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魔の豚  作者: 愛理 修
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A君は語るー7

そんな河鹿に接することができるのは蛇沢だけでした。昼休みになると河鹿を傍らの床にはべらせ、みずからの手で食物を与えるように馴らしていったのです。河鹿の弁当が空になると、自分の弁当の中身も与えていました。どこからか残飯を集めてきては、それを食べさせたりもしていました。河鹿は嬉しそうに蛇沢のそばにまとわりつき、鼻を鳴らしては出されたものを残らず平らげていました。


 それは異様な光景でした。ニンフと見間違うような男子生徒が餌を与え、もうひとりの丸々と太った生徒が、床に四つん這いになってそれを食べているのです。食べるものがなくなると、太ったほうは床に鼻をこすりつけて嗅ぎまわり、ないのがわかると催促するような声を上げ、ニンフのほうがそんな生徒を優しく叱りつけては、その背を撫でさすります。

 二人は完全に僕らとは違う世界に住んでいました。二人の間には、僕らには理解不能な情愛みたいなものすらあるかのようでした。


 ――君は最高の友だちだよ。僕は前から豚を飼いたいと思っていたんだ。君は知らないだろうけど、僕も豚だったときがあったんだよ。もっと小さいとき、僕はみんなによってたかって豚にされたのさ。ひどく自分が惨めに思えた。豚にされるのがどれほどつらいかは僕が一番よく知っている。だから僕は君が愛おしくてたまらないのさ。君は僕の豚だ。僕がどんなに君のことを思っているか、君がいてくれて僕がどれほど幸せか、口には出せないほどなんだよ。


 そう言い聞かせながら蛇沢は、河鹿の耳を引っ張り、髪の中に手を入れてはくしゃくしゃにし、河鹿もそれに応えるかのように、蛇沢にじゃれつき、期待に満ちた目で見上げているのです。


 河鹿の異常な行動は、そうやって日毎にすすんでいきました。体育の時間に運動場を転げまわっては身体をこすりつけたり、足洗い場で水を出しっぱなしにしてばしゃばしゃしたり、ところかまわず放屁するという奇行が目立つようになってきたのです。また暇さえあれば始終なにか食べているので、口のまわりや手はもちろん、ノートや教科書、学生服までべとべとになり、朝はそうでもないのですが、帰りにはうす汚くなっているのが常でした。

 そうなってくると演技やお芝居ではすまされなくなってきました。正常なときもあるのですが、不意に顔つきの変わる河鹿は、なにか得体のしれないものにとり憑かれているのではないかと、僕たちは囁きあっていました。


 蛇沢はそんな河鹿をかいがいしく面倒をみ、まるで、そうなった河鹿を慈しんでいるようでした。

 しかし、授業中に虚ろな目をし、よだれを唇の端から垂れ流している河鹿の姿は教師の間でも問題になり、ある日を境に河鹿は学校に来なくなりました。担任から聞かされたのは、河鹿は病気で療養中だとの話だけでした。


 


 

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