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手紙

作者: 二条 光

こちらは他サイトの企画で文末に「さよなら、×××(×の部分は自由)」というお題のもと書いた作品です。

「おばあちゃん、今幸せかな?」

 手紙を読み終えて、みぃちゃんはポツリ。

「だといいね」

 私も願いをこめて返した。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 おばあちゃんの初盆が終わったこの夏。


「はぁ~、あとはここだけか~」


 イトコのみぃちゃんが居間の押し入れの前に座り込んだ。


 おばあちゃんちは北海道の田舎にある。

 私の父親をはじめ、おばあちゃんの子どもはみんな地元を離れていて、ここに戻ってくる予定もないから秋にはこのウチを取り壊すことになっている。

 幼い頃、毎夏みぃちゃんやイトコたちとずっとこのウチで過ごしたから想い出がなくなるようで哀しいけど。中学生になった頃から全然来なかったからしょうがないかなって気もする。


 私とみぃちゃんは今大学に通っていて。

 大学生はヒマでしょって勝手に決めつけられて、おばあちゃんの遺品を整理するハメになった。お盆が終わってからボチボチ片づけ始めて、やっと今日でなんとか終わりそう。



「ねぇ、これってラブレターじゃない?」


 みぃちゃんがニヤニヤしながら、一通の封筒をピラピラとして見せる。

 

 それは黄ばんでいて宛名にはおばあちゃんの名前。旧姓なので、おばあちゃんの結婚する前にきた手紙だってことがわかった。


「えー、どうだろう」


 ガラステーブルに広げていた書類の仕分け作業を中断して、みぃちゃんの隣に座った。

 

 みぃちゃんはおせんべいが入っていた缶からそれを取り出したみたい。

 その中には他にも同じ筆跡のハガキ一枚が入っていた。

 裏を見ると、差出人の名前は高橋五郎とある。私たちには縁のない男性の名前。


「ね、見たくない?」


 みぃちゃんは昔からこう。興味があることは悪いことでも知らないと気がすまない子供だった。


「見たいけどさ~」


 私は押し入れの隣にある仏壇をチラッと見る。


 やっぱり死んだとは言え、見られたくないよね?


「いいじゃーん。おばあちゃんだってホントーに見られたくないならもうとっくに処分してるって」


 みぃちゃんらしい理屈。だけど、もっともらしく言われるから、私たちイトコはいつもその意見に従ってきたっけ。


「……うん」


 そうして私たちは封筒に入っていた便箋を広げる。



 三月一八日


 真知子さん、いかがお過ごしでしょうか。前回いただいたお手紙に「風邪をひいた」と書かれていたので心配しています。

 こちらに来て三ヶ月経ち、だいぶ慣れてきました。内地とは違い、三月だというのに随分と暑い日が続いています。

 近頃は慌ただしくかうして手紙を書く時間もない程ですが、僕は毎日お国のために頑張っております。

 そうそう。来月に一度そちらに帰る事になりました。時間が許したら君の兄貴と一緒に僕の家に遊びにいらっしゃい。

 乱筆乱文失礼。



 五月五日


 先月はわずかな時間でしたが、楽しい一時を有難う。君も元気そうでなによりです。

 僕は来週から南に下ることになりそうです。

 南は激戦地。南にいる他の仲間も今が踏ん張りどきだと頑張っています。

 僕もお国のために頑張ります。

 乱筆乱文失礼。



「なんだ、特にラブレターってほどでもないね」


 みぃちゃんはなんか熱い内容を期待してたみたい。


「だって、戦争中は検閲とかで余計なことは書けなかったらしいよ」

「へぇそうなんだね。さっすが~、日本史専攻」


 そう、私は大学で日本史、特に昭和史を中心に勉強してる。

 手紙の内容を全部確認されてたらしくって、書き直させられたりしてたらしい。ひどい場合だと非国民だって殴られることもあったみたい。


「兄貴って、おばあちゃんのお兄さんのことだよね?」

「うん、そうだよね」

「じゃあさ、お兄さんをカモフラにして実はふたりきりで会ってたんじゃない?」

 

 ワクワクしながら言うみぃちゃん。どうにかしておばあちゃんの恋物語に仕立てたいみぃちゃんらしい発想。

 私はテキトーに笑って合わせた。


「もうないかな~」


 みぃちゃんは缶をひっくり返す。大雑把なみぃちゃんらしいやりかた。

 バサバサバサ。紙がその場に散らばった。


「あ、これさ、もしかして手紙の人じゃない!?」


 紙の山をかき分けて、みぃちゃんが手に取ったのは一枚のモノクロ写真。たくましい中にやさしさを兼ね備えた顔の軍服姿の青年。

 裏を見ると、確かに“四月 五郎さん”とある。

 幼い頃に見た気がする筆跡。多分おばあちゃんの字だと思う。


「やっぱさー、こんな写真持ってるってことはおばあちゃんの彼氏だったんだって~」

「う~ん、そうかもね~」


 あれ?


 話半分にきいてると、紙の山から“高橋五郎様”って書かれた封筒が見えた。写真に書かれた字と同じ筆跡だから、これもおばあちゃんが書いたものだと思う。


「ねぇみぃちゃん。これ」


 私はその封筒を手に取る。


「え、これって出してない手紙じゃない?」


 みぃちゃんはもうためらうことなく便箋を出した。



 五郎さん、あちらに行ってずいぶん経ちますが、いかがお過ごしでしょうか。私は元気にしております。

 先日、私はお見合いをし、明日お嫁に参ります。

 昔から五郎さんのお嫁さんになることを心に秘めておりましたが、どうやらそれもかないませんね。ずっと五郎さんの事をお慕い申しておりました。

 今まで妹のやうに私の事を可愛がってくれて有難う。

 さよなら、そちらで会ったら今度こそ結ばれませう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 戦争それ自体はいたましいことですが、わたしの祖母もドラマチックなロマンスがあったらしく(現在93歳)、もはや話しても覚えてはいませんが、それを話してくれたことを思い出しました。 今のわたし…
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