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ホーフク  作者: 佐藤 皆無
10/11

幸多の報復

よし、大丈夫。今まで手を抜いて練習した覚えは無い。

緊張がばれたのか絵里が気を使って話しかけてくる。

「頑張りなさいよ~」

「ああ」

文化祭の演劇ってただそれだけだ。大丈夫、俺に失敗はありえない。多分。

つってもまだ時間はある。

「幸多、頑張ってね」

功も緊張をしてるのかもしくは俺の緊張を心配しているのか話しかけてくれる。

「お前もな」

「うん」

「よし、頑張るか!」

「なあ、深山」

八城が申し訳なさそうに話しかけてくる。

「どうしたんだ?」

「役をおしつけて怒ってるか?」

「感謝してるよ」

「え?」

「さすが、八城だな。ありがとう」

「そうか、そりゃありがとう」

「おう」

「幸多、頑張ってね!」

皆、気を使ってるのか優香まで話しかけてくる。

「おう、まかせろ」

「うん」

藤井さんも近付いてくる。応援してくれるのだろうか。

「初デートしたんだって?」

「あれっ」

「ん? どーしたの?」

「いや、みんな頑張ってとか言うのに藤井さんは違うなと思って」

「ほら、そういうと緊張しちゃうかな~、と思って」

「そうだな、初デート楽しかったぜ」

「いいな~」

「へ?」

「いやっそういう意味じゃなくてハハハ」

「そういう意味?」

「もういいっ」

なんで怒ってるんだ?

「あと、頑張ってね」

俺に背を向けたまま応援してくれる。

「やっぱり気を使われるよりホントはどう思ってるか言われた方が嬉しいな」

「そう、そう言うと思ったよ」

俺に笑顔を見せてくれた。

よし、緊張はなくなった。

すると俺に近付いてくる人を見る。

「黒嶋?」

「その、頑張れよ」

「ああ、ありがと」

「おう」

堅苦しい顔で応援されても緊張するだけだっつーの。

そんな器用じゃない所が黒嶋らしくって笑ってしまった。

「なんだ、そんな笑顔ができるなんて緊張はほぐれたのね」

棟子が声をかけてくる。

「ああ、じゃあ行くか」

「うん」




「ふー」

やっと終わった。

八城が皆に声をかける。

「おつかれー」

皆は騒いでるがそんな元気は残ってねえ。

「ほら、深山から一言」

「え? ああ。よくやった」

「すげえ上からだな」

「ハハッ」

これ以上は無理。疲れてるから。

ん? 功がいないな。




「どうしたの? 岩根さん」

「ごめんなさい」

「え?」

「私、あなたの事が好きでそれで彩と話してるのが許せなくて、それで……」

「うん、いいよ」

「松原君はさ、好きな人いるの?」

「うん、僕は」




「おう、功。どこ行ってたんだ?」

「ちょっとね」

「そうか」

「ねえ幸多」

「ん?」

「岩根さんが謝ってくれたよ」

「そうか、功」

「ん?」

「お疲れ」

「どっち?」

「両方だよ」

「そっか」

「ああ、これで終わりだな」

「うん」




そして、事件は起きる、というか起きるのはわかっていた。

だってさっき八城が「やっぱり林さんを諦めきれねえ。もう一度、告白する。見てろよ? 深山」とか言ってたから。

ただ、ひっかかっているのは演劇が終わったばかりで皆残っているここで絵里に近付いていることだ。

まさか、いやあさすがにそれは無いだろう。

「林さん」

嘘だろ? される方も迷惑なんじゃねえか?

「諦めきれないっす。俺と付き合ってくれない?」

マジかよ。もうみんな騒いでるし。主に藤井さんが。

「ごめん。わたし、まだ前の失恋の傷が残ってて」

「前の失恋?」

「そう、幸多に告白したんだけどね……」

ああ、またみんな騒いでる。主に藤井さんが。少し自重してくれないだろうか。

「ああ、そうだ。確かに俺は告白された」

「でも今赤村さんと付き合ってるってことは」

「ええ、そういうこと。私、今でも幸多の事だーい好きだから」

「なっ」

正直嬉しいが俺は棟子が好きだし。あと前より騒いでる。主に藤井さんが。まあそりゃ知らなかっただろうけどよ。

「いつか奪うから棟子から」

「奪わせないわ、ぜっっったい奪わせない」

更に騒いでる。藤井さんだけ。

すると藤井さんが近づいてくる。

「どういう御心境ですか?」

「なんとも複雑ですね」

「私も幸多大好きだよ~」

優香、これ以上みんなをというか藤井さんを騒がせないでもらいたい。

八城が話しかけてくる。

「告白された四人の内の三人ってこれ?」

「ああ」

はあ、この状況をどうすればおさめられるのだろうか。

「こーたせんーぱいっ」

勢いよく優ちゃんが俺に飛びついてくる。

「見ましたよ、かっこよかったです。手を繋いでたのは悔しかったですけど」

「な、なにを」

「待ってくれ棟子、誤解だ」

「でも、飛びつかれて受け止めたじゃない」

「さすがに受け止めるだろ」

「さすが先輩です、やっぱりこれくらいしないと奪えないと思うんですよね」

「そろそろ離れてくれるか?」

「え~? なんでです?」

「棟子に誤解されるし」

「まあ、先輩が言うなら仕方ありません」

名残惜しそうに離れる優ちゃんに藤井さんは近付く。

おっとおもわず危ないという所だった。

「もしかして、君は幸多君の事を」

「はい、好きです」

「キタああああああああああああ」

「藤井さん、キャラ壊れてるぞ」

「え? 皆壊れてるでしょ」

彼女の価値観がわからない。

「なあ、深山」

「ああ、八城。これで四人だ」

「やっぱり」

「なあ、どうして告ったんだ?」

「なんつーの? 文化祭の雰囲気でこう、な」

「そうか」

もしかしたら岩根さんもそういう空気にあてられて謝ったのかもしれないがどちらにせよ、謝ったという事は変われたという事だろう。

俺のやり方ではならなかった結末だ。

俺が一番心配なのはこういう空気にあてられた神田がどうなってしまうのかだが。

「神田」

「ん? ああ、深山君どうしたの?」

「なんか今日はおとなしいな」

「ああ、俺にとってはいつもが祭りみたいなもんだから祭りの日になるとね」

逆におとなしくなるってわけか。

「にしてもすごい光景だよねえ。俺がまず水原さんを潰そうとしてそして優ちゃんでひっかきまわしたのに全て君にプラスになってる」

「だから許されるとでも?」

「いや、そんなふうには想ってない。別に許されなくてもいいしね」

「まあ、俺もこうなるとは思わなかったけどな」

「ああ、俺も予測できなかった。君は壊れると思ったよ」

「ふーん」

「でも、何も失くしたくないなんていう普通の願望で君でも俺でも予測できない結果を起こす。君は壊れずにね」

「何が言いたい?」

「普通に称賛してるのさ、素晴らしいと思うよ」

これだ、こいつの怖い所。いつもと違っておとなしいのは何かをばれないようにしてるんじゃないか。

「いつも祭り気分のお前にとってみんなが祭り気分になることはどうなんだ?」

「うざいね。ぶち壊したくなる」

やっぱりそうか。

「もう、いいかな。あ、そうだ。たとえ俺がやろうとしてる事を防いでも君の祭りはおわってるよね」

どっちを選んでも俺が祭りを楽しめるのはここまでってことか。

「幸多?」

「棟子、俺は神田に報復してくる」

「え?」

「終わったら全部教えるから俺を信じてくれないか?」

棟子は俺を抱きしめる。

「わかった。頑張ってね」

「棟子先輩、見せつけてくれますね」

棟子はそのまま俺にキスをした。

「へ?」

「んなっぐぬぬ。棟子先輩?」

神田を追いかけなくては。何をするかわからない。

「フッどう? これが彼女の特権よ?」

「クッ」

「フフフ、やるわね棟子」

「絵里?」

「許せない……」

「優香?」

「キタああああああああああああああ」

「悠? はいつも通りか」

ドッシャーン

「「「「「?」」」」」」

俺は廊下で盛大にこけてしまった。




どこまで行くんだ?

神田は階段をひたすら上るだけで目的も無さそうに見える。

「やっと見つけたよ」

これは木崎真菜先生の声か。神田とは一階分距離をとって尾行しているので会話までは聞き取れない。

「やあ、先生。俺になんか用っすか?」

「お前はいつも笑っているな」

「そうですか?」

「ああ、楽しそうにというよりはあざけわらうに近いが」

「へえ、で、何の用です?」

「ああ、そうだ。この学校であまりトラブルを起こさないでいただけるかな?」

「ほう、何の事です?」

「いや、確証はないのさ。勘だよ、勘」

「俺は何もしてませんよ。言いがかりつけないで下さい」

「そりゃあ、失礼。お前は人の心ってなんだと思う?」

「何というのは?」

「そうだな、じゃあ、どう思うかでもいい」

「俺はどうも思いません。ただ予想もしないような結果を呼んでくれるのがそれなら感謝はします」

「お前は自分の予想が外れると嬉しいのか?」

「昔から当たってしまうんですよ、俺の予想は。それより先生はどう思ってるんです?」

「私か? 私は大切なものだと思うよ。それを大切にすべきだと思う」

「へえ」

「だから、それをふみにじるような事をするなら、いつか誰かに報復されても文句は言えまい」

「何がいいたいんです?」

「なんだろうな。私にもよくわからん」

「じゃあ、さようなら」

「どこに行くんだ?」

「この階段の一番上です」

「文化祭なのに?」

「ええ、文化祭なのに、です」

「そうか」

先生はそのまま階段を下りて俺に会う。

「私のクラスは珍しい生徒が多いのかな、文化祭だぞ? 普通に楽しもうとは思わないのか?」

「彼を野放しにしては楽しめません」

「楽しめない、か。では、深山幸多。君は彼に何をするんだ?」

俺は神田を救うのか? 潰すのか? まだ、今はわからないが、これだけはわかる。

「今の彼を壊します」

「そうか」

「とめないんですか?」

「とめて欲しいのか?」

「いや、とめてほしくないです」

「そうか、なら君が間違っていると思った時にとめるとしよう」

「はい」

俺が間違っていると思った時。理由は無い、ただそれは今なんじゃないか、そう思った。

俺は棟子を楽しませる事より神田の悪事をとめることの方が大切なのか?

でも、俺は俺が楽しい為に誰かが楽しくなくなる事だけは嫌だ。

「先生はどこまで知っているんです?」

「詳しくは知らない。ただ君が頑張っている事は知っている。感謝しているよ」

「はい」

感謝している、そう言われた時、心に何かが生まれた気がした。

それは罪悪感か、達成感かはわからない。でも気持ちのいいものではなかった。

階段を上がる。急ぐ必要は無い。神田がどこに向かうかは知っているから。

そこに一人の生徒を見かける。今井哀歌だ。

「こんにちは、奇遇だね。幸多」

「今井」

特殊な生徒は俺等のクラスだけじゃなかったようですよ? 先生。

「前みたいに哀歌って呼んでいいんだよ?」

そうか、これが今井哀歌か。

「お前は変わらないな哀歌」

「えっ」

「何を驚いてるんだ?」

哀歌に近付く。

「お前が呼んでいいって言ったんだろう?」

「ええ、そうよ」

そうか、これが今井哀歌なんだ。

今まで俺が見ていた者は哀歌が演じていた哀歌。

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