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好きな子追いかけてたら英雄になってた  作者: エコー
最終章 結末

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「ラドミラ」


「ふぅ……」


 自分以外誰もいなくなった部屋。

 住民すら一人もいない町で、ラドミラは息を吐いた。


 やり残しは、ミスはないか考えた。

 徹底したのだ。ないはずだし、そもそもあったところでもはや間に合わない。


 全てをやり終え、ラドミラは掛けていた椅子に体を預けた。

 

 今頃、アルベル達は船旅をしているだろうか。

 その後、海竜王に襲われ、倒し、傷心し、セリアに支えられ持ち直す。


 ラドミラが戦術を考案し、導ければ違う未来があったのかもしれない。

 いや、間違いなくあっただろう。

 敵の行動が分かっていれば、選択肢も多岐にわたる。


 しかしラドミラは何も言わなかった。


 一つの輝かしい未来を見て、伝える必要はないと。

 いや、言ってはならないと思っていた。


 彼らは傷心し、後悔し、成長するのだ。

 

 アルベルがルクスの迷宮から転移してからは、決戦の内容は見えなかった。

 そこで何があったのかは分からない。


 でも、アルベルとセリアが帰ってくる未来が見えた。


 それならいいと思った。

 もしかしたら二人はラドミラが覗くことができない空間で酷い苦しみを受けたのかもしれない。

 

 だがそれは、一生後を引くような後悔を生むことはない。

 家族や仲間に囲まれ、幸せな日常を送る彼らからは想像できない。


 ラドミラが何も言わなかった理由の一つ。

 ラドミラはアルベル達に対して、一つだけ嘘をついていた。


 決戦の未来がぶれて見えないなんて、真っ赤な嘘だった。


 ルクスの迷宮でのライニールとの死闘は本当だった。

 あれは勝つか負けるか、一か八かだった。

 アルベルを信じて、導いた。

 しかし、それ以降は。


 ラドミラには全てが見えていた。

 アルベルが別空間で戦う以外の、全ての戦闘が見えていた。


 最終的に彼らは幸せになる。

 その後悔も、これから送る幸せな日々の糧になる。

 

 ならば、ラドミラが口を挟むのは間違っている。

 

『貴方達が悩み苦しみ、掴み取る幸せは決まっていたものだ』


 なんて絶対に口にしてはいけない。


 ラドミラは傍から覗き見ただけ、彼らの波乱万丈な旅の風景を。

 この能力は未来に不幸が訪れる者を導く力。

 彼らの冒険譚に口を挟む必要はないんだから。


「ふふ」


 己の肉体にすぐさま訪れるのが『死』だと言うのに、ラドミラは頬を綻ばせ、笑った。

 最後に思い出した。


 セリアとアルベルの子を。


 直に見たこともなければ生まれてもいないのに、不思議と孫のような感覚だった。


 この能力のせいで……いや、捻くれてしまった自分のせいか。

 彼らのように、恋をすることはかなわなかった。

 あの真っ直ぐでラドミラを特別視しない女の子を、自分の娘のように思っていた。

 娘がいたら、こんな子がいいと。

 

 その娘が産む子は、確かリリアと名づけられるのだったか。

 心残りがあるくらいなら、それぐらい。


「抱いてみたかったかしら……」


 感情を吐露し、寂しげに呟くラドミラの言葉を聞く者は一人もいない。

 まるで廃墟になったマールロッタに吸われるように、消えていく。


 

 そして――唐突に闇が訪れる。


 暗闇が町を支配し、ラドミラの元に死が舞い降りる。

 分かっていたことだ、元々アルベル達がいなければ、もっと早くにこの未来は訪れていた。

 ラドミラは回避することはできない。いや、しない。

 身を隠せば、本来被害のでない国や町が壊れ、何よりアルベル達に影響を与えてしまう。


 でも、いいじゃないか。


 未来を見て、導きを与えるだけの人形で終わるはずだった人生。

 それは変化を遂げていた。

 自分の未来は見えても、そこでの自分が持つ感情は見えなかった。

 

 セリアに見せていた微笑みは作り笑いではなく、本物だったのだ。


 予見の霊人という誰もが特別視する能力を気にかけず、自分を一人の人間として見てくれるあの女の子がいる間だけは、ただの日常に幸せを見出せる人間になれていたのだ。


 


 闇が立ち去り、ラドミラの個室に眩い光が差し込んだ。

 日差しが彼女を照らす、今までの労を労うように。


 彼女の浮かべていた表情は、穏やかな最期だった。


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