現在の善行
昼休み皆の俺を見る目がいつもと違う気がするのは俺の自意識過剰か?すると松原が
「いってらっしゃーい」
と言う。こいついい奴だな。こいつはできるだけいろいろな事に巻き込まないようにしよう。
「おう、いってきます」
そう返してと階段の最上階まで行く、ストーカーもどきは巻いておいたから大丈夫だ。
「あんた、あんで疲れてんのよ」
「走って、来た…から」
これはストーカーもどき(俺をストーカーして林と何を話すか探ろうとしてる奴ら)を巻いた努力の証だ。
「なんで?まあいいわ、早く出してよ」
出す?ああなるほど。ゴホンと咳払いを一つ
「こーんにーちわぁ」
「こんにちわ」
「何の用かなぁ?」
「あの、朝の見てたでしょう」
「ああ、あれ水原へのフォローは良かったよ」
「あれは自信があったのってそうじゃなくて黒嶋君、やめたじゃない?だから」
「だから正しい方法だってぇ?あははっ笑わせるねえあれは今だから出来たんだよ。高一の時水原がいじめられていた時は無意味に終わるだろう」
「やっぱりそうだよね」
「じゃあね」
俺はそういうと階段を下りる。するとそこに水原がいた。どうしてだ?なぜいる、ここに。
「どういうこと?深山君今の、今のは私の関係してる話だよね?」
しまった。もっと警戒しておくべきだった。
「違うよ、お前は関係ない」
「嘘、私の名前言ってたじゃん、教えてよ」
「ごめん」
そういって階段を下りる。水原の横を通り抜ける。
俺は背中にどうしてと言う声ともう一つ俺のでも林のでも水原のでもないククッという笑い声を聞いた。
あれから一日
俺は教室へ入る。体がいつもより重い、風邪だろうか違うな、本当はわかっている。
「おはよっ」
体がビクッと震える。なんだ松原か。
「どうしたの?深山君、元気無いよ?」
「松原、いや悪い」
「なんで謝るのさ、それよりそろそろ功ってよんでよ」
「え、ああ分かった悪いな」
「だからなんで謝るのさ」
「じゃあまたあとで」
そう言うと俺は席に着く。ふう、何もしてないのに疲れた。
すると、水原が教室に入る。目があってしまいすぐ逸らす。
「み、深山君」
「ん?」
いつもと同じように演じる。
「お、おはよう」
「うん、おはよう」
そんな俺達の会話を林は申しわけなさそうに見ていた。別にお前の所為じゃねえよ。ただの俺の不注意が原因だ。悪いな林。
その日の昼休み、俺は独りになれる所を探して歩く。だけど来てしまったのは階段の最上階だ。また思い出してしまうというのに、だが俺は忘れたいのか?違う俺は忘れては逃げてはならないのだ。高一の時に犯した罪から俺は逃げない、逃げてはならないし逃げることなどできはしない。
「あの~」
そんな考え事をしていた俺は俺に話しかけてくる赤村に気がつかなかった、なんだまったく独りになりたくてここに来たのにって
「赤村!?なんでここにいんの?」
「いや、つけてきたんだけど」
ストーカーかよ、俺でも気付かないとは、というか俺が油断してたのか。
「何の用だ?報復か?襲撃か?」
「違うよ」
「え、違うの?」
「なんで素で驚いてんのよ」
「いやてっきり嫌われてると思ったから」
しまった報復や襲撃でないからといって俺を嫌ってないとは限らない。もっとすごい報復を
「いや、嫌ってはないよ」
「え?」
「嫌いじゃないんだ。高一の時の事を言ってんならあれは私が悪い。」
「赤村……」
「ホントにごめん許してくれとは言わないけど」
「許したっ」
「え?」
「でも俺はともかく水原には」
「優香には朝一番に謝ったんだ。許してくれた。へへっ」
そういって赤村は嬉しそうに笑う。そうか仲よくなったのか。
「ありがとよ」
「こちらこそ」
「それから本当に悪いんだけど」
「ん?どうしたんだ」
「私困っててそれで」
「わかった、相談に乗ろう」
「ありがとう」
「いや別に」
「それで実は黒嶋があなたに報復をしようと企んでてね。」
あいつがそこまで根深い奴だとはな
「ふむ」
「それからその報復の方法が高一の時と全く同じ状況を作ってそれでやり返そうと」
「なるほど」
つまり高一の時の状況水原をいじめ、俺がいじめ返すのを待っているのだ。その時潰す為に。
「お前は水原の友達でいいんだよな?」
「うん」
「お前はまた水原がいじめられるのが嫌で俺に相談したんだよな?」
「うん、あと」
あと?
「あとあなたが傷つくのも嫌」
「そっか、じゃあ信用するからな」
「うん」
「ありがとう、俺を頼ってくれて」
そういって階段を下りる。
することは二つ
一つは黒嶋の狙いを看破する事、絶対にぶっ潰す。
二つ目は事情を全て水原に教えてやる事だ。赤村と仲良くなったんだ。仲直りしなくちゃ自信過剰かもしれないが水原もすっきりしないだろう。全て終わったらちゃんと全て話そう。
俺はそのまま教室へ向かう。
教室に着くとすぐに林が駆け寄ってくる。
「あの、昨日は本当にごめん私の不注意であんなことになっちゃって」
「違うあれは俺の所為だ」
「違うよあれは……じゃあ二人の所為だ」
「そうだな」
「うん、だから水原さんとの仲直り手伝うよ」
どうする?こいつにさっきの事、これから俺がしようとしてる事を話すか?俺はこれから間違ったやり方で解決しようとしている。教えればこいつは俺の障害となるだろう。
でも、ここまで言ってくれてるんだぞ?
なら、
「林ちょっと来てくれ」
やはりクラスはざわざわしました。
階段の最上階さっき赤村と話した場所だ。そして高校二年生に進学してから初めて林と話した場所。
そこで俺は知っている事を全て話した。
「ふーん黒嶋君が、ほっとけないわね」
まあこいつならそうだろうな。でも、
「お前は何もしないでくれ」
「え、なんで?」
「これはお前じゃ無理だ」
反発するだろうでも真実だ。
「そうだね、私じゃ無理だ」
え?
「私だってホントは気付いてたんだよ。どんなに頑張っても私じゃ解決しないこともあるし、あなたのしたことが人の、水原さんの為だって」
「違う、あれは俺の為だ」
「だとしたら君はいじめを無視できない優しい人だ」
「違う」
「それに私じゃあなたみたいな事は思いつかない、なのに正しいとかこだわってる場合じゃない、あなたは正しいとかより早く解決する事を優先したんだよね?」
「違うんだよ、そんなんじゃない」
「正しいとかはまだわからないでもあなたが傷を負う必要は無い。私があなたと同じ方法で」
「ダメだ。お前は別に間違っちゃいないんだよ。正しいとかだって重要だろ?お前はそれでいいんだ。俺がしようとしてる事をとめたっていいんだよ」
「でもそうしたら黒嶋君の悪事はとめられない」
「そう、だからお前は仕方ない風紀委員だからこそ何もできない。それでいいだろ?俺を頼ってくれたっていいじゃないか」
「うん、ありがとう」
「俺はこれから正しくないやり方で悪い事をする。」
高一にした事と似たような事を。
「うん、知ってる」
「だから、見ててくれ」
「うん、わかった」
俺は教室に戻る。
林へは言った。あとは俺が行動を起こすだけだ。神田の言ってたことを思い出す。
「だからもしまた同じような状況になったら手伝ってあげよう」
いやいいや、あいつなんか怪しいし。
それにそろそろ昼休みもそろそろ終わるしな。
「深山く~ん」
「おお、松原」
「む、深山君それはないんじゃない?」
「あ、ごめん功」
「うん、よし」
「ってお前も俺を名前で呼んでくれよ」
「え、いいの?」
「いいに決まってるだろ」
「うん、ありがとう幸多」
やっぱり功はいい奴だな。ん?いい奴?そういえば俺のクラスの人全然知らねえな。もしかしたら俺は何もしなくても黒嶋のやろうとしている事は崩れ去るかもしれない。とりあえず功から
「なあ功いじめってのはどう思う?」
「いやなものだね」
「じゃあもし目の前でいじめが起きたらどうする?」
「とめる」
「だよな」
この調子でクラス全員に聞いて回ろう。俺はその日黒嶋、神田以外全員と話した。
次の日俺は作戦を実行する。
「赤村ー」
「え?な、なに?」
「ちょっと耳貸してくれ」
「う、うん」
皆に聞こえないように小声で言う。
「今日黒嶋に水原と一緒に話しかけてきて欲しいんだ」
「え、わかった」
「お前なんでそんな顔赤いの?」
「う、うるさい」
といって走り去ってしまった、まあ要件はすんだからいいけど。
そして数分後、水原は黒嶋に話しかける。水原の斜め後ろに赤村がいる。これで黒嶋は赤村が自分の味方と勘違いする筈だ。
「黒嶋くん、おはよう」
もしかしたら赤村は主犯ではないのかもしれない赤村は女子のグループでも目立つ存在で黒嶋とよくいた、というより黒嶋が近寄ってたわけだが。だから赤村は黒嶋を拒絶できなかったきっと優しいから。そして彼女が黒嶋と一緒にいて黒嶋が水原だけをいじめていたらそれは赤村の意志でもあると勘違いした女子がいじめたかもしれない。
もちろん確証はない、だけどよく考えたら赤村がいじめているとこは見たことが無い。
もしそうなら罪の無い者まで報復の対象に入れてしまったわけだが。
そしてもしあの時赤村が本当にいじめをしていたのだとしても今の赤村なら。
「ああん、水原お前俺と仲よく出来るとでも思ってんのか?」
「あんた何言ってんの?」
「え?赤村?」
「優香がおはようっていってくれてんじゃん」
「え?えーと」
よくやってくれた赤村。俺もそろそろ動くか。
「そうだぜ?黒嶋」
「深山ぁ」
黒嶋が俺に怒りの視線を向けてくる。俺は冷めた目で返す。
「そういう差別みたいな事は俺を含めて皆大嫌いだぜ?」
俺は昨日みんなに聞いた、いじめを肯定しますか?と答えはNOが100%だった。そりゃそうだ。あんな聞き方すれば皆そう答える。要は高一の時容認されてたのはそういう空気、いじめを容認する空気だったからだ。みんないじめがいいとは思っていない。
そして今の空気はいじめはよくないというもの。
「なあ?功」
ごめん功、巻き込まないなんて思ってたけど少しだけ。
「うん、僕はだいっきらい」
教室中から俺もーとか私も嫌いとかの声が聞こえる。ただ林は何も言わず見ていたが。
「なあ黒嶋前と」
同じような事が起きるぜ?そう言おうとしたら肩を掴まれる。誰だ?功か。すると功は俺にしか聞こえないくらいの声で
「言ったでしょう僕は目の前でいじめが起きたら止めるんだよ、これからみんなで黒嶋君を糾弾しようっていうんなら僕がとめるよ例え独りになっても」
と言った。
「わかったよ、やめとくありがとな功」
「うん」
「黒嶋そういうことはもうやめろ」
「チッわかったよ」
それにしても俺が前と同じ事が起きるぞと言う前にとめた功は俺が昔何をしたか知ってたってことか
まあともかくこうして一日が始まる。
昼休み神田に話しかけられる。
「もう、こういう時は俺に頼ってって言ったのにさぁ」
「わりぃ」
「しかも俺以外ほとんどの人に頼ってるんだぜ~」
「う、確かにそうだったかも」
「まぁいいや、ねえ知りたくない?黒嶋君が前、君にいじめ返されたのにまだ報復なんてしようとしたのか」
「知ってんのか?」
「今から俺が君に俺を頼ってって言った場所に行く。だから君は気付かれないようについてきて」
「誰に気付かれないように?」
「お楽しみに~」
はぁ昼休みに水原に全部を話そうと思ってたのに。
階段最上階つくと、いたのは黒嶋だった。
「来たな、神田」
「なんの用かな?」
黒嶋が神田を呼んだ?
「とぼけんなよ、お前が深山に確実に報復できるって言ったから俺はお前にまかせたんだぞ」
頼らなくてよかったわ。何?あいつ怖っ
「うーん最初はそのつもりだったよ?でもね君小物だしもともと勝てる相手じゃないんだよ信頼度0の君と深山君じゃあさ」
あいつはもういじめる気は無かった?しかし神田に唆されてやったって事か?
「てめえ」
黒嶋が神田に殴りかかる。神田はそれをよけて蹴りを入れようとする。あの位置だと蹴れば黒嶋は階段から落ちんぞ?だが蹴りは黒嶋の少し横へ
「当たってたら死んでたね」
「ひっ」
「ククッもう二度と俺とケンカはしないようにね」
黒嶋は階段を急いで駆け下りて行った。あの笑い声どっかで…。
「神田」
「深山君これが真相だよ」
「神田お前もし俺がお前を頼ってたらどうした?」
「騙して黒嶋の報復を成功させるだけさ、ていうよりそれが狙いだったんだけどね。」
「それからお前一昨日ここで俺と林、水原の会話聞いてたろ?」
「気付いてたのか」
「今気付いたんだあの笑い声はお前だってな」
でもやっぱり俺等の会話を聞かれたのは神田にここを教えた俺の責任だ。
「ふーんやっぱり黒嶋じゃ勝てないや」
「お前ならどうなんだ?」
すると神田は不敵に笑い
「わかんない」
とだけ言った。
「それよりどうすんのほら今回のいじめの元凶だよ?俺、何もしないの?」
「なんもしねえよ俺は解決しただけで満足だ」
「後悔するよ」
「しねえよ」
そういって教室に戻る。
「やっぱり黒嶋じゃ勝てねえや」
教室に着くと俺は林に話しかけられた。
「正しいやり方できたじゃん」
「まあ功がとめてくれたからなでもまだ正しくは無い最初に水原が話しかけさせたのはのはやめた方が良かった。あいつが傷つく結果になったし」
「君はホントに水原さん大好きだねー」
「違うっつーの」
「妬いちゃうなあ」
「え?」
「なんでもない」
と言って俺の頭を叩く。
「痛っお前なんか暴力的になってない?」
「ん~?親しくなったからね」
最初は礼儀正しいというか風紀委員らしい威厳みたいなものはあると思ってたんだけどこれは親しくなっていけばなっていく程、消えていくのか。
ん?てことは性格が変わったように見えたのは単に親しくなったってだけ?でもあの時は親しくねーし。
「私はあの松原君みたいなことができれば良かったんだね」
「そうかもな」
「次からは善処します」
「はい」
「じゃねー」
「おう」
さて、あとは水原。俺は意を決して水原に声を掛ける。
「水原」
「深山君…」
「教えるよ全部」
俺はまた階段の最上階に来て神田の事以外全て話した。
全部教えるなんて言ってまた俺は、でもいつかちゃんと教えるから今は、まだ。
「そっか、頑張ってくれたんだ」
「別にそんなんじゃねえよ」
「そっか残念」
「悪かったな隠してて」
「私こそ迷惑かけてごめんなさい」
「いや別になんも迷惑になってねえよ」
「そんなこと言ったらあなただって隠してたのは私の為じゃない」
「ちげえよ」
「むー」
「なんだそれ、もう過ぎた事だろ?」
「そうだねありがとう」
「こちらこそ」
「うん、じゃあね。本当にありがとう」
「ああ」
そういって水原は教室へ戻った。
よし、これで終わりか。やっぱり平和がいいな。
「幸多」
「功、なんでここに?」
「ここを頻繁に使ってるって聞いて」
「ああ、そういえばあの時もあの時も意外とめっちゃ来てるかも?」
あれ?なぜかまた疑問系に
「あははっそっかみんなこなさそうなとこにそんなに」
「まあな、で何の用だ?」
「話にきたんだよ」
「そっか」
「幸多はいじめを無くそうと頑張ったんだね」
「ああ、まあな」
「でもいじめ返すのは良くない、前の繰り返しなんてよくないよ」
やっぱり知ってたか
「そうかもな」
「でもよくやったよ」
「でも俺の所為で悪くなった事もある」
「でも良くなったこともある」
「そうだな、だからこう責任とかは後で考えるとして今は良かったなでいいか。」
「うんいいよ」
「よし帰るか」
そんな俺の提案を功は
「うん」
と答えた。
俺は功と正しい友達になれただろうか。正しい友達がなんなのかわからないけど、きっとなれた筈だ。