アシンメトリー
勢いよく栓の抜ける音が響いた。
互いのグラスにワインを注いでいく。
「私、とても幸せ。」
「どうした?急に」
「あなたと出会えたこと、そして今日この日を迎えられたことが。」
はにかんだような、照れ隠しのような笑顔で彼女は笑った。
彼女とは3年前に出会った。僕の働いている会社のパートの事務として入社してきた。
化粧っ気はないがとても素朴で、そして寂しげな彼女に僕は惹かれた。
思い切って声をかけ、最初は世間話をする程度だったが、次第に打ち解けていき食事
にも行くようになった。
何度か食事や買い物など二人で出かけるうちに彼女から交際を申し込まれた。
交際が始まり、3年目の今日、僕の方から結婚を申し込んだのだ。
「色々あったけど私、本当に生きてて良かったと思う。両親が死んでずっと一人で生きてきて、
死ぬまで一人で生きていくんだろうなと思ってた。でもあなたが私を見つけてくれた。」
彼女の両親は彼女が15歳の頃に二人とも亡くなっている。以来彼女は1人で生きてきた。
「乾杯しましょ。」
「ああ。」
互いのグラスを打ち合わせる。心地いい音が響いた。
ワインを口に含み、喉に流し込む。
視界がぼんやりと曇りがかってきた。もう酔ってきたのか。いつもは酒は強い方なのに。
彼女は穏やかな顔で僕を見つめている。
体の自由がきかなくなってきた。おかしい。
やがて体の底から凄まじい熱さと痛みが襲った。
彼女は穏やかな顔で僕を見つめている。
声を、理由を、必死で探しながら手を伸ばした。
彼女は穏やかな笑顔で僕を見つめている。
何か冷たく硬い物が手に触れた。
グラスの割れる音が耳に響いた。
「私、とても幸せ。」
「ど、どうして?」
僕は必死に声を絞り出した。
「あなたと出会えたこと、そして今日この日を迎えられたことが。」
次の瞬間、彼女の顔から全ての表情が消えた。
「私の両親を殺した人に遂に手を下せるんですもの。」
そうか。彼女は分かっていたんだ。彼女の両親を殺したのは誰なのか。最初から。




