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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編・エッセイらしきもの

触れていいのは──

作者: 本谷文途

※同性同士のキスシーンがあります。お気をつけください。また、R指定は保険です。

「ねえ、私とキスできる?」

「え……?」


 夜、トロンの寝室にイロは濡れタオルを持ってやってきた。

 トロンが、汗をかいたので濡れタオルを持ってきてほしい、とイロに頼んだのだ。

 

「キスできるか聞いてるんだけど」

「いや……私女ですし……トロンさんも──」

「それがなに?」


 私とできないわけ? とトロンはじっとイロを見つめる。

 イロは少しの間考えてから、口を開いた。


「……できます……」

「そうよね、主人の言うことは絶対だものね?」


 フフフとトロンは、座ってとベッドの端を軽く整える。

 イロは濡れタオルを近くのテーブルに置いてから、そこに腰を下ろした。


「イロ」

「……はい」

「ちゃんと、こっちを向いて──」


 トロンは俯くイロの顔に手を添えて、自分の方に向かせた。


「そんな不安そうな顔しなくても大丈夫よ」

「は、い……」

「目を瞑って、私に(ゆだ)ねて──」


 イロはきゅっと目を閉じ、トロンのパジャマの袖を握った。

 少しすると目の前が暗くなるのを感じて、イロはうっすらと目を開けてみる。

 目の前に、トロンの顔があった。


「……ん──」


 次に、唇に柔らかい物が触れた。

 トロンが何の躊躇(ちゅうちょ)もなく、唇を重ねたのだ。

 イロはきゅっと目を閉じ、唇が離れるのを待つ。

 だが、いっこうに離れる気配がない。

 それどころか、顔に添えられていたトロンの手は、するりと頭の後ろに回された。

 

「トロ、ンさ──」

「まだ……」


 イロが呼ぶのと同時に、トロンは舌を滑り込ませた。

 びくっとイロは、反射的にトロンの袖をぎゅっと握り込む。


「ちょ……っ──」


 顔を離そうとするも、トロンが頭を押さえているので離れられず、イロは戸惑う。

 そんなイロを気にもとめずに、トロンは自分の舌をイロの口内で動かした。

 もちろん、そこにはイロの舌があり、トロンはそれを自分の舌と絡ませた。



 最初は逃げようとしていてイロも、トロンの舌に捕まると大人しくなり、時折甘い吐息を()らした。

 袖を掴んでいたイロの手も力を無くし、袖を掴めなくなる……。

 そしてようやく、トロンはイロから唇を離した。

 ツー……っと、お互いの舌から伸びた糸をトロンが指で切り、親指でイロの唇を(ぬぐ)う。


「……っ、トロ、ンさ……」

「どう──?」


 とトロンは微笑んでイロの頭を撫でる。

 イロは潤んだ瞳をトロンに向けたまま、か細い声で答えた……。


「よ……かっ、た……です……」

「フフフ……イロ──」

「……はい?」

「私は、あなたが好きよ?」


 嘘だ──とイロは口の中で言った。

 トロンには、イロの他に男女数名の奴隷がいる。イロはその中で、トロンの身の回りを任されている。もちろん、トロンの気にくわないことをしてしまった時は、酷く痛めつけられる。最近はそういうこともなくなってきているが……。

 前に、今のように濡れタオルを持ってきてほしいと頼まれ、イロが部屋にやってくると、トロンは一人の男奴隷とベッドに入っていたのだ。


「……イロ?」

「私は……、……」

「……。いいわ──」


 とトロンはふっと笑って、濡れタオルに手を伸ばした。

 それを手に取り、イロの口の周りを拭き始める。


「ぁ、自分が──」

「じっとしてて……」


 イロは大人しく拭かれることにした。

 拭きながら、トロンは言う。


「……私ね、好きな人にはこうやって、濡れタオルで顔を拭くの──」


 じゃあ、あの人も……とイロはこの前見た男奴隷を思い浮かべ、それからすぐに打ち消した。


「イロ、拭いて──」


 濡れタオルをトロンから渡され、イロは使った面を内側にして、トロンの顔に軽く当てた。


「……痛くないですか?」

「うん──」


 とトロンは気持ちよさそうに目を閉じる。

 イロは、無言で拭いた。力を込めすぎず、なおかつちゃんと拭き取るように──。


「……ありがとう。もういいわ」

「はい……」


 イロは濡れタオルを畳んで、ベッドから腰を上げた。

 失礼します。と頭を下げてからドアに向かっていく。

 それから、ドアを開けて出ていこうとした時、トロンが微笑んで言った。


「イロ、最後に一つだけ」

「……なんですか?」

「私は、あの男に顔を拭かせてないわ。それと──私の顔に触れていいのは、私が一番好きな人だけよ」

「っ……!」


 カッと、イロは驚いたように目を見開いて、すぐにいつもの表情に戻った。


「し、失礼します──」


 イロはトロンの顔を見ることなく、素早く廊下に出て、ドアを閉めた。

 ドアにもたれかかり、イロはぎゅっと濡れタオルを握り込む。

 今になって、心臓がドクドクと速く動き始めた。若干顔も熱いような気がする──。


「……私は…………」


 イロは、今までに感じたことのない感情に戸惑いつつ、濡れタオルを見つめ続けた──





よければ他のも読んでってください(^^)

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