間話「ランドル」
ランドルの回想です。
ランドルが好きな人だけ読んでもらえたらいいような、そんな話です。
物心ついた時には両親は死んでいた。
父親は最初から居なかった。
母親の顔は薄らとしか思い出せない。
最後の瞬間だけ少し覚えている、一人になる俺を心配していた気がする。
一人になった俺は弱かった。
自分一人でどうやって生きていけばいいか分からなかった。
とにかく分からないまま立ち止まっていると訪れたのは飢えだった。
しかし、小さい子供一人では食事にありつける筈もない。
母が唯一俺に残したボロ小屋で座っていても死を待つだけだった。
外に出れば食べ物があった。
他人の持ち物だ。
最初は欲しいと言えば分けてくれる奴もいたが、直に厄介扱いされる様になった。
そして俺が生きる為に選んだ行動は盗むことだった。
最初は盗んで走り出したが、弱い子供の体ではすぐに捕まり叩きのめされた。
何度繰り返しても食事にありつくことはできなかった。
ただ、体を痛めつけられ衰弱していくだけ。
俺は学習した。
盗んで逃げるから失敗する。
俺は食べ物を盗んだ瞬間食べるようにした。
すると、腹に食べ物が収まる。
もちろん、その後の制裁は受けたが飢えは凌げることを知った。
俺は少しずつ生きる術を身につけていった。
ある日、俺と似ている奴らがいることを知った。
俺と同じ、飢えを待つだけの存在。
俺は弱かったが、そいつらは俺よりも弱かった。
俺は生きる方法を教えてやった。
すると、そいつらは俺に付いて来るようになった。
俺は生きる方法を教えてやったつもりだったが、そいつらにとっては違った。
俺がそいつらの生きる方法になっていた。
それが俺には気に食わなかった。
自分の力で生きようとする意思がなかった。
しかし一人よりも何人かで盗みを行うほうがやりやすいことを知った。
俺の指示でそいつらは動く、これは俺の力だと思った。
弱かった俺は仲間を手に入れた。
それから生活は少しだけマシになっていった。
飢える心配はしなくてもいいほどに。
俺はどんどん学習していった。
町で動く範囲を広げると、色んな人間がいることを知った。
満たされた生活をしている生まれつき強い人間を見た。
俺達はそいつらを狙った。
奪い、売って、買って、食う。
自分達と同じ境遇の弱い人間には手は出さなかった。
俺達は奪わなければ死ぬ。
奴らは奪われても死なない。
理不尽な世界の中で、俺のような人間はこうして生きるしかないのだと思った。
順調に生活を送っていた矢先、邪魔が入るようになった。
俺の体は成長し、同じ年頃どころか少しくらい歳が離れていても負けないようになっていた。
しかし、俺達の生きる邪魔をしてきた女は強かった。
俺は初めて敗北した。
気に食わなかった。俺達に女は言った。
弱者を虐げるなと。
その言葉に、俺はふざけるなと思った。
この世界で虐げられている弱者は俺達だ。
俺が奪ってきた奴らはこの世界では強者だろうと。
女の邪魔が入り始めてから仲間が減っていった。
女に勝てない俺に付いてくるより、自分で生きる術を考えて去っていった。
女は気に食わなかったが、仲間が離れていくのは俺にとっても良かった。
元より俺は一人で生きる方法を教えてやりたかったのだ。
俺を生きる術にしている仲間は気に食わなかったから。
しかし、それでも俺に付いてくる奴らがいた。
ダンテとクルトだった。
二人は弱かった。
俺がどれだけこき使おうが、離れていかなかった。
俺から離れたら死んでしまうと思っているかのように。
自分の力で生きようとはしていなかった。
しかし、離れていく仲間と残った二人を見ている内に違う感情が芽生え始めた。
こいつらがこうなってしまったのは俺の責任でもある。
二人を強くしてやらなければならない。
その義務を果たすまでは守ってやろうと思った。
ある日、獲物を探して町を歩いていると極上の獲物を見つけた。
見るからに弱そうで、手には本を抱えていた。
俺でも価値は分かっているくらい本は高価な物だった。
絶対に逃がしてはならない。
追いかけ、追い詰めるとまた女が現れた。
この時になるとこの女の名前は嫌でも覚えていた。
セリア。
極上の獲物の前に立ちはだかり、俺達を退けた。
しかし、俺は一度その場を離れたが諦めてはいなかった。
顔は覚えた。
服も上等な物を着ている。
こいつから奪う機会はいくらでもある。
セリアも常に俺達の元へ現れる訳ではない。
そう思っていたのだが。
一人だったセリアの横にはその男が常にいるようになっていた。
俺はそいつが気に食わなかった。
もはや奪うとかそんな考えはなかった。
ただでさえこの町の中でも上等な生活をしている男が、女に守られている。
女に守られる情けない男だと思った。
しかし、この俺達との違いはなんだととも思った。
俺の目に見えるそいつは俺の欲しい全てを手に入れていた。
ただ、生まれた場所が違うだけで人生は変わる。
そんな光景を見るのも気に食わない、町を去ろうかと何度も思った。
冒険者にでもなって好きに生活しているほうが自分に合っていると思った。
しかしどれだけ年月が経ってもダンテとクルトは俺に付いてきていた。
きっと二人は俺について来てもすぐに死ぬだろう。
町に置いていっても、飢えて死ぬだろう。
こいつらが一人で生きていけるようになったら町を出よう。
俺はまだ義務を果たそうとしていた。
俺達は人手不足で戦士を募集していた守備隊の仕事についた。
この時になると生活は潤った。
盗みをする必要もなければ、夜になれば酒も飲める。
生活は順調だったがそれではだめだった。
二人は仕事でさえ俺に守られているだけだった。
このままでは二人は一生強くならないと思った。
俺は更に厳しく接した。
給金が出ると一部を奪った。
生意気なことを言えば殴った。
俺に反抗してみろ、怒ってみろ、そう思いながら。
しかしその時は悔しい表情を見せているのに、俺に逆らわず離れることもなかった。
俺は心の中で怒っていた。
しかし見捨てるという選択肢はなかった。
二人を強くしなければいけない責任とは別の感情もあった。
俺にとって二人は小さい頃から共に育って生きてきた仲間だった。
もし強くなって俺と一緒についてくると言うならそれもいいと思っていた。
堂々と俺に意見し、お互いの背中を守れる男になれるのなら。
二人と共に冒険者になるのも悪くはない、そんなことを考えていた。
ある日、守備隊に俺の嫌いな男が入ってきた。
アルベル。
同じ所で働くなんて吐き気がした。
最初は殴りつけてやろうと思ったが、奴は守備隊の大人達に好かれていた。
本当かは知らないがグリフォンを単独で仕留めたという話も聞いた。
俺がアルベルと問題を起こせば立場があやうくなるのはこっちだった。
俺は問題を起こして仕事ができなくなっても構わないが、ダンテとクルトは違った。
俺はアルベルに自ら辞めたくなるように仕向けた。
同年代の子供達に命令し、奴を孤立させた。
しかしそんな俺の行動を気にしてないかのように奴は仕事をしていた。
その全てのことに興味がなさそうな目にも腹が立った。
こいつは全てを持っている。
いい服を着て、腰には上等な剣を掛け、家に帰れば家族が待っている。
職場での信頼も厚い。
それなのに、アルベルは退屈そうにしていた。
全てを持っているというのに、何で生きているか解らないというような目をしていた。
本当に嫌いだった。
ある日、アルベルに一言仕事上で声を掛けられる出来事があった。
それだけで気分が悪く、舌打ちをして堪えたが。
いつもの退屈そうな目で通りすぎるのを見て我慢はできなかった。
俺はこいつがセリアに捨てられたことを知っていた。
俺は挑発した。
震えてそのまま立ち去るだろうか。
そう考えると少しは俺の気持ちも発散されたが。
予想とは裏腹にこいつは俺を睨み返してきた。
そして俺を挑発し返してきた。
その時はもう後のことなんて考えてなかった。
俺は拳を振りかぶると、あっさりやられた。
アルベルは俺よりも強く成長していた。
俺のほうが辛く、精一杯生きているというのに、その俺よりこの男は強くなっていた。
この世界は本当に理不尽だ。
くそったれだと思った。
奴に殴られた腹は恐ろしいことになっていた。
治療する金がなかった訳ではない。
この傷を治してしまったら奴に屈服し、俺のこれまでの生き方を全否定されるような気がした。
激痛の中、放っておけば死んでしまうかもしれないと頭をよぎったが、それでも治すよりかは死んだほうがマシだと思った。
いつも通り仕事にも出た。
その日の晩、人生の中で一番衝撃な事件が起きた。
俺の怪我に気づいたダンテとクルトが裏切った。
俺が死んだらこいつらはどうやって生きるつもりなのだろうか。
俺を殴る奴らの目にはこれからの心配をしているようには見えなかった。
俺の代わりに守ってくれる存在を見つけたような目をしていた。
百歩譲って、俺を殺した後一人で生きていくつもりなのだったら許せた。
しかし、奴らは弱いままだった。
俺は生まれて初めて悲しいという感情を知った。
腹を立てることしか知らなかった俺には衝撃だった。
俺はただ、仲間に裏切られて悲しいと思っていた。
俺のゴミのような人生はこんな終わり方か。
ダンテがナイフを振りかぶる姿を見ながら思った。
本当にこの世界はクソッタレだ。
しかし、最後の瞬間は訪れなかった。
俺を救ったのは、俺の大嫌いな男だった。
俺を背負うアルベルに吐き気を覚えた。
死んだほうがマシだ。
アルベルの背中で恨み言を綴ったが、アルベルは俺を降ろさなかった。
そして、アルベルは俺に言った。
俺のことは嫌いだ、自己満足だと。
その言葉に嘘はなかった。
アルベルの自己満足の為に俺は使われただけだ。
こいつも俺と同じように何かを背負って生きているのかもしれない。
そう思うと俺はもう何も言わなかった。
半ば強引に治療されると、俺は家を出て歩いた。
その道筋で考えた。
俺が死ななかったのは奴の自己満足だが。
それでも俺が今生きている事実は変わらない。
これは借りだ。
奴の自己満足に対する借りだ、感謝は一切していない。
しかし俺が生きているからには、返す。
そう思った。
次の日からダンテとクルトは姿を消した。
元より報復などするつもりはなかったが、これをきっかけに二人が強くなればいいと思った。
もう二人は一人で生きていくしかない。
生きる術は教えてある。
もしかすればそれでもまだ守ってくれる相手を探すのだろうか。
俺はそうならないことを願った。
それからアルベルと仕事をするようになった。
相変わらずアルベルは退屈そうだったが。
もう俺は何も言わなかった。
特に会話もない、たまに向こうが質問をしてくるが俺が短く答えるだけ。
そんな日々の繰り返しだった。
しばらく仕事をしていると新しい感情を知った。
背中を守られる感覚だ。
いつも後ろを守るように戦っていた俺には新鮮だった。
それは嫌な感覚ではなかった。
ある日、俺は言った。
お前はなんでそんなに退屈そうなのかと。
何故、何かで自分を押さえつけているのかと。
俺は知っていた。
アルベルは行儀良さそうにしているが中身はそういう人間ではない。
たまに見える本性の様なものを隠して生きていた。
俺には何故なのか不思議だった。
俺は煽るように言うと、アルベルは本性を見せた。
苛立たせると本当のアルベルが出てくるのを知っていた。
これは俺の為でもあった。
退屈そうに生きているアルベルは相変わらず嫌いだったからだ。
もっと精一杯生きろと常々思っていた。
俺達は酒を飲みにいくことになると奴はすぐに酔っ払った。
正直うざかったが、アルベルという人間を知った。
奴は自分のことを全て話していた。
すると、納得できる部分もあった。
俺は生まれた場所で全てが決まると思っていた。
アルベルは満たされた場所で生まれた強者だと思っていた。
しかし、俺が思っているよりアルベルは強くなかった。
アルベルは満たされた場所に縛られていたから。
俺の人生が大きく変わったきっかけは、ドールがセリアの話をした時だ。
次の日、アルベルから縛りは解かれていた。
もちろん俺は元々町から出たかったし一緒に出るつもりだった。
正直、この町にいる内は借りなんて返す場面は現れないのはわかっていた。
何が起こるかわからない外の世界なら借りを返す機会はあると思った。
旅が始まると、嫌いだったエルに助けられていた。
正直足手まといになると思っていたが、一番必要ないのは間違いなく俺だった。
しかしアルベルは何故か俺を頼りにしているように見えた。
アルベルなら一人でもなんとでもなるだろうに、不思議だった。
旅が続くにつれて、俺は外の世界を学び始めた。
四六時中一緒にいる仲間の存在。
昔は常に後ろを警戒していたが、二人の存在は俺に安心感を与えていた。
無論、エルが嫌いなのは変わらないが。
いつからだろうか、三人で依頼をこなし、冒険者ランクも順調に上がり。
アルベルと稽古をするようになって。
共に金を稼いで、共に食って、共に寝て、共に歩く。
いつしか俺は生きていることが楽しいと思っていた。
俺の理不尽だった世界は消え、新しい世界は広がっていった。
知らない冒険者と会話をするのも楽しいと感じられるようになっていった。
多分、俺一人で町を出ていたらこんな気持ちにはならなかった。
俺は二人の仲間に影響されていった。
そう感じ始めたら、もう昔に助けられたことは単純に借りだった。
俺は今生きていることに感謝していた。
しかし、借りは返すどころか考えれば考えるほど増えていた。
でも、いいと思った。
いつか返したらいい。
俺は気付くのが遅かったが、俺達はパーティメンバーだ。
アルベルはきっと、最初から俺をパーティの仲間として認識していた。
そこに貸し借りの関係なんて存在しなかった。
充実した生活が続いていたと思うと、俺は再び理不尽な世界に戻ってしまった。
盗賊団の討伐。
拘束されているダンテを発見した時驚愕した。
俺はダンテが町から出れるほど強くないと思っていた。
捕らえられてはいるが、一人で生きていたダンテに感心した。
と思ったが、ダンテの話を聞くと俺の思い違いだった。
相変わらず弱いままだった。
ダンテは町を出て自分を守ってくれる存在を探していた。
一瞬相変わらず情けない、と思ったが。
それは俺から守ってくれる存在を探していたせいだった。
クルトは死んでいた。
自分のせいだと思った。
しかし、死んでしまったものはもうどうしようもなかった。
ダンテも俺を恨みながら死ぬのだろうか。
俺はお前達を守り、成長させたかっただけだと言っても仕方ないのは解っていた。
自己満足だろうか。
忘れてしまっていた二人への責任が俺を追い詰めた。
セルビア王国に着いてから毎日歩いた。
俺は変わったと思う。
他者を認め、自分の弱さを認め、仲間を大事に思っている。
カロラスで腐っていた俺には有り得ないことだった。
ダンテも変われるかもしれない。
しかし、変われる時間はもう残されていなかった。
俺はどうするか悩んだ。
毎日町の冒険者ギルドに行き、パーティから脱退するか悩んだ。
二人に迷惑がかからないようにパーティを抜け、城で暴れてダンテを逃がす。
不器用な俺にはそんなことぐらいしか思い浮かばなかった。
しかしパーティを抜けたところで二人には絶対に迷惑が降りかかる。
そして、何よりも二人を裏切ることになる。
俺はどの行動も選べなかった。
時間だけが過ぎていき、処刑の日を伝えられた夜。
俺は一人で歩いていた。
決断するなら今日しかない。
仲間を裏切ってダンテを助け、変われることを願うか。
このままダンテの死を見届け、憎しみの視線を浴びて、そのまま居心地の良い仲間と旅をするか。
正直俺にはダンテを助ける選択肢は取らないと自分でも分かっていた。
ただ、分かっていながらも自分を騙すかのように悩むふりをして歩いていた。
深夜だろうか、宿にも帰らずに歩いていると城で煙が上がっていることに気付いた。
何も考えずに近付いていくと、町の人間が騒いでいた。
盗賊が逃げたらしいと。
俺は思考することをやめ、城内に駆け込んだ。
騒ぎが聞こえる方向に行くと、今にも斬られそうなダンテの姿があった。
俺は飛び込んでしまった。
自分でも間違ったことをしている自覚はあった。
正義の剣士が悪党を斬る。
それを邪魔しているのは俺だった。
ここでダンテを助けたところで死ぬまでの時間が延びるだけで死は変わらない。
相手の剣士が強いことも分かっていた。
本気を出されれば俺は死ぬ。
自分でも分かっていた、アルベルの仲間だから手を抜かれていたことに。
反撃しても勝てないだろうが、斧を振る気にはなれなかった。
しばらく薄く斬られると、ローラは俺に呆れて去ろうとした。
俺は思った。
今なら賊はダンテ一人だけ。
こいつ一人くらいなら逃がしてやれるかもしれない。
他の賊は全員死んだ様だし、一人くらい分からないだろう。
馬鹿な俺は短絡的にそう考えた。
しかし突如現れた男がいた。
化物のような強さだった。
俺は一瞬で斬られると、意識が飛びそうになった。
死を覚悟する瞬間は二度目だった。
アルベルにまだ借りを返してねえ。
死ぬ間際にそんなことを考えた。
しかし、そんな俺を守るようにダンテが俺の前に立った。
朦朧とする意識の中、ダンテが俺を守ろうとする言葉が聞こえた。
あぁ、強くなったじゃねえか。
そう思い、安堵した。
しかし衝撃の瞬間は再び現れた。
仲間である筈のダンテはあっさりと刺された。
俺は体を引きずりながら近付いた。
死の間際、血を吐きながら交わした短い言葉は生涯忘れることはないだろう。
「ダンテ、なんでだ」
「分からねえよ。なぁ、クルトが死んだって知った時どう思った?」
「……悲しかった」
「分かった」
それだけ言うと少しだけ笑って目を閉じた。
俺の意識もなくなった。
目が覚めると俺は生きていた。
またアルベルとエルに助けられたらしい。
あの化物を倒したと聞いて驚いたが、すぐに思いなおした。
アルベルも化物だ。
ダンテは死んでしまったし、自分の気持ちも何も伝えれなかったが。
俺は最後に通じ合えた気がしていた。
もちろん俺が勝手に思っているだけかもしれない。
でも、俺の理不尽だった世界は再び閉じられていた。
再び新しい世界が目の前にあった。
二人の分まで精一杯生きて、俺が死んだら二人が歩けなかった世界の話を聞かせてやろう。
アルベルが目を覚ますまでは大変だった。
エルが喚いて仕方なかった。
最近は兄の前でも本性を見せる場面が増えてきたが。
見ていないところでは本当に怖い女だ。
たまに様子を見に行ったがすぐに追い返された。
兄の着替えや水浴びは全部私がすると言って聞かなかった。
しかし華奢な腕では難しかったらしく、最近覚えたての闘気を使っていたのを見たが。
まだ完全に使いこなしていないようで、アルベルの腕を握り潰したりしているのを見た。
焦って治癒魔術を掛けてはいたが。
少しアルベルに同情した。
アルベルが目を覚ますとこれからのことを話し合った。
共に稽古をし、銭湯という店に行くと新しい世界だった。
生きているのは素晴らしいと思えた。
アルベルと今までのこと、これからのことを話した。
俺は前よりも自分の感情が豊かになっているのを感じた。
それは心地良いものだった。
アルベルとも根っこのところで通じ合ったと思った。
俺はアルベルのパーティメンバーのランドル。
俺の肩書きなんてそれで十分だ。
アルベルが進む道についていく。
きっとそこには、まだ見ぬ知らない世界が広がっているだろう。




