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第十一話「イゴル・フロストル」


 子供達と別れると町の門で守備隊の合流を待った。


 数日もセリアを置いて行くのは初めてだったが、

 娘は強くなったしアルにもまかせてあるし大丈夫だろう。

 少し過保護だったかもしれない。

 どれだけ娘が強くなろうと剣以外のことはからっきしなので心配は心配なのだ。

 

 いや、最近じゃもう読み書きもできるんだったか。

 冒険者だった時は仲間に文字が分かる奴がいたから助かったが、

 一人の時は文字が分からなくて困ったことも多々あった。

 俺は剣術以外教えれなかったから、正直アルの存在に助けられた。

 剣術以外教えれなかった俺が言える言葉ではないが、

 娘には色々な選択肢を作ってやりたかったから。


 本当にアルは、不器用な俺やセリアと違って何でもできる。

 アルなら将来何をしても上手くやっていくのだろう。


 子供に向かって思うことじゃないだろうが、

 一体アルは何者なんだろうと考えていたこともあった。

 明らかに俺の知る子供という存在からかけ離れていた。

 もちろんこれはいい意味でだが。

 セリアも剣術では子供として異質だったが、

 他の部分はまだ狭い世界を歩いている普通の子供だった。


 しかしそんな考えはすぐに脳内から排除された。


 アルのセリアを見る目は、俺がよく知っているものだった。

 子供がよくする憧れているものを見る目だった。

 アルがセリアを見ている時はただの子供だった。


 将来、二人はどうなるんだろうか。

 もう二人がどんな道を選ぼうと、俺は何も口を挟むことはない。

 何が起ころうと剣士として自分で解決できる力をもう持っている。

 そう思ったから一人前の剣士だと伝えた。


 この仕事が終わったらやっと実戦だ。


 前にセリアに行くか、と聞いた時は予想と違い断られた。

 アルと一緒の時でいい、とそれだけ言った。

 あの娘が、剣術の高みを目指すことしか考えてなかった娘が、初めて足を止めた瞬間だった。

 俺はその言葉でやっとセリアの想いに気付いた。

 セリアの中でアルの存在はとても大きなものになっていたのだ。


 初めての戦闘に、二人はどうするだろうか。

 セリアは嬉々として剣を振るだろう。

 その後に大したことないわね、なんて言うんだろうか。

 アルは少し恐がりの所があるから最初は足が竦むかもしれないが、セリアが剣を振るのを見て、背中を追いかけるように剣を振るだろう。


 多分、想像通りだ。


 その風景を思い描くと自然と微笑ましくなり、ははっと笑ってしまった。

 門の前で一人で笑っている俺は誰かに見られたら奇怪な目で見られるだろう。


 笑いを抑えると、ガチャガチャと鎧に剣が擦れ合う音と足音が聞こえてきた。

 振り向くとよく知る顔並みが揃っていた。

 一番先頭に立っている異常に筋肉質の男はその巨体に見合う斧を背負っていた。


「待たせたなイゴル、よろしく頼むぜ」

「おうドレク、まかせとけ」


 リーダーの大男、ドレクが手を上げて俺の肩を叩くとそのまま歩き出した。

 その後ろから八人ほど続いた、全員一緒に仕事をしたことがある奴らだ。

 全員軽装の鎧で、着ている装備は様々だ。

 この辺境の町だとこんなもんだろう。


 目的の村には東に一日ほど歩かないといけない。

 急を要する依頼なので、最短距離で森を抜けて行くので馬車は使わない。


 一晩野営をして、早朝に村に着く予定だ。

 問題が早く片付けば二日で帰れるだろう、遅くなっても三日目の早朝には町に戻れるだろうからその日は子供達と剣術の稽古ができるな。


 その問題と言うのも大体検討はついている。

 どうやら多くの魔物が何かから逃げるように森から溢れてきて、村に被害が出ているらしい。

 大方Cランク辺りの魔物が縄張りから離れて彷徨った果てに、被害の出ている村の近辺の森に住み着いて荒らしているのだろう。

 それに怯えてそこで暮らすEとFランクの魔物が逃げてくる、割とよくある話だ。


 実際自分が暮らすカロラスの町でも同じことがあった。

 その時も助けを求められ、あっさり解決した。

 Cランク程度の魔物に手こずるようなことはない。

 セリアやアルでもあっさり倒せるだろう。


 しかし、それはセリアとアルが異常なだけで、普通の人間は違う。


 EランクやFランクの魔物と戦って死傷者が出る時もある。

 王国や大きな町ならまだしも、こんな辺境の町の戦士ならそんなもんだ。

 闘気を扱える奴もなかなかいない。


 しかし皆仲間思いで勇敢で気の良い奴らだしいい仕事仲間だ。

 俺も剣の腕を頼られるのも悪い気はしない。


 俺はそんな戦士達を守るように隊の中衛を歩く。

 魔物が現れたら臨機応変に動き斬り伏せた。

 歩みも順調で日が落ちてきた頃、焚き火を焚きながら交代で見張りをし睡眠を取った。

 


 朝日が差し始め、森が少し明るくなると再び歩き出した。

 森を抜け小さい村に着くと、村人達は感謝の言葉と共に詳しい話を話した。


 村の北側の森から異常な数の魔物が溢れているらしい。

 村の戦士だけじゃ手に負えず被害も大きい。

 もう村には戦える戦士がもうほとんどいないという。

 とりあえず着いたら村が全滅してたなんていう事態は避けれたようで安堵した。


 話が終わると俺達は魔物が溢れている北の森に向かった。


 目的の場所に着くと、なるほど、これは小さい村の戦士じゃ手に負えない。

 森に入る前からEランクの魔物、ヘルハウンドの群れが居座っていた。

 黒い体毛に包まれた一メートルほどの犬だ。


 十数体のヘルハウンドは、すぐに俺達に気付くと飛び掛ってきた。


 俺は先頭に立って剣を抜く。

 近い個体から首を刎ね、蹴りを見舞い十体ほど絶命すると、残った数体のヘルハウンドは怯えたように森に消えていった。

 剣にこびり付いた血を力強く振り払うと、鞘に戻すことなく森へ進んだ。



「イゴルがいなかったらやばい仕事だったな」


 ゴブリンに始まり、イビルスパイダー、ベビースコーピオンのFランクの魔物を斬り伏せると後ろで誰かが呟いた。

 ほとんどの魔物は俺が相手している。

 他の九人は俺の討ち漏らしを担当している、今のところ被害はない。


「役に立ったようで良かった。そろそろ近いぞ」


 俺がそう言うと全員より一層気を引き締める。

 一番戦闘が激しかったのは森の入り口部分だった。

 奥に進むほど魔物が明らかに減った、普通は逆のはずだ。やはりおかしい。

 更に進むと、先程まで騒がしかった森の中で響く音は俺達の鎧の音と足音だけになった。


 確信する、この先に何かがいる。


 やはり俺の想像通りだろう。

 こんな所に住み着きそうなCランクの魔物といえばフォレストタイガー辺りだろうか。

 奇襲を受けないように、魔物の気配に慎重に気を配りながら進む。


 すると、感じた。

 何かの気配と共に禍々しさを感じる。

 背筋から汗が一滴ツーっと流れ落ちた。


 俺の想像よりも危険な魔物がいるかもしれない。

 万が一の事態を考えると一人で行ったほうがいいかもしれない。

 後ろを見ると、すぐ俺の背にいたドレクは俺の目を見ると声は出さず大丈夫だと言うように頷いた。



 樹を縫うように足場の悪い森を進むと、少し広い空間に出た。

 周りの樹と比較にならないぐらいの大樹が陽を阻み、辺りは薄暗い。


 そこには異様な光景があった。


 グチャ、グチャ、グチャ。


 巨体のヘルハウンドの死骸から流れる血が地面に染み渡っている。

 音がない世界に響き渡る不快な咀嚼音。

 ヘルハウンドより小さい体の生物が、腹から肉にかぶりついて一心不乱に食事していた。

 

「うっ……」


 仲間の一人が吐き気を堪えて口元を手で塞ぐ。

 吐き気を催すこの異常な光景。


 ヘルハウンドの血を浴びながら肉を喰らっている者は子供だった

 人間の男、五歳ぐらいにしか見えない子供だった。

 肩まである黒い髪はべったり血がこびりついていて、奴隷服のようなボロ布を体に引っ掛けている、服とは到底呼べないその布は血に塗れていた。

 その傍に刃こぼれの激しいボロボロな貧相な剣が落ちていた。


 これは子供じゃない人間じゃない、悪魔というのも憚れる。


 狂気だ。


 俺は構えた剣を降ろすことができない。

 目の前の“それ”はこちらを見ることもせずに食事を続けている。

 俺には分かる、“それ”は俺達に気付いている。

 まるで周囲を飛びまわっている虫のように、気にとめていない。

 動けないで固まっていると、痺れを切らしたドレクが“それ”に近付いた。


「な、なぁ……君……」


 ドレクの声を聞き、俺の考えることを放棄して活動を止めていた脳がようやく動き出した。


「ドレク! 離れろ!」


 俺が声を上げて叫んだ時はもう遅かった。

 “それ”は腕を伸ばし、落ちていたボロボロの剣を拾うと、ドレクを見ることさえせずに腕だけ動かした。

 

 鋭すぎる剣筋。

 その瞬間、ドレクの首が飛んだ。

 その光景を目にした仲間達は。


「貴様!!」


 仲間達は怒りをあらわにして剣を振りかぶりながら“それ”に斬りかかろうとした。


「やめろ! 下がれ!」


 そう叫ぶ俺の静止に聞く耳を持たず、“それ”は立ち上がると剣を振り、順々に仲間達の首が飛んだ。


 その空間は血の世界になり、こちらに転がってくる仲間の首を前に蒼然としていると、“それ”はようやくこちらを見た。

 つまらなそうな無表情の顔、幼い顔立ちから滴る血はおぞましい。

 

 勝てない。


 長年の剣士としての直感が俺の脳に逃げろと信号を送っていた。

 しかし、仲間を殺した奴に背中を向けることを俺の体は許さなかった。


 俺は力強く剣を構えた、闘神流中段の構え。

 持ちうる限りの闘気を爆発させるかのように体に乗せる。


 すると、“それ”は初めて少しだけ表情を変えた、薄く苛立った顔をしている。

 そして初めて声を出した。


「貴様、闘神流か」


 幼い声から発せられるその言葉は威圧的で、憎しみを背負っていた。

 俺の頭は混乱した、なぜこいつが今や人の記憶に残っていない闘神流の構えを見ただけで理解できるのか。

 混乱しながらも相手の動きに敏感に体を集中させる、中段の構えを崩さない。

 待っていると“それ”は闘気を纏った。

 禍々しい黒い闘気が辺りを埋め尽くすように空間を黒く染め上げた。


 何だこれは……ありえない。


 膨大な闘気、剣を振れば樹が吹き飛んでしまいそうな力強さ。

 乾いた風が吹き、風が止むと正面からの声に我に返った。


「お前を殺す」


 そう宣言すると、“それ”と俺にあった数メートルの距離は一瞬で詰まった。

 容赦なく首を刎ねようとする斬撃を足と腕だけに集中させて間一髪の所で受け、踏ん張る。

 ただ受けてしまったら体が吹っ飛んでしまう衝撃が体を走る。

 相手の剣筋に合わせて闘気を高速で移動させて受け続ける。


 救いなのは相手の剣が貧相な物だったこと。

 子供の体をしていること。

 敵を殺す事しか考えていない鋭いながらも技がない剣筋。

 巨大な闘気をただ体に乗せているだけだったこと。

 どれか一つでも違えば、俺は一瞬で斬られていただろう。

 闘気の差を、今まで磨いてきた技で縮める。


 しかし、いくら縮めようと俺と相手の立っている次元は遠すぎた。

 それほどまでの闘気の差があった。


 紙一重で攻撃を受け続ける、一瞬遅れるだけで急所を突かれて絶命するだろう。

 攻撃を仕掛ける隙が生まれない、超高速で繰り出される剣は俺の体力を少しずつ奪っていった。


 集中力の切れ目か、残り少ない体力のせいか。

 相手の剣は簡単に俺の肩口の皮膚を薄く切り裂いた。

 痛みの中、肩口から流れる血は腕を伝って剣の柄を赤く濡らした。

 大丈夫だ、まだ剣は握れる。


 すると、俺を殺そうと剣を振り続けていた“それ”は動きを止めた。

 負傷して動きが鈍くなった俺を殺す絶好の機会。

 何故…構えたまま睨み続ける俺の前で“それ”は初めて見せる驚きの表情をしていた。


「この忌々しい血の臭い、貴様闘神の血筋か」


 一体何なんだこいつは、何者なんだ。

 中段で構えたまま気を抜かない、俺は苦しげな顔を隠せないまま口を開いた。


「お前は……何なんだ……」


 そう呟くと“それ”は憎しみの篭った幼い声を出す。


「転生して間もなく子孫と出会うとはな……何だ? シェード」


 何の話か理解できない俺を無視して、そいつは何かの名前を呼びながら頭上を見て、何もいない空間と話し始めた。

 一体何が起こっている。


 こいつを殺すなら今しかないと、斬りかかろうとして一瞬足を踏み込むと、自分の首が飛んでいる光景が頭をよぎり、動けなかった。


「ほう? うむ……確かにそれは面白いな」


 俺には何も見えないその空間に何かがいるのだとしたら、恐らくは精霊……か。

 話が終わると再び俺を見た。


「お前には消えてもらう」


 “それ”は口が裂けたかのようにニヤリと笑った。

 殺す、から消す、どちらも同じ意味だ、違いなどありはしないが。

 俺には何故か消すと言われた方が恐ろしく感じられた。


 戦うしかない。


 足を踏み込み、先程の首が飛ぶイメージを無理やり捻じ伏せ、斬り込んだ。

 闘神流風斬り、足にありったけの闘気を集め飛ぶ。

 高速で闘気を上半身に移動させ斬り込む突進技。


 しかし、一か八かの攻撃はいとも簡単に貧相な剣で受けられた。

 相変わらず口が裂けそうな勢いでニヤリと不快な表情で浮かべてる“それ”は。


「来い、シェード」


 そう言うと体に纏われた黒い闘気を更に黒く塗りつぶすように、何かが覆った。

 

 ゾクリと今までの人生の中で一番危険な感覚が伝わる。

 俺は自然と後ろに飛んで距離を取る。

 “それ”は黒い何かで覆われすぎていた、もはや表情も分からない。


 これは闘気だが、闘気ではない、今まで見たことがない未知の何か。

 ビリビリと空気が震える、これは、やばい。

 

「なん……だ、それは」


 喉から首を絞められたような声が自然と出た。

 

「闘神の子孫が精闘気を知らないのか。

 まぁ、これから消える貴様には関係がないことだ」


 そう言うと暗黒に包まれ、表情の見えない“それ”は持っていた剣を頭上に放り投げた。


 その瞬間、“それ”の姿はその場から消えていた。

 理解した時、視線を下に向けると俺の腹を腕が貫いていた。

 がはっと口から大量の血が溢れ、吐き出した。

 “それ”は腕をゆっくり引き抜くと一歩下がった。

 その顔は黒く包まれていたが、口元が裂けたように笑った様に見えた。。


 風穴が開いた腹からは尋常ではない量の血が流れる。

 体を支える足は力は失い、俺の体は前から地面に落ちた。


 朦朧とする意識の中、記憶が走馬灯のように駆け巡った。


 小さな村で生まれ、父と母に愛情を注がれて暮らしていた。

 俺は貧しいながらも幸せに暮らしていた。

 ある歳になると父は俺に剣を握らせた。

 俺に剣術の才能があると分かると父は人が変わった。

 闘神流の技を俺に叩き込んだ。

 朝から晩まで、もう嫌だと言っても父は続けた。

 お前が闘神流を再興するのだと言い続けた。

 母は俺のことを心配してくれたが、父は止められなかった。

 俺は成長して剣で父を捻じ伏せると、母にだけ伝えて家宝の剣を持って家を飛び出した。

 これからは自由に生きるのだ。

 初めて自分の世界が広がっていく感覚が心地よかった。

 

 俺は冒険者になった。

 皮肉にも、無理やり父に振らされた剣術は俺が一人で生きていく力になった。

 周りの冒険者と比べても俺は強かった。

 増長し、周りを見下し、一人で迷宮を探索していた時もあった。

 そして簡単に窮地に陥って死にかけた。

 助けてくれたパーティに誘われて、仲間ができた。

 仲間と共に冒険をするのはとても楽しく、満たされるものだった。

 やがてパーティメンバーの一人と恋に落ち、子供ができた。

 同時に二人もパーティを抜けたら仲間は怒るだろうか。

 不安だったが打ち明けた。

 仲間は祝福してくれた、別れの際、皆でかき集めた金を俺達に渡してくれた。


 二人で辺境の町に移り住んだ。

 これからは家族を守る為だけに剣を振るのだと思うと、剣術の見方が少し変わった気がして、毎日剣を振った。

 剣の腕に磨きがかかると、家宝の剣は俺の器じゃ扱えない代物だと分かった。

 父には悪いが、俺の代で闘神流は終わりにしようと考えていた。

 生まれてくる子供に剣術を教える気はなかった。

 しばらく経つと子供が生まれ、セリアと名づけた。

 妻によく似ていて美人になると思った。

 セリアが生まれると妻は病気に掛かり、亡くなった。

 俺は深く傷心し、毎日泣いた。

 しかしずっと泣いている訳にはいかなかった。

 絶対に守らなければいけない大切な子が残っていた。

 仲間にもらった金を使い生活をやりくりした。

 娘に母親のいない悲しさを味合わせないよう二人分の愛情を注ぎ大切に育てた。

 セリアが眠ると剣を振り、腕を磨いた、何があっても守れるように。


 セリアが大きくなると、素振りしている俺を見て剣を振りたがった。

 あまり気が進まなかったが、やりたがっていたので少し教えた。

 セリアは天才だった。

 俺に何かあった時自分の身を守れればいいと思って稽古をつけ始めた。

 ある日闘神流について教えたら、じゃあ私が再興すると言い始めた。

 反対だったが、純粋にそう言って笑う娘を見ると何も言えなかった。

 セリアは強くなり、一人で外を動き回るようになって俺も仕事を始めた。

 ある日セリアがとても嬉しそうな顔をしていたので聞いてみると、友達ができたと喜んでいた。

 毎日楽しそうに友達のことを話すセリアに興味を持って、見てみたいと言ったらしばらくして連れてきた。

 優しそうな双子の子供だった。セリアの友達だと思うと可愛かった。

 アルが剣を振ると、驚愕した。アルも天才だった。

 アルも闘神流を習い始めた。アルの強さの一端は稽古初日に気付いた。

 アルは風の加護を持っていた。精霊が見えないのに精霊に愛されているなんて聞いたことがない。本人は気付いていないようだが。

 

 この辺境の町で天才のセリアが生まれ、その娘の初めてできた男の友達も天才で二人で闘神流を習う。

 何かの運命かもしれない、そう思った。

 その運命通り、二人は想いを寄せ合っていた。

 俺は吹っ切れて、一人前だ、好きに生きろという意味を込めて大事にしまっていた妻の形見を預けた。

 ある日、アルが大切な人を失って泣いていた、初めて剣術の稽古にこなかった。

 ちゃんと子供なんだな、と不謹慎ながら少し安堵している自分もいた。

 誕生日の日、飛び出したアルをセリアが追いかけると手を繋いで帰ってきた。

 将来はきっと背中を預け合ういい関係になれるだろうと確信した。

 次の日、試験のつもりでアルを叩きのめした。

 アルも立派な剣士になっていた、本人に伝わったかは分からないが。

 セリアをまかせると意味を込めて一人前だと言った。



 その後は確か……魔物を狩るとか……約束したか……。

 次第に意識が暗く包まれていった。


 俺は、消えるのか。


 セリアはきっとアルがいれば大丈夫だ。

 アルなら何があってもセリアを守ってくれる。

 暗闇にのまれていく意識の中、そう思った。


「セ……リア……」


 最後に最愛の娘の名を呼んで、俺は消えた。


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― 新着の感想 ―
[一言] シェードって闇の精霊でしたっけ 某所でおすすめされていて読みはじめました。とても面白いです
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