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魔の豚  作者: 愛理 修
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A君は語るー5

 そのいじめが具体的にどういうものであったかは、いちいちあげていたらきりがないのでよしますが、見えない暴力の類だったと言っておけば十分でしょう。靴が始終なくなるのは当然として、靴箱に蛙の死骸が入れられていたり、教科書が切り裂かれてトイレに捨てられていたとか、ひどい時では、顔写真が貼られた人形が、河鹿の机に五寸釘で打ち込まれていたりしました。

 いずれも誰がしたのかわからない陰湿ないじめでした。ひとつひとつはそれほどでもないのかもしれませんが、そんなことが執拗に続けられ、それがいつ終わるともしれないのですから、されているほうはたまりません。河鹿が徐々に精神的に追いつめられていっているのは、誰の目にも明らかでした。

 担任の教師にしても、最初は河鹿を守るようにしていましたが、いじめの犯人を特定することもできず、なおかつ、ほんとうの意味で、僕たちの間でなにが起こっているかを知る由もなかったので、ある期間をすぎると、河鹿のほうに問題があるのではないかという態度を見せるようになってきました。そうなるともう、学校にいる間河鹿に救いの手はありませんでした。


 いじめはエスカレートし、蛇沢はそうなったことを喜んでいました。美麗な顔に微笑みを浮かべ、さもなんでもないことのように平然としています。

 河鹿のそばに寄り信頼の情を示すかと思うと、わざとつれなくして笑い声を上げたりしては、河鹿の気持ちをもて遊んでいました。

 癪に障るほどそういう蛇沢の姿は絵になり、いっそう僕たちの胸はかき乱されるばかりでした。


 いじめの苦痛と蛇沢への恋慕で、河鹿は哀れそのものでした。おびえた目をし、それがまた苛虐心を煽るのでどう仕様もありません。逃げることもできず、相談することもできず、心休まる間のない日々を送る河鹿が、逃げ場として選択したのが食べることでした。もしかしたら以前に蛇沢から、河鹿くんはもっと太ったほうがいいのにと、言われたことがあったせいかもしれません。

 

 恐怖や不安から逃げるために、河鹿はひたすら食べるようになりました。授業の合間の休みになると、鞄からチョコレートを出してはむしゃむしゃと食い、昼休みは弁当を食べ終わると、袋ものの菓子を開いていました。学校の行き帰りにも、河鹿の口は絶えず食物を咀嚼していました。ポケットの中は、飴や駄菓子でいつもふくらんでいました。食べていさえすれば、少しは気がおさまる、そんな強迫観念にとり憑かれていたみたいです。

 ひょろひょろしていた身体は、みるみるうちに贅肉を増やして太ってきました。腹がせり出し、尻が広がり、顔がむくれて面相まで変わり、転校してきたばかりの姿は見る影もないほどでした。

 河鹿は豚呼ばわりされるようになりました。

 

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