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一理ある我がまま



 打ち合わせを軽く済ませたあと、フィアールカとツヅリは、簡単な検診を受けて解放された。

 医務施設から外に出ると、まだ太陽は高い時間帯だ。所々に設置されたモニターは現在行われている第三試合の様子を映し出している。


 どうやら、人質との接触には成功した連合チームだが、退路を絶たれて危機に瀕しているらしい。一見すれば外道チームが優勢だが、そこは連合チームの作戦次第。まだ試合は分からないという、見所のある状況なのかもしれない。

 ……人質を盾に突破できなくなったのは、試合として結果的に良かっただろう。


「あ、目が覚めたんですね」


 モニターを見ている二人に声をかける少女がいた。最初に計画した三人の中で、一人だけ気絶せずに試合を終えたティストルであった。


「一人かしら?」


 フィアールカは油断無く周囲を見渡す。周囲の人ごみに紛れてソウの姿がないかを確認してのことだ。


「私もいますよ」

「あら、フリージアさん」


 すると、そっとティストルの陰から少女が姿を現した。『瑠璃色の空』で甲斐甲斐しく働いているフリージアだ。

 しかし、その場にいるのはその二人だけのようだ。ここにフリージアの姿があって、ソウやアサリナの姿が無いというのは不思議だった。


「ソウさんなら居ませんよ」

「居ない?」

「はい。試合が終わった後の事、説明しますね」


 ヒソヒソ話をするように身を寄せ合い、ティストルは試合後の顛末を軽く語った。



 まず、試合自体は外道側の勝利で終わった。その点に関しては、フィアールカやツヅリにも認識はある。

 そして試合が終わって早々に、先程の試合中に起こった様々な論点の話し合いが行われた。意識のあった当事者を交えてである。


 大きく言えば二点。

 ツヅリのような裏切り者の存在をどうするか。

 そして人質役を盾にすることの是非について。


 責任者でもあるフィアールカが気絶していたが、無理やり起こして意見を仰ぐほど緊急でもなかったので暫定処理となったのだ。

 そのあたりの大筋は先程フィアールカがスタッフに聞いた罰則とも重なる。裏切り者についての処遇なども決まったが、そこは割愛する。

 当事者として色々と事情聴取された第一試合のメンバーだったが、解放されたところで、ソウはアサリナに連行されていった。

 曰く、先程の試合で、少し話があるらしかった。



「それなので、私はそれからフリージアちゃんと二人で、ツヅリさん達が起きるのを待っていたというわけです」


 端的に言えば、フリージアの世話を押し付けられたような形である。だが、ティストルはそれこそ、嫌な顔一つせずにフリージアと仲良さげに手を繋いでいた。

 そんな様子を見て、思わずツヅリは声を漏らした。


「すっかり仲良しだねー」

「うん」


 ツヅリが自然に屈んでフリージアと目線を合わせる。それにフリージアも、控えめな声で頷く。

 そのまま、ツヅリはさりげなくティストルとフリージアを引き離した。フィアールカはその行動の意図に気付いて、そっとティストルへと耳打ちする。


「……それで、ソウ様に何か聞かれましたか?」

「……なにも。詳しいことは、私達が揃ってから聞くとのことで」

「……分かりましたわ。予定は伝えていた通りで」


 それだけで、フィアールカとティストルの打ち合わせは終わった。計画の概要はフリージアといえども聞かれるわけにはいかない。

 それと同時に、フィアールカの中に仄かな安堵も生まれる。三人揃ってから話を聞くつもりということは、時間の猶予もあるということ。

 フィアールカは、ツヅリにも聞こえるくらいの声で告げた。


「私はこれから一度、本部に戻って話をしなければなりません。ですが、そうですね。十五時過ぎくらいに、またこの辺りで落ち合いましょう。おやつでも食べながら話をするのには、良い時間ですから」

「……えー。お師匠に尋問されながらおやつとか、私全然楽しめないんだけど」


 ツヅリらしい素直な感想に、フィアールカとティストルは揃って少し笑った。


「ソウ様にも、そう伝えておいてくださる? では」


 静かな口調で一方的にお願いをしたフィアールカは、そのままスタスタと歩き去っていくのだった。




 その場に残されたツヅリ達は、うーむと顔を見合わせる。


「と、とにかくお師匠と合流する? あ、ティスタは魔道院の人とかと約束ある?」

「そっちは大丈夫。一応、もう話はしてきたから」

「色々聞かれちゃった?」

「うん。あははは」


 ティストルは、その辺りは笑って誤魔化した。映像から音声自体はあまり聞こえていなかったとは思うが、ティストルのカメラは常に動き回っていたわけだ。

 牢屋の拘束から、人質としての脱出。盾にされたり、守られたり、そして最後は飛び降りたり。悲劇のヒロインとして色々と聞かれることもあっただろう。

 波瀾万丈の一試合だったはずだ。


「まあ、みんなには心配されちゃったけど、この通り平気なわけですし」


 一番損な役回りだったかもしれないのに、気丈に笑ってみせるティストル。

 そんなティストルを見て、ツヅリは表情に暗い影を落とした。


「……本当に、これで良かったのかな」


 過ぎてしまったとはいえ、特に自分が第一試合をめちゃくちゃに掻き回した戦犯である自覚があったのだ。

 ソウは今、アサリナに小言を言われているだろう。だが、それをもっとも言われるべきなのは自分だ。この場所と、試合と、そして人々を自分たちの目的に利用しようとしたのだから。


「ツヅリさん。感想、もう聞きました?」


 ツヅリの落ち込んだ雰囲気を敏感に察したティストルが言った。ツヅリはそれに、思わず間の抜けた返事をする。


「へ?」

「だから、試合を見ていた人達の感想、もう聞きました?」

「いや、まだだけど」


 当たり前である。ツヅリはさっきまでベッドの上で眠っていたのだから。

 そんなツヅリに、ティストルはふふっと悪戯っぽい笑みを浮かべる。そして、視線をすっと下げた。ツヅリもティストルの視界を追うようにする。

 その先に居たのは、フリージア。



「あのね、ツヅリさん。さっきの試合、とっても面白かったよ!」



 ツヅリと目があったフリージアは、にぱっと言った。


「面白かった?」


「うん。ツヅリさんとソウさんと、フィアールカさんとティストルさん。みんなが、みんな真剣に戦ってて、かっこ良かった。すぐにソウさんが一人だって分かったけど、勝負とか分かんなかったし、みんな楽しそうに見てた。アサリナさんは分からないけど、私もドキドキして楽しかったよ」


「り、リーちゃん……!」


 少女の率直な感想に、ツヅリは感極まりかけた。

 自分の身勝手な行動に色々な人を巻き込んだ負い目はあった。だが、それを置いても身近な少女から純粋に楽しかったと言って貰えた。

 それなら、自分の行動にも一理くらいはあったろう。誰かが楽しんでくれたのだとしたら、自分も散々走り回った甲斐があったというものだ。

 それを聞いてツヅリは、へへと照れくさそうに笑った。


「そっかそっか。うん。あれだね。楽しんでもらえたんなら、まあ、良かったかな」


 我ながらなんて単純なんだ、とツヅリは思うが、いつまでも落ち込むのは性に合わないのだ。

 この試合が始まるまで色々と背負ってきた重圧が、試合が終わったことで晴れた気持ちであった。

 あれだけやって、まだ師には届きもしなかったという、別の意味での重圧はひしひしと感じているのだが。



「あ、でも。アサリナさんは、本当に、その……だから、頑張ってね?」

「…………」



 そんなツヅリに、追加の重しを乗せるフリージアの発言である。

 先程は助けてくれたティストルに目線を送ってみるが、その点に関してティストルは何も擁護はしてくれないようであった。


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