第二十話「冒険者登録」
俺達が町を出てから六日が経っていた。
ドールの話によれば四日もあればテクの町に辿り着けると言っていたが。
さすがに俺とランドルの足にエルがついてくるのは難しかった。
頻繁に休憩を挟み、歩き続けた。
最初はエルを背負って歩こうかとも考えた。
しかし、エルのことを思うとすぐに考えを改めた。
エルは体力をつけたほうがいいだろう。
休憩しながらでも自分の足で歩かせるのが大事だと思った。
旅に出る前は強気なエルだったが、休憩する度に申し訳なさそうな顔をしていた。
最初はランドルが文句言うかと心配だったが、そんなことはなかった。
旅が少し遅れるのが気にならないくらい、エルには助けられていたのだ。
まず魔術でどこでも水が出せるし飲み水に困らない。
ここら辺で綺麗な水が沸いている場所なんて限られている。
水を探し森に入って街道から外れるのも手間だ。
そして俺とランドルが食料を調達してくるのはいいのだが。
二人でヘルハウンドの亡骸を眺めながらどうやって食えばいいんだと悩んでた。
しかし、エルが率先して捌き方を教えてくれた。
どうやらイゴルさんが話してくれたことがあったらしい。
確かに剣術の稽古中、俺とセリアが打ち合っている時にイゴルさんは暇なエルを構ってよく話を聞かせてくれていた。
魔術で簡単に火も起こせるし、しっかり肉には味付けがされていた。
俺とランドルだけだったらと想像するが。
適当に斬った部位を丸焼きにして噛り付いている絵が浮かんだ。
泥水を啜ることもなく、しっかり食べれる料理を食えるだけでエルには感謝しかなかった。
そしてエルは戦闘面でも役に立っていた。
一度十体ほどのヘルハウンドの群れに襲われたことがあったのだが。
エルが中級の火魔術を放つと全てのヘルハウンドが一瞬で消し炭になっていた。
俺は驚き振り返りエルを見ると、別に本人は驚いた様子もなく無表情だった。
集めて燃やす手間が省けて楽だよ。
なんて可愛く言っていた。
その魔術にランドルもさすがに少し驚いた表情を見せていたのが印象的だ。
エルは一日魔術を使っていても魔力切れを起こすこともない。
エルの貢献を考えると足の遅さと体力の無さなんて気にならなかった。
体力なんて旅を続けていればそのうちついてくるだろうしな。
夜になると焚き火を起こした。
俺とランドルが交代で魔物を警戒する。
エルは申し訳なさそうな顔をしていたが、自分の体力の無さを分かっていたので素直に休んでいた。
必然的に俺とランドルの睡眠時間は減るが、問題ない。
そもそもエルのペースで進んでいるのであまり疲れはない。
街道を歩いている限り魔物が頻繁に襲ってくることもない。
予定より遅れはしているが、俺達の旅は順調だった。
そして六日目の昼。
道中小さな村を通り過ぎることは何度かあったが。
視界の先に明らかに町と呼べるものが見えた。
「多分あれがテクの町かな?」
「だと思うが」
「やっと着いた……」
エルは五日の野宿でやはり疲れていたようで、安心していた。
少しずつ慣れていけばいいだろう。
今日はゆっくりベッドで寝れるだろうし。
少し歩いて町の前まで来ると、町の入り口に大きい木の看板が立っていた。
間違いなく、テクの町と書いてある。
「冒険者登録しないとね。
あ、ドールさんがまず町に着いたら宿を決めろって言ってたっけ」
「あぁ、また野宿になったらやばそうな奴もいるしな」
俺の言葉にそう言ったランドルだが、もちろん悪意はないだろう。
しかしエルにとっては皮肉に感じられたのか、少しむっとしていた。
「悪かったね……体力無くて」
そう言ってランドルを睨むと隠れるように俺の腕にくっついてきた。
喧嘩はしないで欲しい。
正直この旅の途中で何度二人が衝突したらどうしようかと心配していたのだ。
今のところ全員がしっかり仕事しているので問題ないが。
「そういう意味で言ったんじゃねえよ」
ランドルはそう言って歩き出した。
とりあえずは、大丈夫そうだ。
ランドルもエルに助けられているのを分かっているだろうし、本当に言葉の通りなんだろうな。
エルは相変わらず機嫌が悪そうだったが。
とにかく俺達は町の中に入った。
町を歩いてる人に宿の場所を聞いて回ると、それなりの数の宿があった。
満室で泊まれないことはないだろう。
問題はどこにするかだが。
ボロ小屋みたいな所もあれば上品な所もある。
まだ旅が始まったばかりだから金には余裕があるが、なるべく残して置いたほうがいいだろう。
装備が劣化すれば直したり買いなおしたりするのにはそれなりの金が掛かる。
俺はエリシアからもらって何度も直した赤茶の剣士服を愛用しているが。
ランドルの鎧は買いなおすしかなさそうだしな。
「うーんどこに泊まろうか」
俺が呟くと、ランドルが言った。
「俺はどこでもいい、カロラスに居た時も屋根があるだけだったからな」
そう言って横に見えるボロい宿屋を見ていた。
確かにランドルは何も気にしなさそうだが。
エルには今日くらいベッドで休ませてやりたい。
そして何気に俺もそろそろベッドで寝たい気持ちがある。
「ある程度小奇麗な所にしようか。僕、正直ベッドで寝たいし」
「好きにしろ」
俺がそう言うとエルは少しほっとした顔をしていた。
エルは俺と離れることになったら我儘になるが、一緒にいる時は俺の意見に反対することは少ない。
俺が節約でボロ宿に泊まると言ったら頷いていただろう。
俺も安心できるところで眠りたいしな。
俺達はある程度しっかりしてそうな宿に向かって歩き始めた。
宿に入ると、カウンターがあり、店主が座っていた。
俺達はカウンターに寄ると、店主が口を開いた。
「一泊小銅貨七枚だ。開いてるのは二部屋だけ」
無愛想に店主が答えた。
そして結構高いな……。
十日で銅貨七枚か、二部屋で銀貨一枚と銅貨四枚。
カロラスで独り身なら一月暮らせてしまう。
そして部屋割りを考えていなかった。
ここに泊まるなら誰かが床だ。
別の場所にするかと考えているとランドルが言った。
「俺は床で構わねえ。むしろベッドなんて落ちつかないしな」
うーん、本人がそう言うならいいか。
もしランドルがベッドで寝たがったら俺が変わってやればいい。
「助かるよ。じゃあとりあえず五泊で二部屋お願いします」
「あいよ。二階の突き当たりとその手前の部屋だ」
そう言って俺の渡した金を手に取ると、カウンターに二つの鍵を置いた。
俺は二つの鍵を手に取ると階段を上った。
この町でやらないといけない事は色々ある。
冒険者登録と初めての仕事。
次の町への道のりやセリアの情報収集。
何から始めようか、そんなことを考えながら部屋に向かう。
部屋の前でエルに鍵を渡してランドルと横の部屋に入ろうとすると。
エルが俺の腕を掴んで俺を止めた。
「お兄ちゃん何してるの、こっちだよ」
そう言って自分の部屋を指差した。
当然のように。俺がおかしいとでも言いたそうに。
「エル、僕もベッドで寝たいなぁとか思ってたり……」
そうやんわり断る。
実際そう思っている。
「一緒に寝ればいいでしょ?」
何をおかしいことを言っているのと首を傾げている。
もう俺達十四歳だぞ。
嫌という訳ではないが、色々と問題がある気がする。
「いや、そういう訳にも行かないでしょ。ベッドも大きくないだろうし」
そう言う俺に一歩も引かないエル。
どうしようかと思っていると、ランドルが溜息を吐いた。
そして俺の手から鍵を強引にむしった。
「アルベル、無駄だ。さっさとしろ」
諦めろ、と小さく言って苛立ちながら隣の部屋の中に入っていった。
えぇーと俺が呟くも、エルは強引に俺の腕を引いて俺を部屋に入れた。
部屋を見回すと、割と広くてベッドも俺とエルの体なら収まりそうだった。
まぁ、部屋で一人にするのも過保護かもしれないが心配か。
俺は諦めたように背負っていた鞄を床に置いた。
置くような荷物といえばこれくらいだ。
これからどうしようか。
今日は休むか、冒険者ギルドに行くか。
俺が悩んでいると、エルが言った。
「お兄ちゃん、水浴びしていい?」
そんなことを言った。
それもそうか、旅の道中毎日は体を洗えなかったからな。
「うん、じゃあ部屋から出ておくよ」
「出なくていいよ」
そう言っていきなり服を脱ぎ始めた。
えぇ!? と俺は焦りながら後ろを向く。
妹とはいえエルの外見は素晴らしいものだ、さすがに裸を見るのは俺も照れる。
エルには恥じらいというものなんてないのだろうか……。
さすがに妹には欲情しないが少し心配になる。
兄弟なら普通なのか? 俺がおかしいのか、分からない。
そんな俺を他所に、布が擦れて床に服が落ちていく音が聞こえる。
エルが小さく何か呟くと、桶に水が溜まる音が聞こえる。
いや、さすがに部屋から出たほうがいいな。
俺は扉に向かってそーっと歩き出す。
「お兄ちゃん? どこ行くの?」
後ろから突然掛けられた声に、反射で振り向いてしまった。
窓から差し込む光に照らされたエルの体は、綺麗だった。
透き通るような真っ白な肌で、十四歳とは思えない発育をしていた。
特に胸が。
さすがエリシアの遺伝子……と呆けて少し見てしまった自分がいたが。
エルはといえば何も気にしていない様子だった。
「どうしたの?」
呆けている俺にそんなことを言うと、俺は我に返った。
すぐにまた振り向いて扉のほうを見る。
「い、いや…やっぱり外に出ておくよ……」
え? と言うエルを無視して、少しぎこちない足取りで扉を開けようとする。
しかし、扉のノブを掴もうとすると、俺の手は空ぶった。
扉は、俺が開ける前に開いていた。
「おい、今日はどうするんだ? ん―――」
そこには大斧と軽装の鎧を脱いで、ラフな格好をしているランドルがいた。
固まった俺を訝しげに見ると、俺から視線を移動させて奥を見てしまった。
ランドルの瞳に反射するかのようにエルの裸が映されている。
さすがのランドルも少し、固まった。
そして、多分エルも。
しばらくの沈黙の末、ランドルが口を開いた。
「悪かったな」
それだけ言うと、いつもの無表情に戻って背中を向けた。
部屋から出る動きを見せるが。
「きゃあぁぁぁーーー!!!!!!!」
俺の後ろから聞いたこともない大絶叫が聞こえた。
この声は一体誰が出しているんだろうと考えてしまうような声。
俺は再び振り向いてしまうと、そこには両手で胸を隠して顔を真っ赤にして蹲って震えているエルの姿があった。
ランドルは、振り向くことすらせずに、何も気にしない様子で去って行った。
この後のことを想像すると、俺は頭を抱えた。
しばらくするとエルは服を着始め、乱暴に杖を掴んで急ぎ足で部屋から出た。
まるで俺のことが見えないかのように。
エルに無視されるのは初めてだな……なんて思う間もなく。
俺は危険な香りを感じて急いで後を追った。
隣の部屋を蹴り破るように開けるが、そこにランドルの姿はなかったらしい。
怒りの形相のまま階段を下りると、
ロビーの椅子で座っているランドルの姿があった。
俺達を待っていたようで、相変わらず無表情だ。
ロビーにはランドル以外には誰もいなかった。
「遅えぞ」
俺達を見てそんなことを言っている。
こいつはこの状況を分かっているのだろうか。
エルは無言でランドルに詰め寄る。
そして持っていた杖を頭上に上げて思いっきり振り下ろすが。
パシッと軽い音がして、簡単にランドルに受け止められていた。
「何だよ」
エルは震えながら杖を引き抜こうとするが、ランドルの力に勝てる訳がない。
杖は掴まれたまま動かなかった。
「殺してやる」
エルの可愛い口から出た、低く恐ろしい言葉にぞっと背筋が凍った。
エルからそんな言葉が出るなんて……。
俺が驚いていると、ランドルは無表情のまま言った。
「さっきのことかよ、謝っただろ。別にお前の体になんか興味ねぇし」
一切動じていないランドルに、エルが更に震えた。
さすがにやばい。
止めなければ、と思うが。
エルの杖は押さえつけられているし、二人で暴れている訳でもない。
俺は一体どうしたら……と思っていると、エルが低い声で呟き始めた。
「猛る灼熱の炎よ、全てを焼き尽くし、喰らいつくせ」
その言葉に俺はぞっとした。
旅の道中で聞いた中級の火魔術の詠唱。
ランドルもさすがに焦った。
「お、おい……お前、ちょっと待て」
ランドルの掴んでいる杖の先の魔石が赤く発光している。
これは、シャレにならない。
ランドルどころか宿も焼失してしまう。
「ファイアブ―――」
俺は一瞬でエルの背後に飛ぶと、後ろから口を押さえて羽交い絞めにした。
「エ、エル! 何考えてるんだ! 宿を消す気か!」
焦って言う俺に、エルは身をよじって暴れる。
暴れているエルが手を放すと杖はポトリと床に倒れる。
魔石から迸る赤い発光は、次第に収まって行った。
しばらくしてエルが疲れ果てたのか、暴れる気力もなくなったのか。
体の力を抜いた。
俺が押さえてた体を離してやると、そのまま床に崩れ落ちた。
もう既に怒りの顔ではなかった。
しかし、その瞳には色がなくなってしまったようだ。
しばらくしてエルは下を向いたまま口を開いた。
「お兄ちゃんこいつ殺して」
いまだにそんなことを言うエルに、俺はエルの背中を擦ってやりながら言った。
「さすがにそんなことできないよ。
うーん……どうすれば……」
どうすれば機嫌を直してくれるだろうと考えている俺をランドルが見ると、はぁと溜息を吐いた。
「分かったよ、一発殴られてやる。それでいいだろ」
その言葉に、エルは少し顔を上げて少しだけ高くなった声で言った。
「分かった」
意外にも、納得していた。
良かった、まじでどうなるかと思った。
エルの華奢な体では拳を振ってもランドルはビクともしないだろうが。
エルが満足するならそれでいいだろう。
と、思っていると。
エルは俺の腕を掴んだ。
「お兄ちゃん、本気でやってね」
そう言っていつも通りの可愛い声と顔で微笑んだ。
可愛いはずのその微笑みは、何故かとても恐ろしいモノだった。
というか、え? 俺が殴るの?
ランドルを見ると、は? と言った顔
いや、そりゃそうなるだろう。
「エ、エル、僕が殴るの?」
「そうだよ、私が殴っても効かないもん。
お兄ちゃん、私の裸見られたんだよ」
そう言いながらランドルを憎らしそうに睨んだ。
そして、今更ながら大事な事に気付いた。
今までは状況についていけず慌てていただけだったが。
ランドルは俺の可愛い妹の裸を見やがったのだ。
これは……いかにランドルとはいえ許してはいけないのではないか。
エルに言われなくとも、兄として制裁しないといけないのでは。
そう思うと、闘志が湧いてきた。
そうだ、俺は戦わなければいけない。
「ランドル、覚悟しろ」
「は? お前まで何言ってんだ……ちょっと待て、止まれ」
俺が近付いて行くと、ランドルは立ち上がり少し後ろに下がった。
焦るランドルを見るのも珍しいが、この数分でこの姿を見るのは二回目だった。
横目に見えるエルは満足気だ。
うむ、妹の期待に答えるとしよう。
俺は拳に闘気を集中させると、ランドルの腹に打ち込んだ。
ランドルは、意識を手放した。
その一時間後。
俺の左側では満足気に楽しそうに俺にくっついて歩くエルがいた。
右側にはまだ腹が痛むのが少し険しい顔をしているランドルがいる。
もちろん前のような失敗はしない。
しっかり加減はしたから大丈夫なはずだ。
一応エルに治癒魔術を掛けるように言ったのだが、当然のように却下された。
ランドルは納得がいかないようで、苛々している。
「なんで興味ねえ女の体見て殴られんだ……」
「諦めてくれよ、あぁでもしないとエルが納得しないだろうし」
「お前もノリノリだったじゃねぇか」
「そんなことないって! さぁ、僕達はもうすぐ冒険者だよ」
そう、俺達は冒険者ギルドに向かっていた。
色々あったが、これから冒険者生活が始まるのだ。
やはり少し憧れていたこともあって、楽しみだ。
冒険者ギルドに着くと、思ってたより大きい施設で驚いた。
百人ぐらい普通に入れそうな建物だ。
心躍らせながら大きい扉を潜ると、様々な人がいた。
獣人族や、子供のように見えるが小人族だろうと分かってしまう戦士の貫禄。
カロラスでは少なかったが、人とは少し違う外見の者も多かった。
一目で魔族と分かるような者はいないが、魔族とかもいるんだろうか。
周りをキョロキョロと見回すと、心臓の鼓動が早くなってきた。
エルもわぁーと楽しそうだ。
珍しくランドルも興味深そうに周囲を見ている。
北へ行くほど冒険者が盛んだというんだから、
こんな光景は珍しくもなんとも無いのだろう。
早く慣れないとな。
俺達はギルドのカウンターの受付に向かうと、話を聞いた。
「冒険者登録したいんですが」
そう言うと狐耳の美人な受付嬢の人が優しい口調で説明してくれた。
「はい、大丈夫ですよ。手数料で一人銅貨一枚頂きますが」
あぁ、金取られるのか。
考えていなかったが当然か。
俺は三枚の銅貨を取り出すと、受付嬢に渡した。
「はい確かに。では、名前と年齢と誕生日、種族を教えてもらえますか」
俺達三人は順番に言われた通りに説明した。
「了解しました。冒険者カードを作る間に冒険者の説明をしましょうか?」
「お願いします」
受付嬢が語ってくれた内容はこうだ。
冒険者ギルドについて
基本的には全大陸同じルールで統一されている。
しかし、一部のギルドで小さくルールが違うことがある。
その場合はその町の冒険者ギルドに従うこと。
依頼について
受けた依頼には依頼により期間が決まっている。
一度受けた依頼を達成できなかった場合。
破棄した場合はそのランクに応じた違約金を払う必要がある。
依頼を達成したが期間が過ぎていた場合。
報酬は発生しないが違約金も発生しない。
依頼の制限とランクについて
SからFまでのランクがある。
自分のランクの一つ上と一つ下の依頼しか受けられない。
そのランクの規定の回数の依頼を達成するとランクが上がる。
一つ上の依頼を繰り返しやる方がランクアップが早い。
ランクアップするかは個人の自由。
冒険者カードについて
紛失場合、再発行することができる。
それまでの実績は冒険者ギルドに保存されている。
なので、冒険者ランクは紛失前と変わらない。
しかし、多額の手数料が必要になる。
禁止行為について
冒険者ギルドの職員への暴力、殺害。
他の冒険者の依頼を妨害する行為。
冒険者資格について
冒険者ギルドの脱退は自由。
脱退後、再度冒険者になるとFランクからスタートとなる。
上記のルールを破った場合、冒険者資格を剥奪される。
再度冒険者になるには一年の期間が必要になる。
その後、再びFランクからのスタートになる。
しかし、禁止行為の悪質度が酷い場合。
永久に冒険者資格を剥奪する。
説明が終わると、質問を始めた。
「Sランクになるメリットって何ですか?」
話を聞いていると受けれる依頼が減るだけで意味がない気がした。
「まずは名誉ですね。強さの指標になりますし。
依頼がギルドで公開される前に斡旋されたりと様々な特典があります」
なるほど。
意味はあるのか。
とりあえず、しばらくは自分達のランクを上げることからか。
ランクを上げて有名になれば、セリアも俺が追いかけてきたことに気付くかもしれない。
「手っ取り早くランクを上げる方法ってありますか?」
俺がそう言うと、受付嬢は少し心配そうな目で俺達を見たが、答えた。
「数をこなすしかないですね。あるとすれば、
上限三つまで依頼を受けれるので、まとめてこなすことでしょうか」
そうなると三つまとめて受けたほうがいいだろう。
ドールも言っていたが、最初の内は採取依頼とか低ランクの魔物の討伐だ。
今までやってた事と変わらないだろう。
「分かりました。ありがとうございます」
しばらく経つと、俺たちの冒険者カードができたようでカウンターに置かれた。
「再発行には銀貨二枚が必要になるので大事にしてくださいね」
「分かりました」
カードを手に取ると、自分のランク、名前年齢種族が書いてあった。
もちろんFランクだ。
気になるのは、名前と年齢の所が薄く光っている。
「なんか光ってるんですけど」
「はい、カードには魔術が使われていまして。
誕生日が来ると自動で更新されます」
そうなのか。
正直、道具にも魔術を使われているのは初めてみた。
魔道具的な物だと思っておこう。
嬉しい気持ちを隠せずに少しニヤけながら自分のカードを眺めていると。
「見たところお仲間のようですが、パーティを組まれますか?」
そういえば、そうか。
何も考えてなかったが。
でも、パーティ組むメリットってあるのか?
「パーティの説明してもらっても?」
「かしこまりました」
パーティの上限はないが、カードに表示されるパーティ欄は十名まで。
パーティリーダーのランクと上一つ下二つ以上離れているとパーティに加入できない。
パーティランクはメンバーの平均値で決まる。
パーティへの加入はリーダーの承認があればギルドで受付できる。
パーティリーダーはメンバーの強制脱退の権利がある。
パーティを脱退するのは個人の自由。
パーティリーダーやメンバーが死亡してもパーティは崩れないので、自ら脱退申請する必要がある。
パーティに入っていても個人で依頼を受けるのは自由。
しかし、パーティで依頼を受ける場合はパーティランクの上下一つのランクの依頼しか受けれない。
説明によると、依頼は個人かパーティでしか受けれないらしい。
三人で行動するなら、パーティを組んでいないと報酬は分けれるがランクは一人しか上がらない。
そうなるとパーティを組まない訳にはいかない。
そして個人で助っ人としてパーティに混ざると、揉めることがあるそうだ。
主に分け前で。
助っ人代を前もって決めていても問題が起こる。
働きによってもっと寄越せやらやっぱりお前にこんなに払えないなど。
とにかく、俺達はパーティを組むしかない。
「はい、パーティ組みます」
エルとランドルに確認を取っていないが、別にいいだろう。
ランドルはともかくエルとは離れることはないだろうし。
「了解しました、ではカードを貸してもらえますか」
俺達は素直にカウンターにまたカードを置く。
受付嬢が回収すると。
「パーティ名はどうなされますか?」
そんなことを言われた。
いきなり言われても困ってしまう。
左右にいるエルとランドルの顔を交互に見たが。
「お前の好きに決めろ」
「私、何でもいいよ」
そんなことを言ってくる。
いや、困るんだけど。
正直俺も何でもいいし誰かに決めてほしい。
よし、俺に決めされたらまずいと分からせてやろう。
「そうだな、ファントムブラックサンダーにしよう」
自分で言ってて恥ずかしくなる。
そして自分で何を言っているか分からない。
まぁ、これで二人も一緒に考えてくれるだろうと思ったのだが。
「あぁ、いいんじゃないか」
「かっこいい」
そんなことを、言っている。
そこは馬鹿かお前とつっこむところなんだけど……。
二人の感性がおかしいのか、と思ったのだが。
狐耳受付嬢の人もいいですね、と微笑んでいる。
「えーと、ファントムブラックサ―――」
「いや、いいです! 変えます!」
「なんだよ」
「変えちゃうの?」
どうなっているんだこの世界の人間は。
俺はこんな名前で呼ばれたら赤面してしまうぞ。
これは二人には頼れないな。
どうしようか……。
うーんとしばらく考え込む。
なるべくセリアに気付いてもらえる名前のほうがいいだろう。
かといってさすがにセリア捜索隊とかはまずいだろう。
俺達の共通点やお互いに知ってるものを思い浮かべる。
セリアとエルとランドルと俺を考えると、一つの共通点があった。
名前もパーティ名にしてもおかしくはないだろう。
よし。
「決めました。パーティ名は―――」
この日、俺達は冒険者になり、パーティを組んだ。
パーティの名前は『カロラス』
全員の故郷の町の名前だった。




