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若手の驕り


 ツヅリ達が部屋に戻ったところで、ここから先は敵同士だとフィアールカは若手の半分ほどを連れて出て行った。

 残されたのは、ソウ、ツヅリ、ティストルに加えて、もう半分ほどの練金の泉の若手バーテンダーだ。


「あー。とりあえず、よろしく頼む。聞いてるかは知らないが『瑠璃色の空』のソウ・ユウギリだ」

「同じく『瑠璃色の空』のツヅリ・シラユリです」


 未だ整列したままの若手達に、ソウとツヅリが挨拶をした。

 その様子を見ていたティストルもまた、慌てて続く。


「はじめまして。シャルト魔道院のティストル・グレイスノアです。人質役ということで仲間というわけではありませんが、よろしくお願い致します」


 人質役の人間は、基本的には『外道チーム』と行動を共にすることになる。囚われているわけだし『連合チーム』と事前に打ち合わせをするのはおかしいからだ。

 しかし、その代わりにこうやって『外道チーム』の作戦に参加することで、合流したときにその情報を流すこともできるわけだ。


 ……今回に限って言えば、身内試合なので、流せる程の個人情報はないのだが。


「……では改めまして『練金の泉』です。本日はよろしくお願いします」


 整列していた中で、先頭の少年が静かに言った。短髪で、勝ち気そうな目をしている。服装はバーテンダーらしく、動きやすそうな正装といった感じ。身なりが良い。

 腰に下げた銃も、身なりに合って高級そうな白金の輝きを持っている。

 その場に居る『練金の泉』は、数にして七人。男五人に女二人。彼らはそれぞれ、服装にどこか高級そうな統一感があった。

 少年の声に合わせて、ペコリと頭を下げる少年少女達。だが、そこから訝しげな目線をずっとソウに送ってきた。


「……何か言いたいことがあるみたいだな?」


 その不躾な視線に、ソウが嫌そうな顔をして尋ねる。

 それに答えたのは、やはり先頭の少年。

 ずいっと一歩前に踏み出してきたかと思えば、堂々と言ってみせる。



「では言わせて貰います。俺達はあなたに従う気はない」

「……ほう?」



 ソウは相手の言い分を聞き、面白そうに唇を歪めた。

 それを馬鹿にしていると取ったようで、少年は苛立ち気味に言った。


「なんだその態度は。『瑠璃色の空』などという、聞いたこともないようなBランク協会の分際で」

「お、奇遇だな。俺も『練金の泉』は知ってるが、お前みたいな小僧の名前は聞いたこともないぜ」


 気にした風でもないくせに、ソウはチクチクと相手の言葉尻を拾って返す。

 端から聞いていたツヅリは、そんな師の態度に呆れてしまう。彼の言葉に棘があるなと思ったが、納得がいった。

 自分達の所属だけを述べて、名乗りもしないことが始めから気に食わなかったのだろう。

 少年は、ソウの言葉にムキになって名乗りを上げた。


「っ! 俺の名前はリミル・グレッドノードだ! 小僧じゃない!」

「おう、小僧は失礼だったな。リミルとは、女みてえな名前だ」

「なっ!? 貴様ぁ!」


 煽り過ぎだ、とツヅリは呆れていたのだが、次の瞬間に意識が切り替わった。


 リミルはソウの挑発に対して、あまりにもあっさりと腰の銃へと手を伸ばしたのだ。


 通常、バーテンダーの銃は弾薬を込めないことには何の意味も無い武器だ。だが、銃を手に取るということそのものが、闘争への引き金となる。

 故に、バーテンダーは無闇にその道具を使ってはいけない。それを使う時は、覚悟を決めた時だけだ。

 ツヅリはソウから、穴が空くくらいそう言い聞かせられてきた。


 だと言うのに、この少年はあまりにもあっさりと、銃へと手を伸ばしていた。


 それをツヅリが認識した瞬間、ツヅリの体も勝手に臨戦態勢へと移行した。

 相手が銃に手を伸ばすなら、こちらはそれより早く抜かなければいけない。

 先手を取られれば、敗北は必至。ならば、迷っている暇などない。


「待てツヅリ」


 ソウの一声で、銃を抜き、弾薬に手を伸ばしていたツヅリの動きが止まる。


 そこで冷静に相手を見れば、少年はただ腰の銃に手を添えただけだった。


 そのリミルは、いや、リミルだけでなく『練金の泉』の面々は、ソウの声があって初めてツヅリへと意識を向けた。

 そして、ツヅリがいつの間にか攻撃まであと一歩のところに来ていたと気付く。

 その姿に一同が驚愕し、口を開けていたのを見て、ソウは呆れた声を出す。


「……『練金の泉』の名で、無闇に銃を手にするなよ。その名を背負う責任や覚悟がないんなら、尚更な」


 はぁ、とため息のように言ったあと。

 ソウはツヅリに向き直り、軽く諌める。


「お前もだ。場の雰囲気でその気があるかくらい察しろよ。狂犬か」

「……犬じゃないです」

「そういう意味じゃねえよ。……まぁ、殺気を分かれってのは、まだ早いかもしれんが」


 ツヅリは体の緊張を解いて、大きく息を吐く。

 弟子の様子を見てから、ソウはまだ呆然としていたリミルに向かって尋ねた。


「一つ聞くが、お前ら『練金の泉』に入ってどのくらいだ?」

「……それが、何か?」

「良いから答えろよ」


 リミルは後ろを振り向き、他の若手達と軽く目で会話する。

 それから、頷き合って答えた。


「……一年半ほどだ。ここに居るのは、ほとんど皆がな。だが、キャリアの長さだけを見て判断すると──」

「あー、分かってる分かってる。実力と時間は比例しないさ。はいはい」

「……何が言いたいんだ?」


 リミルはソウの質問の意図を尋ねるように、キッと睨みながら言った。

 その睨みをそよ風のように受け流し、ソウはニヤリと含み笑いをする。

 その『一年半』という期間で、なんとなく察してしまったことがあったからだ。


 ソウの調べたところによると──『練金の泉』の制度的に、審査をくぐり抜けて新人として入るには、半年から一年程の期間がかかる。

 つまり、彼らが来たのは二年から二年半前。

 そして、そのあたりから『練金の泉』が広告塔に使っていたのは、とある一人の少女である。


「お前ら、どうも俺に突っかかると思ったらアレか。フィアールカに憧れてバーテンダーになった口か」

「なっ!?」

「だから、フィアールカに気に入られてる『瑠璃色の空』が気に食わないんだ」


 ぐらりと、その場の空気が大きく揺れたように思えた。

 それまでの、威圧的とも取れるリミル及び『練金の泉』の面々が、明らかに動揺していた。

 特に、先頭に立って話していたリミルは顔を赤くして、テンパっている。

 それがどうにも図星を刺された人間のそれにしか、見えない。


「ふ、ふざけるなよ! 誇り高いSランク協会である『練金の泉』に所属するバーテンダーが、そのような私怨で!」

「分かった分かった。で、お前あれ? フィアールカの事好きなの? どうなん? ん?」

「き、貴様ぁ!?」


 ツヅリの見ている前で、リミルが再び銃に手を伸ばした。

 これには流石のツヅリも、臨戦態勢を取る気にはなれなかった。

 だが、意外にもリミルは銃を抜き切って、それをソウに向けていた。


「侮辱する気か!? 俺達は決してそのような個人の感情になど!」

「お? じゃあ、フィアールカのこと嫌いなのか?」

「そうは言って無い! い、いや! 関係ないだろう!」


 必至の剣幕で、リミルは叫んだ。しかしその慌て顔には、さっきまでの偉そうな態度と違って、年相応の少年らしさがある。

 ソウは降参するように手を上げながら、半笑いである。


「いや、うん関係ないわ。個人の好みにとやかく言うほど野暮じゃねえし。でも、お前……趣味悪いなぁ」


 とやかく言ってるじゃないですか。

 というツヅリのツッコミが声になることは流石になかった。


 ソウの脳裏に浮かぶのは、外見だけはやたらと整った性格破綻者。

 その銀髪の悪魔が広告塔として、どれだけの意味があるのかと疑問に思っていたが……思ったよりは効果があったのだ。ソウは認識を改める。

 もちろん、そんなソウの気持ちなどまるで知らず、リミルは声に力を込める。


「な!? 氷結姫を馬鹿にするつもりか!? あの麗しくも力強い言動と、その超然たる技量。その有様は──」

「あーはいはい。そうだねー。すごいよねー。うんうん。わかるよー」


 ソウは、リミルがいちいち述べるフィアールカの美辞麗句に対して、受け流す気しかない言葉を淡々と述べる。

 しかしリミルはそれに気付かず、ペラペラと喋り続けた。

 それらが一通り済んだ所で、切り返す刃でソウは言った。


「で、結局よ。お前はどうしたいわけ? 俺達に従いたくないとか言ってるけどよ。何がしたいんだ?」


 ソウのその視線は真剣であった。

 それまでのおちょくるようなものではない。対等の立場に立って、真剣に取引を求める目だ。

 それまでフィアールカがいかに素晴らしいかを述べていたリミルは、そのソウの目に言葉を噤む。そして、最初のようにソウを強く睨みつけて、言った。


「俺達は、お前を認めていない。氷結姫がいくらお前を評価していようと、そんなのは俺達には関係ない」


 リミルの言葉に、反対の意を示す人間はいないようだった。

 各々、気持ちはどうあれ。無名のBランク協会の人間に従うのは御免だと、意見が一致しているようである。


「で? どうしたら認めてくれるんかね?」

「決まっている。決闘だ。お前なんか大したこと無い奴だって、証明してやる」

「……なるほどね」


 フィアールカの件は色々あれど、結局この場に居る人間の意識は一致しているらしい。

 実力も知れないような輩に、従う道理はない、ということ。

 それが嫌ならば、その実力を見せつけてみろ、という話だ。


 ソウはそれに神妙な顔で頷いた。少なくとも、その場にいる殆どの人間は、彼がリミルの意見を真摯に受け止めたのだと思った。

 しかし、弟子として長い時間一緒にいたツヅリだけは、気付いた。


 頷いた彼の顔に「めんどくせ」と、書いてあることに。


 ツヅリが嫌な予感を感じていたところで、ソウは大仰に言った。



「よーく分かった。そこまで言うなら決闘、受けてやろう」

「……良く言った」



 リミルは改めて、好戦的な目でソウを睨む。

 しかしソウは、その睨みに対してさっと視線を逸らした。

 その視線の先には、ツヅリの姿。


「ただし、俺の弟子であるこのツヅリに勝てたらな」

「え?」


 いきなり槍玉に上げられて、ツヅリは一瞬だけ戸惑う。

 しかし、ソウの目が冗談など言っていないことに気付いて、声が続いた。




「えええええええ!?」




 ツヅリの意思などは一切問われることはなく。

 ツヅリとリミルの決闘が決まった瞬間であった。



ここまで読んで下さってありがとうございます。


昨日は更新できずにすみません。

次回の更新は少し時間を開けて三日後の8日(土)の予定になります。

隔日更新を守れずに申し訳ありません。

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