表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
131/167

ここに居る理由

「──以上になります。何か質問などはございますか?」


 大会進行の役目を仰せつかったらしい少し地味目な女性が、魔法で拡声された声で集まったバーテンダー達に呼びかけていた。


 ソウとツヅリの現在位置は、実際に模擬戦闘が行われるエリアにある、運営本部前だ。

 良く整備された公園のような広場で、地面は芝生に覆われている。

 その場には、ソウ達以外にもバーテンダー協会の人間が乱雑に並んでいて、端の方にはリミル達若手の姿が見えた。それとはまた別の辺りに、魔道院のローブが集まっている所もある。

 テントの後方には、この後の模擬訓練で使うであろうフィールド。貴族の屋敷のような大きな建物がそびえていた。


 視線を後方から目前に戻すと、大会運営本部の中が見て取れる。

 この後の模擬戦で使われるだろう道具や弾薬、それに、もしものための医療器具などを備えたテント。

 そして、今日というイベントを円滑に運営するためのスタッフ達。

 その中で、実際に『練金の泉』に所属しているのは二桁いるかくらいだろう。

 後のスタッフは今日の為に雇ったか、協力してくれる方々から募ったか。身のこなしから、バーテンダーらしくはない。


「無いようでしたら、各自、準備が整った所から支給品をお配りします」


 これが普通のバーテンダー同士の集まりだったら、野次の一つや二つ飛ぶ所だ。しかし、それを封殺しているのは、流石は『練金の泉』である。

 ギロリと目を光らせた構成員たちが睨みを利かせる、実に滑らかな進行であった。



 大雑把なルールは既に伝えられていた。

 しかし、集合時間となり一同が集まった所で、より詳細なルールが告げられることになる。


 まず、弾薬の制限だ。

 弾薬に関して、各自の持ち込みは禁止され、全て『練金の泉』が用意したものを使う。

 その際、弾薬の量などはチームごとに制限が設けられる形になっている。あまり無駄撃ちする余裕はないということだ。


 それが実戦形式と言えるのかという意見もあるが、時間や状況を考慮し、補給が満足にいかない状況だと考えれば、より実戦に近いとも思える。

 ただし、弾薬数の制限はあるが、その内訳については、申請によって自由に変更を許可されている。限られた弾薬の中だろうと、ポーチの中が自分の好みに偏るというのは、当たり前のことだ。

 ウォッタばかりを使うバーテンダーが居れば、補充が上手く行かなくてもポーチの中にウォッタばかりなのはおかしくない。


 次に、模擬訓練がどのようにして観客達に伝わるか。

 屋敷の中や、フィールドの至る所には『映像機械』が設置されており、それによって観客達にリアルタイムで屋敷の中の情報が送られるという。

 機械の数がどれくらいあるのかは知らないが、『練金の泉』の目をかいくぐって、不正などはできないだろう。

 加えて、非戦闘要員の人質も、その撮影班の一員だ。

 観客達は、今戦場がどのようになっているのかを知りつつ、人質の気分になってドキドキもできる仕様というわけである。


 最後に、フィールドの破壊について。

 基本的に、建物を根幹から壊すような行為は禁止とされた。

 それに関しては、ソウを含めて幾人ものバーテンダーが難色を示していたが、建物を何度も利用する関係上仕方ない。

 ただし、やむを得ない場合などは修繕班も待機しているとのことなので、このルールに関しては『やりすぎるな』というお達しだ。

 いかに【シンデレラ】で保護しようと、瓦礫の下敷きになっては元も子もない。


 その辺りさえ守られれば後は自由。

 思い思いの方法で、人質を軸にしたゲームを行う。

 制限時間は、一組あたり三十分。総勢十二組の対戦が行われる予定である。

 後半は視界の悪い夜の入りに行われるが、それもまた観客を飽きさせないための措置であろう。



 これらを運営が伝え、そして準備──すなわち『使用する弾薬の申請書』を書き終えた所から、支給品としての弾薬と、カートリッジ、そして屋敷の見取り図が配られることになった。

 解散。の声が響いてから、ソウとツヅリはふぅと息を吐く。

 バーテンダー達がルールについて、思い思いの言葉を発している中で、ソウはソウで一人思ったことをツヅリに告げていた。


「どうせなら夜の対戦が良いな。夜は良い。目が役に立たないから」

「それのどこが良いのか全く分からないです」

「目が役に立たない状況こそ、人間は見えるものに釣られるんだよ。そんな奴ほど罠にひっかけやすくてな」

「あーもう。そんなんばっかり」


 相変わらずの正々『非道』っぷりにツヅリはじっとソウを睨んだ。当然ソウはそんなことはどこ吹く風で、ツヅリに告げる。


「というわけで、ツヅリはティスタを呼んでこい。俺は若手と合流する。で、もう一度この辺に」

「分かりました」


 ソウの言いつけ通り、ツヅリはまずティストルの姿を探した。

 人質役になる魔法使い達もまた、一塊となっている。揃いのローブの群に向かいつつ、何とはなしにツヅリは彼らを観察する。


 先程、リミルと戦った時、ツヅリは彼に威圧感を覚えなかった。そしてそれは、ここに居る大多数の魔法使いの卵たちも同じだ。

 ツヅリ自身は魔法の勉強などまるでしていない。だがそれでも、なんとなく彼らが高い魔力を備えている気はする。

 しかし、魔力量は別に戦闘力には変換されない。彼らの大半は、ろくに戦闘経験も積んでいないのだから、それを思えば人質役くらいが適任なのかもしれない。


「と、見っけ」


 しかし、その中でもツヅリがハッとするくらい、一人の少女の存在は浮いている。

 緩やかな金髪で、地味なローブでも目立つ体型をした少女。しかし、別にそれが目立つというわけではない。

 彼女には、どことなく他の魔法使い達にはない気迫がある。実際に、命の関わる戦いを経験しているからだろうか。

 ティストルは説明を聞いて若干緊張した友人達を解すように笑いかけていたが、近づいてくるツヅリに気付いた。


「ツヅリさん!」


 ツヅリに向かって、ティスタは控えめに笑顔を向ける。こうして見ても、存在感のある美少女だと、ツヅリは心の中で一人思う。


「やっほティスタ。お師匠が呼んでこいって」

「はい。それではみなさん。頑張りましょう」


 ティスタはそれまで談笑していたクラスメイトに声をかけ、速やかにツヅリへと寄ってくる。

 相変わらず、印象としては柔らかな少女だ。しかしツヅリは、彼女がこう見えて責任感の化け物であることも、頑として譲らない意固地なところがあることも知っている。

 そう思うと、彼女の魔道院での様子はどうなのだろうと、ほんの少しだけ気になった。


「あの、ちょっと良いですか!」

「うん?」


 そんな考え事をしていたツヅリに、ティストルの友人が声をかける。

 集まっていた学徒達の中から一歩前に出てきたのは、先程ツヅリも顔を合わせた少女であった。


「えっと、ミルラさんだよね?」


 先程自己紹介していた名前を口にすれば、少女は嬉しそうに頷いた。


「はい。あーっと、ツヅリ……さんだっけ?」

「ツヅリで良いよー」

「じゃあ、私もミルラで」


 自分と年が近く、比較的性質も似通っていると見た二人は、それだけでお互い打ち解けた顔をする。

 ミルラはちょっとだけ緊張を解いた様子で、おずおずとツヅリに話す。


「あのね。私達バーテンダーにちょっと興味関心はあるんだけど、年の近い子ってあんまりいなくてね」

「あー。まぁ、そうだよね。結構新人はそうでもないんだけど、ここに居る人達はね」


 ツヅリは彼女の言葉に頷きつつ、周りをさっと見回した。

 ここにはたくさんのバーテンダー達が居る。人質役として来ている彼ら彼女らも、実際に顔合わせで話もしただろう。

 しかし、大多数の協会の人間はベテランを寄越している。協会の威信もあるし、人目につく所であれば当たり前だ。

 それ以外に年の若い人間となっても『練金の泉』の人間はちょっと特殊。


 ツヅリのように、広い意味で言えば普通の新人が来ているのは珍しい。実態としては、ベテランを派遣するだけの人員の余裕がないとも言えるのだが。

 ひとまず、そんな事情をなるべく口に出さずにぎこちなく笑っていると、ミルラはツヅリの笑顔に安心したのか、更に打ち解けて話してくる。


「それで、それで、ちょっと聞いてみたいこととか、あるんだよね」

「ん、質問? 良いよ。私で答えられることならなんでも」


 ツヅリが安請け合いすれば、ミルラはしめたと言いたげに目を光らせた。

 不思議そうな顔をしているティストルを見て、その場に集まっている魔道院生たちに頷き、それからすーっと息を吸ってツヅリに尋ねる。



「ぶっちゃけ、あの、ソウさんって、どんな人?」

「え?」



 漏れた声は、果たしてツヅリからだったか。それともティストルからであったか。

 バーテンダーに関する質問──例えばカクテルについてなどを尋ねられると思っていたツヅリも、そんな彼女達を仕方ないと見ていたティストルも呆気に取られる。

 しかしミルラは、畳み掛けるように言った。


「というか、普段ティスタって何やってるの? バーテンダーってどんな仕事? 将来性とか危険性とかどうなの? ティスタって何か騙されたりしてない? あとぶっちゃけソウさんの好み──」

「ストップ! ストップ! ちょっと落ち着こうか!」


 流石に一息で尋ねられるとツヅリは何も言えなくなる。

 ミルラを宥めすかしつつ、そっと周囲の反応も窺ってみる。どうやら、ミルラの尋ねたことは、ミルラだけでなく周囲の興味関心でもあるのだと分かる。

 その場に居る、男女がほぼ例外無く、ツヅリに視線を向けていた。


「えっと、あなた達は、バーテンダーに興味があるんだよね?」

「もちろん」

「なんで?」

「バーテンダーと関わっている、ティスタが心配だから?」

「…………」


 ツヅリは、そこで頭を抱えた。そのまま、じとっとした目でティストルを見る。

 が、彼女は何も知らないと首を振った。

 この場には、ティストルの友人達が多く参加しているとは知っていた。が、その大半が、そんな目的でバーテンダーに興味があるとは思っていなかった。

 ツヅリはその状況に呆れるべきか、感心するべきか分からず、ひと言だけ尋ねる。


「……あのね。そういうことは本人に聞いた方が良いんじゃない?」


 それにミルラはあっさりと返した。


「だって、恋に曇ってる女の意見が正しいわけないじゃない?」


 そのあまりにもあっさりとした物言いに、ツヅリは反応も忘れて感心してしまう。



「って! なんなのもう! 私をなんだと思っているんですか!?」



 そして、そこに集まった保護者一同に向かって、ティストルだけが恥ずかしそうな怒声を上げているのだった。



ここまで読んでくださってありがとうございます。


更新、大幅に遅れてしまい申し訳ありませんでした。

もっと規則的に更新できるよう、努力するとしか言い様がありません。もっと書き溜めを進められると良いのですが。


※1108 誤字修正しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ