プロローグ1 ~五百年目の再会~
この世界には人間と魔族が生活をしていた。
どちらが先にいたのかはわからない。
生まれた時にはすでにいた。
人間と魔族は互いに助け合い生活を共にしていた。
平和な日々が続いていた。
だが、その平和は突然と終えた。
それは些細な意見の食い違いから始まった。
口論から徐々に悪化していき喧嘩になり、やがてそれは乱闘になった。
乱闘になり騒動になりそして最悪の事態になった。
死人がでた。
それからはまるで火の如く一気に広がった。
互いに今まで溜め込んでいたものを吐き出すかのように互いに殺しあうようになった。
その範囲はすぐに広まり、・・・戦争が始まった。
人間と魔族の戦争。
平和な世は終わり変わり戦乱の世を世界が迎えた。
長い長い戦争の日々。
たくさんの人間・魔族が死んだ。
それでも戦いを止めようとしない両群。
止められないこの状況を打開する為に人の王、ランドロス王は一つの賭けに出た。
魔王が居る城に奇襲をかける。
そう考えた王はすぐに軍を編成し魔王の城に乗り込むことにした。
失敗すれば自身の首が討ち取られる覚悟を背負って。
だが、覚悟を背負った王に対し、一人の女騎士が名乗りを上げた。
穢れを一切よけつけない純白の白い鎧を纏い、流れる銀髪の長髪に切れ目の瞳は赤く雪のように白い肌をしていた。
その女騎士の名はイシュリル・レーベ。
人間の中で一番強く王にもっとも信頼されてた人物だった。
後に彼女は人間を勝利させた英雄として名を残すこととなる。
しかし、王はその言葉を聴きいれることをしなかった。
王は知っていた。
彼女と魔王が恋仲であったことを。
そんな彼女にこの任をさせるのはあまりにも酷。
そう判断し王は聴きいれなかった。
しかし、彼女は引き下がらなかった。
これは自分にしか出来ないこと、自分以外の者は必ず失敗し負ける事になると言った。
王は黙った。
黙った王に彼女はさらに、魔王なら私を殺すことは絶対にないと。
そう言うと彼女は何も言わなくなった。
後は王の判断のみですと無言で伝えている。
長い沈黙の後に王は口を開いた。
「・・・何か私がすることはないか?」
彼女はこう言った。
レーベは魔王の城に乗り込み、魔王がいるであろう王の間へ向かった。
王は彼女に全てを託したのだ。
城の外では人間と魔族が戦う声が聞こえる中、大きな扉を開け中に入ると、室内は静寂で外からの音が一切聞こえなかった。。
広い室内の中には二人を除いて誰もいない。
その静かな室内の中をリーベはゆっくりと歩いている。
奥で玉座に座っていた魔王も立ち上がりゆっくりとこちらに歩いていく。
二人は一寸くらいまで近づいた。
「お前はそれでいいのか・・・」
魔王は全てを知っているかのように静かに話しかけた。
しかし、その返答にレーベは剣を抜き男の心臓に向けて突きつけて応えた。
男は頭に角が生え、背中には左右に翼を生やし尻尾が生えていた。
男はしばらく黙ってその様子を伺っていたが、やがて我慢できなくなり苦笑した。
「・・・すまない。言い方が悪かったな。こうするしか道がないのはわかっている。それを君にやらせてすまない・・・」
男の言葉には怒りや悲しみのこもった感じはなく、逆に優しく穏やかに包み込み、リーベに対する行動を受け入れていた。
「・・・・・・魔王」
レーベは呼んだ。
「・・・すまない」
レーベの謝罪に魔王は驚き目を見開いたが、すぐにその言葉を訂正させた。
「謝るなんて君らしくない、君は正しい。正直言うが、君以外の人が来たら私はそいつらを殺すつもりだった。何も後悔なんていらないだ。・・・大丈夫だ、私は死ぬが本当の意味では死なない。何時かまた出会える、・・・その時までのお別れだ」
「・・・会えるのか?」
「ああ。生物は皆輪廻している。君が待っててくれるなら、私は必ず会いに行く」
「・・・待つよ。だから約束だ」
「うん。約束だ」
魔王はゆっくりと目を瞑った。
「・・・また、会おう。ナザル・・・」
レーベは最後に魔王の名前を読んでそう言うと力を込め、剣を刺した。
今までたくさんの魔族を斬り刺してきたが、この一刺しは生涯忘れられない感触となった。
レーベは剣を抜き、倒れる魔王を優しく地面に寝かせ、ゆっくりと歩き出した。
外では人間と魔族が戦っている。
「魔王は討ち取った!皆、戦は終わりだ!!」
レーベは戦っている皆に聞こえるように叫んだ。
「魔王は討ち取った!!皆、戦いは終わったのだ!!!」
その声には微かに震えていたことに誰も気づくことはなかった。
しばらくして戦争は終わった。
レーベは死んだ魔王の所で佇んでいた。
冷たくなった魔王の顔に触れた。
「これで長かった戦乱の世は終わったな」
背後から男の声がした。
「ランドロス王・・・」
レーベは王に対して膝をつき頭を下げた。
「頭を上げてくれリーベよ・・・今は私とお前だけだ」
「・・・っは」
王に言われたとおりに頭を上げた。
「すまないことをした。こんな辛い事をさせてしまって・・・。もっと早く気づいていればこんな事になることもなかった・・・」
「・・・遅かれ早かれこうなるのはわかっていました。王が謝る必要はありません」
「ナゼルは何か言ってたか・・・」
「また会おう・・・と」
「・・・どういう意味だ?」
魔王のいった言葉に疑問を感じた王にリーベは説明をした。
そして、今後の自分に対するお願いもした。
「なるほど、そういうことか。・・・そうか。また会おうか。遠い日になりそうだな・・・。待てるか?」
「はい。百年・二百年・三百年とこの地で眠り続け彼を待ちます」
その言葉を聞き王は優しくも悲しげな表情を見せた。
「・・・本当にそれでいいのだな?」
「・・・・はい。我侭をお聞きいただき感謝します」
「・・・よい。どうやこれくらいしか私がする事が出来ないからな。リーベを眠りにつかせたら約束通りこの地に魔族と人間が通う学び舎を建てる。・・・無事に会える時を祈っているぞ。もし会えたらどうする?」
「・・・・・・それは・・・」
レーベの白い肌が少し赤めいた。
「そうか、何となくだがわかった。・・・ではいくぞ」
「はい」
王は持っている杖を振るい
「コールド・スリープ」
レーベに向かって魔法を放った。
その魔法を受けリーベは眠りについた。
さらに王は眠っているリーベに
「アイスウォール・マウンテン」
巨大な氷塊の中に閉じ込めた。
イシュリル・レーベ。
長き戦乱の世を終わらせ、人間を勝利に導き世界を平和にした女性。
誰もが知っている歴史上最も有名な人物。
今から五百年くらい前に、魔族と人間が戦争をしている時に魔族の王、魔王を倒した英雄。
魔王が倒されたことにより魔族は降伏。
そして人間がこの世界を統べる事になった。
その人間が住む世界で残った魔族は過ごす事となった。
そして現在、人間と魔族は争うことなく再び平和に過ごすしていた。
だけど、過去の争いで未だに魔族を下に見る人はいる。
その逆で人間を憎む魔族もいる。
そうそうに過去にあった不の遺産は簡単に消える事はない・・・。
騎士養成学校アンチェイン
国の治安を守るために設立された学校。
騎士になるためにここにいる生徒は日々学問と訓練を学んでいる。
この学校は数ある魔族と人間が混同で通う養成学校の中で一番の歴史を誇る。
なぜこんな学校があるのか、それは王が決めた事だからだ。
二度と戦争が起きないように、誰も悲しまず平和な世を過ごすために設立させた。
かつて魔王が居た城に設立し出来たのがこの学校である。
なぜ魔王が居た場所に建てたのか・・・。
それは英雄イシュリル・レーベからの願いだった。
イシュリル・レーベは魔王を倒した後、この地にて自分を眠りにつかせてほしいと王に言った。
王はその願いを叶え彼女を氷塊の中に閉じ込め眠りにつかせた。
そして、地下に広い洗練の間という部屋を作りその中で彼女を眠りにつかせた。
毎年この洗礼の間には新しく入学した生徒が訪れる。
生徒は氷塊の中で眠るイシュリル・レーベの前で祈り加護を受けることになっている。
そして、今日また新しく入学してきた生徒達がこの洗礼の間に訪れるのだった。
―――騎士養成学校アクネリス入学式―――
「・・・・・・」
ベッドから上半身を起こし目覚まし時計を見る。
時間は10時28分。
今日は新入生の入学式。
開始時間は9時ちょうどから。
青年はぼんやりと目覚まし時計を見つめて一言。
「・・・・・・遅刻だ・・・」
青年はゆっくりとベッドからで、制服に着替えた。
起きた時にはすでに間に合ってないのだから今更急いでも仕方がない。
「昨日はこの寮に引っ越してきて色々大変だったからなぁ~・・・。寝るの遅くなったし仕方ないよな。・・・こんな理由通じるはずないか」
独り言をこぼしながら制服に着替え終えベランダの戸を開けた。
「ここから行けば学校まですぐだな」
青年は十階から飛び降りた。
急降下して落ちていく。
しかし、青年は冷静だった。
青年は背中から翼を出し羽ばたかせる。
地面にぶつかる寸前に青年の体は静止した。
そして再び浮上し学校へと向かった。
「今日はいい天気だ」
呑気に空を見ながら悠々と飛んでいく。
少しすると学校が見え始めた。
「よしよし、このまま行けば間に合うな」
「何が間に合うなじゃ」
「!!?」
どこからともなく声がした。
青年は辺りを見渡すが自分以外に飛んでいる人物は見えなかった。
「・・・気のせいか」
「気のせいではない。阿呆が。・・・ここだ」
再びどこからか聞こえる声に驚き辺りを見渡す。
だが誰もいない。
青年は制止した。
「どこを見ている。下を見ろ。下」
「・・・下?」
謎の声の言うとおり下を見た。
学校が先ほどより近くに見えるようになっていた。
「・・・・・・ん?」
誰かだ手を振っている。
もしかしてあの人が?
青年は手を振っている人物の所まで飛んでいった。
「あの~・・・あなたは?」
地面に降り手を振っていた人に尋ねた。
「まったく。新入生が一人いないから待っていればこんな時間になるとは・・・この馬鹿者が」
いきなり見ず知らずの人に馬鹿者と言われた。
理不尽だ。
「何で急に馬鹿って言われないといけないんですか・・・」
その人は子供のような体系をしていた。
「それに、どうして子供がこの学校にいるんだ?子供は入れないはずじゃ・・・」
その子供は金髪でツインテールの髪型をして青く大きな瞳をしていた。
「誰が子供だ。この戯けが。私はこの学校の先生だ。まったく近頃の若いもんは礼儀がなっとらん」
年寄りくさく話すその子供は自分が先生だと言った。
「・・・うそだー」
俺は信じなかった。
「何じゃお主。信じておらんのか?」
「まぁ、そうだね」
「ならこれならどうじゃ?ミラージュ」
子供は小さな丸い球体を出し唱えると、目の前に鏡が出現した。
そしてその鏡の中に子供が入っていくと中から大人の女性が出てきた。
女性は子供と同じ髪型と瞳をしていたが、体系はあきらかに変わっており、大人の女性へとなっていた。
「これが本来の私の一部の姿だ」
「・・・一部?」
「このミラージュという魔具は私の過去・現在・未来すべての姿を写し出す魔具じゃ。鏡の中にある無数の私から好きな私に変われ、その力を使える。便利じゃろ?」
エヘンと両手を腰に当て自慢する元子供。
ちなみに魔具とは、六具の種類の一つで魔具は主に魔法強化や能力向上の能力を持った魔法道具。
他にも愚具・武具・破具・宝具・神具の魔法道具があって、どれも能力が違う。
魔力をもつ一般的な人が持つ魔法道具は武具が多い。
その次が魔具・破具・宝具・神具となっている。
順に魔力が強ければ持つ魔法道具も変わるが、破具までは強さにそこまでの差はない。
ただ、宝具と神具は別格だが、俺はそれを持っている人を見た事がない。
それに魔法道具は使用する人にとって強さが異なるので、武具でも破具に勝つ事は十分にある。
「・・・先生って人間ですか?」
「今は人間じゃぞ。魔族の私も見てみたいか?」
「いや、遠慮しときます。でも、すごい魔具だ・・・」
「これでもこの学校で先生を務めてるからの。生徒より弱いと示しがつかんからな」
「ですよね・・・。この学校戦闘訓練もあるんだからな・・・」
「うむ。怪我くらいで済むようにするんだぞ」
「その言い方だと、死人がでるんですか・・・」
「安心せい。設立以来誰も死んどらん。・・・ただ、重症になった生徒は幾人か見たがな」
「・・・・・・」
「それよりも私の事は信じたか?」
「あ、はい。信じました。さっきは失礼言ってすみません」
「ならばよし。では戻るかの」
「あ、ちょっと待ってください」
「なんじゃ?」
「先生ってその魔具で姿を変えてるんですよね?」
「そうじゃが」
「じゃあ、本当の先生って何歳なんですか?」
「・・・秘密じゃ」
そう言って先生は再び鏡を出しその中に入ると子供になって出て来た。
「それで新入生。どうして遅刻したんだ?」
「えっと・・・昨日寮に引っ越してきてから色々と荷物を出していてそれで寝るのが夜遅くなってしまって・・・」
「はぁ~・・・正直なのは良いが、そんな事で遅刻すると今後は大変だぞ?次から気をつけるようにな」
「気をつけます」
「よろしい。では、今から皆がいるところに案内しようか・・・」
先生は時計を見た。
「・・・ふむ。今からだと中途半端だし、先に洗礼の間に行っておくか」
「それって英雄イシュリル・レーベが眠っているという場所ですか?」
「そうじゃ。今なら他の生徒はいないから、すぐ終わるぞ。ついて来るがいい」
そう言うと先生は歩き出し、俺もその後につづいて歩いた。
「わかりました。あ、そういえば、先生の名前はなんて言うんですか?」
「私の名は桜ノ(さくらの)忍じゃ。ちなみに、お前達の担任になるからな。よろしく頼むぞセインズ・グレッド・アドマーくん」
「どうして俺の名前わかったんですか・・・」
「そりゃあわかるさ。入学書類には一通り目を通したからな、顔と名前は覚えておるよ」
「あ~・・・なるほど」
確かにそうだな、納得した。
「それに君・・・いや、もうここの生徒になるったのだから君は失礼だな。アドマーくんは入学試験で最低評価をとったと聞いているぞ」
「・・・あはは~・・・」
この学校に入るための入学試験で俺は最低の評価をもらったことは合否通知に記載されている点数を見て知った。
この学校の入学試験は学科と能力試験の二つある。
学科の方はどこの学校でもある一般的な知識を要求した学科テストだったから問題はなかった。
だけど、この学校では学科よりも実技が重要だった。
騎士になるためには自身が強くないといけない。
治安を守るために存在する騎士が弱いと話しにならない。
また、志も高くなければならない。
民間人を守るために時には命の危険が伴う任務があったりする。
その時、自分の命を優先にし民間人を犠牲にする騎士は例え強くてもそれは騎士として失格。
何時いかなるときでも自分の命を投げ出す覚悟がある人材を学校も求めている。
そして、実技の内容だけど、その名前の通り自分の力を使ってゴーレムを倒すことだ。
ゴーレムは魔法で作られた無機質の物体。
そのゴーレムには弱点が一つあり場所はランダムとなっている。
弱点を突けばゴーレムは機能を停止しそこで実技が終了となる。
弱点をつかなくても倒せるようにはなっていたらしいけど、ほとんどダメージを受けないようになっているので時間がかかり苦戦し、最悪こちらが怪我をする場合があった。
だからこの試験を受けた生徒は皆は弱点を探して無力化するか、動きを封じて終わらせるかの二通りの内一つを選び実技に挑んでいた。
この実技で求められた事は、ゴーレムを犯人とし如何に早くその犯人を無力化して民間人を無事に救うかが求められていたらしい。
騎士になる者は治安を乱す悪から民間人を守るためもあるが、その悪を極力殺すのは禁止されている。
どんな悪でも殺せば必ずそれが火種となり、戦争が再び起こるかもしれないからだ。
それを防ぐためにも殺すことをせず無力化して民間人を救うのを主としている。
難しいがそれが出来ないと騎士としては不合格とされている。
そして、俺の場合は・・・。
「まさか、ゴーレムを粉々にするとはな・・・。あそこにいた生徒と先生らも皆驚いてたらしいではないか。いくら訓練用に調整したゴーレムだからといって、生徒が粉々に出来るほど強度を弱めてはいないぞ。それに、まだ入学もしていなく、訓練も受けた事がない子には不可能と言っていいのに・・・。創設以来こんなことをしたのは君が始めてたぞ」
「いや~・・・それほどでも・・・」
「褒めとらん」
「・・・ですよねー・・・すみません」
「あれがゴーレムで良かったからいいものを、人間や魔族だったらどうなっていたかわかるか?」
「・・・はい。十分に理解しています」
想像もしたくないです。
「ならば良い。・・・ちなみに私は直接見てないのでわからないのだが、ゴーレムをどうやって粉々にしたのだ?魔法で強化したのか?」
「いえ違います。ゴレームが殴りにきたのでそれを受け流した時に腕に触れたら、その・・・粉々になっちゃいまして・・・」
「・・・・・・それは本当か?」
「一応事実です・・・」
「アドマーくんは魔族だったな」
「はい。俺は魔族です」
「すまないが、種族を聞いてもいいか?」
「え、いいですけど。俺は魔族の中では竜魔族の種族ですが・・・」
「ほう。竜魔族か。魔族の中でもトップクラスの逸材じゃの」
「ありがとうございます」
「しかし、この学校にも竜魔族の生徒はおるが・・・アドマーくんのようにゴーレムを粉々にした生徒は誰もいないぞ。何か特別な能力があるのか?」
「いや、俺には特別といっていい能力はないですよ。ただ生まれたときから魔力がずば抜けて多くて、その性で魔力の少ない人や魔族は俺が近くにいるだけで体調を崩したりして散々迷惑をかけてきました」
「なるほどのう。魔力がずば抜けて多い・・・か。今はそんな感じはしないが何かしているのか?」
「あ、はい。これを着けてます」
俺は制服を脱ぎ、シャツのボタンを開いて見せた。
「・・・これは、魔力封じの印か」
「そうです」
俺の体には魔力封じる印が体中に施されている。
これのおかげで俺の膨大の魔力は体から漏れることを防ぐことが出来ている。
「しかし、これは複雑な印じゃの。・・・だれがやったんじゃ?」
「これは俺の祖父がやってくれたんです。祖父は若い頃、魔法学士だったらしくて魔力の流れとかに詳しかったんですよ。だから俺の体に魔力が漏れないように印をして、更にその印を持続させるために俺の魔力を利用した印を施しているんですよ」
「だからそんな複雑な印をしておるのか・・・。だが、そんな印をしておってもあれだったのか・・・」
「あはは・・・。俺、力の制御がうまく出来てなくて・・・。普段は問題ないんですけど、ああいう場とかだと緊張してしまって、どうもうまく出来なくて・・・。軽くのつもりがああなっちゃうんです・・・」
「なるほど。よくわかった。・・・だがな、騎士になるにはそれが出来ないといくら強くともなれんぞ。まずはうまく制御するようにせんとな」
「頑張ります」
「うむ。素直でよろしい。さて、後はこのエレベータで降りれば洗礼の間じゃが、後もう一つ聞きたい。いいかの?」
「何ですか?」
エレベータの中に入り地下のボタンを押す。
ゆっくりと下に降りるなかで、
「なぜ騎士になろうと思った?」
「俺は昔騎士に助けられたんです」
「ほう・・・」
「小さい頃、俺の住んでいた町で殺人事件があって・・・俺、運悪く逃げている犯人捕まったんです。犯人は魔法を俺の頭に当てて何時でも殺せるようにしながらも人質として誰も近づかせないようにして、廃ビルに立て篭もりました。何時殺されるかわからないその状況に、俺は怖くて震えてました。その時です。急に風が吹いたんです。室内の密閉された建物の中で突然と風が吹いたと思ったら俺を逃げないようにしっかりと掴んでいた犯人が吹き飛ばされていて、変わりに俺を優しく抱いていたのは騎士でした。騎士の人は俺に『もう大丈夫だ』と言ってその犯人を取り押さえて助けてくれました。それで思ったんです。俺も騎士になって悪から守ろうって。それが俺も騎士になる決意をさせました」
「なるほどのう。そんなドラマみたいなこと本当にあるんじゃな。頑張れ青年と言いたい事じゃが、まずは・・・わかっておるの」
「・・・はい。制御します」
「ちょうどいいタイミングで話し終わったな。ほれ着いたぞ。ここから少し歩いた先が洗礼の間じゃ」
「・・・・・・」
エレベータからでて薄暗い一本道を少し歩くと古びた扉があった。
「さあ入るがいいさ・・・」
桜ノ先生は手を扉に向け俺に開けなさいといったよな仕草をした。
俺はその行動を行動で示して扉を開けた。
扉を音を出し、眠っている英雄イシュリル・レーベに来訪者を知らせるような感じがした。
室内は広かった。
天井・柱・床一面が大理石でできていた。
白一色の広い室内。
「・・・・・・・・・」
そこで俺は言葉を失った。
ここまで来るまでの道は天井にあった蛍光灯で多少明るくて歩くことが出来たのに、この室内ではそういった物はなにもなかった。
なのに明るい。
ここが地下でなければ日の光が奥のステンドガラスから差し込んでいると納得できるのに・・・。
どうしてこんなにも明るいんだ?と謎に思ったがすぐにそれはわかった。
「・・・光ってる。いや、輝いてる・・・」
息を呑んだ・・・。
この広い室内を明るく照らしているのは英雄イシュリル・レーベなのだったから。
光り輝く英雄の輝きが氷塊の中で乱反射を起こしてこの室内を明るく照らしていた。
「どうじゃ。すごいじゃろ?」
驚いている俺に桜ノ先生は面白そうに言ってきた。
「これが・・・英雄ですか・・・。本物・・・なんですよね?」
「そうじゃ。ここにいるのは本人じゃ。今も生きる英雄イシュリル・レーベだ」
身震いした。
体が熱くなっていくのがわかる。
俺は興奮してた。
五百年の時を眠る英雄が今俺の目の前にいることに。
「綺麗じゃろ」
「・・・はい。とても綺麗で美しいです」
身に纏う白い鎧は純白のドレスよりも白くて、銀色の長髪は上質な絹のように煌びやかで艶やかに感じ、白い肌は雪のように儚く優しい雰囲気がした。
「アドマーくんはなぜ英雄がこの中で眠っているから知っているかい?」
氷塊の中で眠るイシュリル・レーベの目の前まで行った桜ノ先生は振り向いて俺に聞いた。
「いえ、知らないです。ただ、この学校には英雄が眠っているとしか知りません」
「だろうな。この学校にいる者以外にはそれだけしか教えておらんからな」
「・・・桜ノ先生は知ってるんですか?」
「当たり前じゃ。この学校にいる者はここで洗礼を受ける時に聞かされるんじゃからの。・・・知りたいじゃろ?」
「はい!是非教えてください」
「いい返事じゃ。だが、この事は外部に漏らしてはならんことを頭に叩き込んでおけよ。もし外部に漏れたら面倒になるし、知ったものを殺さなければならんからな」
「殺すってなぜですか・・・」
「これは機密事項だからだよ。外部の者が知れば無理やりにでも彼女を目覚めさそうとする者が必ずでる、そうなるとこの学校が戦火になり死者でるじゃろうな・・・」
「・・・そんな重大な機密事項を生徒に教えていいんですか?」
「君達は騎士の卵になった者達だ。騎士になれば重要な機密を数多く知ることとなる。それを漏らさないため、守るために皆厳しい訓練を受け耐えておる。例え敵に捕まり拷問を受けても決して口を開かない鋼の精神を持つ者を私達は欲しているのだよ。自分の命ほしさに話し、その性で数多くの仲間が死ぬことになっては騎士失格。これはその試験のようなものじゃ。この約束が出来なければ騎士になる資格はない。・・・もう一度聞くぞアドマーくん。君はここに眠る英雄イシュリル・レーベの秘密を知りたいか?」
「・・・・・・」
桜ノ先生はゆっくりと俺に近づいてきた。
「よく考えるんだぞ。君は騎士としてこの事を守ることが出来るのか。仲間を守ることが出来るのかを・・・」
「・・・・・・」
俺は目を閉じゆっくりと深呼吸をした。
興奮している自分の心臓を聞きながら自問する。
俺は本当に騎士になりたいのか。
これから出来る仲間を守ることが出来るのか。
騎士としての誇りを汚すことをしないと誓えるか。
「・・・・・・・・・・・・」
俺はゆっくりと目を開けた。
「・・・決まったかの?」
「・・・はい。俺は騎士になります」
「・・・今後何時かくる死を恐れぬか?」
「恐れません」
「仲間を守ることが出来るか?」
「守ります」
「・・・・・・よかろう。教えてやる」
桜ノ先生はそう言うと一瞬で俺の首元に剣を突きつけた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
沈黙が続いた。
「・・・本物のようじゃの。すまんかったな」
ゆっくりと剣を下げた。
「では、話そうかの。・・・彼女はまっておるのじゃよここで」
「・・・何を待っているんですか」
「恋人じゃよ」
「こい・・・びと・・・?」
「そうじゃ恋人だ」
「誰なんですか?」
「魔王だよ」
「え?魔王・・・ですか・・・。でも魔王を討ち取ったのは・・・」
「魔王を討ち取ったのは彼女だ。愛する人を自分の手で殺し、平和な世を再び作った英雄だ。アドマーくんならどっちを取る?戦争がない平和に世界か恋人を取るか?」
「・・・俺には彼女はいないので、正直いうとその気持ちがよくわからません」
「素直でよろしい。彼女も不運よな・・・。愛した人が魔王でなければ皆と恋人と喜ぶことができたのにな・・・」
「・・・・・・」
「これが彼女の歴史だ。・・・でだ、なぜ彼女が眠っているか。それはだな魔王の生まれ変わりをここで待っているからだ」
「生まれ変わり・・・ですか」
「魔王は言ったらしい。『君が待っててくれるなら、私は必ず会いに行く』とそれで彼女はこの元魔王の白で彼が来るまで眠りにつくとしたそうだ。そして、私達は王の命により毎年騎士になるためにここに入学してくる生徒達に、彼の生まれ変わりがいないか確かめるためにこうして生徒を洗礼の間へ連れて行き、彼女が目覚めるかどうかという任を昔から請負っているのじゃ」
「そうだったんですか・・・」
「話は以上じゃ。この事外部には漏らすなよ」
「はい。決して漏らしません」
「では洗礼をして帰るとするかの」
「わかりました」
「片膝を付き頭を下げ、片方の手は自分の心臓に当てもう片方は手はついた膝の上に置け」
英雄の眠る前で桜ノ先生に言われたとおりの形を取った。
「・・・・・・」
「出来たな。では目を瞑り忠誠を誓うがよい」
「・・・・・・・・・」
何だろうこの緊張感。
この室内は俺と先生しかいなけど、誰かに見られている感じがする・・・。
「・・・・・・ん?」
静かな室内で先生微かな声が聞こえた。
「桜ノ先生どうかしましたか?」
「あ、いや、何でもない。すまんな集中していたのに。続けてくれ」
「?・・・はぁ・・・」
不自然な態度に疑問を持ちながらも俺は再び目を閉じた。
「・・・・・・・・・」
・・・感じる。
誰かに見られてる。
しかもその視線が徐々にだけど大きく感じる。
誰だ俺を見ているのは。
緊張するからやめてくれ・・・。
集中できない。
・・・うわ、心臓がバクバクいってる。
それに手汗も・・・。
それに視線がさっきよりも大きくはっきりと感じてきた・・・。
これは、正面から・・・?
桜ノ先生は後ろにいたし、移動した音もなかったよな・・・。
じゃあ、正面にいるのは誰だ?
正面には・・・・・・。
まさか・・・。
彼女が俺を見ているのか?
確かに生きているらしいけど、彼女は眠っている。
目を開けることはないはずだよな・・・。
「・・・はぁ・・・はぁ・・・」
息がし辛くなってきた。
「おい。大丈夫か!?」
桜ノ先生の声が遠くに感じる。
駄目だ、魔力の制御が・・・出来ない・・・。
こんなとこで暴走したら・・・迷惑が!
―――ピシ―――
「・・・今の音は・・・?」
突然何かが割れるような音が響いた。
「・・・なんじゃ今のは」
桜ノ先生も聞こえていたから聞き間違いではないな。
でも、どこから・・・。
―――ピシ・・・ビキ―――
その音はさらに響いていた。
音がする方がわかった俺はゆっくりと顔を上げた。
「そこから離れろ!」
桜ノ先生が大きな声で叫んだ。
「・・・え?」
けど、俺は動けなかった。
その状況を目にして・・・。
「氷塊に亀裂が・・・」
尚も音は大きくなりそれと同時に亀裂が増えていく。
「・・・みつ・・・けた・・・」
「!!?」
・・・喋った。
嘘だろ・・・。
氷塊の中で眠っている彼女が、英雄イシュリル・レーベが喋った。
「やっと・・・会えた・・・」
亀裂が増え氷塊の一部が壊れて落ちていく。
「私の・・・あいする・・・ひと・・・」
「・・・・・・」
「いま・・・いく・・・からな・・・」
そう言うと氷塊は完全に崩壊した。
そして、中にいた彼女、英雄イシュリル・レーベが飛び出してきた。
「・・・まさか、目覚めたのか・・・。その子が、生まれ変わりなのか・・・」
「・・・・・・」
白い鎧を纏い、銀色の長髪に切れ長の目の瞳は赤く白い肌をした彼女が、膝ま付く俺の目の間に立っている。
「・・・イシュリル・レーベ・・・なのか?」
彼女はゆっくりと俺に近づき、両手を広げ俺を優しく抱き寄せ
「会いたかったぞ。ずっと、ずっと待っていたんだ。もう決して離さないからな・・・」
胸の中に俺を抱き寄せた彼女はそう言った。
この話を読んでくれましてありがとうございます。
この物語は文字数が10k~15kくらいで投稿して以降と考えておりますが、もう少し少ないほうがいいとコメントがあればそのようにしていきたいと思います。また、読んでくれた皆様に時間があればいいので、アドバイスなどがございましたら送ってもらえると幸いです。投稿速度は遅いと思いますので気長にお待ち下さい。