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ホーフク  作者: 佐藤 皆無
8/11

過去の哀歌 、現在の哀歌

俺の昔の話だ。

中学生の頃の話。

俺は昔から人に惚れやすかった。

好きと想いをぶつけられるだけでその相手を好きになってしまうほどに。

俺は男子とは皆と仲が良くて、俺の事を嫌いな奴も、それをわかってて近付いてそいつの良い所を見つけられたら、俺の良い所を見つけてくれたら良いと思ってた。

女子とは全く話さないで会話はいつも業務連絡だった。それでいいと思っていた。俺はそれでいいし、俺と係わりたい女子なんてそうはいないから。

そんな女子でも隣の席になった時俺に話しかけてくる奴がいた。

そいつ、水原優香はいろいろな事を教えてくれた。

俺には女子が話しかけづらいオーラが出ているとか。

俺と話したい女子なんていっぱいいるとか。

とにかく俺なんかじゃわからない、いろいろな事を教えてくれた。

そんなある日、水原優香と俺が付き合っているのではないかという噂を聞いた。

でも、そんな噂で優香と話さなくなるのは嫌だった。だから噂がどこまで広がろうと俺は気にしなかった。

でもそのせいで優香はいじめられた。だからいじめ返してやったんだ。

そうしたら見事にいじめはなくなった。いじめはいじめで解決できると思った。

でも、いじめはダメな事だとも思った。いじめで優香が傷ついたからだ。

だから、優香と係わるのはやめることにした。無いだろうけど優香がいじめを肯定する姿を見たくなかったんだ。俺と一緒にいたらそうなる気がした。

こんな偽善を繰り返していたら周りの皆が壊れていった。そして皆俺もどきになった。

俺と似た考えも持つつまらない個性の無い人間だと思った。

そんな俺に一人の女子生徒が話しかけてきた。

今井哀歌だ。

俺に話しかけるなんてバカか? そう思った。

でも、彼女はどこまでいっても壊れなかった。もう壊れていたから。

俺は彼女に興味を持った。

彼女は俺だけを肯定して、俺だけを優先した。

バカらしい話だが俺の事が好きなのかと思った。

そしたら俺も好きになっていた。

だから俺は彼女と今とは違う立ち位置で同じ道を歩いていきたいと思った。

でも、彼女は俺の事を好きじゃなかったのだ。

彼女は言った。

「私は男子に好感をもたれるべき存在なの、だからあなた一人じゃ満足できない」

だから俺はそれでもいいとそう思ったんだ。

「その一人でいいから、他の誰と付き合ってもいいから俺と付き合ってくれないか」

滑稽だと思った。でも耐えられるとも思った。

「そんなこと言ったのはあなたが初めてよ? でもごめんなさい無理だわ」

そういうと思った。

「でも、私が男子の皆に好感をもたれたいなんて欲望を教えたのはあなただけだから」

彼女の心は暗い闇だと思った。何を言っても真実かが掴めない。わかるのはそこにただ闇が広がっていることだけ。

疲れていた。辛かった。苦しかった。助けてほしかった。

でも、俺の周りには俺もどきが並んでいるだけだった。

もし俺が今の俺みたいな奴に会っても救わないのか、そう思った。

これは自業自得だと思った。

だけど優香は手を差し伸べてくれた。

彼女は俺を抱きしめた。

そんな姿を黙って見ていられないと言った。

嬉しかった。でも巻き込みたくないと思ったんだ。

彼女は俺に何があったかはわからない、だから何があったか教えて欲しいとそう言った。

教えてはならないとそう思ったんだ。

でも彼女に抱きしめられると心が溶けていくようでそのまま教えてしまったんだ。

情けない俺を教えてしまったんだ。

否定すると思った、今の俺を。

でも彼女はただ俺になぜ苦しんでいるのかを教えてくれた。

俺は彼女を愛していた、その思いが強かったからその分苦しんでいたんだ。

今から思えば、彼女は哀歌を忘れればいい。そう俺に言いたかった筈だ。

でも、彼女は俺にまかせた。彼女は何も言わなかったんだ。

彼女には恩がある。

そう思ったんだ。

「幸多?」

「ん? どうした功」

「いや、ぼーっとしてたから」

「ああ、悪い。文化祭の準備だっけ?」

「うん、そうだよ。幸多は何役?」

文化祭では演劇をやるのでその役を聞いているんだろう。

「俺は役者じゃなくて」

「じゃなくて?」

「掃除係」

「何それ?」

「え、掃除をする仕事だ」

「そんなのあったんだ」

「うん、まあ」

「あ、八城君だ」

「おう、キミ達というか深山に朗報だ」

「ん?」

「今なら役者、主人公やれるよ!」

「遠慮しとく」

「だよな~」

「さしずめお前が主人公の役の選択肢に残ってんだろ」

「その通りです」

俺は掃除係で十分だ。




絵里は文化祭実行委員、優香は役者、功も役者で、棟子も役者だ。そして八城は主人公の役になるかもしれないとなるほど。

そして俺は掃除係か。

うーん、いいんだけど、皆が重要な役やってるのに掃除係というのもどうかな。

まあ、考えたって仕方ない。

皆が稽古してるんだ、俺も頑張って掃除するか。

「ちょいちょい」

クラスのドアから顔だけ覗かせてこっちに来いと手を振ってる松永彩を見かける。

「俺?」

「うんうん」

めんどいなあ。仕方ないので廊下にでる。

「俺も仕事してるんだけど、サボるのはちょっと」

「仕事? してなさそうだから呼んだんだけど何してるの?」

「ほらこれ」

ほうきを上にあげる。

「もしかして掃除?」

「うん」

「その仕事いらなくない?」

「あってもなくてもあんま変わらない方が気楽でいいだろ」

「やりがいなくない?」

「いらねえよ」

「あっそう」

「で、用事は?」

「ああ、えっと幸多君はその、赤村さんと付き合ってるんだよね」

「ああ、そうだけど」

「きゃー、おめでとう」

ほう、俺にケンカをうるとはね。

「なんでかまえてんの?」

「おっとなんでもない」

反射的に潰しにかかるとこだった。

「で、それがなんだよ。つーかあんまりお前と話して心配かけたくねえんだけど」

「そんなに束縛されてるの? それとも赤村さんって心配性?」

「いや、どっちとも違う。ただ心配はかけたくねえんだ」

「ふーん、そっかそっか。いやーあの二人がね~」

ほう、ホントに潰されたいようだな。

「なんでまた構えてんのよ」

「あっいや、ケンカ売ってんのかと」

「いや、違うわよ」

「で、早く本題に入ってくれない?」

「そうよね、心配かけちゃうものね」

その通りだ。

「いや、てっきり幸多君と松原君はできてると思ってたから、噂を聞いた時は驚いたわ」

いろいろツッコミたいが、本題に入ってもらうためにあえてつっこまない事にしよう。

「って事はお前は俺と功ができてちゃ困る、つまりお前は」

「ええ、そういうことよ。だからあなたに応援して欲しいってわけ」

「なんで俺なんだ?」

「あんたが一番親しいからよ」

「そうか、わかった」

「ん? どうしたの」

「うわっ功!」

いきなり功が出てきたのでびっくりした。

「ん?」

「いやっなんでもない」

「そう? えっと八城君が呼んでるよ」

「どうした? 八城」

「フフフ、俺は気付いたのさ。俺が主人公にならない方法を」

「ああ?」

「誰かが立候補すればいいのさ」

「誰も立候補しないからこうなってるんだし、仕事は皆決まってるだろ。お前くらいしかいねえよ」

「いや、一人いる。主人公として問題無く、仕事もあってもなくても変わらない奴が」

俺は超重要な仕事もらってるし誰だろう?

「それはお前だ。深山幸多!」

「いや、ありえねえ。立候補しねえし」

「赤村さんの役がな? なんでも主人公の役の奴と手を繋ぐらしいんだ」

「俺やるっ、ていうか俺以外の奴にはやらせん!」

「うっそで~す。安心して! 赤村さんの役は手を繋がないよ?」

「てめえ、八城」

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああ」

足、速っ。

八城が教室から出ていったので追いかけて廊下に出ると、八城の姿は右にも左にも無かった。

「嘘だろ? もう階段までいったってのかよ」

諦めて教室に戻る。すると藤井さんが棟子と話していた。

「実際、主人公と手を繋ぐ役はあるんだよね。まだ誰がやるか決まってないだけでさ、ね? 棟子」

「わかってる、私がやるわ。というか私以外にはやらせない」

「さっすが~。幸多君の彼女はすばらしいね?」

「ああ、ホントに」

クラスのやつらの歓声が鳴りやんだ頃、八城が戻ってくる。

「お前、足速すぎだろ」

「いや、他クラスの教室に隠れてたんだけどね」

「ああ、そう」

「もう追いかけねえの?」

「疲れた」

「そうか」

「でも、主人公俺じゃダメだろ。まあもうやめれねえけどさ」

「なんで、お前でダメで俺でいいんだよ」

「え、いやなんかこう」

「顔のことならお前全然いいから」

「いや、お世辞は」

「ちげえって。噂とかだとお前結構もててるし」

「そう」

「お前この学校来てから何回こくられた?」

「えっと4回」

「嘘だろ? マジかよ」

否定材料も無くなったし、棟子とは誰も手なんか繋がせねえし。俺がやるしかないか。

「覚悟は決まったか?」

「おう」




次の日。

うーん、役もそうだけど松永の功への恋の応援も忘れちゃいけねえよな。

棟子が興味ありそうに聞いてくる。

「何か考えてるの?」

「ああ、まあな」

「良かったら、教えてよ」

彼女に隠し事ってのは良くねえけど、教えていいんだろうか。

「ああ、良かったら今度デート行かないかなって」

さすがに松永に悪いな。

「うん、行こう」

棟子をちゃんと楽しませて、終わったらちゃんと教えよう。

「今週の土日のどっちか空いてるか?」

「うん、どっちも」

「じゃあ待ちきれないし土曜日にしよっか」

「うん、どこ行く?」

「水族館とかは?」

「うん、じゃあ行こうか」

水族館ってどうなんだろう。最初のデートにしては珍しいだろうか。

水族館って子供っぽいのかな。最近行ってないからって理由で水族館にしちゃったけど。

悩みは尽きないな。でもこの悩みは悩んでると不安になるけど少し楽しくて少し嬉しい。

「功、ちょっといいか?」

「ん、何? 幸多」

「お前って好きな人とかいんのか?」

「うーん」

「いや、答えたくないならいいんだけどよ」

「そうじゃなくて、うーんと」

「ああ、いいんだよ。わるいな」

「あー、うん」

こういうのは聞くの良くないな。俺も聞かれたらやだったし。今はいいけど。




「松永、なんつーのかな。好きな人いるのか聞いたんだけどなんとも答えずらい感じだったぞ」

「そっか」

「いや、こういうのはあんまり功に聞かない方がいいかもな」

「うん、わかった」

「じゃあな」

「うん、ありがと」

「ああ」

ふう、帰るか。

駐輪場に着く。するといつの日かと同じように俺のチャリの荷台に今井哀歌が座っていた。

「あー、今井か」

「え?」

「ん? どうしたんだ?」

「いや、反応がいつもと違って驚いただけよ」

「そうか」

今井は悲しそうな顔をする。悔しいのだろうか。俺には関係ない事だ。

「あなたには三つするべき事がある。彼女をつくる事、皆が君の事をどう想っているか聞く事、自分を大切にする事」

「は?」

「いえ、それより彼女できたのね、おめでとう」

「お前に祝われることじゃねえよ」

「私の時のようにならないようにね」

「ああ」

「フッ私の所為であなたは恋ができない体質になったと思っていたわ」

「ああ、そうかもな。でも結果したし、お前のおかげでそう簡単に人を信用しないようになったし人を大切にできるようになった。悲しい事は今の糧にするさ」

「クッ」

「ん?」

「なんでもないわ、じゃあね」

いつもなら俺が崩れ落ちるまで責めるのにどうしたんだろう。俺には関係ないことだけど

じゃあ、帰るか相棒。

「一つだけでもこんなに強く……」

今井が何か言ってたけど、どうせ俺には関係のないことだし。

家に着くときにはもう忘れていた。




次の日。

功に好かれたいなんて言ってもあいつは何が好きかなんてわからないしな。

「功、今日も天気がいいな」

「どうしたの?」

「いや、どうもしてないぞ?」

「そう、よかった」

「ああ、えっと功は松永さんとはいつから友達だったんだ?」

「ああ、高一に知り合ったから高一からだね」

「ふーん、普通に会話して知り合ったのか?」

「あーっと、僕が話しかけたんだよ、彼女近寄りずらそうな空気だしてたから」

「そうか」

「幸多にも同じの感じてたんだけど勘違いだったみたいごめんね、へへ」

「いや、あってる。でも功のおかげで皆俺と話やすくなったんだと思うぞ、ありがとう」

「そうかなあ? どういたしまして」

「松永さんの時も解決できたんだろ?」

「うん、ただ……」

「どうした?」

「いや、なんでもない」

「そうか、ならいいけど」

功ってもしかして何かあったのか?


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