過去の贖罪
夏も本番になり暑さも続く中、俺は功と話していた。
「幸多、聞いてる?」
「え?ああ、なんだっけ」
そんな話に気になったのか赤村、水原、林が近寄ってくる。
「なんの話してるの~?」
「ん?あのね、僕が幸多に今週の土曜日遊べないかって聞いてるんだけど、幸多は話聞いてなくってさぁ」
そういう話だったっけ、ごめん。
「アンタ、話はちゃんと聞いてあげなさいよ」
「ううっ」
赤村、容赦無いっすね。
「で、土曜日遊べるの?」
「え?いや俺はいつでも暇だから大丈夫だけど、お前部活は?」
功はサッカー部だ。因みに赤村、水原、林は俺と同じ帰宅部だ。
「あったら誘ってないよ」
「そうか、じゃ行くか」
林がむっという顔をして
「ちょっと待ったー」
と言う。なんだよいきなり。
「あの、私も暇なんだけど?」
「え?うん、で?」
「いや、察してよ!」
??
「幸多、林さんは一緒に行きたいんだよ」
「ああ、そういうことかよ。いいんじゃね?」
「ほんとに?」
林の顔が明るくなる。そんなに行きたかったのかよ。
「よかったら、赤村さんと水原さんもどう?いいよね幸多?」
「ああ、別にいいぜ、なあ功?」
「うん」
だけど水原の顔は暗くなる。
「私は、あの…」
「どうした?水原、用事でもあんのか?」
「いや、邪魔しちゃ悪いというかなんというか」
小さい声で言う。
「なんの邪魔だよ、行こうぜ?」
「う、うん」
「赤村も」
「うん、私も大丈夫」
こうして俺の土曜日の予定は埋まった。すると教室に木崎真菜先生が入ってくる。
「うお~?お前ら仲いいな」
「先生、」
だがまあ実際その通りなのだ。神田が裏で仕組んでたあの一件以来、赤村や水原や林はよく俺や功に話しかけるようになった。理由はわからないが別に無理して知る必要もないだろう。
「ああそうだ、朗報だぞ?お前ら。」
今度はクラスの生徒全員に向けて言う。
「先生今度はどんな悪いことですか?」
「ん~?私が朗報って言ったのは初めてなんだが悪い事と決めつけるとは。まあ今回は本当に朗報だ。」
今回はって前なんかあったのかよ。でもこの先生の言う事は授業中以外8割が冗談なので仕方ないと思う。
「で、なんですか?朗報」
「ああ、そうだった。転入生が来るぞ、月曜日にな」
「「「「「え?」」」」」
一番近くで聞いた俺等は声を合わせて驚いてしまった。
そしてククッという笑い声を聞く。
その本人を見るまでもなく俺は思う、神田お前また何か企んでんのかよ。
俺は帰る準備をしていた。でも転入生を迎え入れる準備はしてなかった。
準備っつっても要は心の準備だけど。あの先生もいきなり過ぎる。
「じゃあね幸多、土曜日に」
功が言う。あ、土曜日の準備もしてねえ。まあ準備なんていらねえか。
駐輪場に向かう。この学校では自転車通学の者が多く。俺もその一人だからだ。
すると俺の自転車の荷台に座っている女子を見かける。そいつは今井哀歌。
「てめえ、何してやがる」
怒りが湧き上がる。いつの間にか俺は今井を睨んでいた。
「そんなに怒らないでよ、ただ荷台に乗ってただけじゃない」
ふーっと息を吐き切って怒りを抑える。何かしらの感情を出してしまえばそれを利用されるかもしれないからだ。前のように。
「もう俺に関わんな。」
いつもと同じように言う。冷静に淡々と。
「そう、成長したのね」
不敵に微笑む。こいつの笑う顔は大嫌いだ。
「高校一年生の時、君がした事聞いたよ。私はあいにく高校では同じクラスになれなかったからね」
「俺はお前と会話をしてえんじゃねえんだ」
「そう?私はしたいけど」
その言葉を聞いた時俺は怒りを抑えられなくなりそうだった。
「くっ、もういい。俺の前から消えてくれ」
「フフッ結局何も変わってないのね。」
俺の胸に人差し指を当てて優しく押す。だがその手に優しさが込められてない事を俺は知っている。
「少しつつけばすぐに崩れる脆い心、それがあなた。」
そういって立ち去る。その通りだ。俺は脆い。それを取り繕っているいるだけに過ぎない。今、これだけの会話でこれ程までに崩れ落ちそうなのだから。あいつが立ち去らなければ壊れていたかもしれない。
俺はあいつのいた荷台を思いっきり殴る。手に痛みを感じた、でもそれで心の痛みから目を逸らすには十分だ。足音が聞こえる、何気なく振り向くと走っていく林の後ろ姿が見えた。
土曜日。
待ち合わせ場所に着く。すると功はもう来ていた。
「幸多っ」
「功、早いな」
今、二十分前。
「うん、楽しみでね」
正直俺はそんな楽しみじゃなかった。今井との会話を聞かれてたかも知れないからだ、林に。
「で、どこ行くんだ?」
「それはね」
「おーっす」
そういいながら林は俺の頭を叩く、いつも通りの林だった。
「んだよ、話してんだろ」
お前キャラ違くね?最近暴力的だよ?これからこのキャラ通す気ですか?このままドンドン暴力的になっていくんじゃないでしょうね?
「あはは、こんにちわ深山君」
水原が言う。どうやら女子たちは三人で来たようだ。
「おう、水原、赤村ついでに林」
「いや、ついでって何よ」
「冗談だって」
そのとき気付く皆私服なのだ。まあ当たり前だけど。
「その、あれだ、似合ってんなその服」
すると林が呆れ気味に言う。
「それ誰に言ってんのよ」
そういえばそうだ。三人いるわけだしな。特に決めてなかった。
「あー皆、似合ってんな」
すると赤村が
「そう、そろそろ行きましょう」
と言う。後ろを向きながら顔は見せずに。
「え?どこに?」
それから3時間。
映画を見て、買い物をして、ゲームセンターにいって今は疲れて俺は椅子に座っている。
「大丈夫?」
功が言う。
「ん?ああ余裕だぜ、次どこ行く?」
すると女の人が来る。知らない人だ。
「松原君、お久~」
功の知り合いか。
「久しぶり、松永さん」
「松原君は遊んでたの?」
「うん、こちらが幸多、林さん、赤山さん、水原さんだよ」
「よろしく、私は松永彩っていいます。」
「幸多、松永さんは同じ学校で違うクラスなんだ。」
「へー、そうなのかよろしく」
「うん、幸多君」
松永さんがそう言うとさっと赤村と林が俺の前に立つ。
「松永さん私は赤村よろしく」
早口で言う。
「私は林よろしく」
こちらも早口で。
「ははぁなるほど大丈夫、私そういうのじゃなくて友達としてだから」
?わけわからん。友達だと思ってくれたって事でいいのか?すると赤村が
「ちょっいきなり何言ってんのよ、別にそういう事じゃ」
と慌てていた。
「どういうことだ?」
「え?なんだ気付いてないのか」
すると功が言う。
「あのね松永さんは前僕と同じクラスだったんだ」
「そうなのか」
松永さんは怪訝な顔になり
「幸多君って松原君と仲良すぎじゃない?」
と言う。別に良い事だろ。
すると赤村も怪訝な顔になり、
「にしても松永さん初対面の男を呼び捨てとは大胆じゃない?」
と言った。いやでもそれは…
「え?幸多君は名前しか教えてもらってないし」
「あ、」
だよなあ。俺は赤村の肩に手を置いて。
「ドンマイ」
「う、うるさい」
なんか赤村が可愛く見えました。
「あはは、まあ落ちついて棟子」
「優香、うん。ゴホン、じゃあ幸多君?」
「え?なんでしょう」
「私も名前、呼んでいいですか」
「はい」
すると少し隠しながらよしってやってました。
「改めてよろしく棟子」
「あ、あああの、いやいいんだけどその、ちょっといきなりで」
「ごめん、ごめん」
すると松永が
「私はこれで、じゃねー」
と言って走り去った。
なんか林がさっきから落ちつかないんだけど
「あの、私も名前で」
ああ、そういうことか
「いいよ」
「やったぁ!っハ、いやなんでもない」
やっと家についた。
そのまま部屋に行く。
俺は今日の事を少し思い出す、今日は楽しかったな。そういえば林…じゃなくて絵里は今井との会話聞いてたのかな。あとで聞かなきゃ。なんかひっかかる、もっと前。遊ぶ予定を決めた時、水原はなんか言ってなかったか?
「いや、邪魔しちゃ悪いというかなんというか」
俺の中だけに流れた声。邪魔?なんの?
もっと前、林は二人で話したい事があるといって水原を勘違いさせた事があったけど水原には事の顛末を伝えた筈……
あっ、確かに何があったかは話したけど絵里に呼ばれたのがいつかは教えてねえ。
例えば水原は絵里が俺と二人で話したいと誤解させたのがあの事件とは別の呼びだしと考えていたら?
もしかしてあいつまだ勘違いしてる?
月曜日、転校生の来る日だ。
だけど来る前に
「神田お前何か企んでるだろ?」
「ははっなんでそう思うのかな?」
「いや、お前昨日笑ってたし」
「ああ、気付いてたのか。まあ教えないよ」
「そういうと思ってたぜ」
じゃあなんで聞いたんだろ。
それから十分。
「はーい席につけー転入生を紹介しよう」
「どーもー」
「まだ入っていいとは言ってないんだが」
「え?ダメでした?」
「いやいいんだが」
転入生は黒板に名前を書く
「とにかく!俺は八城翔太よろしくっ」
特徴的な奴が来たな。
俺は早く水原の誤解を解きたかった。けど話しかけられるならまだしも話しかけるのはちょっと緊張したりする。あとタイミングも重要だ。皆の前で白昼堂々と二人で話したいなんていったらまた誤解が生まれる。
するとある会話が聞こえる。
「やあ黒嶋君で合ってるよね?俺は八城翔太」
「ああ?」
「え?ひどいなー仲よくしようよ」
「うるせえな。俺に関わんな」
「はあ?」
そういって黒嶋は教室を出る。
黒嶋……あいつはあの一件でただ一人救われなかった奴だ。あの一件以来、人と関わらなくなった。
きっとあいつからしてみれば赤村に裏切られたあとすぐに神田にも裏切られた為、軽い人間不信になってしまっているのかもしれない。
そんな姿を昔の俺に重ねる。あの頃俺も裏切られて誰も信じられなくなって、そこで思考を中断した。
あいつは昔の俺じゃないあいつの悲しみも昔の俺のとは別の物だ。
俺はあいつをこんなふうにしてしまったクズだ。
でもならいじめ返せば良かったか?いやダメだ。
するとまるで俺が二人いるかのように始業式に林と話していた時演じた俺がでてくる。
『本当にそうか?よく考えれば黒嶋がもう一度水原をいじめ返そうとしたのは神田が唆したからじゃないか。赤村だって黒嶋を拒絶できるまでになった。いじめ返すことこそ正しいんだ』
クラスの声が聞こえてくる。その内容はほとんどが黒嶋を糾弾するもの。あの会話を聞いたらそうなるだろう。これでは黒嶋をいじめても八城の為と正当化されてしまう。このままじゃマズい。
『自分もやった事なのに何を言っている?それでいいだろう』
ダメだ、でもいじめになったら功が止めてくれる。
『人任せか?それにあいつは独りになっても止めると言ってたじゃないか。あいつが悲しむ結果にならないか?』
俺の時は?俺が誰も信じれなくなった時水原は慰めてくれた。
『でも、それは俺にはできない。実際今回は黒嶋も悪い。そんな奴を慰めるのはおかしいだろう?』
確かに俺にはできない。あいつは俺に明確な敵意を持っているし。
功には頼れない。あいつはあまり巻き込みたくない。じゃあ誰だ?その時ある言葉を思い出す。
『だからもしまた同じような状況になったら手伝ってあげよう』