術のことは考えなかったのか?」
聞き慣れない単語に俺は少し混乱した。
闇魔術が何か関係あるのか?
エルを見ると、エルは首を振った。分からないらしい。
当然だ、エルは闇属性の適正がない。
俺達が悩んでいると、ザエルは言った。
「ま、これは俺もイグノーツが見つからなかった理由を知って気付いたんだけどな。闇魔術なら姿を変えたりはできるだろう」
「でも、死んでから長い時間が経ってたし、ずっと魔術が継続するなんて――」
「できる」
突如耳元で知らない女性の声がして俺は飛び跳ねてしまった。
焦って声の先に視線を向けると、何もない空間から知らない女性が現れた。
十代後半の長い黒髪で、顔は整っていて美人だ。
そして一体いくらするんだろうと思うような豪華な服を着ている。
というか何事だ、思わず剣を抜きそうになるとイグノーツが声を上げた。
「姉上!?」
その言葉に、俺は思い出す。
サラール・セルビア第二皇女。
闇魔術に適正があると聞いたが。
「姉上! なんでここに!」
「気になったから」
未だ混乱している俺達に向けて言った。
「高位の闇魔術の使い手なら、魂のない物なら数年は形状を変化させることは可能」
そう言うサラールだが。
確かにかなり変わっている人物らしい。
そしてかなり重要なことを言っている。
「数年間ずっと変化を維持したままって、本当ならかなり凄い気が……」
小石を家に変化させることもできるのか?
ボロボロの剣を業物にしたり。
しかし俺の想像は打ち砕かれた。
「元の形と大幅に離れた物は作れない。
ただ、死んでいる人の顔を別の顔に変えることくらいはできる」
サラールは闇魔術の説明を軽くしてくれる。
術者本人の姿は変えれるが他の、魂を持つ生物の形状は変えられない。
死体なら別だが。
他人に掛けれる魔術は姿の透明化だが、これは存在を認識されると解けてしまうらしい。
上級の闇魔術は現在は未知のもので、おとぎ話のようなものしか残っていない。
その話によると上級闇魔術は魂に関係する何か。
俺は説明を聞いて頭をフル回転させる。
全ての証言が真実ならイゴルさんは死んでない?
でもまだまだ矛盾がありすぎる。
高位の魔術師どころか、そもそも闇魔術なんてイゴルさんの周りで使える人がいたか?
生きているならなんで町に帰ってこなかった?
首を偽装した理由は?
イゴルさんだけじゃなく、守備隊の人達はなんで死んだ?
しかし有り得ないと思う反面、引っかかる部分もある。
確か、守備隊の一人が行方不明だったはずだ。
あの時は何も考えなかったが、その行方不明の死体を偽造した可能性。
いや、やはりそれだけでは到底推理は成り立たない。
ならあの恐ろしい剣筋は誰が。
首を刎ねた人物、闇魔術を掛けた人物、イゴルさん。
この三つが繋がることは俺の中ではない。
意味が分からない。
いや、もしかするとザエルのほうが。
「ザエルが見たイゴルさんが闇魔術で偽造された可能性は?」
俺の発言にザエルは鼻で笑って言った。
「俺は間違えねえって言ったろ。
イゴルが闇魔術で別人に姿を変えててもイゴルって分かるぜ」
「……そもそもどこで見て、どういう状況だったんだよ」
「テュカの町だ。仕事で寄った時に、奴はフードを被って町を歩いていた」
「それでお前はどうしたんだ?」
「斬り掛かってやろうと思ったんだがな、やめた」
「なんで?」
「首が飛んだ自分が想像できたからだ。お前にもそういう経験はあるだろう。ま、仕事中じゃなかったら戦ってたけどな」
確かにそういう経験はあるが。
しかしだ。
ザエルは強かった。
イゴルさんも強いが、ザエルをそこまで圧倒する力があっただろうか。
闘気だけで言えばザエルのほうが巨大だった。
俺の前でイゴルさんは全然本気を出していなかったんだろうか。
いや、さすがにそれはないと思う。
「というか、フードを被ってたと言ったが、顔を見たのか?」
「いや、見てねえよ」
本当に信用できるのだろうかこの男は。
要するに雰囲気だけで言っているのだ。
嘘は言ってないと思うが、自信満々で自分を疑ってないだけでは。
まぁいいか。
少し心に留めておくくらいに思っておこう。
「そっか、一応礼を言っておく」
俺が礼を言うとザエルは少し真剣な表情を作った。
「ハッ、いらねえよんなもん。その代わり一つ聞かせろ」
「何だよ」
「お前の名前を教えろ」
ザエルは真剣だった。
あの晩、俺は名乗らなかった。
こいつはラルドの悪行を吐いたし、確証はないがイゴルさんの話も一応した。
仲間を斬ったことは許せないが名前くらいいいだろう。
「アルベル」
「ありがとよ」
そう言って楽しそうにニヤついていた。
俺は帰ろうという視線を送り一番後ろにいるランドルを見ると、ランドルは振り向いて歩き出した。
先頭にいた俺は自然と最後尾になる。
俺が少し歩き出すと背後からザエルの声がした。
「その剣、お前の腕に負けてるぞ。変えたほうがいい」
そんなことを言ったが、変えるつもりはないし必要もないと思っている。
この剣は俺の宝物で相棒だ。
「変えるつもりはない」
「剣に殺されねえといいけどな」
その言葉に俺は苛立ち、何も返さずに牢を後にした。
これはアスライさんからもらった剣だ
俺が自分の道を進めるようにと。
あんな悪党なんかに言われる筋合いはない。
俺の横にいたローラは俺が苛立ったことが分かったようで少し心配した表情をしていたが。
取り繕う気にはなれなかった。
牢から出るとサラールは気づけば消えていた。
闇魔術の説明の感謝を言う間もなかった。
もう城に用はなくなり、俺達は城から出ようと城内を歩いていた。
歩きながら、少し苛立っていた俺は少しだけ愚痴った。
「酒でも飲みたいなぁ……」
嫌な気分になったのをリセットしたかったが、ランドルにも止められているし。
自分でも店を破壊してから自粛している。
そんな俺の呟きを聞いたイグノーツは言った。
「酒ですか! 用意しましょうか?」
そう言うイグノーツに、俺は慌てて言った。
「いやいや! 言ってみただけです。ランドルにも怒られるし」
「私はお酒飲んでるお兄ちゃん好きなのに」
エルはそう言ってランドルを軽く睨む。
俺達の会話にイグノーツとローラは何で? と言いたげな表情。
そしてランドルから紡がれた言葉は意外なものだった。
「飲めばいいじゃねえか」
無表情にそう言っていた。
一体何の心変わりだ。
もしかして今金持ちだから少しぐらい破壊してもいいと思っているのだろうか。
もちろん俺は破壊なんてするつもりもないし、しないが。
いや、これが通じ合った仲間か。
きっとランドルは俺を信頼してくれている。
もう間違いは起こさないと。
「まじで?」
「あぁ」
「ようやく僕を信用してくれたみたいだね」
「んなわけねーだろ」
「は?」
「止めれそうな奴がいるじゃねえか」
そう言ってランドルはローラを見た。
なるほど、そういうことか。
確かにローラなら技で俺を取り押さえそうだ。
俺もさすがに闘気を全開にして暴れたりはいくらなんでもしないだろう。
どれだけ酔っていようと。
というか暴れたりしない。
そしてローラが何の話か理解できないようで、「え?」と混乱している。
そんなローラを無視してランドルとエルは言い合っていた。
「大体、お前が治癒魔術掛けたら何の問題もねえんだよ」
「やだ。酔ってるお兄ちゃん楽しそうだもん」
無視されているローラが痺れを切らして大きい声を上げた。
「ちょ、ちょっと待ってください! 何の話をしているか理解できないんですが……」
その言葉に、ランドルとエルは言い合いをやめてローラを見た。
視線がローラに集まり少し居心地を悪そうにする。
「お前が来るならアルベルに酒を飲ませてやってもいいって話だ」
「その話がよく分からないのですが……」
「アルベルは酒癖が悪い」
その言葉にローラは顔を赤くした。
変な想像してるんじゃないだろうな。
「も、もしかして、女性に手を出したり……?」
もじもじしながら言うローラに、そんな訳ないだろ! と声を上げようとしたらランドルが先に言った。
「違う。こいつは酒を飲んだら暴れる」
その言葉にローラは少し青い顔をして固まった。
イグノーツも驚いたようで顔が引きつっている。
ランドルは主語が少なすぎる。
誤解を解かなければ。
「ランドルが大袈裟に言ってるだけですよ! 誤解です!」
「そ、そうですよね! アルベルさんからは想像できませんし……」
ローラは思い直してくれたようだ。
しかし、ランドルはまた余計なことを言った。
「アルベルが町に来たら酒を飲ませるなって冒険者の中で有名な話だ。そのせいで俺まで酒が飲みにくいんだよ」
それは本当の話だった。
たった一回の過ちで、何故かそこまで噂が広まっていた。
剣の腕前で有名になるつもりだったのに俺は変な部分で有名になっていた。
そんな俺をローラがまた疑わしき目で見て怯えている。
「違うんですよ。一回だけ酔って店を潰しちゃったことがあるだけで……もちろん弁償しましたし、大体何も覚えてないんで本当に僕がやったのかも怪しいところです」
俺が精一杯の笑顔を作って弁明すると、青い顔のローラの体がビクと少し跳ねた。
「お前がボコった冒険者達の目を見れば自分がやったと分かっただろう」
「ランドル、うるさい。お兄ちゃんが久しぶりに飲みたいって言ってるんだから」
そう言ってエルは俺の腕を掴んでランドルを嫌そうに見ている。
そうだ、もっと言ってやれ。
今日の言い合いはエルの味方だ。
すると黙って聞いていたイグノーツが口を開いた。
「私も行きたいですね。町の酒場で飲んでみたかったのです」
そんなことを言っているが、さすがにまずいんじゃないだろうか。
この王子、一度攫われて殺されかけたのに全く懲りてない。
「さすがにイグノーツさんはまずいのでは……」
「皆さんとローラがいるなら護衛の心配はいりませんしね。
私だけ顔を隠しておけばいいでしょう」
「でも、イグノーツさんは忙しいのでは?」
「直ぐにしないといけない仕事がある訳ではありませんし。
数時間酒を飲むぐらい問題ないでしょう」
言いながら一瞬エルを見た気がする。
なるほど、エルと飲みたいだけだなこの王子。
まぁ、もうすぐ町を出るし最後くらい親しくなった人達で酒を飲むのも悪くはないか。
「分かりました。皆で行きましょう!」
俺の声にエルとイグノーツが嬉しそうに返事する。
そして固まっていたローラが急に動き出した。
「ちょ、ちょっと待ってください! お酒はいいのですが。
アルベルさんを止める自信がないんですが……」
「暴れるつもりもないですし、百歩譲って暴れたとしてもローラさんが居れば酔った僕なんて瞬殺ですよ。僕も気にせず飲めますし来てもらえると嬉しいです」
俺がそう捲くし立てるとローラは少し不安そうな表情だった。
俺が懇願するようにローラを見つめていると、少し頬を赤く染めて言った。
「わ、分かりました! そんなに見ないでください……」
「ありがとうございます!」
ローラは何故か俺から目を逸らしたが、とりあえず今日は酒を飲めるようだ。
酒も嬉しいが、ローラと飲めるのも嬉しい。
俺は友達が少ないからな、せっかく仲良くなったのだからセルビアから出る前に色々話したかったし。
もう一月近く旅が止まっている。
明日か明後日にはセルビアを去るつもりだ。
ここに居れば居るほど居心地が良くて離れがたくなってしまう。
セリアとすれ違う可能性を考えると、一秒でも早くルカルドに着いた方がいい。
俺は少し呟いてしまった。
「これがここで取る最後の夕食になるかもしれませんしね」
「え……?」
ローラが少し驚いた表情をしていたことに、俺は気付けなかった。
今日中にもう一話更新します。
その話で三章はおしまいです。




