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プロローグ



彼女は、笑った。


何時ものように、ニヒルな笑みを浮かべて


まるで自分を嘲笑うかの様に


それはそれは綺麗に、笑ったんだ。











背徳(apostate)



この意味を、分かるだろうか。



道徳に背を向け、生きている事に不安を感じながら、自分が生まれてきた事がこの世の最大汚点では無いかとさえ思ってしまう。


“生れてすみません”


そう言った太宰治の様に、只管(ひたすら)謝り続ける。


自分は何故生まれてきたのか、自分が生きることにより哀しむ人はいても、喜ぶ人等在りはしないのだ。



ならば何故、神は私に生を与えたのか。



人を不幸にすることしか出来ない、最低な人間に。




これは、人生最大の謎である。























――――――だから、お前は嫌われるんだ。



















彼の言葉は彼女の心に重く、重く伸し掛かる。


“だから”


この言葉の意味を、彼女は良く知っていた。


いつも、そうなのだ。“だから”彼女は嫌われる。



ぼんやりと彼女は彼を眺めていた。


彼の表情は、軽蔑、憎悪…そしてそこに含まれる――“哀しみ”


あぁ、結局駄目だったのか。

彼女から去っていく人々は、必ず今の彼の様な表情をしていた。




「さよなら」




スタスタと歩き去る彼の後ろ姿を見ても、彼女の瞳からは涙すら、ましてや引き止めの言葉等出てはこない。


しかし、彼の方は違っていた。

傷付き、どうしようも無い胸の痛さを抱えながら、懸命に歯を食いしばり、歩みを進めていた。


彼の表情が何を表していたのか、彼がどのような表情をしていたのかすら、彼女は知らない。

彼は彼女に背を向けて歩いていたのだから。



「…は、ははっ」



突如彼女の口から渇いた笑い声が漏れる。



自分を嘲笑う様な、蔑む様な笑い声を上げた後、彼女は彼に背を向け、月の明かりを背中に感じながら、一歩、また一歩と歩き出した。













よたよたと、覚束(おぼつか)ない足取りで彼女がたどり着いた先は…とある丘の上。


何故彼女が此処に来たのか、それは全く解らない。


ただ、丘の上からは大きな大きな輝く満月が見えただけ。



彼女は傀儡(かいらい)の様に操られながら、ゆっくりと月に手を伸ばす。


その光景は一見何の変哲も無い様に見えるが、何処か異常だった。



その理由が何なのかは、解らない。


ただ、背筋がゾクリと冷え、思わず冷や汗をかき動きを止めて息を呑むほど、その光景は恐ろしかったのだ。



彼女が月に手を伸ばしてからどのくらいの時間がたったかは解らない。



10分くらいだったかも知れないし、1分もしなかったかも知れない。

でもそれは、“永遠”を思わせる程だった。
















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